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第三章 13 『小国の英雄』

 昨日の事件の事情聴取が終了し、ロジェ達はヒューとリンの2人と共にギルドの端にある小さな雑談スペースで話をしていた。

 話を聞くまで知らなかったのだが、どうやら《彗星の神子》がシャドー達を護送してたらしいので色々と気になる事があったらしい。だが、ロジェは事件について本当に何も知らないので影の鼓動の件は『知らない』の一点張りで貫き通す。


「色々話を聞いているって事を伝えた上で、まだ何も知らないの一点張りするとは...相変わらず本当に面白い人だねロジェさん。前の双竜の砦の時も結局何も話してくれなかったし、これ以上は無駄って知ってるから僕は聞かないよ。そのサンドホーク愛護団体ってのは全く聞いた事がないから、是非とも教えて貰いたいところだけどね! 」


「........別に隠してる訳じゃないから。私は本当に何も知らないのっ!!! 」


 みんな変な情報に踊らされてないで、さっさとサンドホーク愛護団体を称えなさいよ! 私は余計な事して場を混乱させてただけなんだからっ! そもそも相手が私に対して怒ってた理由も分かんないってのッ!


「んでさー。ヒューちゃん達って酒場にいたあのロリコン達の事って知ってるの?氷結熱鳥の討伐で見栄張ってたんだけど」


「もしかしてですけど、《霜刻の凍鳥(フラアイス・フロー)》の事ですか? というかロリコンだなんて言ったら相手が怒りますよ! 相手もその件はかなり気にしてるのですから! 」


「そもそもこれ言い始めたのはロジェちゃんだし、僕達的にはこっちの方が馴染んじゃったから仕方ないよ。ねー! ロジェちゃん! 」


 その言葉を聞いてリンがドン引きしながら口を開いた。


「......さ、さすがロジェさん。実力者相手に堂々とそんな態度を取れるなんて相変わらず無敵の人なのです...」


 名前を気にする? いやいや自分からロリコンって名乗ってたんだし、そんな事気にならないでしょ。英雄ってのは基本的に自分に誇りを持ってる自信家なんだから。


「...何を言ってるか全く分からないけど、その件は否定はしないわ。ところであの人達って一体なんなの? なんか何処かの国を救った英雄だー。とか言ってたけど」


「彼らは国自体は大きくはないけど極雪の国(スノーランド)の英雄だよ。☆7の冒険者で、冒険者の鑑として名高い男なんだ。初心者冒険者が間違った事をしようとしていたら正しい方向に戻るよう説教したり、行き詰まってる事があればアドバイスをくれる人でね。割と帝都でも人望の厚い方だよ」


 なんだ良い人じゃん。最初会った時の印象は最悪だったけど、悪い人じゃないなら私の事も見逃してくれそうなのに...私も永遠の初心者冒険者みたいなもんだし見逃してくれないかな。ダメ?


「でも一つだけ例外があって――それは彼らに対して『敵対行動』を取った時なのです。パーティの名前を馬鹿にするような行動をしたり、喧嘩を売られたら全力で叩き潰す所があって...それで度々問題を起こす事もあって、パーティとしての評価が中々上がっていないらしいのです。何せ、本気で怒らせると自分の地位を捨ててでも襲いかかってくるらしいですからね。まぁ、私は個人的に彼らとの確執があって関わりたくありませんけどね! 」


 ――なるほどなるほど...つまりキルメの捨てたあのポーションのせいで私達が勝手に敵対した事になってるのか。うーーん...困ったなぁ。多分あーるん達がボコボコにした事も相手は気にしてるだろうし、次会ったら本気で殺されそうね。絶対出会さないようにしなきゃ。


「なるほどねぇ。氷結熱鳥(オーバーフロスト)を倒せるのは凄いと思うけど、人格面に問題があると....はぁ。なーーんで私は酒場で楽しんでただけなのにこんな事になっちゃうんだろうなぁ....」


 ロジェが分かりやすく落ち込む。顔を少しあげるとリンが自業自得だと言わんばかりの白い目を向けている気がするが、正直なんでそんな事されてるかは分からない。だって今回に至っては私に非は無いもんっ!


「でも仕組みさえ分かれば氷結熱鳥って雑魚じゃん。あいつらって死ぬギリギリまで温度変化に耐性つけたら誰でも倒せるよ? てかリンちゃん達でも倒せるっしょ? あいつらは攻撃面がやばいだけで、耐久はペラッペラの雑魚じゃん! 」


「まぁ僕達も倒せなくはないけど...流石に少しくらいは苦戦するさ。そもそも近づけないだけでなくあの鳥は無駄に魔法耐性が高い。魔法中心の僕達じゃ倒し切るには結構時間がかかるし、温度変化の耐性だって付けるのは難しい。てかあーるんさん達はその口振りを見る限り何度か遭遇してそうだね」


「うん! 結構前だけどロジェちゃんと居る時に遭遇した事があってもう一人の友達と一緒に倒した事あるよ! 僕も昔は苦戦してたけど、それから死ぬギリギリまで温度変化の耐性つけてからは雑魚にしか思えなくてさー。討伐推奨ランクも☆7だっけ? 災害を起こす鳥にしては☆7って低い評価だし、強くないって証拠でしょ! 」


「なるほど...死ぬギリギリまで温度変化に耐性を付ける...か。その手は考えた事が無かったな。よし、僕も宿舎に帰ったらやってみよう! 」


「!? そんなの、絶対、ダメッ! そんな事したら普通死ぬから! というかそんな事して生き残れるのは耐久馬鹿のガッツぐらいだし、私達は余計な事をすべきじゃないのです! ........ったくもー。ヒューはすぐ人に流されるんだからっ....! たまにはいつも心配する側の身にもなって欲しいのです。毎回無茶をする度に私がどれだけヒューの事を心配してると思ってんのかぁ...」


 ――リンが急に立ち上がって大声出す程に止めるのはビックリしたけど、相変わらず仲良いわねこの2人。何故か分からないけど、この距離感にどこか親近感のようなものを感じるのは気の所為かな? まぁ他人の色恋話なんて口出しする気はないからどうでもいいけどね...。


「とりあえず二人ってさ、あの怒ってる彼らを何とか丸め込む方法って何か知ってないかしら。あの怒りを鎮めて貰わないと気軽に外も歩けないから困ってるのよねぇ...私」


「うーーーん..それは難しい質問だな。彼らは優しい相手には優しいけど、怒った相手には地の底まで追いかけてくるからね。簡単に怒りを鎮めるなら僕ら自慢の可愛い番犬ことリンのように彼らと直接手合わせして、圧倒的な実力差を見せつける事だ。平和的解決は諦めた方がいいね」


「――くっ、 またヒューはそうやって私に変な呼び名を...っ!」


 ならあとできる平和的な解決法は、あの男が気に入りそうなちびっ子を与えてあげる事くらいか...あーるんなら相手に売っても強すぎて勝手に帰ってくるから、気に入ってくれたら楽だったんだけど、どうやらロリコンさん的には刺さらなかったみたいだし、彼女並に強くてかつ刺さりそうな見た目をした子供は居ないかな....。


「はぁ...まぁいいや。話は変わるけどリンさ、魔法杖を沢山扱ってるお店って知らないかしら? 」


 その言葉を聞いて真っ赤な顔をしていたリンが即座にいつもの顔に戻り、予想外の質問をしたせいなのか、どこか抜けてる声を出しながら質問してくる。


「....はぇ? ま、まぁ確かにお店は幾つか知ってますけど...急にどうしたのです? 今までロジェさんって魔法を使う時に杖を使ったりしてなかったですよね」


「いやこの前の依頼で警棒を杖代わりにして使ってたんだけど。意外と使い心地が良くてさぁ。せっかくだし私も欲しくなっちゃったの。別に杖が無くても問題ないんだけど、良いところあったら教えてくれない? 」


「なる...ほ...ど? なんで警棒なんかで魔法が使えるのか理屈は分かりませんが、そういう事ならとっておきのお店をお教えしますよ! 杖の職人さんは強面でぶっきらぼうな人ですが、杖職人としての腕だけは帝都の中でもトップクラスだし、私の手紙があればきっと言う事を聞いてくれるはずなので、このお店に行ってください。少し路地道を通ることになりますけど、ロジェさん達ならきっと黒冒険者(ブラックリスト)に出会しても問題ないのです! 」


 もう面倒事になる匂いしかしないから急に行きたくなくなってきた。けど魔法文字で作ったメモを貰っといていかないのはいくら親しい仲だとしても流石に失礼だし行くしかないかぁ...。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ロジェ達がギルドから出て行った数時間後、冒険者ギルドでは――


「――それは、本当にあいつらが言っていた伝言なんだな? 」


「は、はい...『味が熟成されてないから会う気がない』というのも『皆さんのように怒ってる状態は鳥頭みたいだ』というのも、全て本人の口から確認が取れておりまして...これらは全て本心だと言ってたので間違いないかと」


 ロリイーネ率いる《霜刻の凍鳥》の六人は受付嬢から作られたリストを受け取りに来ていた。そのついでに本人から聞いた『伝言』とやらを聞いていたのだが、どこを切り取っても煽りにしか聞こえない手の込んだ挑発行為のせいで怒りが更に増している。


 ――あいつらはどこまで俺達を馬鹿にしている...ッ。初手の煽り文句である『氷結熱鳥(オーバーフロスト)を倒せる皆さんなら』というのはあいつらが俺達よりも強い自信があるようにしか聞こえないし、鳥料理としての味ってのも、実力も足りてなければ、度胸もない臆病者だと俺達を煽っているようにしか捉えられない内容だ。オマケに一度冷静になるべきだと...? てめぇらのせいで荒れてんだよ俺達はッ!


「あ、あの! 《霜刻の凍鳥》の皆様。一度深呼吸でもしながら落ち着いてください。あの方々は悪気があって言ってる訳ではなかったですし、なんなら相手の方は皆さんに微塵も興味を持ってすらもないように感じましたので...それに、これがもし彼女のやり方ならきっと何か深い意味があ――」


「あぁん!? こんなにも無駄に手の込んだ挑発行為をされてんのに、落ち着いていられる訳ねえだろ!!! ふざけんじゃねえ! 」


「ひぃ...」


「おい落ち着けキース。ここで暴れるのは筋違いだ。受付嬢には罪はない。怒る敵だけは絶対に見誤るな」


「.......すいやせん、ロリイーネさん。少し取り乱しちまいました。受付の姉ちゃんも悪かったな。ちょっと当たる相手を間違えちまった」


「.....い、いえいえ。別にこちらは大丈夫なので!あの方の言っていた追加の伝言に比べたら怖く――あ、ごめんなさい! なんてもありましぇん....」


 その言葉を言い切った相手の顔は明らかに動揺しているし、これじゃあ嘘がバレバレだ。どうやらこの受付嬢は噂以上に嘘が苦手らしい。


「受付の姉ちゃん、まだ何か奴らは言っているのか? 嘘をつかず正直に全て伝えてくれ」


「!? い、いえいえ。なななななにもありませんので――」


「隠さなくていい。全て話してくれ」


 ロリイーネの怒りは限界を迎えつつある。これ以上聞けば理性を失い、受付のカウンターに八つ当たりする可能性もあるが、絶対に手を出さないようにするため深呼吸をして一度自分を落ち着かせる。そんな事をして受付嬢を困らせるのは自分達のする事じゃない。そう自分に言い聞かせた。


「.......では、皆様はこの伝言を聞いても怒らないでくだしゃいね...」


 受付嬢が紙で顔を隠し、紙を持つ手が激しく震えていた。相手の様子を見る限り恐らく相当な事を言われているのだろう。唾を飲み、改めて聞く覚悟を決める。


「えーっとこれは...ピンク色の髪をした方が言っていた事なのですが『氷結熱鳥(オーバーフロスト)程度の討伐実績で誇ってるなら僕達には勝てないから痛い目見る前に絡むのは諦めた方がいいよー。そんな事する暇があるなら実力に見合ってる☆1の魔物でも狩って遊んでろってな! 』....と」


 その言葉を聞き、ロリイーネは静かに怒った。爪が拳に深く刺さった事で軽く血を流しているが、何とか怒っている事を悟られないよう気をつける。


 氷結熱鳥との戦いは地獄だった。あの鳥は災害だ。あの時は極氷の国で何千人もの冒険者が束となり、ようやく1匹の巨大な怪鳥を倒したのだ。


 その鳥は、伝説級の魔物とされている不死鳥のように美しく、真っ白な雪のように透明感のある神々しい四枚の翼を広げて俺達の故郷にやってきた。体表や足は灰色。そして炎のように燃え盛る赤い目と特徴的な嘴――それはまさしく化け物だった。

 真逆とも言える氷と炎のような温度差で攻めてくるだけでなく、相手は知能もかなり高い以上、討伐は一筋縄とはいかない。だからロリイーネ達は熱と氷の耐性を極限まで上げて挑んだし、他の同士もみなそうしたはずだ。


 あの鳥に対して一番の致命傷を与えたのはロリイーネ達なので俺達の実績になっているが、あの時散っていった同士の事を忘れはしない。やられた同士の為にもロリイーネ達は今よりも更に強くならなければならない。

 それにこの討伐実績はロリイーネ達にとって誇りであり、力の源だ。それを何処ぞの馬の骨かも分からないような奴に馬鹿にされて、黙っていられるわけがない。


「...情報提供の件は感謝する。変な事言わせて悪かったな」


「えーっと...《霜刻の凍鳥》の皆様? くれぐれも大きな騒ぎは起こさないよう気をつけてくださいね。相手は実績的にも高レベルの冒険者クラスの実力に値しますし、ここまで挑発されているので多少の喧嘩ならこちらも見逃しますけど、多くの人目につくような場所で戦いを繰り広げたり、相手を殺したりする程の大きな騒ぎは決して起こさないようお願いしますね? そのような事をされれば相手の思う壺かもしれませんので...」


 そこまでの大きな戦いをするつもりはない。俺達がやるのは相手に『自分達の方が強い』と認めさせ、俺達に正面から喧嘩を売った事を後悔させるだけだ。


 ――ロリイーネは奴らに関する情報収集を本格的に開始した。

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