第三章 01 『帰り道』
本日から第三章が始まります!全体的に日常の色が強めになりますが、よろしくお願いします!
ロジェ達は馬車に揺られること約2時間弱、ようやく帝都に辿り着くまであと少しの所まで来ていた。最初サウジストに行く時は、いるはずのない巨大化したサンドホークの群れに絡まれたり、サウジストの街をぶっ壊すなど色々とあったのだが、帰りは比較的平和だった。
――そう。平和なのはロジェだけであって、それ以外は全く平和ではなかったが...
「へ、へいわだなー」
「僕が言うのもなんだけど、君達はいつもこんな感じなのか?この街道で何があったのかは知らないけど、この魔物の遭遇頻度は明らかに異常だよ譲ちゃん」
「....こんなの普通ですよ。猪鬼もさっきまで来ていた色が少し変わってる青色のオークの群れも全部優しいジャブみたいな物ですお兄さん。なぜか知らないですが私は運が悪いので、行く先々で群れが襲いかかって来るのも当たり前なんですから、こんなので驚いてたら私はもう死んでます。それに元冒険者のお兄さんならこの程度の群れには驚かないでしょ?」
「それはそうだが...そもそもここは街の街道だし魔物が群がるような場所じゃない」
「あはははは....」
案の定帰り道は全く平和ではなかった。事前情報ではこの街道は定期的に人が通るという理由で弱めのオーク辺りが単独で出るかもしれないとしか聞いていなかったのだが、何故かロジェ達はこの2時間ずっと魔物の群れに襲われ続けている。事前情報と全然違う。
そのせいで街を出る前に私達を説教してきた御者のおじさんや帝都で馬車の護衛依頼を受けていたと思われる冒険者は現在生気を失い、今にも死にそうな顔をしていた。
馬車の中で魔物の断末魔を背景にセージと話をしながら軽く現実逃避をしていると、群れを狩り終えた二人が当たり前のように移動中の馬車の中に戻ってきた。今もそこそこの速さでの移動してるのに、どうやって中に入ってきてるの君達。
「見て見てロジェちゃん!さっき倒したやつ!行きは見れなかった猪鬼の頭の顔面だよ!グレイちゃんに取られる前に僕が頭をねじ切って持ってきたの!すごくない!?」
「おい待てよあーるん。確かに今の群れの頭はお前に譲ったけど、個体を倒した数的には俺の方が多いんだから俺がお前より弱いみたいな言い方するのはやめろ。数なら俺の方が多い。だから俺の勝ちだ!」
「あれあれぇ?まさかグレイちゃん、負け惜しみ?魔物の群れは量より質の方が大事だよ?」
「うんうん...相変わらず何言ってるか分かんないけどすごいね」
――整備された道にオークはともかく、商人みたいな戦闘初心者が猪鬼の群れなんて相手したら普通に死ぬんだけど本当にこの道整備されてんの?まさかとは思うけど整備の仕事をサボってんじゃないでしょうね。
グレイとあーるんはどちらも血の気が多い子達なので、運が悪い私が外に出ればその場所では考えられない程の強さを誇る魔物の群れや単体で強い化物に遭遇する関係上、それらを蹴散らす度に二人はこうやって私に自慢してくるのである。
正直私は戦ってないからどっちが凄いかなんてわかんないし、死んだ直後の魔物って結構グロいから見せてこないでほしい。
「はぁ~!やっぱりこうやってグレイちゃんがいると群れを倒したかいがあって最高だなぁ。一人で黙々と鎮圧するのも悪くないけど、やっぱ数を競える相手がいるとやりごたえがあるんだよねー!」
「言いたい事はわからなくはないけど油断はするなよ?これから何が起こるか分からないし、おかわりがくるのがいつもの流れなんだから」
――いくら運の悪い私がいるからってそんな警戒しなくても何も起こらないよ。というか何も起きないでください....。
「ねーねーロジェちゃん!まだまだ狩り足りないから次は何の群れが来るのか教えてくれない?ロジェちゃんならこの場所でも強い魔物も簡単に呼べるでしょ!」
「.....何言ってるか分からないけどそんな都合よく魔物がこっちに何度も来るわけないでしょ?大体私は未来が見えてるわけでも魔物が操れるわけでもありません。だからこれ以上は何も来ないでしょう!ちゃんちゃん」
というかそんなに魔物ばかりこちらに来られても困る。
魔物の群れの死体を街道に放置しまくってるんだから、死体の匂いに反応した強い魔物が群がってくるという二次災害が起こる事まで考えると早く処理を頼まなければかなり危険だ。帰ったら一番にロッキーさんに街道の後片付けの依頼と街道の整備してるのかって文句言ってやろっと。
「えー。なんかそれつまんなーい。僕はまだまだ動き足りないのにぃ!.....じゃあグレイちゃん。魔物寄せちょーだい!僕は今暇だからこの辺にいる奴らを全滅させる勢いで動きたい気分なの!」
「一応あるけど試すか?村の外に呼び出し食らった時に思いつきで作った試作品が1つだけあるが効果時間も範囲も上手く機能するかわかんねえんだ...。前作った奴の倍近くの呼び寄せ効果があるから暴れたいってんなら丁度いい代物だと思うぞ?効果は30分を前提に作ってる」
そういってグレイが自身の薬品鞄から血の色よりも赤黒い色をした薬品を取り出して話を進める。色からして明らかに危険だし、前作っていた物もかなり強力で広範囲に効く確実な違法薬物だったのだが、それよりも強い薬品を作るとか何を考えているの?馬鹿なの?
「......それ、明らかに法に引っかかってるような危ない薬品じゃないでしょうね?前作った魔物寄せでもかなり強力だったと思うんだけど私の勘違いだったかしら。」
「逆に引っ掛かってないと思ってたのか?でも大丈夫。ちゃんと解除方法も用意してるし、そもそも人がいるとこで使う気はねえんだ。いくら違法薬物でも使わなきゃバレないし犯罪にならない。そうだろ?」
――そういう問題じゃない.......アウトだよアウト。そういった違法薬物に助けられた事もあるし、とにかく好奇心旺盛なグレイの事だから今更止めはしないけどあんま良くないよ...。
「うんうん。最悪捕まりそうになったら監獄なんてちょろいとこを全部ぶっ壊して出ればいいし、グレイちゃんは僕の修行の為に作ってくれてるから止めないよー!むしろもっと頑張って!」
「―――私もそれに助けられた事が多いから止めはしないけど、やるのは程々にしなさいよ。あと、バレなくても犯罪だし、捕まったら大人しくしてないとダメだから!」
「.......嬢ちゃん達、みんなめちゃくちゃ言いすぎだぞ。君達全員の事情は聞いてるし、僕的には素材さえ卸してくれればそれでいいから文句言わないけど、君達は今回の件で名前が売れたんだからある程度は常識を持っておいた方がいい」
「えー。セージちゃんがそれ言うの~?いつもお金をちょろまかしてんのぃ?」
そんなこんなで暫くすると血に飢えたあーるんが魔物寄せを馬車の中で使おうとしたので、即座にロジェが浮遊魔法で取り上げて蓋が簡単に開かないようにする。
その光景を見てキルメがその違法薬物に興味を持ったのか自力で触ろうとロジェの膝の上でジャンプしていた。
普段はグレイの事を何よりも怖がっているし、薬品なんかに全く興味のないキルメが興味を示すなんて珍しい事だ。その薬品をロジェが近くまで運び、ジャンプしても届かなさそうにしてるキルメの目の前に持ってきてあげる。
「なになに?もしかしてキルメもその薬品使ってみたいの?僕も今すぐにでも使ってみたいんだよねぇ!」
「夜明けの時だ!」
――いやそんなわけないじゃん。確かにこの猫は軽く火を吐くとか、飛べないくせに小さな羽が生えてるとか、変わった所多いけど、ただ色が気になったとかだと思うよ?
そんな事を考えていると、突然薬品を咥えたキルメが開いている馬車の窓まで移動し、即座に薬品を外に向かって思いっきり投げ捨てた。どうやらキルメはこの薬品が嫌いすぎてこれを外に捨てたかったらしい。
「........え?ちょっとキルメ!?あなた一体なにやってんのよ!」
突然の出来事に流石のあーるんも開いた口が閉じなかった。猫は勘が鋭く、警戒心の高い生き物として有名だが、何を考えてあんな危険な薬品を外に投げたのか全く予想出来ない。
「はぁ...これじゃあアレの性能も詳しく分からねえし、どこに飛んでったのか分からねえから俺でも解除出来ねえぞ。誰か人に直撃してねえといいが......」
「流石の僕でも追うのは無理かも......飛んで探すのもありだけど、そこそこの速さで飛んでったからどこに落ちたか分かんないし、そもそも蓋が閉まってるから匂いも追えないや。ごめんねロジェちゃん。」
――なんかもう厄介な事になりそうですごく現実逃避したい。もう帝都に帰る事すらやめようかな....。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
「ようやくあの問題児が戻ってくるか」
ロッキーは先日の戦争と影の鼓動の件についての事後処理をしながら王城のとある一室で彼らの帰りを待っていた。
「.....強制的な命令を出さない限り戻ってこないのはこちらでも予想していたが、まさか1週間も帝都に帰ってこないのは予想外だ。一体何を考えているのだ奴らはッ!こっちは起こった出来事によるストレスで倒れそうだというのに!」
帰ってこない理由はある程度予想はついている。ロジェ達を探しに来たあの男がやらかした件で『怒られる』とでも思っているのだろう。行動からしてそうとしか思えない。
あの男に協力してもらった事でネオリスとの戦争は一気に終戦に傾き、その後影の鼓動の奴らを見つけ次第テレポーターで全員牢獄に送るよう指示したが、彼は仕事は完璧にこなしていた。なのでその件については感謝はしている。
だが、それを差し引いても文句を言いたい事が山程あった。
この国の一般人に奇妙な薬品を飲むよう強要してそれを断った相手には峰打ちで気絶させたり、よくわからない姿をした魔法生物を突然街中に解き放ったりとやりたい放題しすぎだ。
堂々と王城の一角を壊した上に、この建物にいた皇女殿下にまで手を出そうとした事だって本来許される事ではない。本当なら今すぐにでも死罪にしてやりたいが、あの男の持っているポーションのおかげで救われた人も多いし、不思議な事にそれで人が死んだとか何かが壊れたとかが1つもない以上手は出せない。
それに奴は確実にロジェの味方な以上、そんな事をすればあの問題児二人が黙ってるわけがない。あの二人を怒らせれば何が起こるか分からない以上はロッキーの勝手な判断で死罪まで持っていく訳には行かないのだ。
「しかし、本当に影の鼓動の壊滅を成し遂げるとはな....」
あまり詳しい事は聞けていないが、アルロから聞いた話によると、どうやらロジェが組織のトップとして内部に潜入して大混乱を起こし、相手の計画をめちゃくちゃにして終わらせたらしい。聞いた時にはすぐに理解出来なかったので思わず「は?」と言ってしまったし、何度も確認しても同じ返事が返ってくるので今はそれを信じるしかなかった。
そもそもあの手の犯罪組織は簡単に忍び込めるようなものではない。記号や暗号、特定の装飾品を用いた上でボスにしかない要素を使って確認するのが普通だ。そんな都合良く組織のボスと特徴や暗号が一致する筈がないが、一体何をどうやればそんな事が出来るのか全く理解出来ない。
「それでも結果だけみれば、彼女の行動は完璧に正解を引いている。何故だ.....?」
ロジェがこの国を出る前にネオリス残党が動き出す事を完全に言い当てた事も含めて、一度直接話を聞いて手法や手口を確かめる必要がある。
本当に未来を見ている可能性は否定できないが、そうだと仮定するとあの言動はあまりに不可解だ。普通なら誰かに助けを求めたりするはずだし、一人で事件を解決しようだなんて思わない。
そんな事を考えていると部屋のドアが勢いよく開いた。そこにいたのは鎧を着た一人の男だった。緊急の用件以外はそんな無礼をする者なんて王城に誰一人としていないし、騎士団の人間がそんな事をするわけがない。きっと何かが凄い事が外で起きたのだろう。
「どうした?今度は一体何が起きた。問題児三人が早速騒ぎでも起こしたか?」
「緊急の用件です!本日、『星晶占有院』から予言が出ました!星詠みと水晶透視が、同じ結果を示しています!」
「両方一致だと.....?」
『星晶占有院』とは、この国で起こる事件や事象を星の動きや配置から読み取る『星詠み』の技術を持った者や、『水晶透視』と呼ばれる特殊な技術を用いて、水晶から特定の近未来を見通す特別な力を持つ者が多く存在する国家の主要機関の一つだ。
片方だけなら予言が外れることもある。だが星と水晶が同じ未来を示した場合、それは『確実に起こる大事件』である可能性が高い。
なにせノックもせずに騎士が血相を変えてこの部屋に殴り込むほどの案件だ。それなりに大きな事件性のある物に違いない。
――そういえばその機関は最近まで不気味な程に静かだったのに、ロジェ殿がこの国に来てから毎日のように騒がしくなっている気がする。これは偶然か?それとも.......彼女の存在が何か世界を歪めているのか?
「はい。予言の内容は『この国に多くの人集められし時、多くを魅了するその見た目は一瞬で絶望へと誘い、それにより何人もの死人が出るだろう。』との事です。相変わらず遠回しな言い方をしたうっすらとした内容しか分からないので何とも言えませんが、どうしましょうか?」
「幾ら実力ある者でも見通す未来に限度がある以上は文句は言わん。予言に関してはいつも通りだが今回もノーヒントに近いな...。予言に関係ありそうなのは今度行われるオークションやその時に同時開催される料理大会や露店といったところだが、全体的にそのイベントについては一度警戒する必要がありそうだ」
ロッキーは次々とやってくる案件に頭を抱えながら、事後処理を続ける事にした。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
「一体なんだこれは...」
ダンジョン攻略を終わらせて一度近くの街を経由し、帝都へと帰還している途中の冒険者パーティが目の前に広がる多種多様な異常な数の魔物の死体を見て驚いていた。
帝都でもそれなりに強いと有名な⦅氷嵐⦆の二つ名を持つロリイーネ・ダイスキルア率いる『霜刻の凍鳥』は六人組のパーティだ。
これまでも数々の困難を乗り越えてきたが、ここまで強力な死臭を放つ街道なんて聞いた事がない。
そもそもこんな見通しの良い普通の街道にこの数の魔物の死体が放置されている自体がおかしいのだが、誰かがダンジョン攻略の帰りのロリイーネ達を存在事消すために仕掛けた罠だと考えればこの異常な環境もある程度は納得できる。
パーティの中で副リーダを務める狙撃手のキースが何かおかしい事を察したのか、口を開いてこう言った。
「ロリイーネさん。そういえばさっき経由した街で帝都のマークが付いた馬車が1台出ていくのを見ましたぜ。中に誰がいるのかまでは分からなかったですが、羽の生えた変な黒猫を引き連れている黒髪の女と手足の不自由がなくなるくらいまで買物袋を抱えた変なゴーレムみたいな奴がその馬車に乗り込んでました。確定とは言えませんが、奴らが魔物寄せか何かを使ってこの数の魔物を呼び寄せ、この惨状を起こした可能性があります。というか俺達より先に街を離れたわけですし、これ以外にもまだ何か仕掛けてあるかもしれません」
「ほう...帝都にそんな事をする奴がいるのか。おいベイス、何か気付いた事はあるか?」
ロリイーネの言葉を聞いて、特徴的なアフロの髪型をしている一番年齢の若い盗賊職の男、ベイスが答える 。
「特に変わった事はないですが....俺達の通ってる道の途中にこれが捨てられてました。恐らくですが、ここまでの濃度の物は帝国法に違反するレベルの違法薬物の物かと。幸いまだ魔物は反応してねえみたいですが、この場所からさっさと逃げなきゃ俺達もまずいかもしれないです」
そういってベイスが見せてきたのは赤黒い色をした魔物寄せだった。ここに居続けたら死体がある以上、今よりも興奮した魔物が大量に引き寄せられる事だろう。普通の冒険者ならすぐにでも逃げ出すはずだ。
――だがこの場所で魔物寄せを投棄されたこの状況を見て見ぬふりをしたら、先程寄ったサウジストの街はどうなる。
この魔物寄せがどのくらいまで効果が続くかは分からないが、冒険者は基本的に一般人よりも強い以上、弱い彼らを全力でを守りなければならない。それが冒険者の常識であり、普段から冒険者の身分がある程度優遇されている理由でもあるのだ。
幸いな事にロリイーネの実力は帝都の中でもかなり高い部類なので、仲間全員と協力すれば普通の魔物寄せの効果時間であれば稼ぎ切れるだろう。誰よりも正義感が強く、誰よりも弱者を見捨てる事が嫌いなロリイーネは見て見ぬふりを取るという判断を取れなかった。
「よしお前ら。今すぐ俺が地面や草木を凍らせて時間を稼ぐ。その隙にこの魔物の死骸を撤去して襲撃に備えろ。『霜刻の凍鳥』の名にかけて俺達であの街を守り切るぞ!」
「そう来ると思ってましたぜ。それでこそ俺達のロリイーネさんだ!」
霜刻の凍鳥のリーダーがそう宣言すると、全員がリーダーの指示をこなすために動き始めた。
――この数の死体を放棄し、俺達に魔物寄せをぶつけて来た冒険者.....いやこれほどの事が出来る実力者め。俺達を完全に怒らせた事を後悔させてやるッ!
この状況を作り出しておきながら大量の死骸を放置し、それだけに飽き足らず魔物寄せを使った後処理を自分達にぶつけ、堂々と喧嘩を売ったとされる黒猫を引き連れた女の性根を叩き潰す。この時、ロリイーネはそう神に誓った。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
「へっくちょん!うぅ....急にくしゃみが出たけど誰か私の事でも噂しているのかしら。何か悪い事の前触れじゃなきゃいいんだけど...」
ロジェは帝都まであと少しの所で突然強い寒気を感じ、何か最悪な事を予感させるような不穏なくしゃみをした。
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