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第三章 04 『真実①』

「あれ?この前来た時はここら辺に一つ家があったはずなんだけど――全然見当たらないのです......」


 帝都のとある一角で探し物をしていた『彗星の神子』のリンは、驚きを隠せなかった。

 帝都で犯罪組織と派手に戦う前まであったはずのロジェ達の仮住居が全く見当たらないのである。あの一件で帝都は全体的にボロボロになったし、彼女達の家が無くなっていてもおかしくはないのだが、家があった痕跡が全く残されていないのは不思議だった。瓦礫や燃え跡など何かしら残ってるのが普通なのだが、それすら残っていないのは違和感を感じる。


「やっぱりこれもあの二人の特殊な能力――とかなのかな?」


 それは忘れもしない、双竜の砦で初めてあーるんと話した時の内容だ。あの時リンは『死にたくないならロジェ達の事について無駄な探りをいれるな』と脅しのような事を言われたのだ。どうやって人の心を呼んだのかは知らないけどリンはずっとあの二人の存在を不思議に思っている。


 ――もしかしたら彼女達は『迫害種族』なのかもしれない.....と。


 ロジェはなぜ頑なに攻撃魔法を使わないのか分からなかったけど、リンを圧倒的に上回る魔力量を誇るのに魔法に長けた種族特有の特徴もなければ、その場で人の術式を完璧に真似出来るなんて明らかに異常だ。才能だとしても異常な程複雑な術式を組んで使う氷土壁(フローアース)をちょっと観察するだけで真似出来るのは明らかにおかしい。これが所謂『嫉妬』というものなのかもしれないが、リンはあの日以来二人の事がずっと気になっている。


 あの神出鬼没で有名な影の鼓動を街に被害を出すこと無く完全壊滅させた話だって気になるし、彼女の使うちょっと変わった魔法だって知りたい。

 ロジェに聞きたい事なんて上げてけば山程出てくるが、今一番聞きたいのは『彼女達は何者なのか』という事だ。なんだかんだいつもタイミングが悪くて聞けていないが、今日こそは絶対に確かめる。そう決意していた。


 シャドー達を監獄まで送った後に王城に立ち寄ったが、サウジストから中々帰ってこないとロッキーが文句を言っていたのでまだ帰ってきていない可能性もあるが、もしかしたら帰ってきてないかな~と薄い望みにかけてやってきたのだ。ヒューにだけは絶対この家の場所を教えるなと強く口止めされているので、彼女達が帝都に帰って来ていないならまた別日にヒュー達の目を盗んで来る事になるだろう。


 そんな事を考えていると、リンは変な術式の気配を感じ取った。その気配を辿ると何もない空き地だったが見た事のない術式が埋め込まれており、何か触れてはいけないような物を感じる。


「これは......認識阻害に近い?けど中に入ろうとすればダメージを受けそうな気配もある――でも一体誰がこんな空き地にそんな事をするのです.....?」


 何もない空き地に中へ入れないようにする術式が埋め込まれてるなんて不自然だ。そんな事をするなんて犯罪組織の巣穴くらいだし、その巣穴を作るにしてもこんな住宅街に近い場所に作る間抜けなんて存在しない。人目が多いという事は自分達の悪事がバレやすい事を意味するからだ。そんな事するなんて自殺行為だ。


 リンは目の前の見た事のない術式に興味を持ったので深くしゃがみこんで観察していると、後ろから声をかけられた。


『......リン。あなた人の家の前でしゃがみこんだりして何やってんのよ。仮にも優秀な冒険者なんだからそんな場所で不審者に思われちゃうわよ』


 その優しげでクールな声に聞き覚えがあった。その声は少し前に何度も聞いた声であり、今最もリンが会いたかった人の声だ。


「……!ロジェさん!?ようやく帝都に戻ってきたのですね!帰りをずっと待ってたのですー!」


「人の家の前でずっと待ってただけでなく、会った瞬間抱きついてくるなんて.....私の居ない間に何があったの?」


 その声の主は、双龍の砦の依頼以降何かと親睦を深めている魔導師、ロジェだった。



  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「え、これサウジストの中でもかなり有名なロールケーキじゃないですか。こんなの貰ってもいいのですか?私さっきパニックになってつい魔法を使っちゃったのに.....」


「別に気にしなくていいわよ。あんな気持ち悪い見た目をした魔法生物を警備用として庭に置いてるグレイが悪いんだから。リンが何しに来たのか知らないけど沢山買ってきたからスイーツも余ってるし、こんなので良ければ好きなだけ持って行っていいわ」


「ありがとうございます!後でヒュー達にもロジェさんからのお土産としてこれを渡しておくのです!」


 あれから数分後、ロジェ達はリンを家の中に案内していた。グレイは庭に放置していたよくわからない3匹の魔法生物の様子を見に行ったので、家の中にいるのはリンとロジェの二人きりだ。


 最初リンが敷地に入ってきた時には、家の警備として置かれていたグレイの試作品の『犬の顔をした筋肉質の人の体を持つキメラ』や『スライムっぽくなっている液体状の狼』に襲われかけた。それに驚いた彼女は思わずパニックになって氷炎舞(コールドフレア)を一瞬で放ってきた事には驚いたが、幸いな事に人や建物に被害はなかったので文句を言うつもりはない。グレイが村から盗んできた結界札を家の周りに沢山貼ってくれていたおかげである。


「それでなんですが、あの男の人って一体誰なのですか?この前見た時には居なかったと思うのですけど.....」


「あれはグレイっていうさっきの魔法生物みたいな変な物を生み出すダメなタイプの天才よ。彼も私の信頼出来るお友達だからそう身構えなくて平気だし、少なくともあーるんみたいに口よりも手が出るタイプじゃないから安心していいわ。というか彼は人を実験動物としてしか見てない所があるからちょっと変わってる人だけど仲良くしてあげて」


「なんか、ロジェさんのお友達って個性が強すぎるのです.....。私はロジェさん以外仲良くなれる自信がない」


 うん。それは私も思う。私は全く個性もないのに、なんで残り二人ってあそこまでインパクト強いのか分からない。誰よりもか弱い女の子の私が3人の中で一番まともなのホント異常だと思うよ.....。


「そういえば話を聞きましたよ!ロジェさん達ってあの巨大犯罪組織の影の鼓動を完全壊滅させたんですよね!一体どうやってやったんですか?組織の完全壊滅なんてそう簡単に出来る物じゃないのです!」


「あーそれね.....さっきも話してきたんだけど実は私は何もしてないから分からなくて――細かい事はグレイかあーるんに聞いてくれないかしら」


 何故か知らないけどグレイは限りなく正解に近いこの事件の真実に知っている。多分あの時サンドホーク愛護団体から裏話を色々と聞いて話を無理やり理解したのだろう。私が答えても碌な回答が出来ないしそもそも何も答えられないので、グレイに聞いた方が100倍マシだ。私の話聞いてたらロッキーさんみたいに頭を抱える事になるよ.....。


「でも私、たまたま話す機会があったので《紅焔轟者》とベージュ達から活躍を聞きましたよ!ロジェさんが一人で暗躍してたって話だし、ボスのシャドー相手にも一切引けを取らなかったらしいじゃないですか!色々と話は聞いているので隠してないで話を聞かせてほしいのです!」


 ベージュ達、リンに何を言ったのかしら。私はシャドーを相手にしても一瞬で空に跳ね上げられて死にかけてただけなんだけど.....。グレイが居なかったら余裕で負けてたよ?


 あと誰も教えてくれないんだけど『こうえんごうしゃ』さんって本当に誰?


「まぁその話は長いからまた今度やるとして、リンはここまで一体何しに来たの。影の鼓動の話とかヒュー達の愚痴だけで家の前で待ってたりしないし、何か他の用事があるじゃない?」


 リンがわざわざ家まで来る用事は大体限られている。基本的にはヒューへの愚痴話とか魔法の知識が欲しいとかだが、今の彼女は何故か深刻そうな顔をしているので多分違うだろう。そういえば私が離れてるうちにリン達も例の戦争に駆り出されてたらしいし、ちょっと疲れてるのかな?リンが寝るための寝床が必要かしら....


「実はその......ロジェさんに一つ聞きたい事があるのです」


「聞きたい事?てか急に改まっちゃってどうしたの?そんな暗い表情なんてしてたら幸せな事が逃げちゃうわよ。私もあまり覚えてないけど、昔読み聞かせて貰った御伽噺に出てくる人がこう言ってたわよ。人は笑ってなきゃ幸せ(ハッピー)が逃げちゃうってね。だからそんな暗い顔してないで、スマイル!スマイル!」


 許可は貰ったのでリンの頬を触って無理やりにでも笑顔を作ってやる。


 一体何を聞いてくるんだろうか。リンとはあの依頼以降魔法の知識を共有したり、無理やり甘味巡りに連れ回したりと色々やってきたが、何か私変な事でもしたかしら?確かに悪いとは思ってるけど種族がバレるような事は一度も言ってないわよ。


 そしてロジェが席に戻ってから少しするとリンが深刻そうな表情でこう言った。


「その.......ロジェさん達って本当は何者なのですか?何か隠している事があるなら教えてほしいのです」


 その質問を聞いた瞬間、ロジェは手で持っていたショートケーキを食べる為のフォークの動きを止めた。


「......なんの話かしら。私は隠してる事なんて何もないわよ」



 ――もしかして、ついに私が『魔女』って事がバレた.....?



  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 リンはロジェの明らかな動揺を見逃さなかった。この質問をした瞬間相手の手の動きが減った事や明らかに多い冷や汗からほぼ確実に正解に近い何かに辿り着いたのだろう。そう確信する。


「別に私はロジェさん達を責めるつもりはなくて、ただ知りたいだけなのです。依頼の時に助けて貰った恩もあるし、もっと仲良くなる為にも何かを隠しているなら教えて頂けないかと思って――」


「べ、別に私は何も隠してないわ。というかそんな質問を私にしてどうするつもり?」


 相手の顔を見るが、相手の顔は全て諦めたような表情を浮かべているようにも見える。恐らくこれも相手を油断させて嘘を貫き通す為の演技なのだろう。そんな演技に騙されないように慎重に言葉を選びながら質問をしていく。


「私はずっとあの依頼の時からロジェさん達が人間ではない何か変わった特別な種族ではないかと疑っているのです。でもそれを信じたくなくて.....仮にロジェさん達が迫害されるような種族でも私は裏切るつもりはありません!ですから何あるなら秘密を教えてくれませんか?」


 リンは仮にロジェ達が迫害種族だろうと差別しないし、それを知ったとしても周りに言いふらすつもりはない。それどころかリンはそういう人達も守りたいと思っている側の人間だ。どんなに差別される種族だろうと目の前にいるのは同じ人間だし、互いに手を取って守りたいとまで思っている。


 その質問を聞いて、ロジェは答えた。


「何を根拠に疑ってるのか知らないけど、前にも言った通り私は人間よ。それ以上でもそれ以下でもない。てか急にどうしたの?前会った時はそんな事は一つも言ってこなかったじゃない。」


「それはその.....あの依頼の時にあーるんさんに言われた事がずっと気になってて.....ロジェさん達の事について無駄に探るなって言われてもしかして……と思ったのです。ロジェさん達って実は『迫害種族』なのですか?」


 相手の顔をもう一度見るが、さっきよりも明らかに動揺していた。こんなの自分から正解ですと言っているようなものだけれど、ここまであからさまな態度を取られると逆に怪しくないのです...。もしかしたら迫害種族じゃないかもと思えてくる程ですよロジェさん。この人ホント何考えてるんだろう?


「......もしもの話。これは純度100%のもしもの話だけど、リンは私が迫害種族の中の一人だとしたらどうするの?周りの人と同じく密告して私達の事を処刑したり追い払ったりする?」


 迫害種族を見つければすぐにでも抹殺するのが普通だ。そのまま生かしておけば現地の人間に復讐を始めるかもしれないし、テロ行為に近い何かを起こしてもおかしくない。恐怖の魔女のように過去にその種族が犯した罪が前例としてある以上、同じ歴史を繰り返さないようにする為にも迫害されて当然とされている。


「わ、私はロジェさん達の事は絶対に黙っていると約束します!助けて貰った恩もあるけど、何よりこれまで仲良くして貰ったのでその程度の事で簡単に裏切れません!むしろ私が率先して守りぬくのです!」


 嘘は言ってないし、これらは全部本心だ。信じて貰えないかもしれないけど、少なくともリンはその事を聞かれても喋るつもりはない。仮にヒュー達に問い詰められてたとしても黙り続けるつもりだ。


「そう....。じゃあ私も秘密を伝えようかしら。本当に黙りぬいてくれるというならだけど....」


 目の前の彼女はとても悲しそうな顔をしていた。恐らくリンが知ってはいけない領域にまで踏み込んでしまったからだろう。もしかしたら殺されるかもしれないが、そんな覚悟ぐらいこの質問をする前から既に出来ている。


 ――だって迫害種族に対してこの質問は絶対にしてはいけないものなのだから。


 覚悟を決めたのか、ロジェは深く息を吸い込んだ。ロジェの指先を見るか、その指先が大きく震えている。



「私ね....」



 言いかけた言葉が喉で詰まる。その言葉を聞く前にリンは喉から息を飲む。




「実は.....」




 彼女の口から語られる真実を聞く前に小さな深呼吸を挟んだ。





「私は魔女の一族で――」


『ごめんよロジェの友達さん。ここでゲームセットだ。これ以上は訳あって聞かせるわけにはいけねえんだ。』


 聞き覚えのない男の声を突然リンの耳が捉える。その声が聞こえた瞬間に魔法を使って反撃しようとするが、熱のようなものを感じた瞬間に自分の意識が糸のように一瞬で途切れ、目の前で覚悟を決めた彼女の声を耳にすることなくリンはその場で意識を失った。



  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ロジェは目に涙を浮かべながらグレイの霊火によって意識を失ったリンを自分の部屋のベッドに運んでいた。彼女は既にグレイの虚術の記憶操作によって記憶を一部消されたので、目を覚ました頃にはさっきまでの迫害種族に関するやり取りの記憶は覚えてないように細工されている事だろう。


 あくまでも『記憶に蓋をするだけ』なので、さっきと似たような事を体験したり、関係する話を振られたりすれば消した内容全てを思い出せてしまうが、基本的にさっきまでの出来事に関する話をしなければロジェが魔女である事はバレないはずだ。


 ロジェは自分勝手な判断で秘密を曝け出そうとしてしまったのでとても反省していた。


「おいバカ.......ッ!いくら信用出来る相手だとしてもこれだけは外の人間に絶対に言うんじゃねえ!一体何考えてんだ!お前の事は誰よりも理解はしてるから普段は怒らねえけど、流石にこの事だけは俺でも怒るぞ!」


「ごめんなさい....リンならきっと黙っててくれると思って.....私が『魔女』だって事を伝えても守ってくれると思ったの。勝手な事をしたのは.....分かってる」


 あの時のリンの表情には嘘はなかったように見えた。それにそこそこの付き合いがあって彼女が心の底から優しい女性である事は理解していたし、彼女なら例え仲間達に問い詰められたとしても黙ってくれると思った。言葉通り本当に自分達を守り抜いてくれると思った。


 ――だからこそ今自分は絶対にしてはいけない事をしようとしてしまった事実が重くのしかかる。


 その勝手な判断で自分はともかく、グレイやあーるん、そして村の人達にまで迷惑がかかり、下手したら全員がこの世から居なくなるかもしれない事をしようとしたのだ。あの時仮にグレイが止めてくれなかったらどうなっていたかなんて辛すぎて考えたくもない。


「昔っからお前は流されやすくて相手の感情に乗せられやすい所があるが、これは絶対に誰にも言うな!どこから情報が洩れるか分からねえ以上、これだけは俺達以外が知っちゃいけない『真実』なんだよ。あの馬鹿にも後で俺から言っておくけど、これだけは絶対破っちゃいけない事だってそれはお前が一番分かってる事だろ?」


 ロジェは昔、一度だけ村の外の人間に魔女である事を口を滑らせただけで殺されかけたことがある。

 その時の事件は今でも思い出すだけで体の震えが止まらなくなるし、あの時受けた人の視線や殺意は今でも夢の中で魘されるレベルの事件だ。


 ――今、自分がやろうとした事はあの時と同じという事実がとにかく辛かった。


「ごめんなさい......ごめんなさい......」


 ロジェはベッドの上で眠り続ける一人の友達に謝り続ける事しか出来なかった。彼女は何も悪くないのに、自分のせいで少し生き辛くなる人生を強要してしまったという事実がとにかく辛い。

 いくら謝り続けても許される事ではないし、改めて『魔女』の身分を明かしてはいけないと自分の体に覚えさせながら、眠り続けている彼女が目を覚ますまでの間、ロジェは一人でひたすら謝りながら泣き続けた。

この回は『種族の事を隠している事がバレたらどうなるのか』というのがよく分かる回になってます。記憶消去に関しては完全に消せる訳ではなく、『一時的に』見れなくなっている。という表現が正しいです。

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