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自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~  作者: パラレル・ゲーマー
第ニ部 国家戦略特区「テラ・ノヴァ」編

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第18話 黒い血脈と鋼鉄の進撃

 車両の研究とリペアキットの実用化から、およそ一ヶ月。

 惑星テラ・ノヴァの前線基地(FOB)周辺は、かつてない緊張感と活気に包まれていた。


 この一ヶ月間、工藤創一と防衛隊は、遊んでいたわけではない。

 毎週のように小規模な遠征を行い、基地周辺に点在する小規模なバイターのコロニーを駆除し続けてきた。

 いわゆる「削り作業(Whittling)」である。

 荒野のあちこちに、黒く焦げたスポナー(巣穴)の残骸が転がっている。

 石の壁には無数の爪痕と、酸による腐食跡が残り、それをリペアキットで修復した跡が、継ぎ接ぎのように生々しく刻まれていた。

 隊員たちの動きにも無駄がない。号令がなくとも、阿吽の呼吸で散開し、射撃位置につく。

 実戦の中で、彼らは確実に練度を上げていた。


 そして今日。

 いよいよ最大の作戦が発動される。

 ターゲットは、以前発見された大規模なバイターの巣——その地下に眠る「大油田」の奪還である。


 基地の広場には、増強された戦力が集結していた。

 創一が開発した「運搬車(装甲バギー)」を先頭に、地球側から搬入された陸上自衛隊の「96式装輪装甲車」が二両、そして「73式大型トラック」が数台。

 完全武装した防衛隊員たちに加え、今回の作戦のために本土から極秘裏に派遣された中央即応連隊(CRR)からの選抜小隊も整列している。


「……では、最終ミーティングを始めます」


 作戦テーブルの前で、創一が声を張り上げた。

 彼の横には、鬼塚ゲンと権田隊長が侍立している。


「今回の目標は、コードネーム『エリア・オイル』。

 敵戦力は推定100体以上。これまでの小競り合いとは、規模が違います」


 創一はホログラムマップを展開し、赤いアイコンが密集するエリアを指し示した。


「作戦の基本方針は、私が考案した『タレット・クリープ(機銃浸透戦術)』を採用します」

「タレット・クリープ……ですか?」


 増援部隊の小隊長が、聞き慣れない単語に首を傾げる。


「はい。簡単に言えば、移動式の要塞を押し込んでいく戦法です。

 まず敵の感知範囲ギリギリに『石の壁』と『ガンタレット』を設置し、橋頭堡を築きます。

 そこから少しずつタレットを前進させ、射程を重ねることで『キルゾーン(殺戮領域)』を形成。

 敵を誘い出し、十字砲火クロスファイアで殲滅しながら、じりじりと巣を追い詰めます」


 創一の説明に、権田が補足を入れる。


「歩兵が前に出て撃ち合うのではない。

 あくまで火力の主役はタレットだ。

 我々の任務は、タレットの設置・防衛・弾薬補給、そして修理だ。

 決して無茶な突撃はするな」


「加えて」


 創一は表情を引き締めた。


「自衛隊の皆さんには、後方からの火力支援をお願いします。

 支給された『84mm無反動砲カール・グスタフ』および『110mm個人携帯対戦車弾(LAM)』を用いて、遠距離から敵のスポナー(巣穴)を削ってください。

 巣穴を破壊しない限り、敵は無限に湧いてきます」


「了解」


 小隊長が頷く。ここまでは想定内の戦術だ。

 だが創一は、さらに重要な警告を付け加えた。


「それと最大の注意点が一つ。

 今回の敵には、新種が含まれている可能性があります。

 イヴの予測では……酸性の消化液を吐きかけてくる個体、通称『スピッター(Spitter)』です」


「酸……ですか」


「はい。強力な腐食性を持っています。生身で食らえば、皮膚どころか骨まで溶けます。

 通常の防弾チョッキでは防げません」


 隊員たちの間に動揺が走る。

 噛みつき攻撃ならまだしも、遠距離からの酸攻撃となれば、遮蔽物のない荒野では脅威だ。


「そこで、これを用意しました」


 創一がインベントリから取り出したのは、鈍い光沢を放つ金属製の鎧だった。

 『ライトアーマー(Light Armor)』。

 鉄板を加工して作られた、ナノマシン結合による強化装甲服だ。

 見た目は武骨なプレートアーマーだが、内部には衝撃吸収ゲルと耐酸コーティングが施されている。


「鉄板40枚で作った特注品です。

 これを最前線に出る歩兵連隊全員に支給します。

 めちゃくちゃ重いですが、バイターの爪も、スピッターの酸も弾きます」


 鬼塚が、すでに装着しているアーマーを叩いて見せた。

 カンッ、と硬質な音が響く。

 総重量30キロを超える鉄塊だが、彼は普段着のように着こなしている。


「このライトアーマーを支給されていない隊員、および後方支援部隊は、絶対に車両(装甲車)の中から出ないでください。

 生身で酸を浴びたら、即死だと思ってください」


「……了解しました」


 緊張が走る。

 これは害虫駆除ではない。異星生物との「戦争」なのだ。


「では行きましょうか。

 日本のエネルギー事情をひっくり返す、大一番です!」


 創一の号令と共に、エンジンが一斉に始動した。

 土煙を上げ、鋼鉄の車列が荒野へと進軍を開始する。


 ポイント『エリア・オイル』。

 そこは赤茶色の大地が、黒ずんだ粘液質の菌苔クリープに覆われた、死と腐敗の領域だった。

 風に乗って漂ってくるのは、鼻を突く硫黄の臭いと、獣臭さ。


「……到着。距離500」


 先頭の装甲バギーの中で、創一がハンドルを握りしめた。

 助手席には鬼塚。後部座席には、イヴの端末と予備の弾薬箱が積まれている。


『マスター。熱源反応多数。

 スポナー数15、ワーム(防衛用砲台)確認。

 ……規模、拡大しています』


「想定内だ。

 総員展開! 第一防衛ライン構築!」


 創一の指示で車列が停止。

 装甲車のハッチが開き、ライトアーマーを着込んだ防衛隊員たちが飛び出した。

 彼らは手際よく資材を展開していくが、その足取りは重い。砂に足を取られ、荒い息遣いが無線越しに聞こえる。

 唯一、鬼塚だけが軽々と走り回り、資材を運んでいる。


 ズドォォン! ズドォォン!


 創一が走り回りながら、インベントリから「石の壁」を設置していく。

 瞬く間に高さ二メートルの壁が横一列に出現する。

 その背後に三脚付きの自動機銃「ガンタレット」を等間隔に配置。

 インサータと弾薬箱を接続し、給弾システムを確立する。


「ライン構築完了! タレットオンライン!」


 ウィーン……カシャン。

 十基のタレットが首を振り、敵影を捉えて駆動音を立てる。


「よし、釣るぞ!

 自衛隊、ロケット発射!」


 後方の装甲車の影から、無反動砲を構えた隊員がトリガーを引いた。


 ヒュゴォォォォ……ズドォォォォン!!


 轟音と共に、最前列にあったバイターの巣穴が吹き飛んだ。

 肉片と体液が撒き散らされる。


 瞬間。

 大地が震えた。


 キシャァァァァァッ!! ギチチチチチッ!!


 巣穴の奥から、怒り狂ったバイターの大群が溢れ出してきた。

 赤茶色の地面を埋め尽くす黒い奔流。

 その数、目視だけで百五十以上。第一波にしては多すぎる。


「来たぞ! 迎撃ッ!!」


 権田隊長が叫ぶ。

 バイターの群れが、防衛ラインに向かって一直線に殺到する。


 ダダダダダダダダダッ!!


 ガンタレットが一斉に火を噴いた。

 秒間十発以上の連射速度で吐き出される鉛の嵐。

 先頭を走っていた小型バイター(Small Biter)たちが、次々と肉塊に変わっていく。


「いいぞ! 効いてる!」


 隊員たちが歓声を上げる。

 だが創一の表情は険しかった。

 彼の視界——AR(拡張現実)で表示されたUIには、敵のHPバーが見えている。


(……硬い)


 以前なら数発で沈んでいた個体が、タレットの掃射を受けても数秒間耐えている。

 HPバーの減りが遅い。

 特に甲殻が少し青みがかった個体——中型(Medium)になりかけの変異種——が混じっている。


『警告。敵の物理耐性が上昇しています。

 進化(Evolution)係数、0.3ポイント上昇』


「くそっ、やっぱり学習してやがるか!」


 創一が舌打ちした瞬間、群れの後方から緑色の液体が放物線を描いて飛んできた。


 ジュワァァァッ!!


 酸だ。

 石の壁に着弾し、白い煙を上げてコンクリートを溶かしていく。

 スピッターだ。


「酸攻撃! 壁が溶かされるぞ!」

「リペアキット! 修理班、急げ!」


 ライトアーマーを着た隊員たちが、煙を上げる壁に駆け寄る。

 手にしたリペアキットを押し当てると、ナノマシンの光が瞬き、溶けた壁がみるみる修復されていく。

 破壊と再生のイタチごっこ。


「……まずいな。押し切れるか?」


 創一は戦況を分析した。

 タレットの火力は十分だが、敵の数が多く、かつ硬くなっているため、弾薬の消費が激しい。

 弾薬ベルトの減りが異常に早い。

 さらに修理班のライトアーマー表面も、度重なる酸の飛沫でコーティングが剥がれかけている。


「工藤さん! 第二波、来ます!」


 権田の叫び声。

 巣穴からは、まだ続々と敵が湧いてきている。


「……焦るな。

 作戦変更! 突撃は中止!

 この位置で『持久戦』に持ち込む!」


 創一は無線で全軍に指示を飛ばした。


「敵のHP……耐久力が想定よりも高い!

 一気に潰そうとすれば、弾切れでこっちが食われるぞ!

 時間をかけて削れ!

 弾薬は惜しむな、インベントリからいくらでも補充してやる!」


 創一は自らバギーを走らせ、各タレットの弾薬箱に予備のマガジンを放り込んで回った。

 タレットの銃身が赤熱し、陽炎が立ち上る。

 冷却が追いつかない。だが、撃つのを止めれば死ぬ。


 ガガガガガガッ! キシャァァッ!


 激しい銃撃戦が続く。

 壁が酸で溶かされ、即座に修理され、タレットが加熱し、敵の死体が積み重なっていく。

 十分、二十分……。

 泥沼の消耗戦。

 リペアキットという「無限再生」の魔法がなければ、とっくに防衛ラインは崩壊していただろう。


「……敵の湧きが止まったか?」


 三十分後。

 巣穴周辺の動きが、ピタリと止まった。

 周囲には数百の死骸が累々と横たわっている。


『スポナー内部の生体反応低下。湧出間隔が閾値を下回りました。

 巣内の蓄積個体を吐き切ったと推測されます。

 ……今が空白の時間です』


 イヴの冷徹な分析が、勝機を告げた。


「今だ! 反転攻勢カウンター!」


 創一が叫んだ。

 好機を見逃すな。敵が枯渇した今こそが、心臓部を叩くチャンスだ。


「ライトアーマー連隊、前へ!

 車両部隊は支援射撃! 残りの巣を焼き払え!」


 うおおおおおっ!!

 雄叫びと共に、鬼塚を先頭にした歩兵部隊が壁を乗り越えた。

 彼らは重いアーマーを物ともせず、アサルトライフルを腰だめで撃ちながら突進する。

 残っていたスピッターが酸を吐くが、ライトアーマーの表面でジュッと弾かれるだけだ。


「この程度の酸、ぬるま湯だ!」


 鬼塚が吼える。

 彼は接近してきたバイターの顎を、強化された腕力で殴りつけ、銃床で粉砕した。

 他の隊員たちが酸の恐怖に足を止める中、彼だけは怯まない。

 まさに鬼神。スーパーソルジャーの独壇場だ。


 ドォン! ドォン!

 自衛隊のカール・グスタフが、無防備になったスポナーを次々と吹き飛ばしていく。

 脈動する肉塊が破裂し、汚らわしい体液と共に崩れ落ちる。


「制圧! エリア・クリア!」


 最後の巣が沈黙した。

 戦場に荒い息遣いと、エンジンのアイドリング音だけが残る。

 ギリギリの勝利だった。弾薬の残量は一割を切っている。


「……やったか」


 創一はバギーから降りた。

 足元には黒い粘液と、虹色に光る水たまり。

 いや、水ではない。

 巣穴が破壊された地面の亀裂から、ドロドロとした黒い液体が湧き出している。


「……原油だ」


 創一は手袋を脱ぎ、その液体を指で掬った。

 鼻を突く揮発性の臭い。

 ぬめるような感触。

 紛れもない黒い黄金だ。


「皆さん! 見事な勝利です!

 そして……待望の油田をGETしましたよ!」


 創一が黒い指を掲げると、疲弊していた隊員たちから割れんばかりの歓声が上がった。

 勝利の雄叫びが、異星の空に響き渡る。


「よし、感傷に浸ってる暇はない。

 すぐに『採掘』を始めるぞ!」


 創一はインベントリを開いた。

 この瞬間のために用意しておいた切り札。

 自動化テクノロジーカードと鋼材をふんだんに使って研究・開発した新設備。


【設置:ポンプジャック(Pumpjack)】


 ズシンッ!


 巨大なやぐらを持つ機械が、油井の上に設置された。

 高さ五メートル。鉄骨で組まれた無骨なフレームに、巨大なハンマーヘッドのような可動部。

 電源を接続する。


 キィィィン……ガコン! シュゴォォォ……プシューッ!


 ポンプが動き出した。

 リズミカルなピストン運動が始まり、地中深くから原油を吸い上げる。

 パイプの中を、黒い液体が勢いよく流れ始めた。


「貯蔵タンク、設置!」


 ポンプの横に巨大な円筒形のタンクを据え付ける。

 パイプが接続され、メーターの針が跳ね上がった。

 100、200、500……。

 タンクの中に、みるみるうちに原油が溜まっていく。


「……出た。本当に出たぞ」


 権田隊長が、信じられないものを見る目でタンクを見上げた。

 一滴一滴が国家予算に匹敵する価値を持つ液体。

 それが今、滝のように溢れている。


 その頃。

 東京首相官邸の危機管理センター。

 大型モニターに映し出されたライブ映像——黒い液体がタンクを満たしていく光景——を見て、その場にいた全員が総立ちになっていた。


「おお……!!」

「石油だ! 本当に石油が出たぞ!」


 経済産業大臣が、子供のように手を叩いて喜んでいる。

 防衛大臣は拳を握りしめ、震えていた。

 総理大臣でさえ、目頭を押さえていた。


 たった一つの油田。

 だがそれは、資源のない島国・日本にとって、明治維新以来の悲願達成の瞬間だった。

 エネルギー自給率100%への道。

 あらゆる経済・外交問題を解決する「魔法の液体」が、画面の向こうで湧き出しているのだ。


「……やったな」

「ああ。これで日本は助かる……」


 歓喜の渦の中で、日下部だけは冷静に、しかし目尻に涙を浮かべながらモニターを見つめていた。


「工藤さん……貴方は本当に、この国を救ってしまったのかもしれませんね」


 テラ・ノヴァ。

 新しい地球。

 その名の通り、そこは日本にとっての「約束の地」となった。


 現地。

 夕日に染まる油田地帯。

 ポンプジャックの規則正しい駆動音(ガコン、ガコン)を聞きながら、創一はタンクの側面に寄りかかっていた。

 心地よい疲労感。

 そしてインベントリには、大量の「バイオマター(戦利品)」が収まっている。


「……さて、原油は手に入った」


 彼は空を見上げた。


「次はこれを『精製』して、プラスチックと硫黄を作る。

 そうすれば、もっと強力な武器……『ロケット弾』や『新型サイエンスパック』が作れる」


 工場は止まらない。

 資源を得れば得るほど、その飢餓感は増していく。

 創一の目には、すでに次のステージ——油田地帯に立ち並ぶ巨大な化学プラント群の幻影ブループリントが映っていた。


 ——The Factory Must Grow.


 黒い黄金の匂いと共に、テラ・ノヴァ開拓史は「化学ケミカルの時代」へと突入した。


 だが創一は知らなかった。

 この勝利の瞬間、世界が大きく動き出したことを。


『……警告、マスター』


 不意にイヴの声が脳内に響いた。

 いつもより少し、低いトーンだった。


『今回の戦闘による汚染拡大と巣の破壊により、バイターの進化(Evolution)係数が閾値を突破しました。

 ……次回の襲撃時には、中型(Medium)個体が主力となる確率が90%を超えます』


 そして、さらに遠く——地球の上空600キロメートル。

 アメリカ国家偵察局(NRO)が運用する軍事偵察衛星『KH-12』の電子の眼が、静かに日本列島を見下ろしていた。

 その高解像度レンズが、東京湾岸・新木場の、とある区画に向けられる。

 そこにあるはずのない熱源と、奇妙な植生反応を捉えた瞬間、ワシントンD.C.の地下で赤い警告灯が点滅を始めた。


 秘密の扉は、叩かれようとしていた。



最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
大油田を奪還なのか奪われたわけじゃないから違和感があるけど日本としては相手が何であれ建前がいるか・・・。
ついにアメリカに勘付かれるか どこまで隠し通せるか 場合によっては鬼塚さんの汚れ仕事の出番か
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