第17話 鋼鉄の暴れ馬と無限再生の魔法
惑星テラ・ノヴァ。
赤茶色の大地の上に築かれた前線基地(FOB)の拡張工事は、日を追うごとにその速度を増していた。
基地の中央には新たに建設された『研究所(Lab)』が青白いドーム状の光を放っている。
その周囲には規則正しく配置されたベルトコンベアが血管のように走り、自動化された組立機が心臓のように鼓動していた。
コンベアの上を流れているのは集積回路のような輝きを放つカード状のアイテム——『自動化テクノロジーカード(Automation Tech Card)』だ。
銅板と鉄の歯車を材料に自動生成されたそのカードは、研究所のスロットへと次々に吸い込まれ、イヴによる解析プロセスを経て、新たなテクノロジーをアンロックしていく。
「……よし。ゲージが溜まった」
司令室のモニター前で、工藤創一は満足げに頷いた。
画面上のプログレスバーが100%に達し、ファンファーレのような電子音が鳴り響く。
『研究完了:基本的な車両(Automobilism)』
「やったー! ついに運搬車だー!」
創一は子供のようにガッツポーズをした。
これまでは徒歩か、地球から持ち込んだトラック(燃料補給が面倒)で移動していたが、ついに「現地生産」が可能な車両が手に入ったのだ。
「工藤さん、そんなに嬉しいんですか?
移動なら、自衛隊の車両があるでしょう」
日下部駐在員が不思議そうに尋ねる。
創一はニヤリと笑い、人差し指を振った。
「甘いですね、日下部さん。
地球の車は、舗装路を走るように作られてます。この凸凹だらけの荒野じゃ、サスペンションもタイヤもすぐにイカれる。
それに燃料だって指定がある。
でも、こいつは違いますよ」
創一はウィンドウを開き、クラフトボタンをタップした。
【クラフトレシピ:運搬車(Car)】
単気筒エンジン(Single Cylinder Engine) x 6
鉄製チェスト(Iron Chest) x 5
鉄板(Iron Plate) x 20
バチバチバチッ! ギュイィィィン……!
基地の広場で、激しい光と金属音が炸裂する。
ナノマシンによる高速アセンブル。
何もない空間に分厚い鉄板とエンジンブロックが出現し、複雑に組み合わさっていく。
ズドォォォォン!!
土煙と共に現れたのは、無骨極まりない「鉄の塊」だった。
流線型などという美的センスは皆無。
リベット打ちされた分厚い装甲板。剥き出しの巨大なタイヤ。
フロントには凶悪なバンパー(というより衝角)が付いており、屋根には機関銃のマウントリングまである。
一言で言えば、世紀末の荒野を走るための「装甲バギー」だ。
「……こいつが俺の新しい足です」
創一は愛おしそうにボンネットを叩いた。
コンコン、と硬い音がする。
「燃料は、石炭でも木材でも、燃えるものなら何でもOK。
最高速度は、未舗装路でも時速100キロ以上。
さらにトランク(インベントリ)の積載量は大型トラック並み。
どうです? 開拓者のための最強のマシンでしょう!」
創一は運転席に飛び乗った。
キーなどない。スタートボタンを押すだけだ。
ドルルルルルッ!!
腹に響くような野太いエンジン音が轟く。
排気管から黒煙が吹き上がる。環境規制など知ったことかと言わんばかりのパワーだ。
「ひゃっほぉぉぉぉ! 試運転だァ!」
創一がアクセルを踏み込むと、車体はロケットのような加速を見せた。
砂利を巻き上げ、ドリフトしながら基地の広場を暴走する。
「うおおお! すげえトルクだ!」
「危ない! 工藤さん、スピード出しすぎです!」
逃げ惑う隊員たち。
創一はハンドルを切り、華麗なスピンターンを決めて、日下部の目の前で急停車した。
キキーッ!
「どうです、日下部さん! この機動力!
これなら遠くの油田までの往復も楽勝ですよ!
なんなら一台、日本に持ち帰って乗り回しましょうか?
東京の渋滞も、これなら強引に進めそうですし!」
創一は満面の笑みで言ったが、日下部の顔は引きつっていた。
「……ダメに決まってるでしょう!」
「えっ?」
「その車……車検がないじゃないですか!」
「車検?」
「ウインカーは? ブレーキランプは? 排ガス規制の証明書は? ナンバープレートは?」
「あるわけないじゃないですか。戦車みたいなもんですし」
日下部は、こめかみを押さえた。
「いいですか、絶対に、絶対に地球側(日本)では乗らないでくださいよ!?
公道を走ったら即アウトです!
道路運送車両法違反、無車検運行、整備不良……一発で免停どころか逮捕ですよ!」
「えー、ケチだなぁ」
「『えー』じゃないですよ!
そんな装甲車みたいな鉄塊で首都高を走られたら、パトカー総出の大捕物になります!
警察のお世話になりますって、本当に!」
日下部の剣幕に、創一はしょんぼりと肩をすくめた。
隣で見ていた鬼塚ゲンが、苦笑しながら助け舟を出す。
「まあ、日下部さんの言う通りだ。
日本の道路は平和すぎて、その『野獣』には狭すぎる。
ここで思う存分、乗り回せばいい」
「……ちぇっ。分かりましたよ。
とりあえずこれは、基地内と採掘場への連絡用にします」
創一はエンジンを切った。
とはいえ、この車両の完成は大きい。
これまでは徒歩での移動に時間を取られていたが、これからはマップの端から端まで高速で移動できる。
「物流」だけでなく、「人流」の革命だ。
その後、司令室に戻った創一たちは、次の研究テーマについての会議を開いた。
テクノロジーカードの生産ラインが安定したため、次々と新しい技術を解禁できる状態にある。
「さて、次の研究はどうしますか?
車両もできたし、次は攻撃力アップか、それとも……」
創一が技術ツリーのホログラムを操作する。
無数のアイコンが並ぶ中、イヴが冷徹な声で提案した。
『マスター。推奨される研究があります。
基地の拡張に伴い、設備の老朽化や、バイターによる散発的な被害が増加しています。
メンテナンス工数を削減するため、『リペアキット(Repair Pack)』の解禁を提案します』
「リペアキット?」
権田隊長が眉をひそめた。
「修理道具か。
工具セットなら我々も持っているが……何が違うんだ?」
『根本的に異なります。
これは対象の構造を解析し、ナノマシンを用いて損傷箇所を瞬時に復元するデバイスです』
創一は「あー、あれか」とポンと手を打った。
ゲーム内でよくあるHPが減った壁やタレットをクリックするだけで直せる便利アイテムだ。
だが現実世界に落とし込むと、その意味合いは凶悪なまでに跳ね上がる。
「えっと、簡単に言うとですね。
どんな機械でも壁でも車でも……『壊れた状態』から『新品の状態』に戻せる道具です」
創一の説明に、日下部が首を傾げた。
「新品に戻す? 部品交換なしでですか?」
「はい。凹んだ鉄板は元通りになり、断線した回路は繋がり、摩耗したギアは埋まります。
実質、あらゆる機械を修理できる超万能道具ですね。
これさえあれば、修理工いらずですよ」
会議室に沈黙が落ちた。
全員がその言葉の意味を、咀嚼しようとしている。
「……待ってください」
日下部が震える声で言った。
「わーお……。チートも良いところだな……」
「耐久度が実質無限ということですか?」
「ええ。壊れた端から直せば、理論上は永遠に使い続けられます」
権田隊長の目が鋭く光った。
「……戦場で使ったら悪夢だな。
撃破されたはずの戦車が、数秒で復活して撃ち返してくるようなものか」
「戦争に使ったら、チートも良いところですね。
まあ俺たちは平和利用……工場のメンテナンスに使うだけですが」
創一はレシピを確認した。
【クラフトレシピ:リペアキット(Repair Pack)】
石(Stone) x 2
鉄板(Iron Plate) x 3
銅板(Copper Plate) x 3
「しかも、これコストが激安なんです。
石と鉄と銅があれば、誰でも作れます」
「……頭が痛い」
日下部が、こめかみを押さえた。
また一つ、世界のバランスを崩しかねない技術が出てきた。
だがこの過酷な異星で生き残るには、この「チート」に頼るしかない。
「量産しましょう。
石の壁の修復作業を、巡回兵の義務にします。
リペアキットを持たせて、少しでもヒビが入っていたら即座に修復させる。
そうすれば、鉄壁の要塞が維持できます」
「了解した。
……しかし君の持っている技術は、いちいち常識を壊していくな」
権田が呆れたように笑った。
創一は肩をすくめた。
「じゃあ次は、リペアキットの研究か……。
イヴ、頼んだぞ」
『了解マスター。研究所へのカード供給ラインを最適化します』
こうしてテラ・ノヴァ基地に、新たな「魔法」が加わった。
鋼鉄の暴れ馬と、無限再生の修理道具。
これらは来るべき大規模な戦闘——油田奪還作戦において、人類側の強力な切り札となるはずだった。
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