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第8話 決 戦(その4)

 レッカのドルド丸が生まれて最初に見たものは、自分を覗き込むマリイの顔だった。

「よし、完成。聞こえてるよな。返事してみろ」

「聞こえている……マル」

 声を掛けられ、たどたどしく頷いてみせる。

 そこはさまざまな機械部品が散乱する部屋に置かれた工作台の上だった。

「よしよし。おまえの名は……レッカのドルド丸だ。そして、私がマリイ。こっちが――」

 マリイが目線を向けると同時に声が上がる。

「あたし、テレイン」

「そう。そして、そのとなりにいるのがフィーマだ」

 ドルド丸が三人を見渡すより早く、フィーマが口を開く。

「なんだ、これは。ママから指示されたのは“封熱筒を守るシステム”だったはずだ」

 明らかに不服そうなフィーマに、マリイが涼しい顔で答える。

「だから、これがそのシステムさ。中に封熱筒が入ってて、自身で危険を回避する自立型危機回避システムってとこだ」

 フィーマは険しい目で、テレインは好奇心らんらんの目で、レッカのドルド丸を見る。

 口を開いたのはテレイン。

「でもさーでもさー。これって頭いい?」

 マリイが答える。

「生まれたてだからな。いいも悪いもねえ。頭の中は真っ白な状態だ」

「ふーん。じゃあ、自立型とは言えないよねー。自分で判断して動けないんでしょ」

「そのへんはマリイたちが親代わりとしてだな――」

 マリイの言葉をフィーマが遮る。

「いやいや。私たち三人じゃ、誰もまともなしつけができるとは思えん」

 それにはマリイも同意する。

「それもそーだな。じゃあ、知育ロボでも作るか」

 こうしてドルド丸はマリイが世界中から集めてきた教育ソフトを教材にして“育成”されることになった。


 レッカのドルド丸が興味を持ったのは人間のこどもと同様に様々な動物たちだった。

 多種多様な形状や生態、そして、習性に作り物の目を輝かせるレッカのドルド丸だが、しかし、自身の宿命を知る時は不意にやってきた。

 フィーマが言う。

「レッカのドルド丸。オマエの目的は何度も言い聞かせてきた通り、夏至の日にママが行う開封儀式までママから預かった封熱筒を守ることだ。さまざまなものに関心を持つのは構わないし、私たちが知識の吸収を勧めているのも、封熱筒を守るという目的を果たすために必要な資質を醸成させるためだ。忘れるな」

「それはわかってるマル。でも、ママが封熱筒を開封すると、なにが起きるマル?」

「この世界の生物相がリセットされるんだー」

 にこにこと答えるテレインに、レッカのドルド丸は生まれて初めて“戸惑う”という感情を覚えた。

「“リセットされる”ってことは、今の生き物はいなくなるマル? ゾウもサイもキリンもワニもサルもネコもヒトもいなくなるマル?」

「ああそうだ。アリもバッタもゴキブリもセミもチョウも」とフィーマ。

「トカゲもカメもイヌもクマもペンギンも」とマリイ。

 最後にテレイン。

「だけじゃないよー。トリもサカナもカエルもカタツムリも、みんな、みんな、みーんないなくなって、逆に今はいなくなった昔の生き物たちが復活ふっかーつするんだよー。きひひ」

 楽しそうに笑うテレインの言葉に、レッカのドルド丸は無意識につぶやいた。

「なんか、イヤだマル」

 マリイが聞き返す。

「なんか言ったか?」

「……なんでもないマル」


 レッカのドルド丸がグマイジア時空を脱走したのはその日の夕方だった。

 槌ヶ浦中学校の地下にある雑品庫に開いた“扉”から外の世界に出たドルド丸は、追ってくる三人から逃げながら、かつて、マリイに習った護衛ユニットの存在を反芻する。

 体内に収めているゴルフボールほどの光球――原基コアを吐き出せば、原基はその三十秒後に周囲の要素エレメントを取り込んで構成体を形成する。水の中に浸せば水の、土中に埋めれば土の、植物の葉で包めば植物の化身とも言うべき護衛ユニットを完成させるのだ。

 ドルド丸は中空を泳ぐように逃げながら周囲を見渡す。

 しかし、どこにも取り込めそうな要素は見当たらない。

「いたぞ。あっちだ」

 フィーマの声にヤケクソで原基を吐き出す。

「しまったマル」

 受け止め損ねた原基が廊下を転がる。

 そこへ飛び出してきたのは一匹のネコ。

 ネコは転がる原基を前足で払う。原基は直交する廊下の角へと転がる。

 慌てて原基を追って角を曲がったドルド丸の前で、原基を拾い上げた女生徒――宮村紗登子の身体が発光する。

 原基が太陽と宮村紗登子からプリンセス・プラージュを構成した瞬間だった。

 それ以来、ずっとドルド丸はプリンセス・プラージュに守られ、慕ってきた。ドルド丸にとって紗登子は唯一の友人であり、そして、優しい姉でもあった。

 放課後の部室で、夜の学校で、ドルド丸はプリンセス・プラージュ――宮村紗登子と、常に一緒だったのだ。


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