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青春部活は死亡フラグです

投稿二回目です。間堂です。

今回はラノベ的感覚の作品にしました。

『処刑人』、《悪魔》などという謎の存在と関わることになってしまった凍野晶。彼を待ち受ける運命は――。

序刑


 暗い、冷たい――闇の底。

 妾は、何処におるのじゃ? 父君、母君、誰でも良い。この言葉に答えてくりゃえ。この地獄の螺旋の中から、妾を解き放ってくりゃえ。

 ああ。光が欲しい。この虚無の心を照らす、光が欲しい。

 それさえあれば、他の何も求めぬよ。だから――お願いじゃ。誰でも良い、妾を救ってくれ。手を差し伸べてくれ。

 何も見えぬ、否、見たくない。目を瞑っていたい。こんな、こんな地獄などを見ているなど耐えられぬ!

 何もない、虚無の海に、まだまだ沈む。もはや差し込む月明かりもない。ああ、いっそこのまま消えてなくなってしまおうか。所詮誰にも求められてなどおらぬ。むしろ妾のような存在など消えてしまった方が良いのではなかろうか?

 そう。消えてしまえばいいのに。こんな世界、みんなみんな消えてしまえばいいのに。だが、何故じゃ、この感情は?

 この世界の終末を望んでおるのにも関わらず湧き出すこの不可思議な感情は?

 何だと――妾がこの世界をまだ好いておるとでも言うのか? そんなはずはない。この心は奥底から自分への嫌悪や憎悪に満ちておる。それなのにまだ、誰かの平和をねがっているだと?

 ほんに解せぬ。妾は何を求めておる? 金か、権限か、奴隷か、地位か、それとも――人肌の温もりか。

「助けて、あげますよ」

 何じゃ、この不意に響いた声は。

「僕が貴女を、助けてあげます」

 誰じゃ、誰の声じゃ?

 止めてくれ。これ以上妾を苦しめないでおくれ。

 ああ、汝は妾の話を聴いてはくれぬか。こんな妾に生き恥を掻かせないでおくれ。もう、こんな『人間』は消えた方がよかろう。

「死刑――執行」

 あっ……。胸を撃たれたか。死ぬのかや? それぞ本望なり。だが、不思議と痛みは感じぬ。

 否、感じるものが一つだけある。

 肌の温もり。吾を包み込む、優しい想いに満ちた手。

 それを感じ、妾は叫ぶ。

「(助けてくりゃえ……。汝が、お願いじゃ!)」

 すると――視界が開けた。

 今まで辺りに充満していた闇ではない。明るく――温かだった。これが『愛』、なのかや?

 目前には、一人の男児がおる。汝が妾を助けてくれたのかや?

 せめて言わせてくれ。「ありがとう」と。否、もっとじゃ。それでは伝えきれぬ。せめてもう少しだけ、この温もりを感じさせてたもれ。

 ……。頷いてくれたかや。嬉しいぞえ。この妾にも『希望』はあったのじゃな。

 闇の奥底から助け出してくれる希望が。妾の中で、何かが変わった気がする。何かが――。


 星の瞬く時に生まれた、一人の少女の恋心。

 そんな一つの物語。




第一刑 青春部活は死亡フラグです


        ☥☥☥


「ようこそ新人君! この『処刑人部』へ!」


 …………………………。

 唐突すぎて話が読めない。

 とりあえず、今までの自分の行動を振り返ってみると……。


        ☥☥☥


 凍野(とうや)(しょう)は今年この私立扇ノ宮(おうぎのみや)学園高校に入学した一年生だ。

 この学園は部活動にも積極的に取り組んでいて、その数は三十弱ほどだったか。色々と変わった部活も多く、何か面白そうな部活はないかなぁ、あったら入部してみようかなぁ、と思っていた。

 そして今日は部活動体験入部の日。様々な部の部室を見て回っていたのだが。

 そこでふと目に入った部があった。その名も――、

『処刑人部』

 何だコレ。処刑人? 何を処刑するんだ。ていうか物騒すぎるだろう。しかも部室は一階の階段をさらに降りて地下一階にあった。間違いなく学校公認の部じゃないでしょう……。

 そんな色々な思考が晶の頭をぐるぐる回っている間に、声を掛けられたのだった。

「ようこそ新人君! この『処刑人部』へ!」

 そう言い放ったのは、普通の女の子だった。彼女は階段の上からこちらを見降ろしている。女の子と言っても背が高く、言っていることからすると先輩だ。長くて綺麗な黒髪をストレートに伸ばしていて、スタイルもモデルさんのようにきまっていて、まるでこの世のものとは思えない美しさだった。……見た目だけは。

 言動がおかしすぎる。突然、ドアの前に立っていただけで、勝手に部に勧誘しようとするなんて。いや、それは普通なのだろうが、入部希望者ではないのだが。

「あのっ、あのっ、僕は――」

 慌てて話をしようとしたら、彼女は豪快に笑って言った。

「あっはは! そうか少年! 君も『処刑人』になりたいのネ! そうかそうか。しっか

り指導してやるからなぁ。あっはははは!」

 違います。僕はそんな物騒な存在になりたくありません。ていうか何だ、『処刑人』て。

 だが晶は平均男子からすると小柄で力もないので、ずるずると教室に連れ込まれる。

 誰か助けてー。


        ☥☥☥


 そんなこんなで晶はこの『処刑人部』の部室へと引きずり込まれたのであった。

「あの……」

「何だネ、少年!」

 いや、そんな元気いっぱいに返事をされても。

 とりあえず彼は胸の内にある疑問を一気に吐き出してしまおうと思った。

「いくらか質問があるんですけど……」

「言ってみなさいネ!」

 はあ、ではお言葉に甘えて。

「何で僕はこんなところに連れ込まれたんですか、そもそも『処刑人』ってなんですか、そして貴女は誰なのですか?」

 言い終わって晶は、はあはあと息を荒げる。思考がおかしくなり始めたので先輩にもろくな敬語を使わずに言ってしまった。僕としたことが……、と思う。

 すると利里は。

「君には『処刑人』としての素質があるからだ、『処刑人』とは《悪魔》と言われる者どもを倒す正義の味方だ、そして私はこの扇ノ宮高校二年で『処刑人部』部長の百波(ももなみ)利里(りり)と言う者なのネ!」

 全て的確に返してきた。案外凄い人だなぁ。

 するとその瞬間だった。

「利里、そんなすぐに受け入れることが出来る訳ないでしょう」

 下の方から声が聞こえた。部室の中に乱雑に置かれた机の下から一人の女の子が這い出てきた。彼女も先輩だろう。こちらは肩までの髪で両サイドをピンクのピンで留めている。百波、と名乗った人ほどではないが制服の下からでも少し女性的なラインが分かる。平凡な女子高生のようだ。

「ふぁああ。でも素質のある人間は野放しにはできないわねん。その点だけはわたしも賛成ですのん」

 なんだか変な喋り方だがそこは放っておこう。そして新たな疑問、誰だ彼女は。

「今『誰だお前』って思ったわねん? わたしは千瀧(ちたき)那雫夜(ななよ)と申すのねん。この部の副部長ってことになってるのよ」

「はあ、そうなんですか……。では僕は、他の部活も見学して来たいので失礼――」

 そこまでだった。突如晶は横から誰かに頬を殴られたのだ(グーで)。

「駄目ですわ、そんなこと。『処刑人』の素質を持つ者は《悪魔》に狙われる。貴方はここに居るのが最も安全なのよ」

 その声がした方向を見ると、そこに居たのは、

「まったく。利里、那雫夜。貴女達がまともな説得をしないせいで新入り君が逃げちゃうじゃない。ちゃんとしてくださいまし。顧問として恥ずかしいですわ」

 ものすごーく大人びた口調で話す幼女だった。外見は小学校高学年くらい。綺麗な銀髪(多分染めてる)を手で弄っていた。

「一応自己紹介しておくわね。あたくし『処刑人部』顧問を務めている邪庭(やにわ)乃述加(ののか)と申しますわ。この学校では古典の指導をしております。以後、お見知りおきを」

 そう言ってミニスカートの裾をひょいと摘まんでお辞儀する。

 いや、お見知りおきをって言われても。

「あの……。帰っちゃ駄目ですか?」

「「「駄目」」」

 ハモった。何だろう、関わってはいけない人達と関わったような気がする。

「貴方は自分自身の持っている力に気付いていないようですが、そんなに『クロス』を垂れ流しにすると《悪魔》共の格好の餌ですわ。奴らはすぐに力を嗅ぎ付けて殺しにかかって来ますわ。ここであたくし達が保護している方が貴方の身の為ですわよ?」

 そう、顧問の先生(なのだろう)は言った。

「貴方にはまずあたくし達の存在を受け入れてもらうところから始めようかしら? では、お掛けになって下さいまし」

 すると千瀧、と名乗った先輩が椅子を差し出してきた。ここで逃げると自分が処刑されそうなので、素直に座る。

「じゃあ、始めるのねん」

 そうして謎の三人組の説明会が始まった。


        ☥☥☥


「まず貴方は、『処刑人』と聞いてどのようなモノを思い浮かべますか?」

 最初に乃述加はそう問いかけて来た。

「ええっと……。何らかの罪を犯した人を裁く係――みたいな?」

「大体は合っていますわね。ですが、『処刑人』が裁くのは大罪人のみではないのですわ」

「? 如何いうことです?」

 そうですわね――と彼女は一度溜息を吐いてから語り出した。

「まずは、どのような罪人が『処刑』されたのか。今では死刑を申告することは滅多にございませんが、かつては些細なことでも殺されたりしましたわ。窃盗罪や器物破損は今でも犯罪ですが、そこまで重い刑にはなりません。ですが、そのような馬鹿みたいな理由で処刑される人間も多々いましたの。

 ですが最も酷い処刑は、『魔女狩り』や、『狼男狩り』などですわね。

 これらは――実年齢より見た目が若い、眉が繋がるほど長い、キリスト教を信じようとしない等と、あまりにも理不尽な理由で殺された人は数知れませんわ。

――今の話に何か疑問は?」

「大丈夫です。続けて下さい」

「では。これは考えてみるとおかしいことなんですよ。罪人とは罪を償い、心を清廉潔白にすることによって救われる、とキリストは教えているはずなのです。ですが、『処刑人』とは罪人は殺してしまう。何故ならその人はもう救いようがないから。ほら、変でしょう?」

「確かにそうですね。――じゃあ、何故殺される人が沢山居たのですか?」

 晶も話のペースに乗って、疑問を投げかける。すると乃述加は少し嬉しそうに答えた。

「それはですね。あたくしは思いますの。『処刑人』とは罪人を裁き、殺す役割を請け負った者ではない。役人、政治家にとって厄介な、目障りな人間を殺し、その泥を被る役職だ、とね。つまりは世間の操り人形ですわ」

「そうですか――では、何でこんな部が存在しているんです?」

「ここからは、わたしが説明するわん」

 不意に那雫夜が口を挟んだ。

「わたしたちが名乗る『処刑人』は、今先生が語ったものとは別の存在――本物の悪人共と戦う役職なのねん」


        ☥☥☥


 かつて世界には人間とは別の存在が沢山居た。

 全てを統べる絶対的存在――《神》。

 その《神》の遣い――《天使》。

 その二種族の敵対族――《悪魔》。

 これに人間を加えたものが正しい世のあり方だと言われてきた。

 だが人間は彼らの存在をいつしか忘れ去り、世界は自分達が収めていると勘違いし始めた。それに腹を立てた《悪魔》達は人間界に総攻撃を始める。だが《神》はこれを良しとせず、数名の人間に『クロス』と言う特殊な力を与えた。

 その『クロス』を与えられた人間は『処刑人』と呼ばれ、襲い来る《悪魔》の軍勢を打ち破ったのだった。

 だが《悪魔》とて馬鹿ではない。この戦いで生き延びたものも数名は居たのだ。彼らは自分達を忘れた人間を許さず、その存在を危うくする化け物に成り下がったのだった。

 そして現在も《悪魔》達の復讐は果たされておらず、今も人間界にその身を隠し、生きているのである。


        ☥☥☥


「と言う訳で私達は日々その《悪魔》の野郎どもと戦いを繰り広げているのであったー。ぱちぱちぱちー」

 先輩達の説明を一通り聞き終わり、晶は文字通り真っ白になっていた。

 それを見て楽しそうにしている三人。酷い……。

「ちなみに余談だが『処刑人』達はその強さによって呼び名が変わるのん。現在は『処刑人一号』から『処刑人十七号』が存在しているのねん」

「はあ、そうですか」

 もうまともな返事が出来ない。頭の中はぐるぐると鳴門の渦潮のように渦巻いている。だがそれに思考が追い付かない。

「と言う訳でっっ! 今日は君を『処刑人十八号』としてデビューさせたいと思うのだが。良いかしら?」

 びしぃっ! と彼に人差し指を向けて楽しそうに宣言する利里だった。だがこれでも一つしか疑問は解決していない。『処刑人』とは如何いった存在なのか、というものだけだ。

 まだ、本当にそれが実在するかも分からないし、突然自分にその『処刑人』の仲間入りを果たせと言われても無理だ。

「じゃあ、その、自分が『処刑人』だって証拠はあるんでしょうか? 僕はまだそんなものが信じられません!」

 つい、強めの口調になってしまった。人生でここまで自分が感情的になったことがこれまでにあっただろうか? それだけ晶は腹を立てているのだ。

 するとずっと眠そうにしている那雫夜が、制服のブレザーの胸ポケットから何かを取り出した。

 それは――十字架だった。銀色で、中央に透明な色をした、まるでダイアモンドのような宝石を嵌めた十字架である。

「これは『執行十字(エクスクロス)』と呼ばれる宝石なのん」

「『執行十字』、ですか?」

 思わず首を捻る。聞きなれない、というか普通に生きていれば厨二病の人以外は耳にしないような単語だろう。

「そう。これはわたし達『処刑人』が《悪魔》に死刑を『執行』する際に使用する、所謂変身アイテム。仮面○イダーのベルトや魔○少女のジュエル的なものだと考えてくれればいいのん」

 変身アイテムかあ。ここで変身されたら信じちゃうかも。というより信じるしかない。

「本当は無暗に使用してはいけないのだけれど。貴方を引き込むために已む無しなのん。じゃあ、コホンッ」

 那雫夜は恥ずかしそうに一度咳払いをした。そして十字架を胸の前に掲げで叫んだ。

「悪しきものに救いの手を! その御霊を神に委ねよ! 『処刑人十一号』の名において、貴様に死刑を執行する!」

 すっごい恥ずかしそうだった。顔が真っ赤になっていた。そこまでするのか、『処刑人』……。

 すると直後だった。『執行十字』から白銀の光が溢れ彼女の体を包み込んだ。そして光が消えると彼女の姿は全く変わっていた。

「『執行』完了。『処刑人十一号=処女月(アルテミス)』」

 服装はレースのような生地に上から金刺繍を縫い付けたもの。そして左手には弓。背には矢束を背負っている。

 何だか露出度が高く(特に太股部分)コスプレみたいだった。

「ううう。普段だったら何ともないですけど、改めてやってみたら結構恥ずいのねん……」

「別に良いだろう、那雫夜。私なんてビキニ鎧だぞ。あんたよりも露出度が高いんだからな」

 フォローになってるのかなっていないのか分からない発言をする利里だった。なんだろう。『処刑人』って言うのはコスプレイヤーの集まりのようなものなのだろうか。

 だが、先程の那雫夜の変身は(本人は『執行』と言っていた)本物のようだった。つまり『処刑人』と言う者は実在すると信じざるを得ない。でも自分まであんなコスプレさせられるのは嫌だな。いや、まだ入部すると決まった訳ではない。というか入部するつもりはない。

「さあ、少年! これで私達『処刑人』の存在が分かっただろう? これを機に入部して自らの身を護り、人々を救う戦士になるのネ!」

「嫌です。僕は『処刑人』になんかなりたくありません!」

 利里の言葉に、晶は即で答えた。

「僕は平凡な高校生活がしたいんです! 貴女達みたいな変な集団になんて関わりたくないんですよ! もう気が済んだでしょう、さっさと僕を解放してください!」

 晶は叫んだ。気分が悪い。何故こんなにも感情的になっているのだろう?

 するとその時、彼の頭の中に声が響いた。


『お前は、私のようにはなるな、晶。この銃には二度と、目を向けてはいけない―――』


 誰の声だろうか。聞き覚えがあるが、思い出せない。何処か懐かしいような、だが憎らしいような、変な感情が自分の中で渦巻いているのが分かる。

 だが今はそれどころではない。彼女達を振り払わなくては。

「お願いします。これ以上僕に話し掛けないで下さい! 僕の日常を壊さないで!」

「いいえ。それはあたくし達は許しません。貴方は自分が一体どのような存在か理解が出来ていないのですわ」

 乃述加がそう告げて来る。

 するとその言葉とほぼ同時に、学校の外からだろう――轟音が鳴り響いた。

「ほら。貴方の強大な『クロス』を餌に嗅ぎつけて《悪魔》やって来ましたわ」

「じゃあ、やっぱり実戦で飲み込ませるのん?」

「そうなりますわね」

 などと話しているが、全く理解できない。

「付いて来い、少年。貴様に『処刑人』がどれほどのものか見せてやる」

 そう言った利里は晶のブレザーの首を掴んで引きずっていく。勿論抵抗したのだが、無駄だった。

 そしてそのまま引きずられて、外に出る。そこで晶が目にしたのは――。


        ☥☥☥


 学校の近くにある空き地の方から火が上がっていた。彼女らは晶を引きずりながらそちらへ走ってゆく。すると火が燃えている場所の、すぐ傍。そこにはありえない生き物が存在していた。

 蜥蜴のような頭部に人間の、鎧のようなものを着込んだ身体。そして左腕に手はなく、長いサーベルのような形状になっている。

「なんなんですか、あれ……」

「あれが《悪魔》だよ。形状から言って《蜥蜴型悪魔(リザードデビル)》と言ったところかしらネ」

「あれが《悪魔》、ですか?」

 当然信じることは出来ない。これは夢だ夢だ、と晶は考えた。パンパン、と自分の頬を平手で叩いてみる。だが、一向に目は覚めない。

「目を背けるな。ここから先が私達の歩むべき道なのだから」

 そう言って利里はゆっくりと歩を進めた。

「幸いとして怪我人は出てはいないようですわ。利里、思いっきりやってしまいなさい!」

 乃述加の声を合図として、利里は十字架を掲げた。そして『執行』する。

「汚れし魂を撲滅せよ! 清き世界への介入を許さん! 『処刑人五号』の名において、貴様に死刑を執行する!」

 すると直後。先程の那雫夜と同じように十字架――『執行十字』から光が迸る。違いは、色だった。那雫夜が白銀だったのに対し、利里はもっと濃い白の光だった。

 光が彼女の体を包み込む。そして、『執行』が完了する。

「『執行』完了。『処刑人五号=一角獣(ユニコーン)』!」

 その姿は、まさに女神のようだった。

 背中に乳白色のマント。鎧は必要最低限な局部のみを隠す形で、防御力はなさそうだった。だが、右手に握り締めている細剣(レイピア)が不思議と彼女の強さを物語っている。

「あれが総合の中で五本の指に収まる『処刑人五号』の姿ですわ。貴方も、しかとご覧くださいまし」

 いつの間にか乃述加が晶の横に立っていた。

「確か、『処刑人』って言うのは十七人までいるんですよね。その中の五号ってことは、先輩は相当強いってことですか?」

「はい。利里はあたくしの一番の教え子ですわ。ま、まあ、かく言うあたくしも『処刑人三号』なのですがね。お恥ずかしいことながら」

 三号ってことは上から三番目か。彼女の強さも半端ではないらしい。

「貴方、普通の高校生活をお送りしたいと、そう仰いましたね? しかし現実はそこまで甘くはないのですわ。この部で青春しようなんて、思っていたら死亡フラグですわよ?」

 晶にはその言葉を聞いている余裕などなかった。

 何故なら目の前で、今まさに死刑が執行される瞬間を見ていたからだ。


        ☥☥☥


刺刑(しけい)、はあっ!」

 利里がそう叫びながら、《蜥蜴型悪魔(リザード)》の左胸部分を細剣で突き刺す。するとその『悪魔』は「グギャア嗚呼!」と断末魔の悲鳴を上げた。

 そして利里が剣を抜き、振り向いて歩み出す。

 その直後だった。

 ドガァァン! という轟音と共に《悪魔》の四肢が、首が、肉体が文字通り木端微塵に吹き飛んだ。

「『処刑』――、完了」

 何故だろうか、その時晶には『処刑人』が物凄く格好よく見えてしまった。いけないいけない。こんなことで惑わされては。

 自分は絶対に『処刑人』なんかにはならない。もうこの部活にも近づかない。心に決めたのだ。

 そう思って顔をぶんぶん必死になって振っている晶の元に利里がやって来た。

「如何だ見たか、『処刑人』の姿。これが私達が生きている世界の現実なのネ。貴方は如何する? 自分の世界の平穏のために他人を見捨てるか、自分の人生を蹴落としてでも誰かを守るか、決めるのは貴方よ」

 その言葉は不思議と重かった。心にずっしりと響き渡る。胸が震える。

 この感情が恐怖なのか、喜びなのか、晶には分からない。だが、自分の想いに、懸けてみようと思った。自分の中にある、正義に憧れる想いに。

「――やります」

「もっと大きな声で」

「僕も、『処刑人』、やってやります!」

「よく言ったのネ!」

 利里は口を三日月型に歪めて笑った。

 乃述加や那雫夜も笑みを浮かべている。

「それでは、部室へ戻りましょう。新人さんの歓迎会です」


☥☥☥


 部室に戻っての利里の第一声は、

「て言うか、あんた名前は?」

 だった。彼女は今更のように凄いことを訊いてきた。

「今まで普通に少年とか新人君とか呼んでたけれど、結局あんたの名は何なの?」

「はあ、凍野晶、ですけど……」

 何だか、本当に今更馬鹿馬鹿しいが、一応名乗ることにした。そうでなければ変な呼ばれ方しかねないし。

「成程、晶くんか。改めて、宜しくなのネ!」

 そう言って利里が右手を差し出してくる。晶もそれに応じて彼女の手をとる。

 すると――、つい言ってしまった。

「……! 冷たい」

「ッ!」

 慌てて利里はパッと手を放した。だが、その手の感触は晶の手にしっかり残っていた。

 あれは、異様に冷たかった。まるで氷を全身に纏っているかのように。あるいは、屍体のように。

「ゴメン、ちょっと出てく……」

 そう小さな声で呟くと、彼女は部室を出て行ってしまった。

「ああ。厳禁用語(タブー)を言ってしまわれましたね」

 乃述加が溜息を吐いたが、晶には何のことだかさっぱり分からない。キョトンとするだけだ。

 そこにいつの間にやら机の下に潜り込んでいた那雫夜が声を上げた。

「そんなことより彼に『執行十字』を渡したらどうですか先生。利里の生い立ちに付いては、いつかは伝えるべきでしょうがそれは今ではないのねん」

「そうですわね。では晶さん、これを」

 そう言って乃述加が差し出して来たのは、中心に石を入れる凹みのついた銀色の十字架だった。

「それが貴方の『執行十字』ですわ。まだ『執行』は出来ないでしょうが、それを持っているだけでも自身が無意識に垂れ流している『クロス』を抑えることが出来ますわ」

「これが僕の、『執行十字』か……」

 いまいち実感が湧かないが、この瞬間に晶は『処刑人十八号』になったのだった。

「宜しくなのねん、凍野くん」

「頑張りましょうね」

 先生や先輩の温かい言葉で、晶はデビューしたのだった。

 

 だが彼が最も気になっていたのは他でもない。先程突然頭の中に響いてきた声だ。

 あれが誰の声かは分からないが、きっと自分が封じてしまった記憶なのだろう、と勝手に解釈してしまった。

 そして気になるのはもう一つ。那雫夜が言っていた、利里の生い立ちについてだった。

 彼女の手の冷たさが、まだ掌が感じている。


いかがでしたでしょうか。次回からは本格的に物語が動き始めます。最後までお付き合いしていただければ嬉しいです。

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