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第三章 11 『探し人』

 ――ここまで舐め腐った奴を見たのは久しぶりだ。俺達の故郷、『極雪の国(スノーランド)』でもここまで馬鹿にする奴は居なかった。あいつら三人は一体なんなんだ?


 酒場での一件が開けた翌日、《霜刻の凍鳥(フラアイス・フロー)》は冒険者ギルドにいた。彼らがここに来た理由は、昨日の酒場にいた三人について知る為だ。

 冒険者はクランだのパーティだの色々と所属があるが、何をするにしてもまずは冒険者ギルドにてライセンスなど色々と登録しなければ『一人の冒険者』として認めて貰えないからだ。


 奴らがどこに住んでいるとかは教えて貰えないだろうが、パーティ名が分かればそれで特定は可能だ。なんたってロリイーネ達は帝都に住んでいる時期が長いし、横の繋がりがあるから、奴らの力を借りればパーティの特定なんて簡単に出来る。


 冒険者以外の可能性は極めて低いだろう。基本的にそう言った酒場に出入りするなど自殺行為だ。酔った冒険者に絡まれて金を取られたりする事なんてザラにある。だから奴らの情報は絶対ここにある。そう踏んだのでここへ来た。


 そうしてロリイーネ達は冒険者用の窓口に行き、そのカウンターの前で立っている受付嬢に話しかけた。ここで高圧的な態度を取るのは三流のやる事だ。相手を威圧しないよう慎重に言葉を選びつつ話す。幸いにも後ろには人が居ないのでじっくり話が出来るだろう。


「ようこそ、《霜刻の凍鳥》の皆様。私は受付嬢の『アリナ・ミルティス』です。本日はどう言ったご要件でしょうか? 」


「俺達はとある冒険者を探しに来ただけだ。受付嬢のあんたには手荒な真似をする気は無い」


「あー............もしかしてですけど昨日の酒場の一件ですか? あの時は皆さんが大勢の人の前で反撃する事も出来ずに派手にやられたと私達は聞きましたが......その件のクレームでしたら、ここではなく別の窓口を使った方がよろしいか――」


「はぁぁ!? 俺達はそんな事でケチ付けに来た訳じゃねえよ! 大体あれは――ってロリイーネさん?どうしました?」


「下がれキース。ここは俺が話をつける。これ以上俺達の顔に泥を塗る前に一旦引け」


「………分かりやした」


 このアリナと呼ばれる特徴的な大きなリボンをつけた黒髪の受付嬢は、明るくて愛嬌があり、そして中堅までの冒険者なら簡単に返り討ちに出来るほどの強さを兼ね備えた人気No1の受付嬢だ。子供のように光り輝く天使のような笑顔に魅了された者は数多くいると聞く。


 だが、この女には『嘘が下手で、余計な事を言う』という受付嬢として致命的な欠点がある。昨日の酒場の件を知っているなら他の奴らを怒らせる可能性がある以上、ロリイーネ自らが出る方が話が穏便に済むはずだ。


「うちの馬鹿が余計な事を言おうとして悪かったな。俺達は昨日の件でクレームを入れに来たわけじゃない。ここには、既に昨日の酒場の件が届いていると見ても良いんだな? 」


「はい。昨日の騒ぎは酒場の建物を壊してましたし、何より初心者相手に皆さんような実力者が手を出すのは大きな問題なりますからね」


 それは反省している。確かに相手の胸ぐらを掴んだのは俺が先だが、それ以前に魔物寄せの後処理を押し付けたのは奴らだ。だから今回は俺達に非は無いと言っても過言では無い。


「あの時、酒場に居た方からも軽く話を聞きましたが、冒険者は名が大切です。《霜刻の凍鳥》の皆さんは問題を起こさないパーティで有名ですし、相手の行動にも問題があったのは分かりますが、そう言った派手な事は出来るだけ控えてくださいね。何せ、あの災害を呼ぶ怪鳥、氷結熱鳥(オーバーフロスト)を倒せるほどの実力を持つ凄い方々なんですから、昨日のような変な事をすればブランドが一気に落ちますよ」


「あぁ。手違いがあったとはいえ少々やり過ぎてしまった事は反省している。同じ事はもうしないと約束しよう」


 あの酒場で受けた傷はかなり手痛い物だった。手持ちや拠点にあるポーションは使い切る勢いで消費したし、高価なポーションは全て仲間に使ったので、ロリイーネの治療は比較的安価なポーションで治療している。


 この件で出来てしまった傷を高価なものを新しく買って治してもいいが、奴らへの怒りを忘れないように敢えて残した。今回の事件で《霜刻の凍鳥》の名に小さな罅が入ってしまった以上、この傷と罅を治す時は奴らに敗北宣言をさせた上で、あの腐りきった性根を叩き直した時だ。

 それが自分達の受けた傷を直しつつ、一つの冒険者パーティとして奴らの将来を正しい方向に導く事が出来る平和的で安全な解決策だと考えている。間違った方向に進もうとしてる奴らを正しい道へと導くのは、俺達のような実力者のやるべき事だ。


「それで、本日皆さんはどう言ったご要件でこちらに? クレームじゃないならこちらに用は無いと思うのですが.....」


「俺達は昨日の酒場にいたあの女について聞きに来ただけだ。冒険者用の酒場にいた以上は奴らは冒険者登録をしているだろうし、奴らのパーティについて少し教えて貰いたい」


「はい。そういう事でしたら構いませんよ? 本日は私の所に来ている方が少ないですから、すぐにその者が登録されているか照合して参ります。相手のお名前や特徴をお教え頂けますか? 」


「羽の生えた変な黒猫と共にいる女で、長い黒髪で特徴的なアホ毛を持つ奴だ。この名前が合ってるか知らないがロジェという名前らしい。何か知らないか? 」


 その言葉を聞いた瞬間、受付嬢の手にしていた羽根ペンの動きが止まった。それだけでなく顔が真っ青になり、彼女が手にしている羽根ペンの動きが大きく震えているようにも見える。

 その光景を見て何かを察したのかキースが話しかけた。


「受付の姉ちゃん、どうかしたのか? 俺達がなんかやらかしたってんなら俺が謝るが――」


「....ももも、もう一度だけ特徴を聞いても良いですか?私もその人物には、1人だけ心当たりがあるのですが、信じられなくて....」


 もしかしてあいつらはこの受付嬢が怯える程の問題児パーティなのか?それとも俺達よりも凄い実績を持つ相手なのか?

 そんな事を考えながらさっきと全く同じ回答をロリイーネがすると、受付嬢が震えた声を出しながら答えた。


「....そ、その方は冒険者じゃありません。その...非常に言いにくいのですが、特殊な一般人でして――恐らく皆さんは『道化の過錬(かれん)』のターゲットにされてしまっているので、運が無かったとしか言えません。それに彼女は冒険者登録もされていない方なので、こちらから伝えられる事は何も無いかと思われましゅ....」


「特殊な一般人.....だと?それはどういう事だ」


「は、はい。ロリイーネさん達は暫くの間ここから離れていたので知らないかもしれませんが、彼女は何百匹もの龍の襲撃からこの国を守りきり、先日も巨大犯罪組織を2つも潰したばかりの不思議な旅人なんです。戦闘方法や手段については、本人が一切明かそうとしないので不明ですが、どの事件も被害者0人で解決してしまうので、その方の話題で最近の帝都は連日盛り上がっています」


 それだけ聞けばただの実力者じゃねえか。こんなにも実力がある癖に登録しないなんて、勿体ないと思うレベルだが、そもそもなんで冒険者でもない奴らがあの酒場に居たんだ.... ?そんな事しても無駄に注目を浴びるだけだし、もっと上のランクの酒場に行けばいいだろ。


「ですが、その一方で、現場にいた人や彼女に倒された犯罪者の皆様は皆口を揃えて『あいつは敵味方関係なく地獄に叩き落として俺達の苦しむ姿を楽しんでいる悪魔』だと言っていたらしく――それを発信した新聞屋がインパクトを残す為に彼女の課すそれを『道化の過錬』と表現しまして、彼女の無茶難題の所業をそれと見立てて恐れている人も多いと聞きます。何せ、表面上では何も考えてないように見えるけど、彼女の脳内では相手に限界ギリギリのめちゃくちゃな課題を与えて、相手の苦しむ様を常に想像しているらしいので」


 ――なんだと...? 至近距離で見たが、奴は限界ギリギリの苦行を強いるような策士には見えなかったぞ。それに、あれは絶対に何も考えていないアホ面だ! ありえない!


「はぁ!? ちょっと待て受付の姉ちゃん。そんな訳ねえだろ! あの女がそんな事を考えてるなんてぜってぇに有り得ねえ! きっと人違いだ! 」


「ですが、この国でロジェと言ったらその方しか思い当たる人が居なくて...この世界では三文字だけで構成されてる人って言うのは中々居ませんし、こちらで探してもヒットしないかもしれません。一応似たような名前の人をピックアップする事は出来ますがどうしましょうか? 」


「あの女には少し言いたい事がある。今はどんな情報でも集めたい」


 相手の情報とは勝つ為に必要なピースだ。叩き潰す前に相手が何をしてくるかなどの情報が無ければ対策の施しようがない。そんな実績があるのに初心者向けの酒場にいるのは驚いたが、そこまで強いのならばロリイーネとて本気を出す必要があるだろう。


 ――あの三人は確実に強さの保証されている強者である事は分かった。そこまで強いなら俺達に喧嘩を売った事にも納得出来るし、手合わせする相手としてはかなりの上物だ。とりあえず情報を集め、必ずこの手でケリをつけてやる。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「この前頼んでた私の魔導書がいつの間にか届いてるじゃない! ちゃんと指定通りの物が届くか心配だったけど見た感じ完璧ね! 」


「僕の頼んでた手入れ用の道具も全部あるし、最高じゃん! これってグレイちゃんがここまで運んでくれたんでしょ? ホントありがとー! 」


「お前らの要望が多すぎなんだよ....魔導書と手入れ道具を運ぶだけでも何時間かかったと思ってんだ。何百冊と抱えて転送陣まで何往復もしたこっちの身にもなれよ」


 ロジェ達は、転送陣を経由して届いていた物がちゃんとあるのか確認していた。この前サウジストに向かう前、欲しい物リストをメモ用紙に書いて送っていたのだが、『グレイが来るまで無理』と返事が帰ってきていたのだ。だから運ばれる物にあまり期待していなかったが、どうやらグレイが要望以上の数を完璧に持ってきてくれたらしい。


「あれ....? 私がこっそり隠してたはずの『魔女の道』って魔導書まで持ってきてるじゃない。よく見つけたわね。....まさかとは思うけど、これを見つける為に私の部屋の中をぐちゃぐちゃにしたとかじゃないよね? 」


「お前は昔から嘘も物も隠すのも下手だからな。その魔導書がある事も、本の隠し場所も、全部バレバレなんだよ....というか中身は見てないがその魔導書はなんなんだ? 見た目からして他のよりも明らかに年季が入ってそうだし、なんか理由があるんだろ? 」


「これはね、今はもうこの世に居ない私の家族から受け継いだ貴重な魔導書だよ。中身は今の私でも使えないくらいには難しい魔法ばかり載ってる魔導書なの。でもね、今よりも魔女としての実力を上げて、ここに載ってある魔法がちゃんと使いこなせたら、きっと私のお母さんやお父さんの意志を継げると思うんだぁ...! 」


 ロジェがこの魔導書に触れると、過去に存在した世界の記憶が少しだけ流れこんでくる不思議な魔導書だ。どうやら私だけにはそういった特別な魔導書としての効果があるらしい。だからこそ、これを親が残してくれた形見だと思ってロジェはずっと守り続けている。


「へぇー....ロジェちゃんったらやたらその魔導書だけ大切にしてるなーって思ってたけど、それってそんなすっごい魔導書だったんだ。僕知らなかったよ」


「こいつと長い事同居してるがそれに関しては俺も初耳だ。というかそんな話聞いた事もなかったぞ。すげぇんだなその魔導書」


「うん! だって今までこれについて話した事無かったからね。それにこれは特別な魔導書だから多分私以外の人が読んでも効果は無いけど、これも持ってきてくれて本当に助かったのよ! ありがとね、グレイ! 」


 笑顔を浮かべながらグレイ達を見るが、2人とも何故か嬉しそうだった。昨日の酒場の件で相手が逆恨みして襲って来ない事を願いながら、『魔女の道』という魔導書を胸に引き寄せて抱きしめた。

 暫くの間ロジェは、彫刻のようにその場で数十秒ほど固まっていたが、少しすると突然叫びながらその場から立ち上がり、ロジェは左手を空に掲げた。


「うぉ......。急に叫ぶからびっくりしたぁ。急に叫んでどうしたの?ロジェちゃん」


「な、なんでもないわ。それはそれとしてグレイ! 早速沢山の魔導書が届いたんだし、私の面白い魔法でも見ていきなさい! これだけの魔導書が手元にあるし、今日こそは失敗しないわ! 」


 その言葉を浮かべた瞬間、グレイの顔が凄く嫌そうな顔に変わる。グレイがここまで露骨に嫌がる理由なんて大体分かる。


「.....先に言っとくが、俺は絶対嫌だぞ。お前の使う魔法はどれも癖が強いし、結構な確率で俺まで巻き込まれる事になるんだよ! てか魔法は俺の近くで使うんじゃなくて庭に置いてる魔法生物相手に実験しろ! 人を巻き込むんじゃねえ! 」


「はあぁぁ!? 私はそんな周りに被害を出す魔法ばかり使うわけないでしょ! 確かに慣れない魔法使うとグレイにも影響出ちゃうかもしれないけど、私だってちゃんと怪我するような危険なものは使わないように配慮してるだもん! それに、私はグレイにちゃんと魔法が使える所を見せつけたいのっ!!! 」


「ついにはっきり言ったねロジェちゃん...」


 そう、この男は巻き込まれる危険性を考えて魔法の試し打ちの同行を毎回断ってくるのだ。ロジェは自分の一番の長所である『魔法』を見せて褒めてもらいたいだけなのにっ!!!


 そんなこんなでいつも通り言い合いしていると、リビングに置いてあった連絡石が反応する。この連絡石はロッキーさんが前に罰ゲームの用意が出来たら呼び出す為に渡してくれた物なのだが、恐らくその件で呼び出しを受けているわけではないだろう。というか何を言われるかは何となく分かっている。


『――おいロジェ殿。酒場でのあの騒ぎはなんだ。あと請求書を勝手にこちらに飛ばしてくるな! 貴様は私の事を一体なんだと思っておるのだッ!! 』


「えーーっと...友達的な親しい関係にある知り合い...かなぁ。あはは....」


『.........』


「とりあえず、ごめんなさいロッキーさん。請求先を私達の家にすると今は色々と問題があるので、一時的に立て替えて欲しくて....お金は後日ちゃんと持っていくので許してくれませんか? 」


『........!? そういう問題ではないし、あれだけ問題を起こすなと言っただろ! こっちは別件で死ぬほど忙しいというのに、酒場で余計な事をするなッ!! 』


 声だけで分かる。これ結構ロッキーさん怒ってるな。なんか大変そうだし通じる気がしないけど、再び賄賂(スイーツ)作戦を実行するしかないかもしれないわね。


『.......とにかく、もうこれ以上妙な騒ぎは起こすなよッ! 絶対、絶対だ! 』


 そう言ってロッキーさんが怒りながら通信を切ってきた。相手が忙しい事に救われたが、次会った時殺されるかもしれない。やだなぁ...。


「何とか命は助かったけど次会った時が怖いなぁ。賄賂作戦も通じる気しないし、どうしようかな」


「大丈夫大丈夫! 最悪グレイちゃんが変な薬品で相手の事脅すし、殺されそうになったら僕がおっさんの息の根止めるから! 」


「いや絶対ダメだから。それだけは死んでもやっちゃダメよ?」


 仮にもあの人はめちゃくちゃ偉い人なんだから犯罪者になるじゃない....それをやった後はどうやってこの帝都から逃げ切るって言うのよッ!!!


 そんな事を考えていると、今度は家の縁側からリンが急いで駆け込んできた。顔も深刻そうな顔してるし、彼女は意外に礼儀正しいので、何も言わずに他人の家の庭まで駆け込んでくるはずが無い。だから外で相当な事があったのだろう。


 昨日の件があって話すのは少し気まずいが、消した記憶について悟られる訳にもいかないので、出来る限り自然な声で話しかける。


「あれ? リンじゃない。どうしたの? そんな血相変えて飛んでくるなんて珍しいわね」


「リンちゃん、昨日はありがとね! あの酒場最高だったよ! それでなんの用? 」


「はぁ、はぁ...。その件は後で聞きます。とりあえずロジェさん、今すぐ私と一緒に冒険者ギルドまで来てください! というか来てもらわないと困るので、これは強制なのです! さぁ行きますよ! 」


 ――――え、やだ。絶対行きたくない....。

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