第三章 12 『伝言①』
ロジェは連れられるがままにリンと共に冒険者ギルドに連行されていた。グレイは用があるとか何とかで来てくれなかったので、今回巻き添いに出来たのはあーるんとキルメだけだ。キルメはともかく、あーるんが居るなら何が起きても最悪力づくで逃げ出せるだろう。
冒険者ギルドの階段に登っている途中で連れてきた目的をリンに質問する事にした。
「ねぇリン? なんで私は冒険者ギルドの3階なんかに連れてこられてるわけ? 私もギルドには何度か来た事あるけど3階は流石に初見よ? 」
「いいから来るのです! というかなんで絶対問題が起きないはずのあの酒場で建物を壊す程の騒ぎが起きるのですかッ! 」
――いやあれは向こうから勝手に来たし...私本当に何もやってないよ? ロリコンさんが勝手に絡んできてコテンパンにされただけじゃん。私は悪くない......よね?
「リンちゃん。あれは事故だよ? というかあいつらが勝手に喧嘩売ってきただけだし、僕達は悪くないもん。ねー? ロジェちゃん! 」
「う、うん...そうだねー」
確かに絡んできたのは向こうだけど、先に手を出したのはあーるんなんだからどっちもどっちだよ...。
「はぁ...というかあの人達は温厚で有名なのに、あんな騒ぎになるだなんて信じられません。とにかく、今回呼んだのは事件の事情聴取なのです! この件はギルド内部で結構な騒ぎになってるんですから、ちゃんと話してください!」
――私から話せる事なんて何もないんだけどなぁ...。
そうして会議室らしき部屋に案内され、ドアを開くと中には何故かヒューと、少し幼さを感じさせる可愛らしい受付嬢がいた。どうやらギルド的にはいち早く情報が欲しくてヒュー達に声を掛けていたらしい。
「お、きたきた! やっほー! というかロジェさん久しぶりだね。君達の活躍は僕も聞いてるよ。犯罪組織の完全壊滅なんて凄いじゃないか! 」
「ゲッ....!? この部屋にダメ男の疫病神が居るじゃない。私もう帰ろうかな...」
「ロジェさんは悪い奴じゃないけど、本当に僕の事をなんだと思ってるのか凄く気になるな。でも大丈夫! 僕はリンが戻って来たらすぐ帰る予定だったから。そもそも僕達がここに居るのもついでだし」
「なんだヒューちゃんしか今日は居ないのか。あれからサボる事無く全員が強くなってるか確かめたかったのにぃ。一人だけじゃ物足りないけど、僕と今から組手でもやる? 」
「うん、良いよ。僕で良かったら君の相手になろう! 強い人と模擬が出来るとか何回やっても美味しいからね! 」
なんかあーるんがヒューにすごい事言っている。そんな事したら今度は冒険者ギルドが潰れるので絶対やめてください...
すると受付嬢っぽい服を着た女性の方が指笛を吹いてから口を開いた。どうやら一触即発の空気を察知したらしい。そんな事は絶対やらせないから大丈夫だよ。
「ストップ、ストーーップ! そこまでですよ皆さん! 依頼をこなした人との親睦を深めるのは素晴らしい事ですが、その件は一旦後にしてください。ここで二人に暴れられたらギルドが壊れますし、今回は事情を聞かせて貰いたくロジェさん達をお呼びしましたので...やるならここではなく、街の外でお願いします! 」
「アリナさん...うちのダメリーダーの相手をして貰っててなんだか申し訳ないのです...ほらヒュー! みんなの邪魔になるから外行くよ! ただでさえ新聞屋に影の鼓動の護送の時に聞いた情報を勝手に流したりしてたんだし、これ以上アリナさんや他の人に迷惑をかける訳にはいかないのです! 」
「いやいや...僕はアリナさんと楽しくお話してただけだし、まだ何もやって...ないって! 」
「いいからいいから...! ほら、早く、立って! 足を動かす...!...それじゃあロジェさん、私達はギルドの入口で待ってるので、終わったら色々なお話を聞かせてくださいね! 酒場の件、あとでみっちりと吐いてもらいますから! 」
ママみたいになって無理やりヒューを部屋から引きずり出そうしてるリンが目を輝かせて言ってくるが、私から話せる事なんて一つもないよ。そもそもなんでこんな騒ぎが起きてるのか分かってないからね...。
そうして部屋の中がロジェ達と受付嬢だけになり、案内されるがままに席に着いた。
「では改めまして。私はここで受付嬢をやっているアリナ・ミルティスと申します。以後お見知り置きを。皆さんの活躍は私も聞いてますよ! ...というか龍の襲撃の前からも御二人は冒険者ギルドに何度も顔を出してますよね? 以前から似たような方を何度か見ておりますし、なんならロジェさんの方は先日ここのギルドにある本に熱中してませんでした? その変な猫耳のようなものがついたローブがあまりにも印象的でしたので」
「はい。この場所には定期的に顔出してますし、その変なローブの持ち主は私です。細かい事は買取屋のセージさんにでも聞いて下さると助かります。あの方とは色々約束があって帝都に来ていますので...」
やっぱりこの人、あの時本に熱中してた私を呼びに来てくれた人だったんだ...なんか見覚えあるとは思ってたけど、なるほどね...さっきから気になって仕方なかったから正直スッキリしたわ。
「ゲッ...受付嬢からのアドバイスですが、あの詐欺師と呼ばれてるセージ・ヴェルターとの約束なんてやめた方が良いですよ? 腕だけはあるようですが、絶対後に後悔しますから」
――なるほど...どうやらお兄さんの悪事はここの共通認識なのね...そんな嫌そうな顔をするレベルの悪人ならやっぱりお兄さんはクビにした方が良いのでは? そうされたら私は色々困るけど、多分その方が世界が平和になるよ。
「大丈夫だよ受付のお姉ちゃん! セージちゃんが金額をちょろまかそうとしたら僕が黙ってないから! セージちゃんよりも鑑定の腕は僕のが上だし、昨日もボコボコにしてきたし安心して! 」
「なるほど...あの男以上の鑑定士が居るなら安心しました! とりあえず世間話は置いておいて、そろそろ本題に入りましょうか。皆さんは冒険者登録されていないのであくまでも『一般人』として扱わせて頂きます。冒険者と一般人であれば、我々はか弱い立場にある一般人の方を手厚くサポートしなければならないので、これからする質問には正直にお答えくださいね? 」
さっきからもしかして...とは思ったけど、この人は私と同じく嘘が下手なのだろうか? なにか話す度に表情に感情が出まくっているし、何より私と同類の匂いがする。打ち解ければ仲良くなれそうな気しかしない。
「えーと...昨日『白鯨の霧』で建物を壊す程の騒ぎになったと聞きましたけど、何があったんですか? 」
「あれは私達に悪い点は何もありませんよ。向こうが勝手に絡んで来ただけですから。オマケに『この薬品知ってるか? 』なんて言ってくる始末ですからね。赤い液体の入った物なんて知らないって言ってるのに胸ぐら掴んで持ち上げてくるしで最悪ですよまったく」
嘘である。朝起きてから立て替えたお金を回収するついでにグレイから話を聞いたが、あれはキルメが外に向かって投げた魔物寄せである事は聞いている。あの時は『知らない』で押し通してしまった以上はここで否定すれば辻褄が合わなくなるし、何よりこれ以上の厄介事に巻き込まれたくないロジェは、堂々と嘘をつく選択を取ったのだ。
――というか、なんでキルメが外に捨てた魔物寄せが、そんな都合よく英雄様のパーティに直撃すんのよ! おかしいでしょうが!! どんな確率なのよっ!!!
「なるほどなるほど…ロジェさん達は何も非が無いと。でも《氷嵐》は100%相手が悪いと言ってたのですが――」
「...アリナさん?でしたっけ。その《ひょーらん》ってなんですか? 私、冒険者のルールとかよくわかってなくて...」
「あ、ごめんなさい! ロジェさん達には冒険者の仕組みとか説明していませんでしたね。直ぐにお教えします! 」
いや、私は仕組みとか聞いてないし、そのよく分からない名前について聞いたんだけど――まぁでも知ってて損しないしいっかぁ...
「冒険者は基本☆の数で自分の評価や身分を証明します。階級は1〜10段階まであって、☆の数が多ければ多いほど冒険者管理協会からの信頼度が高い事を意味します。強さ=☆の高さとではないのが肝になっておりまして、階級が高ければ高いほど《氷嵐》のように二つ名を貰いやすくなってるんです! ちなみに先程居た彗星の神子には全員二つ名がありますし、パーティの評価も個人の評価でも☆8なので、彼らはこの帝都の中でも15人程しか居ないとされている貴重な高ランク冒険者の1人なんですよ! 凄いですよねあの方達! 」
ヒュー達...そんな信頼度高かったんだ。リンはパニックになったら被害を考えずに広範囲魔法を使って破壊するような意外と脳筋な子だし、ヒューはかなりの疫病神なのにギルドからの評価間違えてない?そう思うのは私だけなのでしょうか...。
「ふーん...リンちゃん達ってそんな凄いんだ。あのレベルでそこまで行けるならロジェちゃんが冒険者になんかなったら☆10とか行けるんじゃない? 実績も僕達よりも抜けてすごいんだもん! まぁならないと思うけど」
「いやいやいや...私はどの事件でも何もしてないんだからそんな評価を貰うのは無理でしょ。何時もそうだけど私は事件に巻き込まれてるだけなんだから」
冒険者にならなくてもこれだけのやばい事に巻き込まれるのだ。そんなものになってしまったら本当に命を落とす可能性がある。死んでも冒険者だけにはなりたくないわッ!
「うーーん...☆8からは認定試験があるので通るか分かりませんが...おふたりの大きな実績があれば普通に☆8の試験はすんなりと受けられそうですね...どうします? 試しに受けてみますか? 」
冒険者登録すらしてない私達が受けられる試験って何? 仕組みとしては欠陥すぎない?
「冒険者じゃない私達がそんな事したら他の人達に目をつけられるので絶対嫌ですよ。そんな事より、その相手の方ってやっぱり怒ってましたか? こちらとしては穏便に済ませたいんですが...」
「はい...それは厳しいかもしれませんね。出来る限りこちらも穏便に済ませたいんですが、相手も相当怒ってまして......何せ初心者冒険者の前で☆7の実力を持つ《霜刻の凍鳥》が派手に負けたとなれば、パーティ名に泥を塗った事になりますからね。冒険者は自分達の名前を何よりも大切にしていますから、今接触すれば戦いになる可能性が高いかと」
ですよねぇ...あーるん達の不意打ちで派手に負けたとはいえ色んな人の目に映った以上穏便に済ませる事は無理か。もうやだ現実逃避したい...
「はぁ...ならロリコン共は僕達に直接殴り込んでこいっての。あの時は酒場だったから意識飛ばすだけで抑えてやったってのにロジェちゃんの優しさってものが分かってなさすぎるよあいつら! 」
「...え? もしかしてこの事件ってロジェさんが全て指示したことなんですか? さっきの証言が事実であれば正当防衛ではありますけど一体何をお考えで...? 」
なんかドン引きするような視線を向けてくるが私はそんな事してないよ。あーるんが勝手に解釈してるだけだし私は平和主義者だから...
「私はそんな指示してませんよ。この事件は100%相手が悪いけど、私は命だけは取らないでと言っただけです。グレイやあーるんは悪い子じゃ無いけどお酒が入るとやりすぎてしまう所があるので。他の人は何考えてるか知りませんけど、基本的に私は平和主義者の旅人ですから、建物を壊すつもりも、あれほどの騒ぎを起こすつもりもありませんでした」
「なるほど…とりあえず事情は分かりました。また今度こちらから《|霜刻の凍鳥》にも言っておきますが、今は出来るだけ彼らとの接触は控え、事件を起こさないよう気をつけてくださいね。噂ですけど今、不吉な予言が出ていて、それを対策する為に騎士団の皆さんが必死になってるので、全体的に人手が足りないらしいですし、これ以上騒ぎを起こせば総司令官さんが黙っていませんよ」
なるほど予言か...あの占いの婆さんの予言に似た力を持つ人が帝都にいる事も初耳だけど、ロッキーさん達が動いてるなら勝手に解決するでしょ。私がその予言とやらに巻き込まれないよう、是非とも頑張って欲しいところだ。
「分かりました。あの事件に関してはこちらも反省してますし、出来る限り彼らと接触しないと約束しましょう。そもそも私も彼らと接触したいわけじゃありませんし、平和で終わることに越したことはありませんからね」
「くれぐれも騒ぎを起こさないようお願いします。あと最後に一つだけ質問なのですが、ロジェさんから相手に伝えておくべき事とかってありますか?」
伝言かぁ....正直そんなの一つもないけど、このまま何も無いで済ませるのもなんか失礼よねぇ。せっかくアリナさんは私の為に時間を割いてくれてるんだし――ここは一つ、相手を怒らせない程度の簡単な世間話でもしておこう。
「うーん...氷結熱鳥って怒らせると氷の心から灼熱の心に変わるんですよ」
「......ん? 氷結熱鳥? 私が頼んだのは伝言ですけど、急になぜその名前が出るんですか? 」
突然始まった世間話により、メモをしていたアリナの手が止まるが、そんな質問に構うことなくロジェは適当な雑談を続ける。
「あの鳥って目が分かりやすく水色から赤色に変わるので、きっと氷結熱鳥を倒せる凄い力を持つ皆さんなら分かると思うんです! 」
「氷の心に...鳥の目? 私は遭遇した事がないので知らなかったんですけど、そうなんですか? 」
「えぇそうよ。本とかにはあまり書かれてないけど、遭遇した事ある人には分かる話なの! 」
――まぁ...それに遭遇したのも一度だけだし、そもそも私は戦ってないんだけど...
「とにかく何が言いたいかと言うと、今の相手の方々ってこの怒った氷結熱鳥と同じなんですよ! そんな熱い心の状態を維持していたら本来見えるはずのものも正しく見えなくなるので、今の怒ってる皆さんは鳥頭と呼ばれてもおかしくない状態に等しいと言えるんですよ」
「...私にはその熱い心とやらがよく分かりませんけど、これって本当に遭遇した人には分かる話なんですよね? 決して相手を馬鹿にしているとかじゃないんですよね? 」
いやしてないけど...あくまでもこれは例え話だよ? 別に馬鹿にしてるとかじゃなくて、話を分かりやすくする為の例え話だよ?
「そんなつもりはありません。まぁ話を戻しますが、私が一番言いたいのは、一度冷静になって欲しいって事なんです。そんな熱を持った状態の食材を鶏料理にするには魅力を完全には引き出せない....そのままの状態で調理しても味が美味しくありませんから」
「鶏...料......理?つまり相手は臆病者ってこと...?」
正直その場のノリだけで話してるからどう着地するべきか分からない。けど、走り出してしまったら止まることは出来ないので何とかいい感じの着地点をロジェは探し続ける。
「なのでここは一度互いに距離を置きましょう。その方が良い結果になりますし、何よりもまだ料理として互いに味が整ってませんから。なので次は味が熟成した時にお会いしましょう。そう伝えておいてください」
すると、その伝言を聞いていたアリナさんが困惑したような顔をしながらこう言った。
「......もしかしてですけど、ロジェさんって相手の事を怒らせるためにわざとやってるんですか?どこからどう見てもこれは挑発ですよ」
これのどこが挑発になるのよ。私は一度冷静になってもらいたかっただけであって、そんな意味を込めた覚えは無い。思いつきで話してるのはあるけど、怒る要素はどこにあるの? ちゃんと話の途中で私の事も相手よりも下げてるし問題ないじゃん。
「......私は一度も煽ってませんよ。それにこれは全て私の本心ですから。皆さんには一度冷静になる為の時間がいると思って発言したまでです。それに料理って冷たすぎるのも熱すぎるのも調理しにくいですし、今のままだと味が美味しくないのも事実ですからね。というか料理って奥が深いですよねぇ...極めるのは難しい」
「......なるほど。相手の方々は料理にする価値すらない未熟者...と」
なんか今凄い解釈された気がするが聞かなかった事にしよう。というか正直、適当に話した言葉を上手く訂正するのがしんどい...こうなるならちゃんと考えて話すべきだったなぁ。
そしてロジェの言葉を聞いて、あーるんが何か言いたそうにしていたので、話を振ってやった。
「はいはーい! ロジェちゃんがやるなら僕も最後に一つだけ。『ロリコンのおっさん共! その行動を続けてたらうちのロジェちゃんに酷い目に合わされるから、その実績で誇ってるレベルなら1度引いた方がお得だよー! そんな事する暇があるなら実力に見合ってる☆1の魔物でも狩って遊んでろってな! 』って伝えといて! 僕のこれもロジェちゃんと同じく煽りじゃないし、伝言だから! 」
――いやこれはどう見ても煽りでしょ。なぜこの子は余計な事を言うんでしょうか...
「あーるんのは無視しといて大丈夫なので、これは伝えないでくださいね。受付の人ー! 」
そう言い残して二人は案内された部屋を後にする。
帰り際にあーるんが「えー! なんでロジェちゃんは良くて、僕はあいつらを煽っちゃダメなの? ずるいー!!! 」と駄々を捏ねてくるが何の事か分からなかったので、そのままスルーしながらロジェ達はリン達の待つギルドの入口に向かった。
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「あの二人はなんて肝の座った人なんだろう...あそこまで強気な人達初めて見た」
アリナは一人部屋に残され、二人の伝言について考えていた。
――あーるんさんのはともかく、ロジェさんの発言って『煽り』...だよね? 最初の氷結熱鳥を倒せる皆さんって言葉は、敬意を込めてるようで馬鹿にしてるようにしか聞こえない発言だし、他にも色々と煽りがあったけど、彼女はあれを全部本心だと言ってた......つまり考えがあって相手を煽ってたって事...?言葉の真意が私には見えてきません...
この事件が起きてからアリナはギルドの支部長からあの二人についての情報は詳しく聞かされている。なにより、ロジェは騎士団の総司令官が『ロジェ殿は定期的に意味深な発言をするが、何か攻略のヒントに繋がっている可能性が高い』と太鼓判を押すほどの相手だ。今回の発言にも何か事件を解決するためのヒントがあるのかもしれないが、この煽りに隠された本質情報が全く分からない。
――これが、被害者達が皆口を揃えて言っていた敵味方関係なく地獄へと叩き落とす化物の正体なの...?まさかとは思うけど、まだ会って間もないのに私も『道化の過錬』のターゲットにされてるんじゃ...。
ロジェと関わった犯罪者やその場に居合わせた者は皆口を揃えてそう言っているらしい。彼女達との付き合いが一番長い総司令官がそういった話をしているのだから間違いないのだろう。それを乗り越えた者には何かしら恩恵が受けられると噂で聞いたが、それだって信じていいのか正直怪しい。
先程話していたヒュー・グランドは、直接ではないが彼女と同行した依頼で、露骨に自分達の対策されている魔物だらけのダンジョンでそこそこの酷い目に会ったが、その分自分達の反省点を炙り出せたとさっき言っていた。
少し前にここに来ていた《夜炎》の若手トップの二人の魔導師に話を聞いたが、彼らはどう魔法を極めていくか迷っていた所を、彼女の無茶ぶりに巻き込まれ、実際に組織のボスと戦った事で、しっかりと成長の方向性を決められたという証言も上がっている。
――他にも色々とあったが、実際に彼女の絡んだ案件に参加した者からのこのような証言が幾つもある以上、この情報の信憑性は高い。
「となれば私に求めてくるものってなんだろう。受付嬢の私に出来る仕事って...何? 」
何が出来るか考えるが、今のアリナにはこの言葉を相手にそのまま伝える事しか思いつかなかった。この後《霜刻の凍鳥》に頼まれたリストを手渡しする手筈になっているし、これをそのまま伝えても大丈夫なのかな?絶対相手が怒ると思うのだけど...
「とりあえず、このまま伝えるしかないか....」
アリナはそう結論を出しながら、頼まれていた書類作りに取り掛かった。他の作業をしていたら目の前の謎が多い案件でも、見え方が何か変わるかもしれない。そう甘い期待を寄せながら...
『彗星の神子2つ名一覧』
ヒュー→《蒼剣》....普段は冷静だが、時に派手で属性付与による豪快な立ち回りをする事から。
リン→《万術無尽》...万をも超える数の様々な種類の魔法を駆使し、再現出来る範囲に不可能がない事から。
ランス→《閃撃》...光のような速度で数え切れない程の攻撃を掛けられる実力から。
ガッツ→《不退剛拳》...耐久面に優れており、攻撃を受けながら前に進んで攻撃する姿から。




