100-5 ネタ話
ネタ話はこれにて終了です。お付き合いくださいましてありがとうございます。
更衣室を出て、エスカレーターを下ると、アヤたち三人が待ち構えていた。
アヤと河澄君は手を取り合って歓喜にうち震えている。土屋君は腹を抱えて大爆笑。
わかるよ、気持ちはよくわかるけど、ムカつくわー。
私は土屋君に駆け寄ると、アイアンクローで頭を鷲掴みにした。
「オレ様を笑い飛ばそうなんざ、一万年早いんだよっ!」
「いたたたたっ」
土屋君の頭に食い込む深紅の手袋。
真っ赤な手袋ってアレだよね。紅茶とかケーキとか用意したら、鉄っぽい味がしそうで嫌だよね。
ホント、仕事しないのね。このキャラ。
「痛い、痛い、痛いっ」
ギリギリ絞めつつ、キャラが合っているか確認。唯先輩たちを振り返ると、きらっきらの顔で小さく何度も頷かれた。
…なんか、赤ベコ思い出した。
キャラの確認をしたところで手を離す。
「それはさておき、オレ様は朝と同じことするのか?」
聞くと、唯先輩はしばし考えた後、首を横に振った。
「ジャンルが違いますからやめておきましょう」
「それが良いと思います」
「へー」
ジャンルってなんだろう?
格闘ゲームとダンスゲームの違いとかなんだろうか。
知らなくても良さそうな情報なので、追求はしない。
「皆さんにお披露目したら、後は自由時間で如何でしょうか?」
「自由時間?」
「それがいいわ。今日はグッズのサークルさんも参加されているから」
ほへー。
グッズかあ。
何があるんだろう。ちょっと興味あるかも。
「他にもサークルさん沢山参加されてますよ」
ゆかり嬢がにこりと笑う。
「でも、何があるかわかんないし」
「パンフレットあるよ!」
アヤがパンフレットと言うには分厚い本を取り出した。土屋君も河澄君も持っている。
角で殴ると痛そうな厚みだ。って言うか固そうな本だよね。
サークルさんかあ。
ってことは…
「リュウ!」
「お、おう!」
「任せた!」
土屋君は一瞬きょとんとしたが、ゲーマー名にピンときたのかすぐに私の言いたい事を理解したようだ。頷いてみせる。
「わかった」
ゲームのサークルさん、何かあると良いなあ。
「じゃあ、行こうか」
◇◆◇
自力で元の場所に戻れる訳もないので、唯先輩とゆかり嬢の後についていく。
いや、さっぱり位置関係がわかんない。
ここさっき通った? あ、通ったのは向こうの通路? 同じように見えるけど? ほら、机の上の本も同じ感じだよ? 女の子と女の子しかいないもん。え、組み合わせが違う? 違うかなあ? よくわかんない。違うのか、そうか…
頭の中に?マークが一杯だよ。そのうち耳から零れて来そうだよ。
あれじゃない? 見える人が見たら、本当に零れてんじゃない?
とか言う訳で、蓋の位置に到着しました。それは覚えてる。
着くなり薄い本コンビが色めき立つ。
「ゆかりん、それはまさか!」
「ベル様っ! ベル様が現実世界に降臨されたわっ!」
阿鼻叫喚の世界だった。
楽しそうだね。
喜ンデモラエテ嬉シイデスヨー。
本当デスヨー。
キャラが適当なので、挨拶も適当にしておく。便利と言えば、便利だ。
販売の邪魔にならないように、机の端に移動すると、薄い本を買った子がそっと伺うようにこちらに来た。
「あの…キング様は…」
あー、鬼畜執事目当てかあ。
残念、ヤツはもういない。
「悪いな。あれは午前シフトなんだ。オレ様で我慢してくれな?」
言いながら頭を撫でたら、喜ばれた。
「ありがとうございます」
お礼まで言われた。
あれ? 薄い本買った別の子がやってきたよ。
何かを待っているみたい…はっ、頭か! 頭を撫でて欲しいのか!
断る理由がないので撫でる。
五人くらい撫でたところで、時間がなくなりそうになり、ゆかり嬢の助け船でその場を離脱した。
「じゃー!」
片手を挙げると、周辺の、女子が手を振ってお見送りをしてくれた。
それを背に通路を抜けていく。
入り口にはアヤたちが待っていた。
「で?」
真っ先に土屋君に声をかけると、土屋君はパンフレットを開いた。
「サークルっての? 一応二つあった」
「じゃあ、行こうか」
パンフレットの配置図を手に迷路を進む。
何でみんな迷わないのかと思ったら、端の机にはアルファベットや片仮名平仮名の紙がついてた。
これを目印に進んで行くんだ。気が付かなかったよ。
だって、端の一角にしかないんだもん。
不馴れな四人はあーだこーだ言いながら、ようやく目当てのサークルにたどり着いた。
この辺り、全部ゲーム系のサークルなんだね。
でもって、お目当て、ソウル・エッジのサークル。
机の上の本は…
「を? これはっ!」
これはゲームのキャラクターデザインした人では?
中はラフスケッチ集みたいだけど、初めの仮デザインから決定までのスケッチがある。
うわっ、このキャラ一番始めは髪型こうだっんだ。変遷が面白い、面白い、面白過ぎる。
「ちょ、リュウ。これすごい」
「わ、マジ? 斬月別人?」
「忍者コンビ変わんない」
「刀デザインは変わったみたいだぞ」
あまり薄くない本を手に私と土屋君のテンションが上がる。
これは買わねば。今ゲットせねば!
値段は少々お高いが、あの薄い本と比べると高過ぎってわけでもないと思う。
何しろこの内容。
今手に入れなければ、絶対に後悔する。
私と土屋君は当然、ちょっと厚い本をゲットした。
隣はゲームのキャラクターを使ったあるあるネタの四コマ。
これも、にやりとする内容なのでゲットする。
いやあ。こんな本が手に入るなんてイベントすごい。
私たちは本を抱えてホクホクだ。
「じゃあ次はグッズ見に行こ?」
「いいよ」
グッズも気にはなるよね。
何があるんだろ。
再び、四人であーだこーだ言いながらグッズ系のサークルへと向かう。
グッズ系はグッズ系で凄かった。
数がとにかく多い。
「グッズ系はパンフレットに乗ってないんです」
河澄君が開いて見せるページには範囲指定がされているだけだった。
「全部見るのは無理だよ」
「雰囲気で見当を付けてみるか…」
「雰囲気?」
「ここから見ると、あの辺猫っていうかペット系?」
土屋君が指差した先は確かに猫の看板? みたいなイラストが見える。
「あー、そうするとこっちはアクセサリーかな?」
アクセサリーも見て判る。
キラキラしてるもん。
「見るならどちらかですね」
どちらか一方にしても、全部は無理だしー。
「近場から行こうか」
移動する時間も勿体ない。
目の前からサクッと行こう。
この辺りはアクセサリーメイン。ビーズとかスワロフスキーとか?
可愛いのが一杯。
河澄君は楽しそうだけど、土屋君は手持ちぶさたな感じ。
まあねー、土屋君がいきなりキラキラアクセサリー買い出したらびっくりするよ。
でも、キラキラ系だと私も手が出せないんだよね。
机に沿ってねりねり歩く。
「あ、これ…」
「なになに?」
目に止まったのは、歯車が透明な樹脂の中に幾つか組み合わされたもの。
スチームパンクっていうんだっけ?
艶消しの金銀黒で統一されたものは甘くなくて良い。デザインも少しずつ違う。
「折角だから、みんなで買おう?」
アヤが提案するのに、反対する理由はなかった。
「委員長とお揃いですか?」
どこまでもぶれない河澄君は期待に満ちた視線を私に向ける。
見るな、そんな目で。
「ま、いいんじゃないか。俺、これにする」
「私はこれ」
「僕はこちらにします」
手に手にストラップを取り会計を進めていく。
で、出遅れた。
私も四人に続いて購入。
と、この辺りで時間切れだ。
「悪い。ここまでだよ。更衣室行くから、アヤたちはグッズ見てなよ」
「うん、もうちょっと見てから行くね」
「リュウ、ちょっと本持ってて」
「了解」
本を土屋君に託し、アヤたちを残し、私は更衣室に向かった。
◇◆◇
更衣室はまだ人は多くはない。
もう少し経つと閉会に合わせて人が増えるらしい。
メイクを落とし着替える。地味な委員長スタイルだ。
眼鏡もかけて、髪も結んで。
うん、どこから見ても別人。
メイクの力は凄いもんだね。もうFSXの世界だもんね。
「今日はお疲れ様でした」
「それでは失礼します」
ゆかり嬢に挨拶して、更衣室を出るとアヤたちのところに向かった。
入り口のATMの近くにいると連絡来たから、まっすぐ向かう。
「ミーシャ!」
「お待たせしました」
「…………」
「なんですか?」
土屋君の視線がなんだか痛い。
「いや…どれがお前なわけ?」
「さあ? どれでしょうね」
どれってほどもないよ。
まあ、ショウが素ではあるんだけど。
私たちはこのまま別の駅に移動してご飯を食べた。
仕方なく来た割には充実していたなあ。
まあ、こんなのも悪くない。
コスプレはもうしないけどね。
次話より本編にもどります。