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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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 選挙が終わり、学園内は多少落ち着いたが、学園外に少々動きが出始めた。


 何のことかと言えば、外部生の受験シーズンに突入だ。

 願書の受け取り、申請から始まって、学園見学と見慣れない制服の中学生の姿が見受けられるようになる。


 制服着用のみ簡単な見学が許可されるらしく、ちらほら見かける。

 学園内で別の制服を見るのは変な感じ。

 見学者の数は少ないはずなのに、不思議と目につく。


 みんなキラキラした目をしている。何とも微笑ましい。

 私にはあんな時期はなかったなあ。


 中等部は訳も解らないまま転校してきたし、高等部は持ち上がり。

 はっきり言って、なあなあで特に感慨もなかった。


 そんな平坦な気分での高等部の入学式だったから、記憶が戻った時の衝撃も半端なかった訳で…


「なに見てるの?」


 窓辺で外をぼけっと見てたら、アヤがやって来る。

 私の隣に立って外へ視線を向ける。多分、同じ中学生が見えているはず。


「あー、見学ね」

「アヤも来た?」

「うん、来たよ」


 アヤは懐かしそうに頷いた。

 そっか、アヤも来たのか。


「私の場合、推薦だったんだけどね。大丈夫かな、ちゃんとやれるかなって不安だったんだ」

「そうなんだ」


 ヒロイン補正でハキハキのびのびやってると思ってたけど、どうやら違うらしい。


「最初はちょっと馴染めないところあったけど、結構なんとかなったよ」

「それは良かった」


 馴染めてない時があったのかあ。

 気付かなかったな。


 何て言うか、私がそれどころじゃなかったし。


 アヤには悪いけど、極力近寄らないようにもしてたし。


「今は大丈夫?」

「今は大丈夫。毎日楽しいよ」


 アヤ鮮やかに笑った。


 そっかあ。

 それならいいや。


◇◆◇


 職員室っ担任に簡単な申請書にハンコを貰う。


 クラスの予算利用の申請書だ。

 毎年恒例らしいんだけど三学期の終業式の日は、打ち上げみたいなことをやる。

 お菓子と飲み物をクラス費の残金から購入する。残金の額が大きいと購入するもののグレードが上がる。

 結構、重要。

 ワクワクするよね。高級なお菓子とかさ。


 まだ何をどれだけ購入するかは決まっていないが、購入申請は先に出しておかないといけない。

 まあまあ、まとまった金額になるからね。


 この申請書に担任の承認を貰うのは会計の仕事なのだ。指定書式の申請書に、担任はあっさりハンコをくれた。打ち上げには担任も参加するから、きっとお菓子を楽しみにしているはず。


 さて、ハンコを貰えばまずは私の仕事は終わりだ。

 帰ろっと。


 職員室から昇降口に向かおうとした瞬間、周囲から人の気配が消えた。

 結界発動。


 多分、チョーカーの魔晶石が光ってるんだろう。

 確かめる必要はない。


 まだ先生が何人もいたはずの職員室から人の気配がしないんだから。


 守護者関連は、現在職員室にはいない、か。

 校内にいれば、今頃ダッシュで戻って来ているはず。


 私はどうしよう。


 下手に動かない方がいいか。


 取り敢えず、安全そうな場所に避難しておくか。廊下のど真ん中より安全な場所。


 周囲を見回す。


 職員室、は安全か。

 でも、誰もいない。


 教室への移動は、安全ではない。

 初めてあやかしに遭遇したのは教室だった。

 二回目は外、中庭のあたり。

 当然、外は危険。


 このあたりで一番安全そうな場所…


 あ、生徒指導室とか学園長室とかどうだろう?


 なんか、安全そうなイメージ。


 そう思い、学園長室の扉へ視線を向けたとき、なんか気配を感じた。


 あやかし…ではなくて…人?


 結界発動中に動ける人…守護者関係?

 おう、現在一番安全なのでは?


 私は学園長室へ向かう。


 ノブに手をかけると、開いた。

 やっぱり誰かいる。


 よし、ついでに保護してもらおう。


「失礼しまーす」


 一応声をかけて中に入る。

 ふかっとした足元の感触。絨毯だあ。


 すごい、これは転んでも痛くない!

 いや、学園長室のセッティングは転ぶのん前提としてはいないんだろうけど。


「あれ?」


 室内に、想像していた人影はなかった。

 学園長の重たそうなデスクに行儀も悪く腰掛けていたのは少年だった。


 少し暗めの室内に、艶やかな漆黒の髪が溶けてしまいそうだ。

 女の子のような顔立ちだけど、少年だ。

 それを私は『知っている』。


「この中で、動ける人がいたんだ」


 少年はさして驚いた風でもなく楽しげに言う。

 この状況で楽しげってどう言うこと?


「…でも、騒がれると面倒だから、始末しちゃう?」

「!」


 少年はとんでもなく物騒なことを言った。背中に冷水でも浴びせかけられたような悪寒がする。


 そこでようやく、顔に見覚えがあることに気付く。

 しかも、ヤバい方の記憶。


冥記(くらき)…」


 背後から声がした。

 聞き覚えのある声だ。こんなダルそうな話し方は初めてだ。


 声は少年のことを冥記と呼んだ。

 ああ、記憶に間違いはなかったか。


 冥記当麻(くらきとうま)、所謂ラスボスだ。

 攻略対象によって、直接対峙があったりなかったり。

 恋愛ゲームだからね、ラストバトルにさして比重はなかったはず。


 でも、いまこの時に現れるってことは、まさか今からラストバトル?


 いや、待て待て待て。


 私は戦闘要員じゃないよ。そもそも、モブキャラだよ。


 いきなりラストバトルとか、困る!


「冥記…こいつには、手を出すな」


 背後から冥記を制する声がかかる。


 背後…そうだ。

 冥記以外にも人がいるんだ。気配がしないから忘れてた。


 私は声のした方を振り返る。


 ドアの近くの壁に、凭れるように立っていたのは…


「ヒロ……」


 確かに私が良く知る人物だった。




このあたりから、終章突入したい、なあ。

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