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第三章 10 『酒場④』

 冒険者は『自分の名』を何よりも大切にしているとリンから聞いた事がある。自分の名前を良い意味で広める事が出来れば、色々な人から依頼を受けやすくなるだとか、難易度の高いダンジョンへの攻略を許可されやすくなるだとか、冒険者なりに色々とあるらしい。


 だから冒険者が怒って殴りこんでくるような理由は大体限られている。例えば低レベルの初心者冒険者にある事ない事を広められて高レベルの冒険者の名を汚されたとか、詐欺まがいな事をされて順当に怒ったとかだろう。


 ――そのどちらもした覚えがないのに、英雄様のパーティは何故私に怒っているのでしょうか?


「......お前、この俺を挑発しているのか? 俺はお前のところの猫なんぞに興味はない。それに初対面の相手にそういう舐めた態度を取るのは良くないぞ。冒険者なら尚更な」


 冒険者....? いや違うけどこの人達何言ってるの?私はただ猫好きの冒険者なのかなーって思ったから、そう発言しただけなんだけど。


「何の話ですか?私は挑発などしていませんし、勘違いしないでください! 私は弱者だから立場を弁えてますし、あなた達のような人と敵対なんてするつもりはありませんので! 」


 そもそも私は挑発なんて1度もした覚えはないし、敵対していないのも本当だ。あなたも猫が好きなら互いに仲良くしよ?何に怒ってるか知らないけど平和に行こうよ。世界はラブ&ピースが1番だよ。


「.........まぁいい。俺達はお前らと無駄話をしに来たわけじゃない。1つだけ聞きたい事がある。お前達はこの薬品について知っているか? 俺達はこれを持ってる奴に用があるんだ。先日この近くに街道に投棄されていた薬品を拾ったんだが、何か知っているなら教えて貰おうか」


 そう言って目の前の男は袋に入れてある壊れた容器を取り出してロジェに見せてきた。どこかでこの容器と赤い液体と似たようなものを見た気がするんだけど、どこで見たっけな...。


「うーん...そもそもこの薬品ってなんですか? なんか少し赤色の液体が残ってるし少し興味深いですね...。というか猫用のポーションだとしても少し匂いがキツすぎます。こんなのを使えば猫は怯えて逃げてしまいますよ」


 キルメはポーションの類が嫌いなわけではないが、これほどのキツい匂いを持つ薬品なんて嗅いだらほぼ確実に気絶する代物だ。猫は基本人間の何倍も優れた嗅覚を持つのだから人がきついと感じる匂いに耐えられるわけが無い。


 そんな事を考えていると、後ろにいた武器を大量に備えている男が口を開いた。


「話を遮ってしまって申し訳ないですロリイーネさん。おいお前ら、俺達の事を一体なんだと思っているんだ。まさかとは思うが帝都の中でもかなり有名な《霜刻の凍鳥(フラアイス・フロー)》を知らないって言うんじゃねえだろうな!」


 いやそんなの知らないよ。だって私は永遠の新入りみたいな者だし、パーティ名?っぽい事言われただけで分かるわけ無いじゃん。私が冒険者で知ってるのはリンの所属する彗星の神子と、この前の依頼に巻き込んだセレーナやベージュ辺りだけなんだから。


「ごめんなさい。私はまだ新入りなのでそう言った事に疎くて...良ければですがあなた達の事を教えて下さりませんか? 」


 こういう時は教えを乞うのだから自分の立ち位置を下げるべきだ。余談だが常識ならこの三人の中で誰よりも弁えている自信がロジェにはある。余計な事を言わなければきっと喧嘩になったりする事はないだろう。


 というかグレイはなんかウキウキで相手を観察してるし、あーるんは隣に座ってるキルメとじゃれてるんだけど助けてくれない? 多分これは君達のお客だよ。


「......なら仕方ねぇ。新入りにも俺達の事を教えてやるよ! 俺達は《霜刻の凍鳥》。そしてここに座っている男こそが極雪の国(スノーランド)と呼ばれる場所で氷結熱鳥(オーバーフロスト)と呼ばれる災害を起こす怪鳥を倒し、《氷嵐》の2つ名を授かった氷のように冷たいクールな英雄、ロリイーネ・ダイスキルアさんだ! 周りの冒険者は知ってると思うが、その目に俺達の姿を焼き付けておけ! 」


 なんだって!? あの氷結熱鳥(オーバーフロスト)を倒すなんて凄い.....。昔に1度だけ遭遇した事があるけど、あれは燃え尽きる熱と凍りつく冷気を同時に発生させて狙った街を自分達の住処に作り替える災害を起こす怪鳥だ。

 その鳥の近くにいるだけで体が焼けた後にすぐさま体の内部が凍りつくので、異常な温度差によって耐性がない奴は確実に死ぬ。そのせいでグレイやあーるん達だって死にかけたレベルの強敵を倒すとは凄いじゃん....まぁ今の2人なら苦戦せずに余裕で倒すから、個人的にはインパクトはないんだけど。


 ところでこのロリ...ロリ......ロリコンさん?の言ってる《ひょーらん》ってなに?


 そんな事を考えているとグレイ達の目の色が少しだけ変わった。恐らく興味のある部類の者と判断したのだ。アルコール補正もあるので何をするか全く予想が出来ない。


 するとあーるんとグレイが顔を近付けて話しかけてくる。


「ねーねーロジェちゃん。こいつらって僕達の玩具にしていいの?氷結熱鳥程度の討伐を誇ってるなんて痛いと思わない? 確かに昔は僕達も苦戦したけどさぁ、今ならあんな奴ら余裕で倒せるよ! というかあれは気候変動で攻めてくるから強いように見えるだけで本体は脆いから雑魚だし、いくら僕達よりも寿命が短いとはいってもその程度で見栄を張るとかだらけすぎだよねー! もっと鍛え直せってのッ! 」


「ほんとそれな。それにあの青髪の男ってさ、良い感じの素材になりだし、あいつで最高のネコネコちゃん作れたりしそうだから交渉出来ねえかな。素材になってくれねえか? ってな! 」


 ――一体この子達は何を言っているのでしょうか?確かに相手は一般人じゃないけど冒険者も手を出しちゃいけないリストの1つだしダメだよ。そもそもロッキーさんに『騒ぎを起こすな』って言われてるし、相手がそんな馬鹿な交渉に乗るわけないんだから。


「今やるのは絶対ダメだからね? ロッキーさんにも騒ぎを起こすなって言われてるんだからそんな事したら大事件になるじゃない。特にグレイ、なんでもかんでも素材にするのは禁止よ禁止! 英雄様に手を出したりなんてしたら騒ぎになるんだから」


「えー! こういう奴らは物理で分からせるのが1番楽しいのにぃ。またロジェちゃんだけ独り占めするつもりでしょ。それはずるいよ! グレイちゃんもそう思うでしょ?」


 騒ぎそうになったあーるんの顔の前にグレイが右手を前に出し、変な結論を出してくる。


「まぁ待てあーるん。こいつはこう言ってんだ。『今は』まだ時期が来てないから、こいつらに手を出すのはダメだってな。とりあえずその時期とやらが来るまでは様子見ようぜ」


「........!! あーなるほどぉ。そういう事ね! いつものアレかぁ...うんうん、分かったよ! ロジェちゃんが正式な許可を出すまで僕、大人しくしてます! 『今は』ダメだもんね?」


「いや、私はそんな事は一度も言ってないけど...グレイまで何言ってんのよ。酔ってるせいで頭おかしくなった? 」


 グレイはあーるんよりも私の言葉を悪い方向に解釈する事がある。別に深い意味が無い適当な発言でもこうやって違う解釈をしてしまうので少し手を焼いていたりするが、悪い事しなければロジェも文句を言うつもりは無い。


「大丈夫大丈夫。俺はお前の事を1番分かってるし、言葉の真意も理解してっからこっちの事は気にすんな! 」


 ――絶対分かってないでしょグレイ...。まぁ大人しくしといてくれるなら何でもいいけどさぁ。


 とりあえずこのまま黙ってるのは失礼極まりかねないので、ロジェは口を開いた。


「なるほど、氷結熱鳥ですか...。それは凄いですね! 実績としては素晴らしい物なので恐縮です! ロリコンさん達は相当強いのですね! 」


 実際私が氷結熱鳥と戦っても勝てる訳が無いし、ニコニコしながらその怪鳥を倒すグレイ達がおかしいだけであって、これは自慢する実績としては十分なのだ。その実績は一流の冒険者と言っても過言ではない。

 何故か近くに座っているグレイ達は顔を隠してくすくす笑っているが、まぁ平穏な終わりを迎えてくれるでしょ。今回こそは何も地雷を踏んでいないはずだ。


「........聞き違えか?おいそこのアホ毛の女、本当の名前を分かっていてそれを言ってるなら流石の俺も怒るが、どういうつもりだ」


 一体何の話だろう.....。今回は私何も言ってないよ?だって自分からロリコンなんちゃらって名乗ってたじゃん。確かに私は長い名前を覚えたりするのが苦手だけど、今回こそはしっかり覚えてるわ! こんな特徴的な名前、間違えているわけないもんっ!!!


「私、何か変な事言ってますか? そもそも私とあなたにはの間には特に接点はないし、私の愛猫の件もこれ以上の収穫もないと思うので接触を続けるのは無駄ですよ。なのでお引き取り願います。ロリコンさん」


 一応念の為壊れたポーションを見るが、やっぱり何も思い出せなかった。そもそも思い出すにしても残っている液体の量も全部集めて1mlになるかならないかの量しかない。こんなので思い出せって言う方が無理だから!!


「........色々と言いたい事はあるが、今はこっちが先だ。お前らは本当にこの薬品について知らないんだな? 」


 何故だろう......相手が今にでも殺しそうな目で私の事を見てきている。もしかしてだけどこの人、私みたいな容姿端麗な大人な女性じゃなくて、子供みたいに見えるあーるんと話してないから不機嫌になっているとかなのだろうか? 確かにあの子の身長は小さいし、性格的にも子供っぽい可愛さを兼ね備えてる子だけど、いくらロリコンでもこの子だけはやめた方が良いと思うよ。


 ――誰よりも手が出るのが早いし、私が止めなきゃ子供みたいに目に入った不快なもの全てに手を出し始めるからね…。まぁ死にたいって言うなら止めない。英雄様ならきっと強いしなんとかなるでしょ多分。


「はい。というか先程から知らないと何回も言ってますよね? とりあえず今日の所はこの子を貸してあげるので機嫌を直してください。私よりもこの子達の方が薬品には詳しいですから! 」


「.........へ? 」


「はぁ!? おい待てよロジェ! 先行なら俺に行かせろ! こいつに行かせたら肉1つ残らなくなるし、せっかくの高級素材が無駄になるだろうが! 」


 ロジェはジョッキ片手にキルメとじゃれあってるあーるんを貸してあげることにした。そんなグレイが必死に止めなくとも、あーるんとてそんな息の根止めるような真似はしないわよ。天真爛漫だけどこの子も線引きくらい分かってるんだから。


「もー! ダメだよグレイちゃん。僕が指名受けたんだからこれは僕の玩具っ! 大丈夫、まだ時期じゃないから全力でやらないし、良い感じに分からせてくるから安心して! 」


 ――何故だろう。安心よりも心配しかない...もしかしてルート選択間違えたかな? グレイを渡すべきだったかしら。


 最初私が彼女を推薦した時はキルメを抱えてぽかーんとしていたが、何かを察したのか即座にキルメを私に預けて目を輝かせながらあーるんが相手に絡みに行く。


「にしししししぃ。おいロリコンのおっさん、僕と酒飲もぉーーー! 僕が酌をやってあげるからさぁ」


「.........ガキは帰れ。俺はとにかくガキが嫌いだし、そうくっつかれても不快なだけだ。というか何の真似だ!おいそこのアホ毛の女、俺の事をどこまで舐め腐ってやがる。パーティ名を名乗れ!その腐った性根を俺達が更生させてやるッ"! 」


 その発言と共に相手が私の胸ぐらを掴んで持ち上げてくる。相手の顔は殺意を向けてきているのでとても怖いが、今のロジェには頭のおかしいクレイジーモンスターが2人もいるので、ボコボコにされる気がしなかった。


 というかロリコンなのに子供が嫌いだとは珍しい。それってもはやロリコンじゃないし...。


――いや待てよ。否定するまでに時間がかかっていたわよね。もしかしてあーるんの胸でも見て判断してたのかな?気のせいかもしれないけどそんな気がする。相当貧相じゃなきゃロリだと認めない主義の人なのかな?


 すると、片腕で軽く持ち上げられているロジェを見て全く笑いを堪えられていないあーるんが相手を落ち着かせようと話しかけてくる。


「まーまー。おっさんも落ち着けってぇ!ロジェちゃんは悪い子じゃないし、この子は僕達より強いんだから、ここでちょっかい出したら痛い目見るよ?そんな事になる前にとりあえず僕と飲み比べやろ?僕はぜってーにぃ――」


 すると、武器を大量に備えた男があーるんの肩を掴んで話しかける。誰よりも話を中断される事が嫌いなあーるんにそんな事したらどうなるかなんて大体は想像がつく。


「おいそこのチビ、俺達のロリイーネさんにダル絡みすんのはやめろ! そもそも俺達は舐めた態度を取る新人が許せねえんだ。だからこれはお――」


『うっせーよ雑魚。英雄ごっこしてるてめぇは引っ込んでろッ"! 』


 その言葉と同時にあーるんが武器を大量に構えていた男を空気の爆ぜる音と同時に蹴り飛ばし、1発で酒場の壁を突き破って外に吹き飛ばした。突然の出来事にそこそこ盛り上がっていた酒場の空気がキンキンに冷えきり、周りの冒険者達が青ざめている。


 あー....これ完全にやっちゃったなぁ。彼女は誰よりも話に割り込まれるのが嫌いだし、目が赤色に変わりかけてるから裏人格の破壊の悪魔(デビルアライズ)――とまではいかないけど、私でも止めるのは無理そうね。てかこれ絶対大きな騒ぎになるじゃん....もうやだ現実逃避したい。


「はぁ...せっかく200勝出来て僕もちょーご機嫌だったのにさぁ。オマケに面白い玩具も見つけてサイコーの気分だったんだよ? なのにてめぇらときたら――」


「おいお前。俺の仲間に何をやりやがった! 仲間に手を出すならこの俺も黙ってねえぞッ! 」


「てめぇもだまってろよ"! 氷結熱鳥程度でイキってる雑魚は雑魚らしく僕に口答えすんじゃねえ"ッ"!」


 青髪の男がロジェを掴んでいた右手を離した事でロジェが尻餅を着く。そしてその離した右手を自分の後ろに背負っている斧らしきものに手を掛けて、軽く戦闘の構えを取った。


 だが、グレイが上手くあーるんを止めてその男の前に出てきた。グレイが2本の箸を青髪に男の首元に構えている。どうせこの男の事だ。あーるんに手柄を独占されたくないので前に出てきたとかだろう。あなたまで余計な事をしないでください....。


「よぉロリコンのおっさん。あの馬鹿とだけじゃなく俺ともちと遊んでくれやぁ。おいロジェ、この馬鹿が怒ってるからもう無理だし、俺も軽くなら手を出して良いよな?とにかく面白そうだから俺もやりてぇんだ!」


「えー........あーもう好きにすれば良いんじゃないかしら!!!私は後で何言われても知らないからっ!!!でも命だけ取るのはやめてよ?」


 仮にグレイを止めてもあーるんがこの男を殴り込む事になるだろう。2人ともアルコールが入ってるせいで何してもおかしくないし、私が止めようが止められる気がしない。だったらもう好きにやらせるしかないじゃないですかねっ!!


 その言葉を聞いてグレイとあーるんが英雄様のパーティ相手に攻撃を始めた。その光景を見て周りの冒険者が凄い歓声を上げている。多分初心者冒険者が高レベル冒険者をボコボコにしたのが相当凄いのだろう。



 ――すみません。私達はそもそも冒険者じゃないし、完全に実力詐欺なんです....。



「よしキルメ。ここにいたら危ないから逃げるよ。あの2人ならほっといても帰ってこられるもの」


「夜明けの時だ! 」


 そうしてジャンプして机から飛んでくるキルメをキャッチし、ロジェは食事代の支払いと酒場の修理代を弁償するために現場から逃げ出した。


 ――請求先の事だけど、魔法生物のいる家を見せるわけにもいかないし、一時的に王城にいるロッキーさんに立て替えてもらおう。後でちゃんと払うし、何か言われたらいつも以上に全力で土下座を決めてやるしかない。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「き、貴様ら.....はぁ、なんの――つもりだ。」


 ロリイーネは何故ここまで自分がダメージを受けているのか理解出来なかった。既にベイス達はあの小さな女に蹴りを数発ほど入れられて気絶しているのは確認済だ。気絶する理由も蹴りによるものだとわかる。


 ――だが、ただの骨付き肉の骨で1発殴っただけで視界がフラフラになるのは明らかに異常事態だ。強さには誰よりも自信のあるロリイーネがその程度の攻撃でこの状態になる訳が無い。何かしら裏があるとしか思えなかった。


「あちゃー。間違えて脳の神経が集中してるとこを重くした状態でいきなり殴っちまった。すまんっ!初めからメインディッシュを食べちゃ、前菜の魅力が大幅に落ちるもんな!悪かった!」


 そう言って相手が派手に床に倒れそうになっているロリイーネの元に顔を近づけてくる。正直何を言っているのか分からないが、こいつも同様あのピンク色の髪の女と同じく異常な気配を放っている。

 あの至近距離で見た上で改めて思ったが、魔力以外語る所がないどう見ても弱者にしか見えないあのアホ毛の女とは大違いだ。恐らくこいつらは戦えば相当強いし、何より自分が負ける事なんて全く考えていない顔をしている。


「ちなみに教えてやるよ。お前らの持っているその魔物寄せを作ったのはこの俺だ。そもそもお前らにこれを使うつもりはなかったし、あれは完全に事故なんだ。だからなんか厄介事に巻き込んだってんなら謝る。ごめんっ!.....まぁこれでお前がロジェに手をあげようとした事は見逃してやるから、ノーカンにしてくれよ。薬品の件も事故なんだからこれでお互い様って事で! 」


 その言葉を聞いて、意識が朦朧とするロリイーネは腸が煮えくり返った、その怒りで失いかけた意識を取り戻す。明らかに今、俺達は相手に舐められている。相手に派手に負けた上に、ここまで挑発されて黙っていられるわけが無い。


 即座に立ち上がろうとするが、相手もその行動を読んだのかロリイーネの頭の上に突然数本の指を置き、その場から動けないよう強く押さえつけてくる。それはまるで重力魔法でも掛けられているかのような不思議な感覚だった。何とか気合を振り絞って相手の顔をよく確認出来る位置にまで持ち上げるが、どう頑張ってもそれ以上は持ち上げることができなかった。


「とりあえず前置きはこのくらいにして...っと。お前らがさっき弱者だと判断したあの女、ロジェにこれ以上絡むのはやめとけ。これは優しい俺からの警告だ」


「警告.....だと?」


「別に俺達に絡んでくるのは大歓迎だから勝手にして貰って構わねえけど、これ以降ロジェに絡んだら次は俺も本人も一切容赦はしないぞ。特にロジェはやり方を選ばないし、これ以上やればあいつは完膚なきまでにお前らの事を潰しに来る。それにあいつは俺達の何倍も強いんだから、変に喧嘩売らずにここは大人しく手打ちにしようぜ。おっさん」


「はっ.....!そ、そんな馬鹿な提案、呑めるわ――」


「わけがない。まぁ普通はそう言うだろうな。だけど俺はちゃんと警告したぞ。そのありがたーーーい警告を聞いた上で立ち上がるってんならあいつの実力をその身をもって味わえばいい。」


そして突然目の前の男が、今日一番低い声を出してこう言った。


「ただ、ロジェの身に何かあれば俺達が黙ってねえ事だけは覚えとけよ? どんなに小さかろうが、痛みがなかろうが、あいつに傷一つでも負わせればその痛みを何千....いや、何万倍にして返してやるからそれだけは忘れんな」


 そう言って目の前の男が指を鳴らすと一瞬熱のようなものを感じる。そしてその瞬間、まるで糸が突然切れたかのような不思議な感覚が走り、その場でロリイーネは意識を失った。


 ――俺達の潰す相手はこの3人だ。今の地位を捨ててでも絶対にこの手で潰してや......

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