第三章 14 『護衛』
――えーっと。ショートケーキのお店はこっちだったかな...。
メロール皇女はいつものように王城を抜け出し、イチゴのショートケーキを食べる為に帝都の街中を歩いていた。最近は予言騒ぎで警備が厳しいが、あの程度なら問題ない。メロールの悪知恵を活かせばなんとでもなる。
警備が厳しくなってるとはいえ、あまり長く外出は出来ないからさっさと食べに行って帰ろっと...
メロールは現在軽く髪型を変えている。普段は短髪なので、変装用の長髪ウィッグを被っているだけなのだが、これまで表舞台に出ることが少なかったせいか、この姿で皇女だと指摘されたことは一度もない――周りが気を使って言ってこないだけかもしれないけど...。
そんなこんなで歩いていると、スイーツの名店が見えてきた。今日やってきたのは路地裏にある隠れた名店だ。場所が場所なので並ぶ必要があまりないし、味も最高というだけでなく、店主のお爺さんが優しいので、メロールお気に入りのお店である。
よし、お店が見えてきた。最近帝都が物騒だけどこの路地に悪い人が居るわけないし大丈夫よね。
スイーツの名店に向かうにはこの路地道を数分歩く必要があるが、こんな浅い路地裏で襲ってくる奴なんてたかが知れてる。
そして一歩、また一歩と道なりに進んでいると、突然目の前に男二人組が現れる。見た目的にも如何にもな犯罪者だ。こんな見た目をしているお店の客は見た事ない以上、メロールは最大限警戒する。
「いってぇ! やべぇなぁ...こりゃ骨が折れてっかも… ...」
「おい大丈夫か? おい!そこのチビ! てめぇ俺の仲間に何するつもりだ? 大怪我負わせといてまさか逃げるってんじゃねえだろうな? 」
「.........そもそも私、貴方達にぶつかった覚えも触った覚えもないですわよ」
さっきから後ろを付けてきている不届き者が居る事は気付いていたし、何処かで仕掛けてくるとは思っていたが、まさかお店の近くで接触してくるなんて――お店にいるお爺さんに迷惑がかかっちゃうじゃない!
「はぁぁん!? 俺の仲間が骨折れたっつってんだよ! どう落とし前つけてくれんだ? 」
メロール自体戦闘には自信はある。皇女である以上武術に関する知識や技能はある程度身に付けているので、これまでも襲ってくる相手を素手で何人も相手してきた。
――ただ問題を上げるとしたら...『体力』。私は体力が少なすぎて派手に動けばすぐにバテて動けなくなるから、そこだけは気をつけなきゃ。
「貴方達、言い掛かりは辞めなさい! どうせ冒険者で名をあげられなくて泣く泣く犯罪者になった黒冒険者でしょ? そんな人達にこの私が負けるわけありません! 」
「おうおう言ってくれるじゃねえか嬢ちゃん。だったらその綺麗な青い髪を全部引きちぎってやんよ! 」
その瞬間相手が胸ぐらを掴んでくるが、メロールは即座に右足を蹴り上げ、全力で相手の顎を蹴ってやった――てかさっきから路地裏が全体的に騒がしいのは気の所為? 「夜明けの時だ! 」って変な声は聞こえるし、変な音がうるさくて戦いに集中し辛いんだけど...
「――ッ!? てっめ…! 何すんだ! 」
「その程度の武器で抑えられると思ったら大間違いですわ! 」
相手が手元から折りたたみ式の刃物を取り出すが、その程度の刃物にメロールは怯む気はない。その程度の短剣なら剣術指南の時に見た相手の木刀の方が何倍も怖いからだ。飛んでくる剣をしゃがんで避け、すぐさま相手の急所を蹴ってやった。
「なっ!? こ、こいつつえぇ...」
相手が死に絶えているがどうだっていい。とりあえず相手の身分を証明する何かを回収するために、メロールが相手に近づく。帰りに正体不明の賞金稼ぎ『メル』として、この犯罪者共の情報を騎士団に突き出して帰る。ここまでが私のスイーツ巡りなのだ。
「はぁ…ねぇおじさん達もそろそろ観念しなよ。私ね、実は賞金稼ぎなの。相手が悪かったわね」
「ッ...まさかお前、あの正体不明の賞金稼ぎのメルか? ちくしょう。売れば高く売れそうな結構上物だと思ったのに完全にやられちまった」
「へぇー。おじさん達。結構悪い事してきたんたねえ。蹄の足跡は確かそこそこ大きな人身売買組織でしょ? そこのボスにも貴方達のせいて迷惑かかっちゃうかもねえ」
「てめぇ...このままボスか黙ってると思うな――あっちゃちゃちゃちゃちゃ! 」
その時、そのおじさん達の目の前に一匹の黒猫が目の前の男に向かって火の玉を飛ばしてきた。誰の仕業か分からないが、さっきからこの路地がやけに騒がしいのはこの猫が原因だろう。変な羽が生えてるし猫なのかすら味方か怪しいが、これの飼い主が何かしているに違いない。
『あーもうキルメったら。勝手に何処か行っちゃダメでしょ? 何か見つけたのかもしれないけど、限度ってものがあるじゃない! キルメのおかげで路地裏で怪我してた子供も治療出来たし、被害が出てないからいいけどさぁ...』
『まぁまぁ、その辺は許してあげなよロジェちゃん。キルメの危機感知能力は異常に高いし、怪我しそうな子を見つけたらこうやって勝手に突っ走るのもいつもの事でしょ? 』
路地裏の向こうから歩いて来たのは、先日スイーツを大量に持ち歩いていた女性、ロジェだった。
――まずい! このお姉ちゃんは昨日王城で会ってるし、正体不明の賞金稼ぎの正体が皇女だって事をバラされかねないわ! 殺してでも全力で口止めしなきゃ!
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
あれ...この息切れしてるこの子って王城に似たような子が居なかったっけ? 気のせいかしら。
ロジェは逃げるキルメを追いかけた先に見覚えのある女の子を見てどう話しかけるか悩んでいた。髪型だけは違うが、あまりにも整っている顔のパーツと特徴のある鼻筋に見覚えがある。てか、後ろで悶絶してるおじさん達、誰?
「あれぇ? そこのクソガキがこのおっさん共をやったの!? すごいじゃん! 君って一体何者? 」
「え、えーっと...そ、そう! 私は正体不明の賞金稼ぎ、メルよ! 凄いでしょ? 私の事もっと褒め讃えなさい! 」
――いや、多分だけど君って王城に居た女の子だよね? 王城に居る関係者だとは思うけど、正体不明の賞金稼ぎは流石に無茶だよ。てか君、強すぎない?
「......そこの息切れしてる君さ、もしかして王――」
「おーーーーーい! てかそこのお前達、私が怖くないのか! 私は正体不明の賞金稼ぎ、メル様なんだぞっ! 」
「......? いやだって君、昨日――」
「あーーー! そ、そうだ! そこの二人、 私と一緒にスイーツのお店に来なさい! そこのアホ毛の女性は風の噂でスイーツが好きな事は聞いたので知ってます。これはメル様からの有難いお誘いよ! 感謝しなさい! 」
別に否定しないけど、なんで私が大の甘党なの知ってるんだこの子は。確かに昨日は沢山スイーツ持ってたけどさ、自信満々に断言出来るほどインパクトあったっけ?
「......私は別に構わないけど、そこにいるおじさん達はどうするの? 何があったか知らないけど、ほっといたらそのうち復讐しに来るわよ」
するとメルが深く考え込み、少しすると私に指を指しながらこう言った。
「よし、メル様からの命令だ!お前達は今すぐこのおっさん達を騎士団に突き出してきなさい! 特別に私の手柄はお前達に譲ってやる。普通なら有り得ない事だし有難く思いなさい! 」
え、そんな手柄要らない......てかなんで私にそんなの押し付けてくんの? 要らないし返すから引き取って?
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
倒れていた犯罪者と思われる男達の後始末をあーるんに任せ、ロジェとメルと名乗る少女は近くある小さなお店に入る事にした。
あの男達を連れて行く前にあーるんが「どこまでこいつらにちょっかい出していいの? 」と不穏な事を言っていたので少し心配だが、「騒ぎにならない程度にね? 」と釘を刺したし、彼女に任せておけば余程の事が無い限り何とかなるだろう。
とりあえず席につき、互いにイチゴのショートケーキを注文してからロジェは話しかけることにした。どうやら目の前に座っている少女はキルメの事を相当気に入ったらしい。ずっと抱きしめて撫でている。
「ねえちょっと。あなた確か王城に居た子よね? 何者なのか知らないけど賞金稼ぎなんかして大丈夫なわけ? 」
その質問をすると、目の前でキルメを撫でてる少女は体を震えさせながら、震えた声でこう言った。
「....私は外に出る時はこうやって変装して出てるんです。だからさっきみたいに私の正体をバラそうとしないでよお姉ちゃん! 」
正体...? 私はこの子が王城にいる誰かの子供って事しか知らないよ? みんなそうだけど私がなんでも知ってると思ったら大間違いよ。それにこの事がバレたら怒られるのかもしれないけど、それは君の自業自得じゃん。仮にバレたとしても私は何も悪くない。まぁ面倒だから告げ口はしないであげるけど。
「私は何者なのか知らないけど、怒られるような事してるのはあなたでしょ? この事は黙っといてあげるからこれ以上は余計な事はしない方がいいわ。相手は犯罪者なんだし喧嘩売ったら碌な目に合わないんだから。これは人生の先輩としての忠告よメルちゃん」
――そう、今の私のようにね。別に喧嘩売ったつもりは無いけどなんか相手は怒ってるんだし、私と同じような目に会うわよ。てかあのロリコン達にこのメルって子を引き渡したら許してくれたりしないかなぁ...濃さは違うけど髪の色とかどっちも青色だしそっくりだし――あれ...? この子ってもしかして、ロリコン達の親族? って事はロリコンさんって王城絡みの人なの? そんな話聞いてないんだけど...
そんな事を考えていると、メルが赤い顔をしながらをしながら小さな声量でこう言った。
「ッ―――! 私の名前は、メルじゃない!私はメロールっていうちゃんとした名前があってっ――あ........私がメロールって名前がある事は貴方と私だけの秘密にしてください! 」
メルって一応偽名だったんだ。てかメロールって名前は何処かで聞いた気がするけど......誰だったかしら? 全く思い出せない。
「分かったわ。秘密にしておいてあげる。そもそもあなたもスイーツ大好きなら私と一緒だし。これも何かの縁だも――ってそんな驚いた表情してどうしたの?」
「......あれ? お姉ちゃんは私の名前を聞いても驚いたり密告しようと思わないのですか...? 普通ならみんなすぐに席から立ち上がり、私に頭を下げてくるのですが...」
え、待って。この国の人ってちびっ子に頭を下げる決まりでもあるの? 帝都に来て間も無いから知らなかったけど本当にそうだとしたらやばい国じゃない。こんな決まりを作るなんて皇帝は何を考えてるのよ全く! ――これが本当だったら、今度ロッキーさんに怒られる前に使う反撃用のカウンターにしてやろう。
「私は子供を崇拝するほどちびっ子に興味があるわけじゃないからね。そもそもここに来たのも最近だから帝都の事にあまり詳しくないの。だから決まりとかあんまり分からなくて...なんか色々ごめんね? 」
「子供を崇拝する? ってのはちょっと何言ってるか分かりませんけど...謝らないでください! むしろ私は貴方のことを気に入りました! 」
「.........へ? 」
「私は周りの人にやたら敬われるのは嫌だったし、何よりも普通の人として暮らしたかった...なので、私はずっとロジェお姉ちゃんのような常識がなく、差別しない人を求めていました! ロジェお姉ちゃん...いや、ロジェお姉様! 今日から私専属の護衛になってください! 」
――軽く馬鹿にされた気がしたけど、何故か目の前にいるメロールちゃんに凄く気にいられてしまった。なんで私がこの子の護衛なの? 大人の男二人を戦闘不能に出来るんだから護衛なんて要らないじゃん。
「あのね、護衛っていうのは本来戦えないようなか弱い女の子が自分を守ってもらう為に作る付き人の事なのよ。えーっと...メルで良いんだっけ? 護衛って言葉の意味は分かってるの? 」
「....? はい。私は言葉の意味もちゃんと分かってますよロジェお姉様! 皇族たるもの、知性と武術は必要ですからね。私もまだまだ端くれですが、そう言った知性はそれなりに備えております! 」
ん? 皇族…? って事は王城の誰かの子供なのかな。でも端くれって言ってるし、ロッキーさんが焦るようなやばい人の子供とは思えないし、この子について報告する必要は無いと思うけど、今すぐにでも王城に返してあげた方がいいのかしら。
――というかなんか考えれば考えるほど目の前にいるメロールが『皇女』にしか思えないのは気の所為かな? というか気の所為であって欲しい。うんうん...
「もしかしてですけど...ロジェお姉様は私の護衛になるのが嫌でしたか? 」
「もちろん嫌よ。だってあなたは私が居なくても十分戦えるし、そもそもあなたと私に大した接点なんてないじゃない。てかなんでそんなのが必要になるのよ。そもそもあなたに護衛なんて必要ないし、あなたの護衛なんかやったところでこの私に良い事が一つもないんだから。私は色々と忙しいし、それにメルの護衛だなんて私の立場を弁えて無さすぎよ」
するとメロールちゃんは首を傾げながらなにか深く考えていた。そうだよ。自分が変な事をしてるって自覚しなきゃダメだよ。
こんな接点もなければ、運の悪すぎる危険人物をあなたの護衛に入れたら、それこそ命が危なくなるんだし、そんな事したらあとでロッキーさんにキレられるのも確定だ。私的には是非とも断りたい。
「そうですよね.........あの龍の襲撃を食い止められる程の実力を持つ天才クラスの貴方が、条件もなく私なんかの護衛として下の立場に付くなんて事を受け入れるはずがないですもんね! 余計な提案してしまってごめんなさい」
「.........」
あれぇ?なんか思ってたのと違うぞ? その常識みたいになってる私の実績がまず間違えてんの! あの事件はそもそも9.9割私のせいだし、私にはプライドなんてないんだから、本当に強ければ幾らでもその要求は受け入れるわよ!
――一番言いたいのは、『何でもかんでも護衛にするな』って事なのっ!!!
「あのね、メル。まずその定義が間違えてるの。そもそもあれはたまたまだし、そんなことは一言も言ってないの。私が言いたいのはね――」
「.......貴方の言いたい事はよく分かりました。ではこうしましょう! 今日からロジェお姉様を『専属の遊び人係』に任命します! 」
いや任命します! じゃないよ...というか帝都の人達ってやっぱり話を聞かない人多くない? もっと人の話聞こうよ。
「この条件なら私達は対等な関係ですし、遊び人役と言う名目があれば互いにスイーツ巡りが出来るので、ちゃんと利害も一致しています! そもそも今日みたいに戦うような事なんて滅多に起きないので、基本的に貴方に戦ってもらうつもりはありません。もちろん私も守ってもらいますが、これなら文句ありませんよね! 」
「.......」
な、なんだって…!? つまり、これから甘味巡りをする時にグレイ達を無理やり連れ出さなくてもいいって事よね? しかも私が戦わなくても良いって事は基本この子が前線に出てくれるって事だし、こんな美味しい話は乗るしかないじゃない! どのくらい強いか分からないし、そもそも誰の子供なのか知らないけどそんな美味しい条件を提案されたら、断る理由がないでしょ!
「よし、おっけー! その話乗ったわ! その遊び人係とやらがよく分からないけど乗ってやろうじゃない! 私の護衛頼んだわよメルちゃん! 」
ロジェは目の前に見えている面倒事の可能性を全てを無視し、目の前の少女を自分の護衛に付けることにした。年下の彼女に守ってもらうのはこの上なく恥な事だが、ロジェはそもそも戦えない非力でか弱い女の子なので仕方がない。
「やったぁ....ってあれ? 私が頼んだのは自分の護衛であってロジェお姉様の護衛じゃないですよ? ロジェお姉様の強さに比べたら私なんて塵芥...」
その言葉を聞いて、手元にあった水を啜りながらロジェは落ち着いた声でこう言った。
「私、何かおかしなこと言ったかしら。そもそもこれは互いに護衛し合う協力関係(?)なんだし、間違ってないでしょ? それにあの男を倒せるならあなたは十分強いし自分に自信を持ちなさい」
その言葉を聞いた瞬間目をキラキラ輝かせ、メロールが口を開く。
「は、はい! 分かりました。私がロジェお姉様の事はしっかり守りきってみせます! 」
さっきからもしかしてとは思ってたけど、ちょっと褒めたらすぐデレるしこの子って意外とチョロい? というかチョロすぎて心配になるレベルなんだけど...
「お待たせ。こちらがイチゴのショートケーキだ。今日は嬢ちゃんの友達も来てたのか。ゆっくりしていくといい」
「ありがとうございますお爺様! そういえば近々オークションがあると聞きましたが、お爺様も何か出し物をするのですか? 」
「いやいや、儂は今年何もせんよ。何せもうこの歳じゃ。こんな老いぼれが前に出ても出来る事などないので今年は何も出来ん。ごめんな嬢ちゃん」
どうやらメロールはこのお店の常連のようだ。もしかしたらガーベラさんみたいに隠れた名店を知ってそうだし、意外と甘味巡りか捗るかもしれない。こんなにも良い出会いがあるとか---もしかして今日の私、運が良い?
「そうですか...今年は全体的に料理に力を入れてる印象があったのでお爺様のお店が出るのも楽しみにしていたのですが少し残念です...」
「まぁ安心せぇ。今年は『料理部門の大会』がある。これは初心者でも参加できるし嬢ちゃん達、良ければ出てみないか? この大会はちょっと特殊でな、大会当日までに提出した料理出す事も出来るんだ。審査項目も『料理の見た目』と『味』、そして『料理のテーマに沿えているか』の3点で評価されるし、嬢ちゃんが出るなら儂は応援するぞ」
へぇー...今年はそんな変な大会が行われる予定なのねー。酒場で聞いた時は露店とかあるから料理系のイベントだけはやらないと思ってたし、あーるんから聞いた時は聞き違いかと思ってたけど、その話は本当だったんだ。帰ったらあとで謝っておこう。
お爺さんとの会話を流し聞きしながらイチゴのショートケーキを食べていると、メロールが困ったような顔をしながらこう言った。
「なるほど......それは困りましたね...チラ。私は訳あって出られないし、誰か私の代わりに出てくれる人が居たら良いのですけど...チラッ。誰か代わりに出る人居ないかしら...チラチラッ」
いやそんなチラチラ見られても私は出ないよ? 私は食べる方が専門なだけであって別に料理が出来ないわけじゃないけど嫌だよ? 初心者の私なんかが勝てるわけないし、そんな大会に出るだけで知名度上がるよね。報酬がいくら貴重な魔導書でも目立つ可能性が少しでもあるなら絶対に断るよ?
「...なるほどなるほど。そこのお姉ちゃんがメルの代わりに出るのかい。当日楽しみにしておるぞ。メルの為にも頑張っておくれ」
「.........ふぁい?」
「え! お姉様、私の代わりに大会に出てくれるのですか!? 私、お姉様が出るなら全力で応援しますし、むしろ私の力で無理やりにでも優勝に導いてみせます!!! 」
その言葉を聞いてロジェは口にしていたショートケーキを急いで飲み込み、机を軽く叩きながらその場に立ち上がる。
「!? ちょっっと待った! すみませんお爺さん、私は大会には絶対参加しませんから! そこのちびっ子が勝手な事やってるだけだし、期待しないでください! そもそも私は大会に出れるほど料理が得意じゃないので!!! 」
このちびっ子、さてはわざと嵌めたわね! 例のクソガキ三人組といい、本当に悪知恵のある子供達多すぎるでしょ! 幾ら拒否出来ない雰囲気を出しても相当な条件を出されない限り、私は出ないからなっ!!
「でもお姉様、あの大会は偽名参加出来るので自身の名前を使う必要はありませんよ? あまり知名度を上げたくないとかなら他の人の名前とかで出るのも出来ますが...」
「......いつも通りならどうせ最後に授賞式みたいなのやるからそんな事しても意味ないわよ。私は絶対に表舞台に出たくないの!! 」
その言葉を浴びせるとメロールは深く悩み込む。というか発言からしてほぼ確実に皇女クラスの権力をこの子は持っているのだけど、このまま見て見ぬふりをして大丈夫なのでしょうか...けど、甘味巡りの護衛は是非とも欲しいし、条件が良すぎて正直関係は壊したくない。
「...分かりました。ではこうしましょう! 授賞式には代わりの者を差し出します! これならお姉様は表に出ることはありませんし、大丈夫ですよね? どうですかお姉様! 正直お爺様もお姉様も出ないならイベントなんで見る気すらなかったのですが、お姉様が出るなら私も当日は楽しめるのです! だからお願いします! 断るって言うなら-----この猫ちゃんは絶対に返しません!!! 」
授賞式だけ代わりの者を出すってありなの? そこまで出来るなら私が出る必要なんてないじゃない。さっきから色々とめちゃくちゃ過ぎない? この子。




