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第一章 08 『依頼』

 


「ちょっとヒューさん!貴方一体何考えてるんですか!勝手なことばかりするのは辞めてください!」


 王城に連行され、勝手に会議へと参加させられた挙句、ダンジョンの調査依頼にまで巻き込まれることになったロジェは、用件が終わって部屋の外に出た瞬間、ヒューの胸ぐらを掴んで壁に押し付けて怒っていた。あまりの威力にヒューが壁に少しめり込んでいる。


「まぁまぁまぁ…。落ち着いてよ。僕だって悪気があってこんな事をした訳じゃないんだ。」


「はぁぁぁぁぁあああ!?大体ずっと私は名誉なんて要らないって言ってましたよね!なのに貴方は勝手にここまで連れてきて会議にまで参加させておいて?私の了承なしに?ダンジョンの調査依頼にまで巻き込む。自分が今何をしているのかわかってるんですか!? これの!どこが!悪気がないって!言えるんだぁぁぁぁぁあああ!!!!!」


 言葉にすればするほど酷すぎる出来事にロジェの怒りが完全に爆発している。

 怒りすぎて今まで必死に作っていた「冷静沈着」のキャラが完全に崩壊してしまっていた。


「悪気は本当にないんだよ!これはロジェさんのことを思ってやった事なんだ!僕の仲間達とある程度交流を深めてたらきっと助けになってくれるし、ダンジョンや物資の情報なんかもくれるからきっと役に…っていててててて!痛い痛い痛い!」


 あまりに奇天烈な事を言ってくるので、ヒューの手首を色が変わるくらいまで抓ってやった。手首は人間の中でも分かりやすい神経の集まっている急所である。


「そもそも!私はあなた達と絡む気はありませんし、それじゃあ何一つ良いことがないじゃないですか!なのになんでダンジョンの内部調査なんていう時間もかかるとても面倒な依頼に私を巻き込むの!私は!知名度を!上げたくないの!!!!」


「大丈夫大丈夫。その辺はあとでロッキーさんに頼んで公にしないよう交渉するから問題ないよ。あの人は帝都でもかなり偉い人だし、僕とあの人は付き合いが長いから大体のこと何とかしてくれるって!それに僕はこれ以降勝手な真似はしないって約束するから今回だけは協力してくれないかい?」


「交渉ですか!?今更そんな交渉が役に立つわけないでしょおおお!!!貴方はここに来るまでの事忘れたんですか!」


 それはロジェがヒュー達に王城まで連行されている時の話である。


 ロジェは道中で何人もの一般市民に感謝されていたのだ。

 中には貴重な魔道具や高級食材などを渡そうとしていた者やぜひ顔合わせをしたいと言ってきた有名?な貴族の者までいた。


 そこまで広まっているならばあの時の魔法(やらかし)は、ほぼ全ての帝国市民に伝わっていると見た方がいいだろう。要するに今更そんな事しても手遅れなのである。


「初めて会った時からそうですけど、ヒューさんの言ってることはめちゃくちゃ過ぎます!私は絶対に受けませんからね!勝手に仲間達とダンジョンに行けばいいんじゃないですか!!!」


「そこをなんとか頼むよ。会議であんなこと言っちゃったし、依頼を受けておいて君が参加しないのは前代未聞過ぎるし…」


「!? 勝手に受けたのはヒューさんじゃないですか!私は!受けてません!!!」


 そんな言い合いをしていると、奥の方から男性2人と女性1人が歩いてきた。

 体から溢れる高い魔力量や鎧や武器を持っているのを見る限り恐らくどこかの冒険者だろう。すると彼らに気付いたのか、ヒューが叫ぶ。


「あ!おいお前ら!丁度良かった。良い話を持ってきたんだ!ちょっとこっちまで…って痛い痛い痛い!だからそれやめてくれよ!めちゃくちゃ痛いんだからさ!」


 ヒューが叫んで呼んでいる所を見る限りどうやら彼らはヒューの仲間達だったらしい。こちらへと向かってやってくる。


 胸ぐらを掴まれた現場を見た3人の反応はそれぞれ違っていた。


 盾を背中に背負っている鎧を着た大きな男は呆れたような表情をし、弓を背中に背負った黒髪の優男は声を出して大笑いしている。

 杖を持っている前髪を揃えた白い長髪の女性は申し訳なさそうな顔をしながら私の方へとやってきて小声で言ってきた。


「どなたなのかは存じ上げませんが、うちのリーダーが迷惑をかけてしまいごめんなさい。これで釣り合いが取れるか分かりませんが、あとでリーダーのことは回収しに来るので、貴方が気が済むまで思いっきりボコボコにしてやって欲しいのです。」


 予想していなかった言葉が聞こえてきたので、思わずロジェは驚きが止まらない。


「え?良いんですか?一応確認しておきますが、彼は貴方のパーティの人ですよね?そんな事しても大丈夫なのですか…?」


 すると、目の前の白髪の女性は不思議そうな顔をして答えた。


「はい。何も問題無いですよ?私達はこう見えて全員治癒魔法を使えますし、彼は昔からこうしないと中々懲りないので気にする必要はないのです!私も彼に少し鬱憤が溜まってたので、ボコボコにしてやってください!」


「そ、そうなんですね…」


 彼女はそう言い残すと、全員でその場を去っていった。

 去り際に彼女が小さな紙を渡してきたので確認すると、中には建物の名前と住所らしき物が載っていた。


 きっと彼女達はそこに居るのだろう。気が済むまでボコボコにしたらそこに行こう。


「お、おい!お前ら!俺達の仲だろ?助けてくれよおぉぉぉぉ!!!」


 その言葉を聞き、白髪の女性がジャンプしながら後ろを振り向き、杖を後ろに回して言った。


「今回に関しては、リーダーの自業自得なのです!その方に対して何をしたのか知りませんが、どうせいつも通り何かやらかしたんでしょ?だったら大人しくそこて反省しててください!」


 普段から厄介事ばかりするので、仲間内でもかなり鬱憤が溜まっている。とかいう事情があるのだろう。

 ロジェは白髪の女性の発言の真意を理解出来ていなかったが、そういう物なのだと無理やり理解することにした。


「…。とりあえずヒューさん。何か言い残したことはありますか?」


「ん?いやいや…ロジェさん?君は一体今から何を…?」


「私は今…とても怒ってるんですよねぇ…」


「え?」


「せっかく帝都までこれたのにぃ…次から次へと厄介事に巻き込まれてぇ…更には目の前にいる疫病神(ヒュー)によってダンジョンの内部調査までやらされそうになってるんですよぉ…」


「ちょちょちょ!一旦落ち着こ?こここここういう時は深呼吸だ!深呼吸!」


「おまえらみたいなまともな魔法も使えない未熟者にずっと目をつけられてこっちはストレス溜まってんだよぉぉぉおおおお!!!ク"ソ"が"ッ"!!!!」


 仲間達から攻撃する許可を貰っているので、私は満面の笑みを浮かべながらヒューの顔面目掛けて勢いよく拳を振るう。


 1発フェイントでヒューの顔の真横にある壁に向かって拳を当てて、めり込んだ壁から手を抜くと彼は気絶していた。


 龍相手に自ら攻撃を引き付けるような怖いもの知らずのヒューだが、どうやらロジェが本気で怒った時の迫力とあまりにも早い拳の速度には耐えることは出来なかったらしい。


 そういえば子供の頃にグレイ達から本気で私が怒ったら村の近くにいる強い魔物よりも圧倒的に怖いって言われてた気がする。私ってそんなに怖いのかな…?


 結局1度も彼に物理的なダメージを与えることは無かったが、感情を爆発させたので割とすっきりした。


「ふぅ…。とりあえず彼の仲間に事情を説明しとかなきゃダメよね!なんか変な噂を立てられちゃ困るし誤解は解いておかなくちゃ。」


 許可は貰っているのでとりあえず気絶したヒューを床に放置し、貰った紙に書いてある場所に移動し、急いで仲間達を呼びに行くことにした。




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「…なるほど。なんか色々とうちのリーダーがごめんなさい。まったくっ…!あの人は何やってんだか。」


「なんか色々とすまねぇな。あとで馬鹿には色々と言っとくからロジェさんも今回の件は大目に見てくれないか?まだ不満だったらあいつのことを気が済むまで殴ってもらって構わねえよ」


「もう!ランスは余計なこと言わないのです!もしそれで本当に死んじゃったらどうするのですか!!」


「大丈夫大丈夫。あいつはなんだかんだ運が良いし、いつも無茶するけどなんだかんだ生きてるだろ?そう簡単には死なないって。」


 いや、さっき本気で殴ろうとしたら殴る前に彼は何故か気絶しちゃったんですけど???多分本当に殴ってたら彼は余裕で死んでたと思う。


 私は今王宮の近くにあったとある宿舎に来ていた。中に入ると見覚えのある3人組が居たのですぐに合流し、宿舎の一角にあった1つのテーブルを借りてリンと名乗る魔導師とランスと名乗る弓を背負った武器職の男と話をしている。


 最初はもう一人鎧を着た男がいたのだが、彼は王城に放置されたヒューを回収するべくすぐに外へと出ていってしまった。なんか手間かけちゃってごめんなさい…。


「私の方は気にしなくて大丈夫ですよ。皆さんの様子を見る限り彼が悪い方ではないのがよく伝わってきますので、この件を私からは咎める気はありません。」


「な、なら良かったのです…。」


「それよりロジェさん、今のうちに話しておきたい事があるんだが1つ言っても良いか?」


 恐らくダンジョンの調査依頼のことだろう。何か良い感じの妥協点があるなら少しくらいは考えるけど、ヒューと同じ感じなら即言われたら断ろう。もう変なことに巻き込まれるのはごめんなのよ!


「はい。私は全然構いませんよ?恐らくですが、【双璧の砦】の件ですよね?」


 ランスが胸元の内ポケットから依頼書を取り出し、そのまま内容がロジェに見えるように持ちながら話を続ける。


「そうだ。その件で1つ頼みたいことがあるんだ。もう察しているとは思うが、この依頼で俺達に手を貸してくれないか?」


 隣にいたリンが突然立ち上がって頭を下げてこう言った。


「わ、私からもお願いします!私はロジェさん程の魔力も実力もないですが、私で良ければ出来る範囲でなんでもお手伝いするので協力して欲しいのです!」


「…その件なら今のところ私は協力する気はありませんよ?現在私の魔力はあまり残っていないので直ぐには向えませんし、そもそも私は名誉が欲しい訳では無いので受けるつもりはありません。」


「3人でさっき話し合ったんだが、ダンジョンでの戦闘は全部俺達でやる予定だ。勝手にこの依頼に巻き込んだのはこっちだし、うちの馬鹿が色々と迷惑かけてたみたいだからせめてもの詫びだ。ロジェさんはやるとしても後ろから補助魔法なりでサポートするだけでいい。」


 あれ?ダンジョンに行きたくなかった理由の1つである戦闘問題が何故かあっさりと解消されてしまった。

 オマケに彼らは帝都でもトップクラスに強い冒険者らしいので、彼らが守ってくれるなら基本何が起きても大丈夫だろう。


 だが、それはそれとして気になることがある。


「…どうして私の参加に拘るんですか?別に私ではなくても他の方が居れば何とかなりますよね?」


「それはだな。まぁー…依頼に向かう参加者の数が揃わないとダメだからってのはもちろんあるんだが、それ以外にもちゃんと理由があるんだ。ロジェさんが一緒にくればダンジョン内部にいるだろう生き残りの龍が逃げ出して無駄な戦闘を避けられると見ている。」


「……それはつまりどういうことですか?」


 私から魔女特有の体臭とかオーラとか何か出ているのだろうか?そうだとしたらそれはそれで最悪だけど…。


「ロジェさんは前に龍の群れを魔法を使って1人で食い止めただろ?それとこの調査の件が深く関わっているんだ。この前襲ってきた群れはこのダンジョンの生物である可能性が高いと国の偉いさんは見てるらしい。もしそれが本当ならば、今はあのダンジョンの中に龍がほぼ居ないはずだ。だからロジェさんが一緒に来てくれれば、生き残った龍達もロジェさんを見つけた途端に怯えて逃げるかもしれないって思わねえか?」


「でもそれってただの推測ですよね?もしそうじゃなければ――」


 言葉を言い終わる前にランスが机に手を軽く叩き、先程よりも力を込めて言う。


「いいや俺はその線で合ってると思ってる。帝都近辺で氷龍が出現する可能性があるダンジョンは【双竜の砦】だけだ。あそこなら火山や氷山に湖など様々な地形が発生しているからな。俺はその賭けに無理してでも乗るべきだと考えている。」


 なるほど…。そういう理由だったのか。そういえばなんか昼間に会った風龍達もそんな感じの名前のダンジョンについて何か言ってたような?話真面目に聞いてなかったから分かんないけど…。

 まぁでも今回はちょーつよい護衛もいるし見に行くだけなら悪くないかもしれないわね。戦闘しなくてもいいわけだし。


「はぁ…しょうがないですね。わかりましたよ。私もその依頼に協力しましょう。ですが1つだけ条件があります。それでもよろしいですか?」


「ホントか!?今更取り消すってのはナシだぞ!」


「やったぁなのです!私とロジェさん程の魔力を持つ魔導師が入れば怖いものなんてありませんよ!」


「…あの、ちゃんと条件は守ってくださいね?」


 私が依頼に付き合ってくれるのが余程嬉しかったのだろうか?2人のテンションが最初あった時よりも明らかに上がっている。

 まぁ彼らならヒューよりちゃんとしているし条件くらいは守ってくれるだろう。そもそも条件って言っても「私が参加した」って事実を公にしないでもらうだけだし…。


 そんなことを考えていると、良いタイミングで鎧の男が真っ白になって気絶しているヒューを担いで帰ってきたので、彼を交えて再び打ち合わせをするのだった。



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