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燦光伝  作者: sanpo
39/63

*38

     


 ずっと部屋の隅に佇んでいた赤穴(あかな)は中央へ進み出るとジニーの前に立った。

 真っ直ぐに瞳を覗き込んで言う。

「いいか、ジニー。僕の言うことを落ち着いて聞いてくれ。君は今まで、あっち(・・・)の管理局で嫌と言うほど聞かされていた自分の未開放の能力をこっち(・・・)で開放してしまったらしい」

「え?」

「今まで向こうでどう刺激しても失敗に終わった君の能力開放が、何が引き金だったのかはわからないが、この地で実現してしまったんだ。そして、その結果が──君が今話してくれた〈体験〉なんだ」

 ジニーは唇を噛んだままだった。

「君を〈至宝〉測定器にかける(たび)に顕現した桁違いの数値。それが何を意味するか我々管理局員は薄々気づいていた。過去一人だけ君に似た指数を示した〈至宝〉がいたからだ。

 だが、不必要なプレッシャーや混乱を避けるため、君自身には、実際にその能力を開放するまで敢えて詳細は秘されて来たんだ。だが、今こそ明かそう。

 君が有す〈至宝〉能力=特殊サイ能力こそ、〈超時間瞬間移動〉だ……!」

 相変わらずジニーは微動だにしなかった。

 簡易居住コンテナの窓にぶつかる風と砂の音が四人の耳にはっきりと聞き取れる。その澄んだ何十秒かの静寂の後──

 とうとうジニースーシャは大きく息を吐いて言った。

「それって……私が〈人間タイムマシン〉って意味?」

「まあ──平たく言えば、そうだ」

 ジニーはけたたましく笑い出した。

「ウッソー! マジィ? 冗談キツーイ!」

 少女のヒステリックな笑い声を止めたのはフッカー博士の毅然とした言葉だった。

「だが、ジニー、現に君は(あけひ)王始め、須臾王子たちに実際に(・・・)に会ったんだろう?」

「当然よ」

 まだ少し笑いの残る声でジニーは答える。

「そのことのどこがおかしいのよ? だって、彼らは現実に生きて活動してる生身の人間(・・・・・)だもの。全然過去の人なんかじゃないわよ? まあ──辺境人という意味で多少エキゾチックではあるにしろ。何?」

 キニアン女史が本を数冊、ジニーの手に押し付けた。

「読んでみるといいわ」

「……[星域別編集・超古代辺境民族史概略]、[辺境星民俗学入門・超古代編]、[歴史と伝承の狭間・沙海の古代歌謡]」

 分厚い書物をざっと目で追ってジニーは顔を顰めた。

「ウアッ、ダメ! パス! 私、苦手だわ。こんな黴臭いの」

「そうかしら? あなたの親しいお友達がたくさん出てくるはずよ」

「え?」

「陽や月や螢……沙嘴国の三兄弟の悲劇の伝説もちゃんとそこ(・・)に載ってるわ」

 ジニーはまじまじと女史を見つめ返した。

「三兄弟の悲劇? その伝説ですって? ……どういう意味よ?」

「だから、読んで字のごとく、よ」

 女史は一冊手に取るとパラパラとページを繰った。

「……遥か昔……超古代……この星の砂漠地帯にあった小国沙嘴の今は伝説と化した物語。その悲劇性故にこの聖域では最もポピュラーで広範囲に伝播しているわ。あんまりドラマチック過ぎるから、現在では王子たちの存在を疑問視する学者もいるくらいよ」

 ジニーは震えだした。声が段々小さくなって行く。

「本には何て書いてあるの? 王子たちはどうなったって? 彼らはどんな生涯を送ったの?」

(あけひ)(やみひ)(ちのひ)の三兄弟はともに若死にしてるわ。

 伝承とはそういうものだけれど色々のパターンが派生するの。それで、今となってはどれが(・・・)一番真実に近いのか判然としないのよ」

 フロクス・キニアンは眉を寄せた。

「そうね、人質として湖族の地で死んだ月は別としても……陽と螢が同じ日に死んだ(・・・・・・・)という伝承の(タイプ)が一番多いかな?  螢が陽に殺された(・・・・・・・・)という型もある。劇的の極みは、三兄弟が三人とも同じ日に死んだ(・・・・・・・)ってやつかしら?

 その型では月は人質としては死なず、成人して後、沙嘴国へ戻り、兄の陽をその手で殺めている……

 でも、どの伝承を見ても血(なまぐさ)い修羅の兄弟像だわね? 当時、沙海と呼ばれた砂漠地帯の民族は勇壮にして獰猛な気性だったそうだから」

「馬鹿な……そんなはずないっ!」

 ジニーは口の中で呟いた。

 そんなはず(・・・・・)ないのに……!

 あの優しい陽王が螢を殺すはずない。それ以上に──

 あの螢が死んで(・・・・・・・)しまうはずない(・・・・・・・)

 だって、彼は約束したわ。私に(・・)ハッキリと言ったもの……!

 ジニーの脳裏に若鹿のように溌溂とした王子の姿が蘇った。

 手綱を引き絞って馬上から真っ直ぐに見つめていた螢。その瞳の中に映る自分自身の影さえジニーは鮮明に思い出せる……!


 ── 大丈夫だ! 俺たちはまた会える! 必ず……!


 刹那、ジニー・スーシャは低い叫び声を上げた。

 難解な暗号を、今まさに解いた人のように体が痺れて戦慄(わなな)いた。


 俺たちは・また会える・必ず


 そう?

 そうか……

 その通りよ!


 果たして、ジニーは再び螢と会うことができるのだろうか?

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