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第11話 バイバイ(その3)

 環士が耳を疑う。

「地球――だと」

 口を開いたのはマリイ。

「“グマイジア”時空の意味を言ってなかったっけ?」

 環士が答える。

「英語としか聞いてない」

 調べたがそんな単語はなかったことを思い出す。

 マリイがぶつぶつとひとりごちる。

「Great Mama is the Earthの略だったんだがな」

 そこへドルド丸が――。

「対してプリンセス・プラージュは太陽の化身なんだマル」

 その言葉にプリンセス・プラージュがぽかんとつぶやく。

「私って太陽の化身、なんだ」

 環士が突っ込む。

「知らなかったのかよ、自分のことなのに」

「し、知らなかった」

 呆れる環士と赤面するプリンセス・プラージュにマリイが補足する。

「恒星あっての惑星だからな。特にシャイニング・バーストは恒星としての存在感を可視化したものだから、くらえば惑星なんて威厳もプライドもコッパミジンさ」

「だから、ママはプリンセス・プラージュから逃げ回ってたんだマル」

「いや、でも」

 環士は釈然としない。

「ママが地球だとして、その目的が“温暖化”ってどうなんだ――」

 封熱筒の解放はまさしく地球温暖化の加速に他ならない。

「――地球が自死行為か?」

 その言葉を聞いたママが鏡面から笑う。

「誰が自死だ、バカ。温暖化して困るのはオマエら人間だけだとわからないのか。それとも人間オマエらが困るようなことは地球アタシも困るとでも思ってんのか。思い上がるな。かつての巨大な生き物や植物だけの静かな世界に戻したかったのに。地球アタシというフィールドの中で食物連鎖みたいな生物同士の関わりだけで繁栄する生き物たちの世界に戻したかったのに。食物連鎖だけで飽き足らず、地球アタシというフィールドを採掘だの汚染だのして食い荒らすようなマネをして繁栄する生物を根絶したかったのに。それをヒト以外の全生物が同意してたのに……ちくしょう」

 その“かつての世界”という言葉に、環士は溶魂沼で泡に包まれていたさまざまな古代生物を思い出す。

 ママが続ける。

「まあいいさ。また、しばらくこの中から様子を見守ってやるさ。いずれ出る機会があれば、その時までに温暖化が完遂してなければ、今度こそ戻してやるさ。緑と生命に満ちた世界へ。本来あるべき自然の姿へ」

 鏡面からの声が聞こえなくなった。

「ママ、さよなら」

 テレインが鼻をくすんと鳴らす。

 そのテレインをマリイが背後から抱きしめる。

「これで私たちの親離れも完了――」

 そして、フィーマを見る。

「――でも、やることも行くとこもないんだよなあ」

「……」

 黙って頷いたフィーマは、自分を見ている環士から目を逸らせるようにグマイジア時空の荒野を見渡す。

風羽子ふーちゃん……海唯子みーちゃん……地依子ちーちゃん」

 そんな“グマイジアの三姉妹”を寂しげに見るプリンセス・プラージュに、ドルド丸が告げる。

「紗登子。お別れだマル」

「え」

「もう逃げる必要はなくなったんだマル。だから、ここで暮らすことにするマル」

 フィーマが環士に背を向ける。

「私たちもな。世話になったな」

 環士が向き直る。

「いや、もうママがいなくなったんだから、好きにすればいいじゃないか、学校へ来ればいいじゃないか、学校生活は悪くなかったって言ってたじゃないか」

 環士は今朝の通学路で風羽子フィーマが“もう学校へは行かない”と言った時の寂しげな表情を見逃してなかった。

 しかし、フィーマは――。

「ママは関係ない」

「だったら、なぜ」

「私たちに相応しい居場所は学校じゃなく、グマイジア時空(ここ)だからだ」

 マリイが笑う。

「確かに環境を変えようとした世界は居心地が悪いわな。ましてや滅ぼそうとした人間たちと一緒にいるのは、さすがに気まずいわ」

 プリンセス・プラージュが返す。

「私は気にしない。そう言う海唯子みーちゃんだって、ドルド丸を返してくれたじゃない。私たちの味方になってくれたじゃない」

 マリイがプリンセス・プラージュを見る。

「ものごとには“適した時期”というものがある。それをやるべきタイミングっていうかさ。適切な時期であれば、すべては向かうべき結論に向けて物事が運ぶ。目的地へ向かう信号機がすべて青になるように。ひとつの抵抗も逆流も迷走も生じることなく。いわゆる“運命”ってやつだな。今回はママが封熱筒を開封する時期じゃなかった。運命はママによる封熱筒の開封を認めなかった」

 マリイの目線がフィーマの背中に向く。

「フィーマが環士を溶魂沼から連れ出し、サトコがグマイジア時空に踏み込んだことでそれを確信した。いや、もしかしたら環士がフィーマを助けるためにママに進言すると言ったことが兆候だったのかもしれない。もし、今が“ママが封熱筒を開封するべき適切な時期”なら、すべてはママの意の通りに運んでいたはずだからな。だから、ドルド丸を再生したのはマリイだが、マリイだけの意思じゃない。“ママによる封熱筒の開封”を拒否する“運命の歯車”として動いただけだよ」

 そして、プリンセス・プラージュが持つ和鏡に目を落とす。

「いつの話かはわからないが、いずれ、その時が――ママが封熱筒を開封すべき適切な時期が来るだろう。その時には、もちろん、運命はそれに味方する。そして“運命の歯車”にすぎないマリイもそれに従う。それだけだよ」

 テレインが、ぐじぐじと鼻声で告げる。

「さよならだねえ。サトコ」

 フィーマが背を向けたまま、学校の雑費庫へつながるロッカーを指差す。

「学校へ帰るのはそのロッカーだ。ふたりが帰ったら封印する。さらばだ」

 そして、マリイとテレインを促す。

「行こう」

 荒野の中をストーンサークルへと歩き出す。

 その背中にマリイが溜息をひとつついて、プリンセス・プラージュと環士を見る。

「フィーマも見送るのがつらいんならそう言えばいいのにな。ま、そういうことで」

 苦笑しながらテレインの手を引いてフィーマに続く。

「ばいばい。サトコ、環士」

 テレインが涙まみれの顔で手を振る。

「じゃ、さよならだマル」

 ドルド丸が言うとプリンセス・プラージュの全身が光を放ち、その姿が宮村紗登子に戻った。

「ドルド丸う……」

 涙目で呼ぶ紗登子から逃げるように、ドルド丸がふわりと紗登子の届かない高さまで浮き上がる。

 そして、少しの間だけ紗登子と環士を見下ろすと、短い手をぱたぱたと左右に振って背を向け、三人を追う。

 ストーンサークルへ向かう三人の女と一体の雪だるまを見送りながら、環士が紗登子にささやく。

「……帰ろう」

「……うん」

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