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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
105/188

100-4 ネタ話

何故か、まだ続く…


 薄い本をお渡しする簡単なお仕事です。


 なんて思っていたこともありました。


 概ねそうなんだけど。

 本を手渡しして、その際に握手したり、声をかけられたら挨拶したりが殆どではあった。


 中には、叱って下さいとか、罵って下さいとか言われて、正直途方にくれる。


 叱るのはまだ解る。心情的にはさっぱりだけど、対応は何とかできる。しかし罵ってとか言うオーダーはどうしたらいいのさ!


 よもや、ばかー、あほー、ぼけーではあるまい。

 しかしだよ。我が明宮家は緩いうちなので、罵声とか根本的に縁がなかったのだよ。唯一の暴れん坊が私だっただけで。


 前述の三語だって主にゲームセンターで冗談半分で私が口にする程度なんだから。


 その私に罵れなんて、なんて無理難題。

 とりあえず、適当にたしなめてメっしておいたら満足したらしい。よく解らん。


 そう言えば、真顔で叱った下さいとか言い出した大人がいたなあ。

 なんて遠くを見ていたら、お昼になった。


 十二時ちょい前に休憩が入る。

 通常はスペース内で交代しながら昼食を摂るらしいんだけど、私の場合は移動する。何か、あくまで生活感出さない方針で行くらしい。

 意味が解らないけど、ご飯が食べられるならいいよ。おなか空いた。


 先導してくれるのはゆかり嬢。唯先輩もスペースから出てきた。


「では、お昼休憩に行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」


 皆に送り出される女帝…

 ここでもそこはかとなく滲み出る女帝感…ナゾだ。


 いやもう、何も言わないけどね。ええ、言いませんとも。


 二人の後をついて行くと、前方に見覚えある人間発見!

 アヤと河澄君と土屋君がいる。


 微妙に居心地悪そうな顔をしているのは土屋君だけで、アヤと河澄君の乙女コンビは何だか凄く嬉しそうだ。


「アヤ…」

「ミーシャ、格好いいっ!」


 アヤの隣で河澄君が何度も頷いている。


「キング様です」

「あ、そうでした」


 ゆかり嬢に訂正され、アヤは苦笑する。

 河澄君も土屋君も苦笑している。


 『誰、それ?』って、誰も言わないってことは、みんな薄い本を知っているってこと?


 なんてこったい!


 生暖かな視線を向けるのは即刻やめたまえ!

 実に遺憾である。


「アリスさんも、お昼ご飯ご一緒にいかが?」

「あ、えっ」


 さらりと唯先輩にアリス呼ばわりされて、アヤは目を丸くする。


 おおう、被弾した。

 ふっ、君も生暖かく見られようではないか。


「アリス、参りますよ」

「………はい…」


 アヤは恥ずかしそうに頷いた。


「アリスちゃん?」

「いやん、アリスちゃんまで本物?」


 囁きが地味に痛いよ。刺さる、刺さるー!


「唯お嬢様、ゆかりお嬢様、参りましょう」


 ここはさっさと退散するしかない。

 二人を促して歩き出す。後から河澄君たちもついて来た。


「いつ、来られたんですか?」

「三十分くらい前かな」


 ほほう。つまり、三十分前から見物していたと?


 ちろりと視線を向ければ、土屋君は手をひらひら振った。


「あの一団に突っ込む根性はちょっとないなあ」


 ですよねー。


 あの独特な雰囲気にはなかなか入れないよね。

 河澄君なら馴染めそうだけど。


「ちょうど休憩になったから良かったわ」

「はい。唯姉から聞いていたけど、想像以上でした。後で写真撮って下さい」


 頬を染めるなー。

 やっぱり河澄君、本当に君が一番馴染んでいるよ。意外と胆が座ってるんだね。新しい発見だよ。


 そのまま渡り廊下みたいなところを抜けて、エスカレーターを下ればレストラン街? っていうか、フードコート?

 一番大きいところに入る。

 うん、フードコート。

 ショッピングセンターのと言うより、スキー場のフードコートに似ている。


 奥の席でサンドイッチをかじる。

 もっとがっつり行きたかったんだけど、キャラ的にNGなのでここは潔く諦める。


 やっと座ることが出来たよ。

 ああ疲れた。


「午後からも同じことをしたらよいのですか?」

「それなのですが」


 ゆかり嬢がいきなり居住まいを正す。


 ヤな予感がっ。


「午後から、ベル様の衣装を着ては頂けませんか?」

「ベル様っ? 完成したのね!」

「はい、昨夜」

「素晴らしいわ!」


 唯先輩がもの凄い勢いで食い付いたよ。


 唯先輩がっ、他所の世界の人になってしまったよ!

 今さらか。この場にいること自体が、全ての答えか。


「ベル様?」


 アヤたち三人が揃って首を傾げた。


「ベルゼアス様ですっ!」

「あ、悪魔の?」

「赤い人ですね」

「え、三倍早いの?」


 一人、違うの混じってるぞー。


 何となくわかっているのは勿論アヤと河澄君だ。土屋君は違う方へ行ってしまった。


 赤くても、三倍早くはないんだよ!


「ベル様、やるの?」


 キラッキラの目で見詰めるのは止めて欲しい。

 無言のプレッシャーが四つ。重いわ。


 私は深々とため息を吐く。


「今日限りの茶番ですからね…お付き合いしますよ」

「きゃあっ!」


 ゆかり嬢と唯先輩、アヤと河澄君が手を取り合って喜んでいる。

 一人置いてきぼりの土屋君は、若干引きぎみだ。


「では、すぐにご用意を!」

「あ…その前に写真を撮っても良いですか…」


 河澄っ、意外と我が道行くなっ!

 びっくりだよ。

 そーゆーキャラだったのかよっ!


 フードコートの隅で、バストアップだけのささやかな撮影会がこそこそと繰り広げられたよ。


 それが終わると更衣室へ戻る。


 ゆかり嬢はクロークに預けたトランクをあっという間に持って戻ってきた。


 そのパワーは一体どこから?


 更衣室に入り、さくさくと着替える。

 ワインレッドの執事服…うん、形はそうなんだけどね。

 でも、襟も袖もごてごてひらひらで、これで執事の職務は果たせるのか?

 はっ、このキャラ。働かないキャラだった。


 着替えると、髪型を変え赤いエクステをつける。化粧も変える。つけまとか、初めてやったよ。目元ぱっちりが重要らしい。

 あっという間に飾り付けられて、鏡を見たら見たことない人間がいた。

 これが…私?


 うをををっ、気持ち悪い!


「完璧だわっ」

「はいっ、頑張りました!」


 唯先輩とゆかり嬢は手を取り合って喜んでいる。

 あーうん。完璧なのね。問題ないのね。

 ならいいよ。


「それで、言葉遣いはどのようにしたら?」

「やんちゃ系オレ様で!」


 現実にオレ様なんて自分で言ってる人、見たことないよ。なのに、そのオレ様とか自分で言うのかあ。


 あーあーあー。

 私はベルゼアス。ベルゼアス、オレ様はベルゼアス。

 頑張れ、自己暗示。


 ひとつ深呼吸して、顔を上げる。


「お嬢、行こうか」

「はい!」


 私たちは再び更衣室を後にした。




ネタ話も大概次辺りで終了予定です。多分。

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