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第三章 07 『酒場①』

 私達三人は基本的に自由な集団だ。外の研究機関に呼ばれて活躍する者や自由に狩りをして自身を鍛える者だっている。

 村の外にいる時に見つけた魔道具や戦利品は基本的にキルメを含めた四人で話し合ってどうするか決定し、要らないなら売る。欲しい人が居るならその人が管理する。という手筈になっている。


 村の外でなんの研究をしているのかよく分からないが、いつものようにグレイが外から帰ってきたものを『お土産』として持ち帰った戦利品や試作物について早速話し始めた。



「ほらよ。まずはこの仮面からだ。出掛けてた時に見つけたが効果はちょっと変わってる。試しに誰か使ってみるか? 」


 そう言ってグレイがポケットから赤い狐のお面を見せてきた。効果は知らないが自信満々に見せてくる程の物だ。どうせ何かしら凄い変わった効果があるのだろう。見た目的には悪くないデザインなので効果が少し気になる。


 その仮面を手に取ってじっくりと観察しながらあーるんが口を開く。


「うーん.....特に変わった傷とか特徴は何も無いねぇ。強い効果なら高く売れそうだけど......グレイちゃん、これどういう効果があるの? 」


「これは『口が悪くなって特定の感情を1つ勝手に増幅する代わりに無理やり戦える力を引き出す』っていう変わった効果を持つ魔道具だ。俺もこの国に殴り込んだ時にこれをつけてたけど適正が無くてダメだったが、使える奴ならめちゃくちゃ強くなるし相手してて結構面白かったぞ」


「......ねぇグレイ。それどこで効果を試したの?まさかとは思うけどこの国の人相手に試したりしてないでしょうね? 」


「もちろんここで試したぞ。この国は人が多いから適正者を炙り出すのに丁度いいと思ったんだけどなんか問題あるか? 一般人、主犯格関係なくやってやった! 」


「........相手に攻撃されたりしたわけ? 」


「いやそんなの受けてないけど....てかなんでそんなの受けなきゃダメなんだよ。そんなの受ける前に相手を殺せばいいだろ」


 相変わらず手が出るのが早いなぁこの男は....。いつもの事だし、止めても無駄な事は分かってるから強く止めないけど良くないよ。


「はぁ....ちなみに一般人に手を出したって言ってるけどちゃんと手当てしてきたの? もしかしてだけど昼間ロッキーさんが怒ってたのはそれだったりするでしょ」


「治療すんのは当たり前だろ? ちゃんと治るとこを見届けた上で場所を離れたし、あのおっさんもお咎めなしって言ってたからそれで良いじゃねえか。ちなみにこの仮面で暴走した奴は、剣でも武術でもそこら辺のそこそこ強い冒険者クラスに強くなってたからやり応えはあった。だから使いこなせればだが結構面白い代物だぞ! 」


「......グレイ。そういう事するのは程々にしなさいよ?ただでさえ外の研究機関に呼ばれるくらいには素晴らしい腕を持ってるってのに、そんな馬鹿な理由で捕まりでもしたら才能が台無しになりかねないんだから」


「俺的には捕まっても別に問題ないぞ?そもそも研究施設の奴らは俺が居ないと技術が全く足りてないから死んでも俺を手放さないし、捕まれば実験素材が大量に手に入るだろ?それを使えば昔お前が言ってた『最強の護衛の魔法生物』だって作りやすくなるんだからむしろお得だし上等だ!犯罪者なら手を出して良いし、俺達のルールにも反してないしな! 」


 過去にグレイが最高傑作として要望通りに作り出してくれた通称『ネコネコちゃん』という前衛系の猫型魔法生物が過去に居たのだが、偶然遭遇した龍の群れ相手に三匹目の龍を倒した辺りで護衛が壊れてしまったのだ。

 それ以降彼は『絶対に壊れない最強の護衛』を目標に、こうやって悪い方向に才能を無駄使いするようになっている。彼の負けず嫌いな所も相まってこの実験は要望通りの物が出来るまで終わることはないだろう。

 つまり、この男の倫理観を完全にぶっ壊したのは――私、ロジェなのである。



 ――本当に皆様、このような化物を生み出してしまってすみませんでした……。



 そんな事を考えていると、ジョッキを豪快に飲み干し、あーるんが机に叩きつけて口を開く。


「はぁ!? なんも良くないから! グレイちゃんがこうやってやばい実験してるおかげで僕も雷とか毒とか色んな耐性が付けられてるから止めはしないけど、絶対にヘマだけはしないでよ? 幾ら敵感知とか気配察知を極めてる僕だって出るのはともかく、監獄まで探して助けに行くのは楽じゃないんだから。それにグレイちゃん居ないと色々困っちゃうし、大物犯罪者を独り占めするのはズルだから! そんな事したらまた僕との強さに差が生まれるでしょ! 」


 どうしてあーるんまで監獄に乗り込むつもりなのでしょうか。そんな事やったらダメだよ。ほっといてもグレイは監獄程度なら勝手に出てくるし、無暗に首を突っ込まないのが一番なんだから。


「まぁなんかあーるんがズレた回答してるけど、捕まったら私も困るんだからやめてよね? グレイが居ないとまともに甘味巡りも出来なくなっちゃうんだから。それにグレイが居ないと寂しくなるもん.....」


「なんで俺は甘味巡り用なんだよ! 腐っても実力はあるし希望通りの物だって作れるんだから俺の事もちゃんと使えちゃんと! 」


「グレイちゃんと違って僕は色々出来る事あるよね! 甘味は苦手だけど悪いやつか見分けるのも得意だし交渉だって僕の方が上手いもん! だからこの勝負は僕の勝ちで良いよねグレイちゃん? 」


 二人は一体何を競ってるの?あとあーるん、あなたの交渉は確かに頼りになるけど中々折れずに断り続けてくる相手には最終的に交渉(物理)になるからグレイと同レベルだよ.....。グレイも無理そうな相手にはポーションで脅すし、大した違いないじゃない。


「はぁ!? いやいや俺のがすげぇだろ。そもそも交渉とか言ってるけど俺もお前も手が出るから同レベルだし優劣付けれてねえじゃねえか! ロジェもそう思うだろ? 」


「......私から見たら二人とも同じよ。てかどっちも普通に有能なんだから優劣とか関係ないわ。だから――私の為に二人とも争わないで! 誰も悪くないし、悪いのはこの罪深い私なの! 」


「ジェスチャーを使ってまで『自分が良い女です』みたいな事をするな! そもそも俺は負けず嫌いだから競ってるだけだし、変な勘違いするんじゃねえ! 」


「ほんっとグレイちゃんは驚くくらい刺さらないなぁ.....。あ、店員さんすみません! 黄昏エールあと十杯とここに書いてあるメニューを順番に全部持ってきて! 」


「俺も同じのください! 黄昏なんちゃらのエール十杯! 」


 なんか凄い雑だけどやばい注文が聞こえてきた気がする。確かに私達はよく食べるけどそんな注文したら食べきれなくなるよ......


 ロジェ達三人とペットのキルメは基本的に大食いだ。というかマナを吸収すればするほど大食いになる傾向があるので、一般人の行く料理店だと量が足りない事がほとんどだ。

 理屈は完全に解明されてないが、マナによって大幅に強化された身体能力やらを維持する為に一般人の何十、何百倍もの多くの栄養素や食料が必要になるという説が最有力らしい。

 だから今回、冒険者でも無い私達がこんな酒場にいるのは食べる量的な問題があるからである。


「それでだけど、グレイの事だしあの仮面の他にもまだ見せたい物があるんでしょ? いつも五つくらい見せてくるじゃない。出し渋ってないで早く見せなさいよ! 」


 なんだかんだグレイの見せてくるお土産はどれも魅力的だ。たまに変わった魔導書を拾ってくる事だってあるので知識欲を掻き立てられる物だと特に嬉しい。考えるだけでワクワクが止まらない。


「やっぱりまだある事がバレてたか。ならしょーがねぇな....次のお土産はこれだ! 」


 ロジェが猪肉のステーキをフォークで切りながらワクワクしていると、グレイが再びポケットから変な物を取り出した。よく見ると一つのボタンのようにも見える。小さなボタンだし、軽く見ただけだと使い道がよく分からない。


「これは俺が向こうの研究施設で作った鎖型(チェーンタイプ)の動物だ。安全性は保証されてるし結構おもしれーぞ? 」


 そう言ってグレイがボタンを押すと、丸くて赤いボタンがついたスイッチが変形して一つの小さな子供サイズの猪の形を作った。ちゃんと手懐けてあるので他の卓に襲いかからないし、自動起動型の魔道具のように見える。

 体は主に鎖で構成されているが、よく見るとちょっとかわいらしいのでキルメに並んで良い感じのペットになれるかもしれない。


「これは俺が改造して作った鎖型の猪だ。通称『猛進の猪(ストレート・ボア)』とでも呼んでくれ。簡単に言えばボタン一つで護衛にもペットにもなる鎖型(チェーンタイプ)の魔道具的だな。素材は特別硬い金属が手に入らなかったから耐久力はそこまででもねえけど、そこら辺に出てくる中級の魔物なら簡単に撃退出来る程の強さはある。ロジェ、お前はこれ欲しいか? 」


 猪かぁ....。悪くないかもなぁ。キルメの攻撃って基本遠距離攻撃ばっかだし、近距離で戦える護衛が欲しかったのよねぇ。私はサンドホークすらも倒せないんだから一匹くらい持っておくのはありかも。


 ボタン一つで呼び出せるってのも持ち運びしやすいから悪くないし、あとこの子の上に乗れるなら魔物使い(テイマー)擬きの事が出来るしちょっと楽しそう! それが出来なかったら荷物運びとして使わせてもらおう。


「.....ちなみにだけど、それって集団で襲いかかってくる賊とかって何人くらい撃退できる?三十人くらいまとめて相手出来るなら良いんだけど」


 護衛は強ければ強い程良い。外を歩けば賊に襲われたり魔物が自分目掛けて攻撃してくるような私に厳しい世界なので、それなりに強い人間を何人もまとめて相手できるなら護衛として完璧である。


「やって見なきゃ分からねえけどその程度の雑魚なら余裕だと思うぞ? キルメと違ってこいつは近距離専門だし、突進以外にも空中飛行用の翼が生えてくる変形合体(モードチェンジ)とか色んな小細工を仕込んどいたからな。てかまた俺達に黙ってどこか行こうとしてるんじゃないだろうな。どこか外出するならちゃんと教えてくれよ? 」


 ――空中飛行用の翼が生えてくる変形合体(モードチェンジ)....?そんなのは小細工で積むような機能じゃないし、第一空を飛ぶ猪ってなに?意味わかんないよ?


「......そんな機能本当にいるの?てかなんで猪なんかに空飛ぶ機能積んだのよ。流石に無駄遣いじゃない? 」


「グレイちゃんの猪はともかく、ホント勝手な事するのはダメだよロジェちゃん。僕達はずっっっと心配だし、ロジェちゃんの近くにいればやばいのがいっぱい来て楽しい事しか起きないんだかんらぁ。ロジェちゃんが強い奴を独り占めするのは良くないッ! 断固反対! うらぎりものー! 」


 なんかあーるんの呂律が回らなくなって来てるし、少しずつ酔いが回り始めてきたわね....。まぁ彼女はここから何十杯と平気で飲み始めるし、これでもまともな思考回路の状態――というかここからが本格的なスタート地点なんだけども。

 軽く酔った証拠なのか知らないけど、私の近くにいればやばいのが来るから楽しいとかいうめちゃくちゃな事を言い始めている。私にそんな力ないのに何を言ってるの?やって来るのは精々雑魚の魔物くらいよ。私は戦えないんだから何も嬉しくないわっ!!!


「.......まぁあーるんが何か変なこと言ってるけど、その『猛進の猪(ストレート・ボア)』ってやつ貰っていい?壊れちゃったらごめんだけどグレイ達の居ない間の護衛として欲しいかも。ほらほら、私は黙ってどこかに行くつもりないけど何が起こるか分かんないじゃない?」


「.......確かにそうかもな。じゃあこれはお前に預けとく。 使ってみた感想とか教えてくれよ? 一応そいつには雷とか火の耐性はつけてるからすぐには壊れないと思うけど、気に入ったってんならすぐ改良してやるからなんでも言えよな」


「うんわかった。ありがとねグレイ! 」


 笑顔を浮かべながらロジェは手元で切っていた最後のステーキを口にする。味がとても濃くて油が凄いので食べ応えのある良い食事だ。猪型の面白い鎖型(チェーンタイプ)のアイテムを貰ったのに、猪系のステーキを食べるとかいう軽い共食いみたいになってるのが最悪だけど、それを除けば最高の気分である。


「それでさグレイ。私もう回復ポーション残ってないんだけどストックってまだあるの? あれだけ沢山あったのにもう全部使い切って残ってないの。無駄使いした訳じゃないけどまた作ってくれない? 」


 その言葉を聞いて巨蛙(ジャイアント・フロッグ)の唐揚げを食べていたグレイが驚いた事で軽く喉に唐揚げをつまらせ、何とか飲み込んでから口を開いた。


「はぁ!? あれ確か二百本近く積んでただろ! 一体何に無駄遣いしてたんだよ。別に止めはしないけどあれだけ高性能な物を作るのだって楽じゃねえし、素材が結構貴重なんだから量産するのが難しい代物なんだぞ? まぁ許可さえ貰えればすぐに作れるけどさ。」


「なぁんだ、別に作れるなら良いじゃない。でもグレイさ、貴重って言う割には割とポンポン作り出すじゃん。....まさかとは思うけど作りたくないからわざと言ってるんじゃないでしょうね? 」


「そんな訳ねえだろ! 貴重って言うか.......その....素材の中身を聞いたら絶対怒られるから中々取れないって意味で言ってんだ。どうしても知りたいってんなら教えるけど絶対後悔するからやめとけ」


 素材なのに怒られる.....?もしかして絶滅危惧種の何かを狩って作ってるとかかな?そんな事したら流石の私も怒っちゃうけど、流石に違うと信じたい。


「こっそり絶滅危惧種に手を出してるってんなら僕も怒るけど、どうせ違うんでしょグレイちゃん。何使ってるのか知りたいから教えて欲しいかもぉ」


「私もちょっと気になるし教えてくれない? 」


「はぁ......なら教えてやるよ。聞いても後悔したり怒ったりするんじゃねえぞ? 特にロジェ、お前が1番怒るかもしれねえんだから」


「私? 」


 いや別に私は怒ったりしないけど.....。グレイったら一体何考えてるのかしら。私がそんな簡単に怒ったりするわけないじゃん。勝手に私の部屋に入って大切にしてる魔導書を犠牲にしてるとかじゃない限り怒ったりしないわよ。


 すると、グレイはロジェに向かって手を開いて構えてきた。これだけだと何がしたいのか全く分からない。


「......?グレイさ、ふざけてんの?私からあなたにあげられる物なんて何も無いわよ。もしかして私の食べてたステーキが美味しそうで食べたいってんなら同じも――」


「――かみをくれ。」


 ――聞き間違いかな?なんか凄い事が聞こえた気がするけど、もしかしたら口を拭く用の紙が欲しいのかもしれないし、念の為もう一度聞くしかない。仮にもしこれが『髪』だとしたらグレイが本物のやばいやつ認定する必要がある。いつ集めたのか知らないけど本当なら相当な変態だよ?流石の私もドン引きだし怒るよ?


「.......今なんて言った? 口元を拭くための紙ならここにもあるけどグレイの近くにも置いてあるでしょ? だから必要ないじゃな――」


 するとグレイが深刻そうな顔をしながらもう一度言った。


「だから....お前の髪の毛を寄越せって言ってんだよ!それがねえと作れねえんだ!」


 それを聞いてロジェは即座に立ち上がり、軽く頭を叩いてやった。本当なら全力でぶん殴ってやりたいが、そんなことをすれば呪いで倒れてしまうので最大限の妥協である。


「はああぁぁぁ!? ちょっとグレイ、 あんた私の髪の毛なんて使ってなんてもの作ってんのよ! てかいつ集めたの!? それは流石の私でもドン引きするくらい気持ち悪いわよ! 」


「ごめんグレイちゃん、流石の僕でもそれはドン引きだわ......。それはキモすぎて擁護できないよ。一回ロジェちゃんの目の前で死んで詫びた方がいい」


「違うんだって! お前らそんなゴミを見るような視線を向けて本気で距離を取るのはやめろ! 俺はお前から直接取ってないし、集めてたのは洗面台とか部屋に落ちてたお前の綺麗な抜け髪だけだって。生まれつき魔力が異常なお前の髪には特別な治癒効果があるんだ。だからその長い髪を何等分にもして作ってたんだって」


「そ、そんなの、知るかーっ!!!! もう暫くの間私の髪を使って勝手に回復ポーションを作るのは禁止! 部屋の中掃除するのも絶対やっちゃダメだから!! 」


 知りたくない事を知ってしまった。私の髪にそんな力があったのは知らなかったけど、想い人補正のある私でも流石にドン引きよこれは!

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