第三章 02 『説教と質問①』
「.....なぜ私がここまで怒っているか分かってるな?」
「そんな事は言われなくとも分かってますよ。怒られる事を前提でここまで来ましたので何時間でも付き合う覚悟は出来てます。気が済むまでいくらでも怒ってください」
ロジェ達はあの後セージと別れ、帝都に入った瞬間近くにいたロッキーさんの関係者と思われる人に王城まで連行された。別に逃げるつもりはなかったのにわざわざ人を配置している辺り、自分達がどれだけ相手に信用されていないのかよく分かる。
そして今回もいつも通り頭を下げるか悩んだが、今回はやめた方が良いとロジェの勘が言っていたので、あえて何もせず諦めの笑顔を浮かべ対面したのだ。即ちこれは考える事を諦めたとも言う。
あーるんはキルメと共にそのまま冒険者ギルドへ行ったので、今の私の後ろにはグレイがいる。なので仮に私が不敬な発言をしたとしても殺される前に守ってくれるだろう。
鬼の形相をしているロッキーさんが過去一番怖い顔をしているので一秒でも早くこの場から立ち去りたいが、極力地雷を踏みぬかないよう慎重に会話をしなければ帰してくれない気がするので、なんとか心臓を落ち着かせて相手の顔を見る。
「――しなくていい時は簡単に頭を下げるくせにこういう時は下げんのかッ!前会った時も言ったが、貴様は私の限界を計る為にわざとやっているんじゃないだろうなッ!!」
「前に簡単に頭下げるなって言ったのはロッキーさんですよね?私はそんな事考えてやってませんし、場を弁えているだけです。私もあの事件を通じて色々と反省しましたので」
土下座したら怒るくせに、しなかったら怒られるのはあまりにも理不尽すぎじゃない?確かにグレイは王城の一部を壊したから3割くらいは悪いよ?けどその分この人はサウジストでいっぱい働いてたから許してあげてよ...。
「むぅん!?第一、貴様ら3人の中でまともな感性を持った奴はおらんのか。口を開けばすぐに相手を挑発するロジェ殿といい、どこが沸点か分からないあーるん殿といい、全員致命的な欠陥があるから話をしたくても文句しか出てこないし、中々話が前に進まんわッ!」
「そんな事私に言われましても....。あと、私にクレームを入れるよりも多分グレイに直接クレーム入れた方が良いですよ。そもそも私は二人のクレーム処理担当じゃないですし、私と違って彼は余計な事は言いません。そして何よりも頭がいいですから。少し変わった人ですがよけ――」
「その男は一番話が通じんから論外だッ!王城に来た時この男が何をやったと思っている。王城の一部を派手に壊しただけに飽き足らず、この場所におられるあのメロール皇女にまで手を出そうとしたのだぞ!貴様らの元にこの男を向かわせるのだってこっちはかなり苦労したのだから話にならんわ!それならまだ会話が出来る貴様と話している方がマシだッ!」
――なにそれ聞いてない......そもそもなんで皇女様なんかと接点があったのか知らないけど、私が居ない間に何してんの?確かにグレイは最終的に治れば何しても良いって思ってる所は少しあるけど、一般人に手を出してるのと同じだよそれ。
後ろにいるグレイを睨みつけるが、彼は軽く頷きながら誇らしげな顔をして立っていた。多分皇女様に手を出す前に止められたから俺は悪くないとでも言いたいのだろう。どう見てもアウトですアウト.......。
「皇女様にまで手を出しているのは流石に私も知りませんでしたけど、グレイの悪い病気が出ちゃったんですね...。後で私が叱っておくのでその件だけでも許してくれませんか?もちろん必要なら罰はグレイが受け入れますので......」
――そう。罰はグレイ『だけ』がね。どんなに頼まれても私は絶対に受けないよ。今回は前みたいに責任取るって言ってないし、影の鼓動レベルの依頼を回されるなら私が絡まない方がすんなり終わるんだから参加しない方が良いわ。あとこれ以上知名度上げたくないし...。
「これっだけ、やって、必要じゃないわけ!ないだろッ!!!受け入れて当たり前だボケェェ!!!」
彼が何をやったか知らないがロッキーさんのキャラが壊れるくらいまで怒っている気がする。挙式の護衛依頼の前にあったあのふざけてるようにしか見えない手紙のやり取りでもここまで怒らなかったはずなのに、何をやったらここまで怒らせられるのかしら。もしかして皇女様に手を出そうとした事が原因かな?
――これじゃあ確実に賄賂を渡してもどうにもならないわね.....どうすればこの怒りは収まってくれるかな。
相手を怒らせた回数に関しては右に出るものが居ないロジェでも、流石にここまで怒っている相手を見た事がないのでどうしていいのか分からない。後ろにいるグレイに助けてほしいと念じていると、それを察してくれたのかグレイが前に出て話そうとしていた。彼ならきっと良い助け船を出してくれるだろう。
「まぁまぁ。とりあえずおっさんも落ち着いてくれよ。俺もあの時の事は反省してるし、結果的に被害が出なかったんだからそれでいいじゃねえか。第一ロジェはその頃別の場所に居たんだからこいつが怒られるのは筋違いってもんだ」
「――それはそうだが......って、今怒ってるのは貴様のせいだという事を本当に分かっておるのか!大体、あの時言ってきたネオリス残党の死体を分けろというのは何を考えている!それを使って何をするつもりだッ!!」
はぁ。多分その死体を使って最強の魔法生物でも作るんだろうけどまたやってたのか.....。グレイの好奇心に火をつけたんだろうけど、犯罪者を素材にするなんてホント何考えてんのかしら。私の為に護衛か何か作ってるから文句は言わないけどダメだよ...。
「........え?そんなのそれを継ぎ接ぎしてキメ――」
「はいそこまで!グレイは余計な事は言わなくていいから!とにかく、ロッキーさん。話を進めましょう。確か依頼の確認でしたよね?」
いくら死体とはいえ、人を素材に魔法生物を作ってる事がバレたら法に違反する可能性がある以上はこのまま喋らせるわけにはいかない。ただでさえ王城壊したり皇女に手を出したりとしてるんだから余計な事で目をつけられたら一生帝都から出られないかもしれないので全力で誤魔化した。
「――ッ。とりあえず席に座れ。貴様らには聞きたいことが山程あるし、何より確かめなければならない事もある」
なんとか誤魔化せたみたいだけど、絶対まだ怒ってるよねこれ。何とか機嫌を取り戻して欲しいけどどうすればいいかな......
――一か八かで賄賂大作戦を試してみるか。
「あ、そうだ!ロッキーさん。私の手元にサウジストで買ってきたスイーツがあるんです!これでも食べて一度落ち着きましょう!そんなに怒ってたらそのうちストレスで倒れますし、スイーツでも食べてリラックスすれば話がすんなり進むかもしれません!」
そう言ってショートケーキの入った箱をロッキーさんに渡すと再びお説教が始まった。どうやら逆に怒らせてしまったようだ。なんかごめんなさい...。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
追加のお説教を受ける事10分、ようやく報告会が始まった――のだが、座った席の上に一つの魔道具が置かれていた。
「ロッキーさん、これはなんの魔道具ですか?なんか変な無色の球体が置かれてますけど....水晶玉かしら?」
「これは『偽りの結晶』と呼ばれるこの国で重宝されている秘宝だ。この魔道具は本来2人が捕らえたシャドーのような大物の罪人に対してのみ使う噓発見器のような魔道具で、本来は皇帝陛下でも許可なく使う事は重罪になる代物だが、今回は特別に使用許可が降りている。これを使用するというのは、こちらからほぼ確実に貴様が犯罪者だと言っている事になる以上、本来ならば使用する事も恥ずべき事だし経歴に泥を塗る可能性がある。だが今回はそれを使ってでも確かめたい事がある。なのでロジェ殿には今から幾つかの尋問をさせてもらうがいいな?」
――え?普通に嫌だけど......なんで私まで犯罪者扱いされてんの?グレイはともかく私は悪い事してないじゃん。なんのつもり?
「......なんで私にそれを使うんですか?今回ここで騒動を起こしたグレイはともかく、私は依頼をこなしただけだし、皆さんに疑われるような事はしていませんよね。」
「この魔道具を使いたいと思っているのは、そっちの話が通じない男ではなくロジェ殿の方だ。ロジェ殿が事件解決をする際に使った手腕には色々と謎が多い。影の鼓動の壊滅方法を聞いて関係者の可能性が出てきている以上は試さないわけにはいかんのだ。黒では無いと思うが、一応協力はして貰うぞ。」
なんで私も影の鼓動の一味だと思われてんの.....?そんな訳ないし、そもそもそんな貴重な嘘発見器なんて使わなくても依頼の事なら何でも答えるわよっ!答えられる事なんて何もないけど!!!
「分かりました。私の口から答えられる事なんてありませんけどそういう事なら協力しましょう。ただし約束してください。嘘発見器を使った質問は『依頼の事だけ』でその他一切を質問しない事と、その鑑定結果を見ても私達に手を出さないと約束するなら協力します。無理なら私から受ける義理はありませんので魔道具の使用はお断わりです。どうしますか?」
――こういう時に大切になるのは『条件』だ。
これがもし高性能の嘘発見器ならば迫害種族であるか聞かれた場合詰みなので、依頼以外の内容は質問させないようにする必要がある。言い方的にそういった種族である事がバレる可能性もあるが、そうなったらもう大人しく処刑宣告を受け入れるしかない。
少なくとも今は隣にグレイがいるし、約束を破って種族の事を聞かれても彼なら記憶消去の技を使って結果を聞かなかった事にするから何とかなるだろう。
「........分かった。先日の戦争を含めたこの依頼に関係する事だけを質問すると約束しよう。そもそも依頼以外でこれを使う事は許可が下りていないからな。」
「分かりました。では本番の前に少し試させて頂きますね!」
ロッキーさんに凄い顔で睨まれているが見なかったことにして、ロジェは迷わず水晶玉に手をかざして効果を試してみる。するとその瞬間、何か今まで感じたことのないようなちょっと変わった感覚が体に走った。まるで静電気のような弱い電撃が体内に走る感覚に似ていてとても面白い。
「サウジストからの帰りが遅くなったのは全て私の意思であり、わざとです。理由としては説教される事が嫌だったので断固拒否していました。これは嘘ですか?本当ですか?」
その質問を水晶にすると無色だった水晶が水色に変化する。話によれば水色になれぱそれは『本当』という事らしいので、どうやらこの嘘発見器はちゃんと正しい事実を答えてくれるので壊れていないし、かなり精度の高い物のようだ。
「すごーーい!私は全力で否定してたのにちゃんとしっかり見抜いてるじゃないこの水晶!グレイもやってみなさい、これ意外と面白いわよ!」
「お前な.....でもちょっと面白そうな水晶だし俺も触りたくなってきた。ロジェ。お前のかざしてるその手をちょっと退けてくれ」
「遊ばせる為にこの秘宝を出した訳じゃないッ!あと、やはりあの帰還命令を無視してたのはワザとだったのか!幾らあれほどの成果を出したとしても呼び出しくらいしっかり応じるようにしろッ!!」
「い、いやいや!あれだって私も実は反省してるんですよ?そりゃもちろん悪い事したと思ってますし、もうしないと――――なんか水晶が赤色に変わってますけど、これは違うんですロッキーさん!」
その発言をしている途中に水晶が水色から赤色に変化した。話によればこれは『嘘』の判定なので、全く反省してない事がバレてしまった。その判定結果を見てロッキーさんが必死に怒りを抑えようとしているが、いつ殴りかかってきてもおかしくない雰囲気がある。
「......スー。今すぐにでも怒鳴り散らしてやりたいが、時間もないし本題に入る。まずは最初の質問だ。ロジェ殿、貴方は今回のネオリス残党の動きをどこまで知っていた?馬鹿げた話だが、未来予知のような力があるのではないだろうな」
――ロッキーさんまで何言ってんの?なんかあーるんみたいな馬鹿な事言ってるんだけど。どうしてみんなそんな馬鹿げたことを真顔で言うんだろう。そんな能力ある訳ないじゃん。
「...こんな事を私が言うのもなんですけど、ふざけてるんですか?さっきまで時間がないとか言ってたのにそんな質問するなんて――真面目にやらないなら私帰りますよ。正直答えられる事なんてありませんから」
すると、再び水晶玉が水色に変化した。この言葉は全て嘘ではない正真正銘の本音である事が証明されてしまった。これ、全部の発言を判定するから余計な発言すると相手を怒らせそうでやだな......
「私は最初からずっと真面目だし、さっきまで『偽りの結晶』で遊んでた奴がそれを言うなッ!ロジェ殿がどこで情報を掴んだのかは知らないが、『今にでも動きがあるでしょう』と言った瞬間ネオリス残党が動き出したし、依頼前に発言していた『嵐のような天候に見舞われるかもしれないし、魔物か何かに花嫁の方の人格が乗っ取られるかもしれない』というのも式場で実現したではないか!サウジストへの道中の事だってある。これはどう説明するッ!」
そういえばそんな事あったなぁ。いや全部適当言っただけだよ?ネオリスの方はそんなつもりで言ってなかったし、後者もまさか全部実現されるだなんて思わないじゃん。確かに適当な事を言ってる時ほどその通りになる事はあるけど、それだって実際に実現しない事のが遥かに多いし、私に聞かれても答える事は出来ないよ....。
「それは全て私も知りませんでした。全部たまたまですし、未来予知の力なんてあるわけないですか。式場のは私の運の悪さと実力不足による偶然です。大体、私のこんな発言を予言だなんて言い始めたら本職の人に失礼ですので、変な事言うのはやめてくださいね」
ほら見てよ。水晶も水色じゃん。どう見ても本当って事が証明されてるんだし、あーるんにこの光景を見せて私に未来予知の力がないって教えたいくらいよ全くっ!
「本当....だと?じゃあなぜ貴様は起きる未来を言い当てる事が出来る。まさか魔道具か?それとも魔法なのか?発言がここまで実現するなど理解が追い付かん.......」
どう答えるか悩んでいるとグレイが手を挙げて答えてくれた。そうそう。こういう私が困ってる時に助けてくれるのがこの男なのよ!彼はちょっと頭のネジが外れてる残念な所があるけど、基本的には気遣いの出来るイケメン天狗だし、誰よりも優しいから最高なの!さんはい!決めちゃいなさいグレイ!
「そんなの決まってるじゃねえか。全部こいつの才能と実力って事だろ。こいつは本当に未来が見えているし、こうやって煽りにしか聞こえない文言だって全部に何かしらの狙いがある。あとこいつは魔道具なんて1つも持ってないし、その程度の事で変な事を考えてると痛い目見るぞ、おっさん」
その発言を聞いてロジェは水晶にかざしていた右腕を動かし、軽く涙目になりながらグレイの頭をすぱーんと叩いてやった。
――私的にはそういうフォローは求めてないっ!これは実力でもなんでもないし、これまで一度もロッキーさんを煽った事も意味のある発言もしたことないわっ!!!
「........貴様らの漫才に毎回付き合ってられるほど私は暇ではない。あとこの際だから言っておくが、幾ら大きな実績を持っているからとはいえ、くれぐれもこの街で騒ぎを起こさないように頼むぞ。今の帝都は別件で手が離せない以上は大きな問題を起こされても困る。絶対だ!分かったな!特にロジェ殿、問題児の飼いならしはしっかりしておくように」
「ロッキーさんって本当に私達の事なんだと思ってるんですか?別に言われなくとも問題なんて起こすつもりはありませんし、第一問題なんて向こうから勝手に来るんですから回避したくても出来ません。こちらでも最大限に気を付けますが、変な事を口にしたら本当に騒ぎになるのでやめましょうよ。人間の口というのは災いの元なんですよ?」
数回口に指を指して問題を起こさないと宣言してみるが、何故かそれを聞いたロッキーさんが深く頭を抱えていた。私なんか変な事言ってる?もしかして信用されてないのかな。ならおとなしく私達を見捨ててこの国から解放してよ.....。




