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第4話 秘密の関係(その3)

 その頃、活動日誌を書き終えた紗登子は席を立つと、改めて廊下に人影がないことを確かめて扉を閉じる。

 そして、席に着いてささやく。

「いいよ」

 声が返る。

「帰ったマル?」

 紗登子の背後からドルド丸が顔を出した。


 紗登子がドルド丸と出会ったのは一週間前の夕方だった。

 ゴールデンウイークまっただ中で閑散としている学校へ、紗登子は今月末が締め切りの新人賞に応募する原稿の推敲に来ていた。

 家での作業は家族の声やテレビの音で集中できないので、学校へ来るしかしょうがなかったのだ。

 夕方になり、活動記録を職員室の入口に備え付けられたポストへ投函した紗登子は生徒玄関へと足を向ける。

 その途中、直行する廊下の右手からゴルフボールほどの光球が転がり出た。

 なに?――見慣れぬ存在に目を凝らせた直後、今度は左手の角から現れたネコのブチロウが光球へと飛びかかる。

 そして、前足で光球を紗登子の足元へと払う。

 なんだろ?

 西日の中で転がってきた光球を、紗登子はしゃがみ込んで拾い上げる。

 同時に光球の輝きが増し、驚いたブチロウが退散する。

 その明度に耐えきれず目を閉じた紗登子は、十数秒のあとで光が鎮まったのを瞼越しに感じて目を開く。

 最初に気付いたのは自身の前腕を覆うガントレットだった。

「え? え?」

 さらに目線を落とせば制服だったはずの着衣はほのかに発光しているジャケットに変わり、足元はブーツに覆われている。

 戸惑う紗登子だが、さらに戸惑わせるような存在が廊下の角から現れる。

 短い手足をばたつかせて空を泳ぐ雪だるまである。

 雪だるまはぽかんと自分を見ている紗登子にしがみつく。

「助けてほしいマル。追われているんだマル」

「え? え? え? え?」

 突如現れた“浮遊する雪だるま”に助けてほしいと言われても……。

 そこへさらに飛び出してきたのは三人の女。

 長身巨乳で肌を大胆に露出させた女戦士、ヒザ丈キャットスーツにマウントディスプレイの女、そして、ロリワンピの少女。

 不審者だ――とっさにそう思った紗登子と目が合った三人が慌てる。

「マジか」

「早速、発動させやがった」

「あ、かわいい。あたしの次くらいにっ」

 しかし、長身の女戦士がすぐに気を取り直したように紗登子に迫る。

「そいつを渡せ」

「そいつ?」

 そいつ――雪だるまが紗登子の後頭部に回り込みささやく。

「今、機能情報スペック読み取って(ロードして)るマル。ふむふむ。なるほどだマル。ランダムジェネレーターによるネーミングは“プリンセス・プラージュ”。構成要素は太陽。能力は……、武装は……。よし、わかったマル」

 そして、三人組を短い手でびしっと指す。

「プリンセス・プラージュ、あの三人に向かってシャイニング・バーストって叫ぶマルっ」

「え? え?」

「いいから、あっち向いて叫ぶマルっ」

 言われるまま三人に向き直って叫ぶ。

「シャ、シャイニング・バーストっ」

 いつのまにか頭に装着していたティアラ状のヘッドセットから光がほとばしった。

 その光に弾かれた三人は中庭まで飛ばされ、ツツジの植え込みに頭から突っ込む。

 思わぬ威力に三人の無事を心配する紗登子だが、すぐに三人同時にツツジの中から顔を出す。

 ロリワンピの無邪気な声を紗登子の耳が捉える。

「きひひ、いきなり撃ってきたよー。どーするの、どーするの」

 いつのまにかマウントディスプレイを装着しているキャットスーツの女が、そこから漏れる“解析完了”の音声につぶやく。

「解析結果によると名前はプリンセス・プラージュ。構成要素エレメントは――よりによって太陽か。他のパラメーターがすべて“unknown”とはどういうこった?」

 マウントディスプレイを顔面から引っぺがし、女戦士に声を掛ける。

「とりあえず引き上げるしかねえ。出直すぞ」

 しかし、女戦士は同意しない。

「ダメだ。回収しないとママに――」

 ロリワンピが賛同する。

「だよーだよー。絶対怒られるよー」

 本来なら聞こえるはずのない距離と大きさの声が聞こえることに戸惑う紗登子へ、ドルド丸がささやく。

「感覚強化だマル」

 その意味がわからないまま、それでも耳を澄ませる紗登子にふたりを説得するキャットスーツの声が届く。

「しょーがねーだろ。あの光を受けたら近づくことすらできねえ。たとえママだってな」

 ロリワンピが大げさに頬を膨らませる。

「じゃあ撤退しても同じことじゃん、じゃん、じゃん」

「作戦を変えるしかねえ。帰って護衛ユニット(アレ)と対峙できる対応兵器を作ってやる」

 口先だけは悔しげにどこか楽しげなキャットスーツを女戦士が見る。

「それで勝てるんだな?」

 しかし、キャットスーツの答えは。

「初回は無理だ。今の威力から考えて攻撃力がなぜか設計値より高い。とりあえず何回か負けながらデーターを収集してバージョンアップすればいずれは勝てるようになるだろうが」

「そんな悠長なことを」

 女戦士に胸ぐらを掴まれたキャットスーツだが、淡々と答える。

「今は手が出せないんだからどーしよーもない。とにかく一旦退くぞ」

 女戦士の手を振り払ったキャットスーツの女が、ためらうことなくドルド丸と紗登子に背を向ける。

 女戦士が舌打ちをひとつして続く。

 さらに、ロリワンピが場違いな笑顔で――

「じゃあ、まったねー。きひひ」

 ――ドルド丸に手を振ってふたりを追う。

「あの人たちって、誰?」

 夕暮れ時の渡り廊下に、ぽかんと立ち尽くす紗登子だけが残った。

 全身をかすかに発光させた、太陽の化身プリンセス・プラージュと化した紗登子だけが。

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