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第6話 騙しやがって(その3)

 同じ頃、部長連絡会ではゴールデンウイークに行われた地区交流試合の結果と、新入生入部状況の報告が終わったところだった。

 集まっているのは生徒会執行部と各部の主将と部長たちだが、その総数は二十名を超える。

 それだけの数のクラブが存在しているわけだが、生徒数が多く趣味の多様化が認められている都市部ならともかく、田舎の中学校にしては多すぎる数である。

 それゆえに文芸部のように数人しか所属してないところも珍しくはないのだが。

「では、その他。連絡事項のある方はいませんか」

 生徒会長の池月優里が促す。

「ほーい」

 手を挙げて席を立ったのは新聞部の部長である羽裏文美。

 視線が集まる中で手にした紙の束を左右に座る生徒に配分する。

 受け取った生徒は一枚取ってとなりの生徒にまわしていく。

 それは急遽発行された校内新聞の号外版だった。

 トップ記事はもちろん先日の不審者である。

 全員に渡るのを待って文美が口を開く。

「すでに職員室からアナウンスがあったとおり、一昨日、トイレに盗撮カメラが仕掛けられてたよ。その犯人について我が新聞部の独自取材で記事にして号外を作ったよ。全校生徒に危機管理意識を持ってもらうためだよ。各部でも部員たちに注意を促してほしいよ」

 被害に遭った当事者とはいえ、中学校の学校新聞ごときが号外版を出せるほど詳細な記事を書くことができたのは文美の姉が警察官だからに他ならない。

 となりあって座る野球部と男子バレー部の主将キャプテンが、ひそひそと紙面を指差し話し合っている。

 その明らかに緊張感のないニヤケ面に生徒会副会長の女生徒が声を上げる。

「そこふたり。性被害は女だけで自分たちはカンケーねえとか思ってる? ヒトゴトじゃないんだからね?」

「へいへい」

「わーってるよ」

 なおざりな返事に呆れた副会長が吐き捨てる。

「ったく。これだから昭和脳って……。いいかげんに脳味噌アップデートしろよな」

 そこへ聞こえよがしにつぶやいたのはハンドボール部。

「昭和脳だから野球みたいなのやってられんだろ。アップデートしたらイマドキ野球なんか恥ずかしくて切腹もんだぜ。田舎のジジイじゃあるまいし。なあ?」

 となりの少林寺拳法部が“同意、同意”と頷く。

 そんなふたりへ野球部が赤い顔で返す。

「お? “どマイナー”がひがんでやがんのか」

 そこへeスポーツ部が――。

「るせえ、斜陽球技が。今の野球にひがまれるほどの価値なんざねーだろ。いつまで天下のつもりだよ」

 さらに顔面を紅潮させた野球部が引きつった笑いを浮かべる。

「けっ。ガキの遊びがよく言うぜ」

 地区大会六連覇中の水泳部が聞こえよがしにつぶやく。

「そういうとこが昭和脳だってんだよ。オマエらの野球だって他校と比べたら鼻くそレベルのガキの遊びじゃねえか。一回も勝てねえくせに。とっとと滅びろよ。前世紀の遺物が」

「今、言ったの誰だ。あ?」

 声を荒らげて周囲を見渡す野球部に、ある者は目を逸らし、ある者は嘲笑を向ける。

 ここまで野球部が嫌われているのには理由がある。

 野球全盛期の昭和に建てられた設備の名残で、野球部が最も利便性のいい場所に最も広い部室を持っていること。そして、これまた当時の慣例から、いまだに予算が優先的に配分されていること。さらにこれだけ優遇されておきながら、対外試合の連敗記録を絶賛更新中だということ――。

 そんな野球部優遇策の背景には、歴代校長を始めとする教師の多くが“野球ファン”といういかにも田舎らしい理由もあった。

「そういう意味では無駄にヘイトが集まってくる環境に置かれた野球部も被害者ではあるよなあ。そう思わんかね?」

「だよねえ」

 となりの百人一首部から話しかけられた紗登子が頷く。

 そのさらにとなりでは“呪詛オカルト部”と陰で言われる民俗学部がさっきからぼそぼそとつぶやいている。

「くくく。もっと争え、いがみあえ。運動部は全部つぶれろ。共倒れしろ。くくく」

 そんな混沌状態の中で、生徒会長の池月優里は記事の終わり近くにある小見出しを見つめていた。

 そこに書かれているのは――。


「侵入者錯乱! 夜の学校で怪人を見たと謎証言――話しかけてきたのはなんと人語を話すヘビ男!wwwww」


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