第二章 50 『魔女vs影武者④』
シャドーはこの戦いを始める前、ある程度勝率が高い動きを確立して動いていた。
リトルメアという悪魔がやられる事は想定外だったが、この場にいくら待っても式場にいるはずの増援が来ないのには理由がある。
この女を確実に消すにはどうやってでも1:1の構図を作らなければ勝てない。そう思ったシャドーはまず《紅焔轟者》を上手く別空間に誘導してやった。仕組みは簡単だ。空間隔離の魔法を入れた保存指を持たせた完璧な自分の分身を使って時間はかかったが、なんとか式場内部の別室に連れ込み、空間を丸ごと隔離してやったのだ。
オマケに、今いるこの屋外式場付近の場所に繋がる通路には全て土魔法で使った頑丈な壁を幾つも貼り、部外者は簡単に乱入出来ないようにしてある。下準備は完璧だ。
リトルメアがやられた以上30分が経過すれば元の場所に自動で戻ってくるが、ロジェという女の手法は既に見破っているのでそれだけ時間があれば十分に勝てるはずだ。既に10分ほど経過してるし、まだ予想の範疇でしかないが、恐らく奴は精霊や魔物を自由に操れる代わりに何か制約がある魔導師であると踏んでいる。そういった物がなければあの戦いでわざわざ偽物を使ってまで戦う必要がないからだ。
――それならば相手の弱点を逆に利用してやればいい。そうシャドーは踏んだ。
制約に詳しいわけではないが、人智を超えた強力な能力を持つ物は基本的に何かデメリットがあるはずだ。ノーリスクで強力な力を使える者なんてこの世に存在しないので、相手の抱える制約を破れば確実に大きな隙が生まれる。その隙に確実に消すという作戦で動いていた。
だから糸を差し向けて『生命の危機に陥る事をしてはいけない』のか試したが違った。
だから岩を直接落として、『物に直接攻撃してはいけない』のか試したが違った。
たまたまとは言え、悪魔を差し向けて『人間以外の種族に襲われてはいけない』のかもついでに試した......が、普通に帰ってきたので多分違うだろう。
そうなれば戦闘に関する制約で考えられる制約の内容は1つしかない。『直接人を攻撃してはいけない』という制約だ。
だからこそシャドーは巨大な岩に苦戦している間に大量の糸を奴の周りに配置し、その場から動けないように追い込んだのだ。本人は何も分かってなさそうな顔をしながら近くにいた金髪の女の魔導師と呑気に話していたが、あれほどの策略家が自分が追い込まれている事に気付いていない訳がない。だからこそ何かあるかもしれないと一層警戒をしながら奴に向かって剣を差し向けたのだ。
相手がここから生き残る為には、剣を持って襲い掛かってくるシャドーを魔法で吹き飛ばすか、物理で蹴るなりして対抗するしかないので、どうやっても制約に違反する状況が完成する。
「これで終わりだああああ!」
こんな咬ませ犬のような発言をしながら相手の間合いに入り、わざと剣術初心者のような動きをして相手を殺せるなんてシャドーは思っていない。
――ここで大事なのは相手にわざと攻撃される事だ。
剣が当たるかなんて最初から全く期待していない。本当に相手の事を殺すのは相手が制約に違反して動けなくなったその瞬間だ。その時に出来た大きな隙を狙って確実に息の根を止める。
そして距離が500m,300mと近くなる。そして構えた剣先が相手の顔に直撃しようとしたその時、相手が何か魔法を使ったのが分かった。感じたのは魔法が発動した時に現れる独特の気配だ。シャドーの想定通り動いたこの女に初めて知恵比べで勝ったと思うと少し笑みが零れる。
そして2人の距離がついに硬貨4枚分になった瞬間、戦況は動いた。
目の前の女が何も手にしていない左腕を突然差し出し、剣で斬ってくれと言わんばかりに差し出してきたのだ。
――な、なんだと…!?普通この場合は自ら進んで自分の手を差し出す選択肢はありえないはずだろ!こいつは何を考えてる!
理解不能だった。魔導師にとって腕とは生命線だ。腕が無ければ魔法を発動する際に使う手が使えなくなる事を意味する。仮に魔法を使うときに杖が無くても、魔導師は基本指先や手の平を経由しなければ魔法を使えないのだ。使用方法が限られているからこそ相手のこの行動が理解できない。魔法に通ずる物が自ら腕を犠牲に差し出すなんて頭がおかしいとしか言えない。
そして剣と彼女の手が交わった時、グロい音を立てながら彼女の腕が綺麗に切り落とされていった。彼女から流れる出血量は異常だし、斬り落とした感覚はあった―――そのはずなのだが、1つ違和感を感じる。
――妙だな…。人を斬ったにしては剣があまりにも軽すぎる。
それは斬った感触だった。人を斬った場合は普通神経や骨などがあるので、斬り手もそれなりに硬い感触を感じるはずだが、今回はそれが全く無いのだ。感じた感触はまるでスライムを潰した時に感じるあの柔らかい感触とほぼ同じである。
――まさかとは思うが…1度試してみる価値はあるな。
斬り落としと言うのに、痛みを感じた表情をする訳でもなく、悲鳴を全く上げない目の前の女に違和感を抱く。そして彼女の周りにあった糸を全方位から直撃させた。その瞬間、目の前の女の顔や全身から血が一気に血が溢れ出す。それはまるでトマトを握り潰したかのような赤い血の塊が飛び散る悲惨な光景だった。
そして少し様子見してからもう一度女の事を見るが、やはり生きている気配は無いし、何かが変だ。これほどの痛みを受けていながら悲鳴を上げないのはやはりおかしい。不思議に思ったシャドーは、真っ赤に染まった女の死体に触れるとその感触からとある結論を見出した。
「これは...紙か?という事は――そうか.....!このままではマズい!早く術を解かなければ――なにかやばいのを仕掛けられる!」
今自分が見ているこの空間は、相手が作った幻覚だ。そう悟った瞬間、シャドーは人が変わったかのように、目の前の視界に入る物全てを剣や糸を使って全てを破壊し始めた。この場でシャドーが行動出来るという事は相手も同じ条件のはずだ。いくら幻覚で目の前の状況や景色を錯覚させる事が出来るとしても、感じる時間軸まで変える事は不可能なので、このまま放置すれば相手が術を解いた瞬間不意打ちで殺されてしまう可能性が高い。
そして最後の1本の木を斬った瞬間、自分の視界が変わった。恐らく条件を満たした事で幻覚が解除されたのだろう。
そしてその瞬間、巨大な火の鳥が自分に目掛けて飛んでくる。すぐさまシャドーも魔法で攻撃を受け流そうとするが、火の鳥と同士に身動きが取れなくなるほどの痛みのある強くて切れ味のある風によって動きを妨害され、シャドーに2つの攻撃が襲いかかった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
――やばい、思ったよりも気持ち悪くて吐きそう。
ロジェは自分が使った魔法、『揺らぎの世界』の副作用で苦しんでいた。
この魔法は自分の体の周りを1枚の薄い結界で固め、結界に触れた相手の視野に入る世界を静止画に変える魔法である。
簡単に纏めると、自分が世界が完全に静止した世界、まるで写真の中にいるみたいだと錯覚させる幻覚魔法だ。
この魔法の被害にあった人は、自分の目の前にいる人物や草木を完全に消すまでは魔法から解除されないし、『魔法発動者』も『結界に触れた相手』も互いに相手に干渉する事は出来なくなるという制限がある。
デメリットは魔法発動者の半径1m以内にいる超至近距離の相手にしか発動しない事と、魔法発動者の視界が紙のようにゆらゆらと揺れ続けるので、どれだけ酔いに強い人間でも気持ち悪さでその場から動けなくなる事である。
いくら相手に幻覚を見せられるとはいえこの魔法は一瞬のタイムラグが発生するので、ロジェは腕を剣で軽く斬られた痛みと魔法の効果による吐き気の二段構えで結構酷い重傷を負っていた。
「ロジェさん大丈夫ですか?さっき糸から脱出する際に受けたダメージもありますし、体も他人から見ても分かるくらいには震えてるじゃないですか。そんな状態だと少し心配ですよ..。」
「わ、私は大丈夫だから....ベージュはセレーナみたいにこの男が魔法を自力で突破した瞬間に攻撃出来るよう準備しておいて...。これ全部私の魔法の副作用だから...気にしないで――うぷっ!」
ロジェはついに限界を迎え、その場で盛大に吐き出してしまった。ロジェはこの糸の檻から脱出する際にも少々無理をしたのだ。
今は残り2本になっていた回復ポーションを1本使って怪我した腕は全て治療したが、最初は糸の檻から抜ける為に警棒を持った右手を無理やり動かして脱出した。その時受けた物理的なダメージはかなり深刻で、腕の骨も確実に何本も折ったし、神経も確実に死んだ。こんな経験は初めてだ。
今はポーションのおかげで全て元通りになっているが、脱出の際に受けた精神的な疲労が大きく、何本も腕を貫こうとする鋭い糸の痛みを簡単に忘れられなかった。思い出すだけで体が大きく震え始めるほどの寒気がする。
――私はこんな所で潰れてる場合じゃないのに....いつ相手がこの魔法を理解するかも分からない以上早く戻らなきゃ。
痛みの経験から体がかなり震えているが、こんな所で怯んでいる暇はない。シャドーに対する立ち回りを決めたのは自分だ。戦いに全く関係ない二人を巻き込んだくせに、作戦の中心人物がこんな腑抜けだと話にならないし、合わせる顔がない。
震える手足をなんとか落ち着かせ、時間をかけて立ち上がると、突如として『揺らぎの世界』の効果が切れる感覚が走った。先程まで異常なほど悪かった視界も一瞬で元に戻っていく。
「まさか……今、魔法が解けたわ。ベージュ!セレーナ!アレをやってちょうだい!」
「はい!僕の方は任せてください!」
「見様見真似だけど、今の私なら成功させれるはず…!これでも喰らいなさい!」
そう言ってセレーナが巨大な1つの火の鳥を直撃させ、ベージュがシャドーの真横から風の塊を刃物のようにして攻撃する『鎌鼬』と呼ばれる風魔法で応戦する。
2人の息のあった同時攻撃は確実にシャドーに直撃していた。
あの男なら何か回避しているかもしれないが、多少なりともダメージになるはずだ。
「よっしゃあ!これならある程度は動けなくなるはずです!いくら土魔法でもこの広範囲攻撃2つは中々避けきれませんよ!」
「油断はまだダメよ。相手は組織を引っ張るボスだから構えは解かないで。強い奴ほど隠し玉を持ってるものなんだから、ここから突然襲いかかってくる可能性もあるわよ!」
ベージュは喜んでいるが、こういう時は油断してはいけない。戦闘というのは自分の目で確認しない限りは終わらないのだ。
そして暫くすると、案の定シャドーは攻撃を致命傷にならない程度に回避していた。2人が魔法を使う前よりも服の傷や流れる血の量は増えているが、シャドーは上手く土魔法を利用して攻撃を軽減していたらしい。致命傷とまでは行かないがそこそこダメージを受けたようだ。
「……貴様も吾輩と同じくあそこまでの虚術を使えるとは驚いたぞ。まさかこの吾輩が化かされるとは思ってもみなかった。」
「――あれは虚術なんかじゃないわよ。あなたみたいな人には分かんないかもしれないけど、あれは私の努力で生み出したオリジナルの魔法なんだから!」
この魔法は無駄に術式が複雑だから覚えるのだってかなり苦戦したし、あんなメリットがあるようで全くない魔法なんて使おうとする者は基本居ないのだ。ロジェは自分の命を守るためだけにこれを覚えたので、間違えてはない。誰も使わないならオリジナルと言っても過言である。
「ほう...まぁいい。とりあえず1つ警告しておこう。そこのガキの魔導師共。こんな所で無駄な戦いをしてないで、この場で死にたくなければ1度この戦場から大人しく引け。吾輩は貴様らには用はない。用があるのはそこの忌々しいアホ毛の女だけだ。」
――あれ....?関係ない人を逃がそうとするなんてシャドーってもしかして、良い人なのでは?そもそも私はあなたを直接怒らせるような事してないよ....攻撃を押し付けたのは悪かったってば.....。
「嫌よ!私達は絶対引かないし、そんな事したら後でマスターに怒られちゃうもの!私達の事、舐めないでもらえるかしら。」
「気遣いには感謝しますが、その要望だけは聞けませんね。確かに実力はまだまだ未熟だけど僕達にだって捨てられないプライドがある、ガキかどうかはこれを見てから判断してもらいましょう!」
そう2人が宣言すると、互いに息のあった連携で2人の魔導師が動き始めた。セレーナが炎魔法を、ベージュが風魔法を同時に使うと、魔法の影響からか突如として戦場の風が騒がしくなり、この場だけ異常に気温が高くなる。まるでそれは熱さだけで自分の体内が切り裂かれて燃えてしまいそうになるような戦場に様変わりする。
――――これは....もしかして炎魔法で体内を焼くほどの熱を与えて、そこに風魔法で衝撃波を加えて攻撃してる...?
2属性魔法は一人でやった方が何倍も効率がいいし、何より魔力を1点に集中させる方が簡単だが、2人で協力しながら使う事で1人で行う場合よりも威力を上げているのだろう。同時に同程度の威力の魔法を使い続けるのは至難の業だが、ペアで行っているので魔力の残量を気にする必要があまりないし、何より魔法の気配をあまり感じさせないので静かだ。
相手に魔法の気配を感じさせないという事は対応が遅れる可能性があるので、攻撃が当てやすいメリットがある。
「発生させた熱に魔法を乗せるとは中々息の合った名コンビだな...これが続けば吾輩とてこの攻撃は長くは耐えられない。だが甘い!」
シャドーが指を指を鳴らすとベージュ達がその場で少しずつ弱っていく。恐らくこれは私が前の戦いで最後に食らった精神攻撃と同じ物だ。時間が経つに連れて彼女達の顔色が少しずつ悪くなり、魔法の効力が少しずつ落ちていく。
「またそうやって逃げるつもり?ピンチになったらそうやって相手を弱らせるなんて卑怯よ!」
「吾輩は逃げるつもりはない。確かにこのガキ共の連携魔法は強かったし、これは一人では受け流せなかっただろう。何よりこの攻撃を続けられれば厄介なのだ!だから『絶望の滅び唄』で一時的に無効化した。何か問題があるというのか?」
続けられれば厄介...?何か守らないと行けないものはなさそうに見えるし、特に理由なんてなさそうだけどなんでなの..?
シャドーの言ったその発言が引っかかる。一人で乗り込んで来たのだから周りを守る必要なんてないはずなのに....何かを隠しているかもしれないが----それが分からない。
挙式に乗り込む事までの事を考えればこの場にも何か仕掛けられている事を考えれば可能性は無限だ。相手は土魔法を得意としている以上、地雷のような術式が地面に埋め込まれていてもおかしくないし、時間差で虚術が発動するかもしれない。
「大問題よ。それならそんな余計な事せず私だけを狙えばいいじゃない!」
「いいや。貴様はこうせねば倒せない。吾輩はまだ確信を持っているわけではないが貴様は制約に縛られているはずだ。だからこうすれば貴様は吾輩に対して何もできない無力の魔導師になる。違うか?」
――制約...?なんの事か分からないけど、もしかして私が攻撃出来ない事を見抜かれてるのかしら。バレてるなら相当厄介ね。
「私に制約なんかないわ!勝手な事を――」
話の途中だったのだが、シャドーの真後ろからロジェに目掛けて高速で紫電を纏った雷光が幾つも飛んできた。突然の出来事に流石のロジェでも回避できずに直撃してしまったので全身が軽く焦げ、かなりのダメージを受ける。
――相手が魔法を使った気配が全くないし、何より発動までの独特な気配が全くなかった...何かおかしい。
ここまで高速で強い雷光を発動させるにはそれなりに強力な雷魔法が必要なはずだ。なのに魔法の気配が全くないと言う事は保存指などで起動させた少し弱めの攻撃の可能性が高い。
あれほどの見た目をした強力な攻撃を受けたのにロジェが気絶せずに生き残っているのが何よりの証拠だ。この威力と速度なら普通は耐性のないロジェはこの攻撃を受ければ、その場で完全に動けなくなる程の致命傷になっている。
「はぁ...はぁ。まさかとは思うけどこの場所に『仲間』を連れてきてるでしょ。どこまでも卑怯な男ね!」
「あぁ。そうだ。この場に吾輩が一番信用している仲間がいる。貴様も3人で戦いを挑んできたのだからお互い様だ。」
「.......私の事まで相手にバレてるなら仕方ないですね。お初にお目にかかります。帝都から来た実力者さん。あの攻撃をもろに食らったのにまだ生きてるなんてしぶといし厄介ですね。」
木陰から出てきたのは眼鏡をかけた茶髪の女だ。一見特徴もなくあまり強そうには見えないが相手が最も信頼する相手なら話は変わる。何か変な魔法で援護されてもおかしくないし、何よりロジェは一人だけだとまともに戦えないのだから1:2の構図で襲われたら完全に無力だ。増援も中々来ないし、色々と詰んでいる。
「なんてこった...。私、今までで一番大ピンチじゃない。私もここまでかしら....」
「とにかく貴様は終わりだ。吾輩にここまで喧嘩を売り、組織を荒らした罰を知るがいいッ!」
そういってシャドーはロジェの足元の地面を隆起させて空中に飛ばし、空を飛んだロジェに向かって何本もの糸を飛ばしてくる。さっきの攻撃でかなりダメージを受けている上に、糸を見るだけで腕や体に受けたダメージの事を思い出すので震えが止まらなくなる。植え付けられたトラウマによって脳が拒絶反応を起こして上手く体も口も動かない。このままでは魔法を唱える事も出来ないだろう。自分に迫った死を覚悟する。
――私の人生もここまでね....こうなれば何も出来ないしもう無理よ。死ぬ前にせめてグレイとあーるんに会いたかった....。
そしてロジェは全てを諦め、目を瞑って自身の死を覚悟したその時だった。突然誰かに両手で抱きかかえられる感触を感じるが、何故か嫌悪感は無いし、とてつもなく安心感を感じた。理由は不明だが自然と体の震えが止まるしで不思議である。死ぬ直前だしどうでもいいけど。
『お前....そんなボロボロのメイド服なんか着て何やってんだよ。戦闘中のくせにふざけてんのか?』
聞こえてきたのはは本来この場にいるはずのない男の声だった。それも最も聞き覚えのある力強て頼もしい男の声だ。
――これはきっと走馬灯...あの男がこの場所にいるわけがないし絶対幻聴だよね。そんなわけないもんっ!
『何があったか知らねぇが、どうせまたいつもみたいに無茶苦茶な事してたんだろ?てか一緒に来てるはずのあの馬鹿はどうした!』
――確かに私は無茶はしたよ。まだ実力が足りてない魔導師二人に無理を言って戦場に立たせたし、私も補助に入りながら戦えない私の代わりに戦闘させた。でも相手が強すぎて意味なかったのよ。私なんかが相手して良い敵じゃなかった。勝手なお願いしといてあんな目に合わせちゃって本当にごめんねベージュ達。
『おいロジェ!寝たふりはしなくていいからさっさと反応しろ!お前が口を割らなきゃなんもわかんねえだろ!』
――いや寝たふりじゃないけど。どうせ死ぬんだから諦めて目を閉じてるだけだし走馬灯のくせに勝手な事言わないで貰えませんかねッ!喋り方まで本物そっくりだし、そこまで綺麗に再現する必要なんてないのよ!!!
『はぁ...もういい。お前がそうするってんなら俺は止めねえから勝手にしろ。』
---そういえばさっきからなんか糸の攻撃来なくない...?目を瞑る前の時点で結構距離が近くなってたはずなんだけど。.....もしかしてこれ、現実?
もしかしてこれは走馬灯ではないかもしれないと思ったロジェは恐る恐る目を開けると、そこにはロジェが最も信頼を置く親友の一人、グレイがロジェの事を両手で抱えていたのだった。
「....え?ぐぐぐぐグレイ!?あなたなんでここにいるの?あなたはサウジストに居るはずがないのにどうして....?」
「はあぁ?最初っからずっとそうだって言ってんだろ?てか俺の声で気づけよ声で!何年俺の声聞いてんだよお前は!」
「――別に疑ってたわけじゃないけど..何かの夢なのかなぁ...って思ったのぉ...。」
ロジェは今置かれている状況を全て理解した。グレイとは昔から付き合いが長い男だし互いの事はよく理解している。
だからこそ自分がボロボロのメイド姿で盛大に負けている所を見られただけでなく、彼に助けられてお姫様抱っこをされるとかいう羞恥の塊のような事をされたという事実が、恥ずかしさの限界を迎えて思考回路が爆発したのだ。あまりにも恥ずかしいので顔を真っ赤にしながら手で顔を隠すが、あまり意味はないだろう。
――てかなんで、その訳分からない赤い狐の面を私に付けようとすんの?どうせそんなの付けたら碌な事にならないんだからやめてよっ!
「そもそも目ぇ開かなかったのはお前だし...とりあえずこのまま居られても邪魔だから一旦ここから下すぞ。良いな?」
「えー。うんうん分かったぁ...」
――恥ずかしすぎてグレイの話なんて聞いてられない....。穴があったら今すぐに入って土の中に埋まって窒息死したいよぉ...。
ロジェは恥ずかしさにより完全に思考回路が停止している。そのせいで何か聞かれれば即頷いてOKを出してしまうだろう。そのせいで彼女は気付かなかった。この男に空中からポイ捨てしても良いという許可を出してしまったことを。
そしてロジェはそこそこ高い場所から地面に向かって凄い勢いで落とされた。状況を確認する為一瞬手を顔から離したせいで顔面から地面に着地したので凄く痛い。
「ちょっとグレイ!あんた一体何考えてんの!こういう時はポイ捨てせずに優しく地面に寝かせてあげるのが普通でしょうが!」
「うるっせぇよバーーーカ!そもそも俺はちゃんとお前を地面に下すって宣言したし、この程度の高さなら落ちても死なねえからいいだろ!それに担ぐ方にもなってみろ。良い歳した奴を担ぐのって結構重いし、やってる側は結構疲れんだから、むしろ感謝してもらいたいもんだな。」
「はあぁぁぁ〜?流石に言って良い事と悪い事があるわよ!全くもーーーっ!」
――――こういう時って女性を慎重に地面に寝かせるのが普通なのに、迷いなく空から捨ててこの発言が平気で出来る辺り、やっぱりこの男は乙女心という物を全く分かってないわね....。正直助けてくれたのはめちゃくちゃ嬉しかったし、カッコよかったのにこれじゃあ全て台無しよっ!




