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燦光伝  作者: sanpo
33/63

*32

     


「純粋に愛によって結ばれた先王・(そら)の婚儀に対しては、沙嘴国内部でも危惧の念を抱き、不安視する(やから)も多かったと聞く。

 前例のない湖族との平和的融合。

 それに因ってもたらされた安寧の中にあって、しかし、沙嘴国自身も不穏な鳴動を内包させていたわけだ。

 やがて、嫡子王子、その翌年には第二王子が誕生するに及んで、旻王のあまりに鮮明な湖族寄りの政道にあからさまに異を唱える者が少なからず出て来た。

 そういう連中は、沙嘴国が従来行なって来た帝国・湖族、そのどちらにも完全に(くみ)しない、その折々で強国の顔色を読む日和見(ひよりみ)的な外交術こそが最良の生き残りの道だと信じていた。その者等は遠い帝国より、近い、鼻先に出没する我々湖族を恐れていたのさ。

 そして何より、湖族の〈湖鬼〉と称される激烈な()を。


 相次いで誕生した二王子の気性の激しさは、(かね)てからそういう連中の指弾の的だった。

 それを言われると先王はさぞや頭が痛かったろう。

 何しろ、先王は温和で優雅な御人柄だったそうだから、二王子の過激な性格は全て奥方側──〝湖族〟の血の所以(ゆえん)と言うことになる。

 

 ──まあ、私はそうは思わないがな。

 先王は温雅と評されるが、穏やかなばかりでは、放浪して来た異郷の娘を周囲の反対を押し切って后にするなどという行為を実行できるはずがない。まして、長いどっちつかずの政策に終止符を打ち、明確にどちらか一国を摂るなどという果敢な決断ができるものか!

 二王子の有していた勇猛・情熱・奔放は寧ろ父王から譲り受けた美徳だと、私や湖族は信じている。


 さて。

 どちらの血かはともかく、この活きの良過ぎる王子様たちが、ある日、喧嘩をなさった。

 それ自体は王子に限らず、歳の近い兄弟なら珍しくもないことだが。

 違ったのは凶器を使った(・・・・・・)という点だ。

 年端も行かない王子たちが剣を抜いての流血沙汰。

 湖族を恐れていた親帝国派は総毛立った。

 これこそ、血で血を洗う沙嘴国の未来の予兆図だ、と。


 ここで、我々湖族は今でも不思議に思っていることがある。

 その年端も行かない(・・・・・・・)王子たちがよくある喧嘩(・・・・・・)をし始めた際、タイミング良くも、何故、凶器が近くに(・・・・・・)あったのか(・・・・・)

 当然ながら、沙嘴国の習俗通り、成人前の幼い王子たちはその身に佩刀を帯びてはおられなかった。

 何処から? どうやって?

 王子兄弟は凶器を手に入れられたのか?


 どうだ、これはちょっとした〈謎〉だろう?


 しかも、不可思議な点はこれだけではない。

 この騒動が起こってそう日も経たない内に、帝国軍がやって来て第一王子の人質要請を強く迫ったのだ。

 〈王子人質〉は古くから帝国と沙嘴国の間で続いて来た因習だが、先王・旻は自分の代に至ってからは頑としてこれを拒否していた。

 これも湖族と親交を深め強い絆を結んだからこそできたことなのだが、しかし、時が悪い。

 沙嘴王城内は幼い王子の刃傷事件を巡って論議が沸騰していた。

 今回に至って、王は帝国側の要求を退けられなかった。

 まあ、半分は力ずくで──帝国兵は沙嘴国城壁を三重に囲んだと聞くぞ?──第一王子は島帝国へ連れ去られた。

 流石にそれを知っては我々湖族連衡(れんこう)も動かざるを得ない。

 第一王子が帝国の手に渡った以上、我が方としても打てる手は打っておかねばあの帝国のことだ、王子の命を餌にどんな無理難題を沙嘴王に吹っ掛けるかわかったものじゃない。

 この時、湖族連衡の名を帯びて沙嘴国へ遣わされたのが玄鵠(げんこく)将軍。

 我叔父上、つまり、私の父・玄信天翁(げんしんてんこう)の弟……というわけだ。


 とはいえ、我々湖族連衡は沙嘴国とその王に対して帝国の如き非道の振る舞いはできなかった。

 王が湖族出身の娘と結ばれて以来の信頼関係は着実に育っていたのだ。

 王は王で、第一王子が帝国に盗られた以上、公平を期すためにも第二王子は我々に委ねる決心をしておられたようだ。玄鵠将軍の到着と同時に王子を差し出されたそうだから。

 しかし、玄鵠はすぐには王子を連れて帰らなかった。

 というのは、この王子が先の兄弟喧嘩で深手を負っておられて──そんな状態の王子を父王の元から引き離すことなど到底できなかったのだ。

 せめて、怪我が完治するまではと、王子を王の側に留め置くことにした。


 温情から出たこの行為が、もっと大きな悲劇の引き金となろうとは……!

 その時、沙嘴王城内の誰が予想しえたろう?


 


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