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第11話 防衛隊の進駐と砂から生まれる森

 【第二部 国家戦略特区「テラ・ノヴァ」編 開始】


 ゲート開通から一週間後。

 惑星テラ・ノヴァのゲート周辺——かつて工藤創一が、一人でツルハシを振るっていた荒野は、劇的な変貌を遂げていた。


 赤茶色の大地の上に敷設された、強化プラスチック製の簡易舗装道路。

 その周囲には、陸上自衛隊の野外通信所を模した巨大なプレハブ施設群が整然と立ち並び、屋根の上にはパラボラアンテナや監視カメラが設置されている。

 施設の周囲は、高さ三メートルの有刺鉄線付きフェンスで囲まれ、四隅には監視塔が睨みをきかせている。


 『テラ・ノヴァ 第一前線基地(FOB)』


 それが、日本政府が極秘裏に設立した異星攻略の拠点だった。

 フェンスの入り口には、見慣れないロゴマーク——『特務警備保障(株)』という社名の入った看板が掲げられている。

 だが、そこを行き交う「警備員」たちの姿を見れば、それがただの警備会社でないことは一目瞭然だった。

 全員が引き締まった体躯を持ち、眼光は鋭く、手には最新鋭の国産アサルトライフル「20式小銃」が握られている。

 彼らは、防衛省の情報本部や特殊作戦群(SFGp)から引き抜かれた退役自衛官、および現役からの出向組で構成された、実質的な「異星防衛部隊」である。


「……いやはや。たった一週間で、ここまで作るとは、日本の土木建築力も捨てたもんじゃないですね」


 基地の中央にある司令室。

 大型モニターと戦術マップが並ぶその部屋で、工藤創一は淹れたてのコーヒーを啜りながら呟いた。

 彼の身なりは、以前のスウェット姿ではなく、政府から支給された特注の作業服——耐刃・耐熱繊維で織られたダークグレーのフィールドジャケットに変わっていた。

 胸元には『特務開拓官:工藤』のIDカードがぶら下がっている。


「国家の威信がかかっていますからね。予算も資材も、湯水のように投入していますよ」


 苦笑交じりに答えたのは、内閣官房から派遣された駐在員、日下部くさかべだ。

 神経質そうな銀縁メガネをかけたエリート官僚だが、この一週間で顔つきが少し逞しくなっていた。

 彼は政府と創一、そして防衛隊との連絡調整を一手に引き受けている。


「もっとも、これだけ早く展開できたのは、工藤さんがゲートを拡張してくれたおかげです。

 日本側で“ほぼ組み上がった状態”のユニットハウスを大型トレーラーでゲート越しに搬入し、現地で連結しただけですからね。

 野外設営のプロが最短手順で組んだ『仮設基地』ですよ。本格的な恒久施設は、これからです」


 創一は頷いた。

 ゲートのサイズは、イヴによる出力調整で、大型コンテナトレーラーがギリギリ通れるサイズまで拡張されていた。

 これが物流革命の第一歩だった。


「さて、雑談はこれくらいにして、定例会議を始めましょうか」


 日下部が手元のタブレットを操作し、モニターに議題を表示させた。

 円卓には、創一と日下部、そしてもう一人、防衛隊の隊長である権田ごんだが座っている。

 権田は元レンジャー部隊の教官で、岩のような筋肉と歴戦の古傷を持つ男だ。

 その表情は常に険しいが、部下からの信頼は厚い。


「まずは現状の確認です。工藤さん、技術開発テクノロジー・リサーチの進捗は?」

「順調ですよ。基礎テクノロジーカード(Basic Tech Card)で解禁できる研究は、ほぼ終わらせてあります」


 創一はイヴに指示を出し、空中にホログラムの技術ツリーを展開させた。

 その光景に、権田隊長が感嘆の声を漏らす。


「いつ見ても凄まじいな。SF映画の中にいるようだ」

「慣れてくださいよ、隊長。これから、もっと凄いのが出てきますから」


 創一はホログラムの一部を拡大し、赤く点灯しているアイコンを指し示した。


「まず、防衛面での最優先事項。

 『ガンタレット(Gun Turret)』の研究が完了しました」

「ガンタレット……自動機銃か」


 権田が身を乗り出す。


「はい。これは光学センサーと熱源探知機を内蔵した、完全自律型の防衛システムです。

 通常弾薬、または徹甲弾を使用し、接近する敵性生物バイターを自動で捕捉・射撃します。

 反応速度は0.05秒。人間には不可能な超反応で、迎撃が可能です」

「0.05秒……。人間じゃ太刀打ちできんな」

「ええ。しかも24時間、文句も言わず、集中力も切らさずに監視を続けてくれます。

 これを基地の周囲に配置し、弾薬供給ラインを自動化すれば、バイターの襲撃リスクを大幅に減らせます」


 それを聞いた権田の表情が、ふっと和らいだ。


「……ありがたい。

 隊員たちは現在、交代制で24時間の監視任務に就いているが、疲労の色が濃くなっていたところだ。

 夜の闇から、いつ化け物が飛び出してくるか分からない緊張感は、精神を削る。

 機械が代わってくれるなら、部下たちに十分な休息を取らせてやれる」


 権田の言葉には、現場の指揮官としての実直な安堵が滲んでいた。

 創一は小さく頷いた。

 この人は信頼できると直感した。


 一方で日下部の表情は、少し複雑だった。

 彼は口元に手を当て、考え込んでいる。


(……完全自律型の殺戮兵器。反応速度0.05秒。

 もし、このタレットの敵性認識(IFF)が誤作動したら?

 あるいは、工藤さんが『敵』と認定した対象を攻撃するように設定したら?

 この基地の生殺与奪の権限は、実質的に彼が握っているということか……)


 日下部は喉元まで出かかった懸念を飲み込んだ。

 今は創一との信頼関係構築が最優先だ。

 それに、バイターの脅威に対抗するには、このオーバーテクノロジーに頼るしかない。


「……素晴らしい技術ですね。弾薬の補給は、どうしますか?」

「それも自動化します。ベルトコンベアとインサータ(自動装填機)で繋げば、弾切れの心配もありません」


 創一は淡々と続けた。


「次に『石の壁(Stone Wall)』です。

 ただの石垣に見えますが、分子結合を強化した高密度コンクリートに近い強度があります。

 バイターの顎や酸にも耐性があり、ガンタレットの前に設置することで、敵の侵攻を物理的に食い止めます。

 壁で時間稼ぎをして、その間にタレットが蜂の巣にする。これが基本戦術(キルゾーン構築)になります」


「なるほど。古典的だが確実な戦法だ」

「とりあえず、現地の石材を使って量産を開始しています。基地のフェンスの内側に、第二防衛ラインとして構築しましょう」


 防衛の話がまとまったところで、創一は少し声を弾ませて次の議題に移った。


「さて、次は内政……資源の話です。

 日下部さん、これを見てください」


 モニターに表示されたのは、ガラス張りのドーム状の施設の設計図だった。


「これは……植物園ですか?」

「惜しいですね。『温室(Greenhouse)』です」

「温室……野菜でも育てるんですか? 食料自給は重要ですが」

「いいえ、もっと基礎的な資源です。

 この施設は、木材(Wood)を人工的に生成します」


 日下部と権田は顔を見合わせた。

 木材。

 確かに建築や燃料に使うが、わざわざハイテク施設で作るものだろうか?

 この惑星には紫色の木々が、いくらでも生えているのに。


「工藤さん、伐採すればいいのでは?」

「手作業での伐採は非効率ですし、環境破壊になります。

 それに、近くの森を切り尽くしたら、遠くまで取りに行かなきゃいけないでしょう?

 この温室の凄いところは、材料です」


 創一はイヴにレシピを表示させた。


【温室レシピ:木材栽培】


入力: 水(Water) + 砂(Sand) または 水(Water)のみ

出力: 木材(Wood) x 30 / 日(基本レート)

備考: 遺伝子組み換えにより、特定の樹種を指定可能。


「……はい?」


 日下部の目が点になった。

 彼は眼鏡の位置を直し、もう一度画面を凝視した。


「水と……砂? あるいは、水だけで木ができるんですか?」

「ええ。ナノマシンによる高速細胞分裂と、元素変換技術の応用でしょうね。

 種や苗木は不要です。データから植物を『プリント』して、急速成長させるんです」

「水と砂だけで……」


 日下部の顔色がサッと青ざめた。

 彼は経済産業省出身の官僚だ。

 この技術の意味する恐ろしさが、瞬時に理解できてしまった。


「待ってください、工藤さん。

 樹種を指定できるというのは……例えば、最高級の『黒檀コクタン』や『屋久杉』、あるいは建築用の『ヒノキ』も作れるということですか?」

「データさえあれば理論上は可能です。

 この惑星の紫色の木だけでなく、地球の植物のDNAデータを取り込めば、絶滅危惧種の木材だって量産できますよ」


 ガタンッ!

 日下部が椅子を鳴らして立ち上がった。


「ととんでもないテクノロジーですよ、これは!!」


 彼の声が裏返った。


「水と砂……つまり、タダ同然のコストで無限に木材が手に入る!?

 林業が……いや、世界の木材市場が崩壊します!

 輸入木材に頼っている日本の住宅産業、製紙業、バイオマス発電……すべてが根底から覆りますよ!」


「おっと、そこまで深く考えてませんでした」


 創一は苦笑した。

 彼はあくまで「工場の燃料や材料」としてしか木材を見ていなかったが、地球側に持ち込めば「錬金術」になるのだ。


「す凄まじい……。

 CO2吸収源としても期待できますし、砂漠緑化にも転用できるかもしれない。

 いや、まずは建材か……」


 日下部はブツブツと独り言を言いながら、震える手でメモを取っている。

 創一は助け舟を出した。


「まあ、市場への影響は政府の方で上手く調整してください。

 とりあえずサンプルとして、日本側に一基設置してみますか?

 持続可能な木材供給の実証実験、ということで」

「是非! いや、即座にお願いします!

 場所は木場(新木場)の貯木場跡地か、あるいは御料林か……」

「落ち着いてください、日下部さん」


 権田隊長が呆れたように諌める。

 創一は話を戻した。


「温室があれば、電子回路(基板)に必要な樹脂や燃料の安定供給が可能になります。

 これで基礎資源の憂いはなくなりました。

 ……さて、ここからが今後の話です」


 創一の表情が引き締まる。

 モニターの画面が切り替わり、より複雑なアイコンが表示された。


「次は『自動化テクノロジーカード(Automation Tech Card)』の量産体制を整え、上位研究に進みます。

 ここからが本当の『工場』の始まりです。

 組立機を連結し、搬送ベルトを張り巡らせ、鋼鉄(Steel)を精錬し、より高度な電子機器を作っていきます」

「いよいよ本格稼働だな」

「はい。そして……忘れてはいけないのが『医療用キット』の供給です」


 創一が視線を日下部に戻す。

 政府が最も欲しがっているもの。

 それは無限の木材よりも、この万能薬だ。

 だが創一は、慎重に言葉を選んだ。


「現在、サンプルとして渡した数本以外、在庫はゼロです。

 日下部さん、政府内での配布状況は、どうなっていますか?」


「厳重に管理していますよ。

 現在は『戦略物資』として指定され、研究所での成分解析用と、このテラ・ノヴァ基地での緊急医療用エマージェンシーに限定しています。

 政治家や財界からの突き上げは激しいですが、まだ一本たりとも外部には流していません。流せば、収拾がつかなくなりますからね」


 日下部は苦々しい顔で言った。

 「不老不死の薬」の噂は、どこからか漏れているらしい。

 だが今のところは、官邸が必死に堰き止めている状態だ。


「賢明な判断です。

 医療用キットの生産には『バイオマター(Biomatter)』が不可欠です。

 これは今のところ、バイターの死骸から採取するか、あるいは……」


 創一は地図を操作し、基地から数キロ離れた地点にある赤い不気味な領域を拡大表示した。

 そこには有機的な粘膜で覆われた地面と、脈動する巨大な肉塊のような建造物が映っている。


「……『バイターの巣(Nest)』を破壊して、その組織を回収する必要があります」


 権田隊長の目が、再び鋭くなった。


「巣か。

 つまり、向こうから攻めてくるのを待つのではなく、こちらから敵地へ乗り込むということだな?」

「はい。それに、あの巣の地下には貴重なレアメタルや化石燃料が眠っている可能性が高い。

 イヴのスキャンでも、特殊なエネルギー反応が出ています」


 創一は権田と日下部を見渡した。


「防衛隊を派遣して、バイターの巣を襲撃レイドしませんか?

 もちろん私も同行します。

 目的は二つ。

 一つは、バイオマターの大量確保と巣の構造解析。

 もう一つは……『地質調査』です」

「地質調査?」

「はい。基地周辺の資源は見尽くしました。

 工場の規模を拡大するには、もっと広範囲のマップ情報が必要です。

 石油、ウラン、希少金属レアメタル……。

 この星の本当の価値を知るための、最初の遠征です」


 権田がニヤリと笑った。

 その顔には、警備員ではなく軍人としての好戦的な色が浮かんでいた。


「面白い。

 我々もフェンスの中で芋洗いをしているだけでは、鈍ってしまうところだ。

 それに、支給された新兵器——徹甲弾とグレネードランチャーの実戦データも取りたい。

 なにより基地の脅威を事前に排除できるなら、やる価値はある」

「日下部さん、許可は?」

「……異論はありません。ただし条件があります」


 日下部は眼鏡のブリッジを押し上げた。


「工藤さんの安全確保を最優先にすること。貴方は国家の心臓コアそのものです。

 それと……採取したサンプルは、どんな小さな破片でも必ず持ち帰ること。

 いいですね?」


「分かってますよ。俺も死にたくないですから」


 創一は立ち上がり、イヴに指令を送った。


『了解、マスター。

 遠征用車両の手配を開始します。

 また、ガンタレットの試作機を3基、インベントリに格納しました』


 準備は整った。

 守るだけの時間は終わりだ。

 これからは、攻めと拡張の時間とき

 人類の欲望と科学力を載せて、特務開拓官と防衛隊の混成チームが、未踏の荒野へと踏み出そうとしていた。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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