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第二章 49 『魔女vs影武者③』

「こりゃぁお手上げかも…完全に空間が切り離されてるし式場から出られないっぽい。…ったく、最後まで手間かけさせやがって。」


「セージ様と共に私も内部の探索をしましたが、こちらも特に収穫がありませんでした。どうすればここから出られるのでしょうか...」


 あーるんはようやく動かなくなったスペアを背負いながらこの場所からの脱出方法を探っていた。


 スペアに精神が壊れてもおかしくないほどの痛みを付与したのに、この男はあそこから立ち上がって剣を振るってきたので、そこから更に戦いが長引いた事からあーるんもかなりダメージを受けてしまった。時間はかかったが最終的にあーるんがギリギリ生存出来るくらいの体力を残してスペアを気絶させたのだ。


 この剣士は間違いなくかなりの強敵だったし、この男から学ぶべき点も多かったのであーるんの中でとても満足度の高い相手だった。こいつがまた起きた時の事も考え、相手が持っていた剣を他の場所に隠し、まだある程度戦えるあーるんが背負う事で相手からの反撃を許さない形を取っているのだった。


「とりあえずどうするんだい?姉ちゃん。この空間を起動させたと思われる魔道具はこの男が壊したせいで戻れなさそうだけど。」


 それはスペアの悪足掻きだった。この男は自分が倒れる前に蠟燭型の魔道具と自身の指につけていた保存指(スペアリング)を剣で2つに切断して使えなくしたのだ。こういう空間転移した状態で脱出用アイテムを壊されると、専門の知識がなければ脱出することは出来ない。

 それなりに魔道具に知識があるセージや自分が壊れた魔道具を見たが、二人だけじゃ分からない特殊な仕掛けが施されている物だったので、多分これも虚術が用いられた改造品なのだろう。その魔法に知識がない以上何も出来ない。


「この男は全く目覚める気配ないし困ったなぁ...せめて同じような魔法が使えたらいいんだけど僕は魔力が生活出来る程度しかないからそもそも魔法自体使えないし...ロジェちゃんも心配だしどうしよう…」


 ―――こういう時ロジェちゃんならどうするんだろう。というかそもそもあの子は無事なのかな...


 正直あーるんはこの閉じ込められた空間の事よりもロジェの事をずっと心配していた。式場には強力な炎魔法を使える《紅焔轟者》がいるが、ロジェは何に巻き込まれていてもおかしくない体質をしているので心配が全く減らない。

 もしかしたら屋敷で戦ったあの腹立つ男にまた襲われてるかもしれないし、前と同じように戦えば、いくら最強の魔女でも負ける可能性は少しくらいあるだろう。あーるんは割とボロボロだが、全く動けないわけではないし、彼女の為なら命なんて惜しくもないので一刻も早く加勢しに行きたい。そもそもあーるんは厄介な呪いを持つロジェに戦場の前線になんて立って欲しくないと思っている。


 そんな事を考えていると、突然この部屋から何か異常な力を感じた。まるで空間が丸ごと破壊されるかのような強力な力だ。色々な修羅場を乗り越えてきたあーるんでも、まるで山の噴火のようなここまでの強力な力は感じた事がない。


「二人共!この部屋にある机でも椅子でも何でもいいからしっかり摑まりながら舌嚙んで!何か凄い力がこの部屋に流れ込んでくるから体制を維持しつつ意識をしっかり保って欲しい!」


 確実な事は言えないが、今まで生きてきた経験上こういった強力な力が突然付与される時は、他人が人の精神に干渉してくる可能性が高い。今は別空間にいるのだから誰かがこの存在を知って外部から手を加えて助け出そうとしているかもしれないし、原因の排除が出来て空間の繋がりが元に戻ろうとしているかもしれない。だったら今は強力な精神負荷や物理的な振動に耐えなければならない。そう思ったのであーるんはそういう指示をした。


 突然起こった大きな揺れに耐えながら周りを見ると、セージとアルロも指示を聞いてその通りに行動に移したようだ。大惨事にならないことを祈りながら、あーるんも自分の自我を保つために行動に入る。


 ――ロジェちゃん。元の場所に戻れたらすぐに助けに行くから待っててね。


 大好きな一人の魔女の無事を願いながら。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ――あんな事を堂々と宣言したけど、今回大丈夫かなぁ...。


 ロジェは堂々と宣戦布告をしたがあの時と違って不安しかなかった。今回は『空想の具現化(イメージ・スモーク)』は持ってないし、攻撃魔法だってベージュとセレーナに無理させなければまともに使えないのだ。

 一応ある程度の動きは決めてから空間から出てきたが、二人には悪いけどこの戦力だと一人で何匹も興奮した魔物を相手出来るシャドーに勝てる気がしない。


 正直ベージュ達が言うまで襲ってきたのが影の鼓動のボスという事の確信が持てなかったのだが、さっきの空間で目の前にいるシャドーの情報は色々と集めてきた。空間転移に関する契約が消えた事も、契約特典として付いてきた2つ目の命は無くなっている事も教えて貰っているので、前よりはある程度戦いやすくはなっているが本人自体の戦闘面は何も変わっていないのであまり意味をなさない。


 あの自称悪魔は『フィールプレッション』で感情を消せば勝手に消滅したし、弱った事をいい事に脅せば勝手に情報を吐いたり人質を解放してくれたりしたのでなんだかんだ良い人だったが、まさか目覚めたら愛護団体の二人っぽい人がシャドーに痛めつけられているなんて思いもしなかった。そんな相手に無力すぎる私は誰かが来るまでの時間稼ぎが出来るだろうか?


 とりあえずベージュ達に被害が及ぶと取り返しの付かない事になりかねないので、相手に狙われているであろう私から二人を遠ざける。するとシャドーが口を開いた。


「何をどうやったのかは知らないが、まさか貴様如きに我が使い魔が負けるとは思わなかった。その姿を見る限りどうやら色々と知っているようだな。」


「えぇ。あなたが使う魔法や戦闘スタイル、そしてあなたが空間転移を悪用して別空間に私の仲間を連れて行った事も全部知ってるわよ。あの自称悪魔は消滅したからそのうち増援もここに来る。だから降参するなら今のうちよ。」


 ――正直な事を言うと私はシャドーの魔法よりもあの宴会芸みたいな魔法の方が知りたかったけどねッ!


 ロジェの発言を聞いて、シャドーは高笑いを上げながらこう言った。


「....ぶ。ぶははははは!この前も言ったがやはり貴様は甘い。むしろ交渉の腕が更に落ちていて笑いが止まらんぞ!」


「.....結局何が言いたいのよ。」


「あの使い魔を倒した程度で吾輩が負けると思っているのがあまりにも可笑しくてな。貴様の道化っぷりには呆れすぎて笑いが止まらないだけだ!糸で切り刻まれた果物のように潔く散るがよい!」


 そしてシャドーは不意打ちと言わんばかりに、手元に潜ませていた細くて頑丈な糸をロジェに向かって飛ばしてきた。糸の飛んでくる速度がかなり早いので、ベージュ達に念波で指示を出して魔法を使って貰ったとしても詠唱が間に合わないだろう。


 ロジェは相手から不意打ちをされる事をある程度想定していたので、ずっと手を入れていた薬品鞄から効果を確認せずに1本のポーションを糸にぶん投げた。ほぼ反射的に投げたのでこれがもし『爆発』や『恐怖』だったらこの式場は大惨事になるだろう。どこまで被害が出るのか分からないし、相手にダメージを負わせたらロジェも呪いの影響でその場から動けなくなってしまう。


 ――とにかく攻撃系ポーションじゃありませんように...あ、でも糸をいい感じに弱体化はしてほしいかも...。


 そんな事を祈りながらロジェは目を瞑って糸に真っ二つにされる覚悟をしていた。そしていつまで経っても痛みがやってこないので恐る恐る目を開けると、飛んできた糸が全て巨大な黒色の丸い物に変化していた。


 ――実物は見たことないけどこれって確か...滅びた文明にあったとされる『タイヤ』かしら?多分ミヤマクワガタと同じく変身系のポーションだったのね....書物でしか見た事なかったけど、本物は初めて見たわ。


「なんだこれは...吾輩の作った斬糸が全て作り替えられただと...?この重い模型じゃ戦えないではないか!」


「魔法によくある術式の兆候や発動の気配は全く無かった...でも糸は突然変化してる。でもどうやって..?魔法でやれそうな現象だけどあれは魔法じゃないわけだし....」


 どうやら目の前の状況に飲む込めてないシャドーとベージュはあまりの驚きで口が塞がらないらしい。そもそもこれって魔法じゃないし考えても無駄だよ....


「私だって腐っても魔導師よ。これくらいの魔法は簡単に出来るし、大体話の途中で不意打ちしてくるなんて卑怯じゃない。そんな事するなんてそれほど私が怖いのかしら!」


 ――魔法じゃないけど、この現象を分かるように説明するのは無理に等しいので、とりあえずそういう事にしておこう...


「....なるほど。なら吾輩も堂々と攻めるとしようではないか。他の奴らはともかく貴様だけは確実に首を取る予定だ。あの日貴様に与えたはずの敗北とやらをもう一度思い出させてやるわ!」


「私、あなたなんかに負けたと思ってないからっ!」


 シャドーがすぐさまタイヤを退けて動き出した。そしてシャドーは自ら作り出した岩を虚術で1つの長い剣に変換して襲い掛かってくる。まずいと脳内で即座に判断したロジェはすぐさまテーブルに乗っていた1枚のガラス皿を掴んでビックスポットンで巨大化させてすぐさまシャドーに投げる。


 そして巨大化した皿が割れた瞬間、皿の割れた無駄に高い音が会場にいた全員に響き、皿が割れた事で鋭く尖った破片がシャドーの体内に突き刺さった。皿が割れた時に発する音の高周波数は基本5~15kHzだ。人はこの付近の周波数を脳内では『危険信号』と捉えるようになっているので、音の不快感と突然の危険信号によって一瞬怯む人体の仕組みを利用した猫騙しのような攻撃である。


 音の影響でシャドーが一瞬怯み、相手の移動速度が少し落ちたのでそこに対してロジェは事前にセレーナに伝えて、遥か上空に用意してもらっていた沢山の火炎弾に向かってアクトピクチャを使った。


『セレーナ。シャドーの右足を狙ってアレ、一気に落として頂戴!』

『は、はいっ!』


 念波を通じたロジェの言葉と同時にセレーナが大量の火炎弾をシャドーに向かって大量に落とした。ロジェとベージュ達は元々合図を出したら魔法を落とす算段で動いていたので作戦通りに火炎弾を落とし始める。それらが地面に落ちた瞬間、シャドーの周りで演出だけが強化された火炎弾による大爆発が起きた。


「チッ。余計な搦手を。」


 その様子を見てシャドーは一度大きく退き、空から連続で降ってくる火の強力な塊を自身の土魔法を生かして相殺していた。演出を凄くしただけなので威力自体は中級の炎魔法程度しかないが、気付かれないうちに何とかしなければならない。


「まずいですよロジェさん。確かに私の魔法が未熟なのもあるけど、相手が完璧に攻撃を相殺しています!このままじゃそのうち突破されかねません!何か手を打たなきゃ!」


 何故か近くまで来たセレーナが涙ながら何か訴えてくるが、ロジェはどうすればシャドーをいい感じに弱体化出来るのか真剣に考えていた。ロジェはあの時のように無限に分身が作れないので正面から戦っても勝てないと分かってる以上、今やるべき事は拉致されたあーるんや街の外にいると思う『すいめい』さんがこの場所に来るまで時間を稼ぐ事なのだ。どうすれば更に時間稼ぎが出来るか考えていると、唐突に関係ない事を閃めいてしまったた。


 ――私も魔法自体の基本的な部分は抑えてるし、『虚術』で何か戦える武器を増やせばいいのでは?


 お試し程度でしか魔法を触っていないので分身の生成や攻撃手段として何かを生み出す事は出来ないが、さっきまで使っていた警棒ぐらいなら作れなくはないはずだ。無機物の小さな物なら原理さえ分かっていれば再現は出来なくはないので、涙目で話しかけてくるセレーナや目の前の軽い災害を無視しながら何か使えるものがないか探し始める。杖媒体の物さえあれば魔法の標準が合いやすくなるし、最悪物理で攻撃出来るかもしれない。


 ――初心者が虚術を使うならそれなりに頑丈でかつ大きさがある程度同じじゃないと出来ないんだよね...何か出来る物があればいいんだけど....


 そんな事を考えてながら探していると、地面に落ちているトングを発見した。物を挟む為に2つに分かれているが、大きさ的には悪くないのでそのまま使う事に決めた。


「ロジェさん、トングなんて持って一体何をするつもりですか?そんなんじゃ何も出来ないと思いますが...」


「秘密。これをあなた達が知るのはまだ早いわ。とりあえず今から私は集中するから絶対に邪魔しないで。」


「は…はぁ。分かりまし…た?」


 適当にセレーナを足払い、ロジェは虚術の術式を思い出しながら物体を変化させる。この魔法は術式よりも物体をうまく形を想像する力の方が大切なので、目の前の事は全て忘れて形の想像に集中する。


 ――確か警棒って先端がそこそこ長かったわよね..。そして…ボタンと折り畳み機能みたいなのがあって...えーっと...えーっと....とにかく硬いし意外と持ち手が太い!あとはあとは………


 ダメだ。あれだけ警棒を使ってたのに見た目的な特徴が全然正確に思い出せない。このままだと警棒どころかただの木の枝に成りかねないからちゃんとやらなきゃダメなのにッ!他に何か特徴ってあったっけ...。


「戦闘中に余所見などやけに余裕だな!これでも喰らうがいい!」


 そう言いながらシャドーが片手で巨大な岩をロジェの頭上に出現させた。恐らくそのまま落とせばロジェは簡単にぺちゃんこになるだろう。


 ――まずいこのままだと潰される!えーと…えーと…そうだあれなら今すぐ作れるわ!


 ロジェは即座に『とにかく威力が高い爆弾』を想像し、岩に向かってぶん投げた。突然の出来事に理解が追いつかないセレーナが口を開いたままその場で固まっている。


「これでも喰らいなさい!」


 トングは掴む必要があるので爆弾は縦長の状態で2つ作られた。きっとこの魔法を極めていればトングでさえも1つの巨大な爆弾になるのだろうが、そこまでやるには魔力も知識も足りてないので今は出来ない。1つの爆弾は岩に、もう1つはアクトピクチャの魔法を使ってシャドーの足元に向かって投げて時間を稼ぐ。


 案の定トング媒体の爆弾だけでは岩は壊れなかったが、少し離れた場所にいたベージュが追加で風魔法の斬撃を放ってくれたので何とか降ってくる岩との直撃を避ける事が出来た。


「ロジェさん。あの魔法は一体…?」


「これは秘密って言ったでしょ?まだ実用的な所まで出来てないから制御が甘い魔法だし、成功してるのかも怪しいから今は気にしないで。それよりもセレーナ。あなたは今すぐ細長い棒って作れるかしら?作れるなら今すぐ警棒みたいな形にして作って欲しいの!」


「……え?あ、はい…出来ますけど…。」


 セレーナが困惑しながら氷の警棒を作り始めた。記憶力のないのが仇となってこんな恥ずかしい要望をするだなんて思ってもいなかった…。すぐにロジェは作られた氷の警棒に虚術を使ってすぐに今まで使っていた警棒と同じ物に作りかえる。


「よし、これで準備は完了ね!」


「これ…一体何の意味があるんですか…?」


 ――それは………私も聞きたい。もしかしたら相手の土魔法を警棒で物理的に薙ぎ払えるかもしれない事と魔法の標準が合わせやすい以外のメリットはないよ…。


 ロジェは飛んでくる岩の残骸をを警棒で跳ね除けながら口を開いた。


「………まぁ、私にも色々あるのよ色々。これは杖代わりに使うから必要だし、セレーナも油断はしちゃダメよ。相手は厄介な魔法を使うし、それを使わなくてもめちゃくちゃ強いんだから。」


「は、はぁ…。杖…ですか?警棒なんかじゃ魔導師の持つ魔力に耐えられませんし、魔力変換率が高くなるような機能も備わってないので、杖代わりに出来ないと思いますけど...。」


 あまり知られていないが、実は魔導師は杖などなくても手から直接魔法を使う事は可能だ。なのに魔導師全員がそうしないのには魔法を使う際の安全面を考えた結果である。


 例えば炎魔法を使った際、術者が魔法の影響を直接受けて手が焼けて使い物にならなくなる可能性があったり、術式に使う大量の魔力を1箇所にかつ正確に解き放ち続けるのはとても難しいのだ。


 そこで先人は「そんな難しいことするくらいなら、専用の杖を作って魔法を使った方が楽じゃないか?」と考えたので魔法杖を開発し、術者の安全と魔法の正確さを維持する為に極力杖を使う事が推奨されている。


 ――火傷したり凍ったりする属性魔法を一切使わないロジェの魔法にはそういった危険が一切ないので、無縁の話だ。


 そして使用する杖もなんでも媒体に出来るわけではない。

 魔法杖と言うのは魔力を込めた時にかかる強力な負荷に耐える事を想定されて作られた物だ。魔法を使う際に流し込む魔力の力というのは軽い噴火のような爆発力を秘めている。

 なので強力な回復魔法や攻撃魔法などを使う場合は杖にかかる負荷が格段に大きいため、発動途中に杖が折れると周りに甚大な被害を及ぼす事がある。だからちゃんと魔法の使用を想定された杖やアイテムを使わなければ危険なのだ。


 ――魔力を媒体に流し込んで術を発動しているのではなく魔法の発動は直接手で行っており、媒体になる杖はあくまでも空中の相手に狙いを定める為にしか使っていないので、これもロジェには無縁の話だった。


「私は少し変わった魔導師だから警棒一本で十分よ!」


 それを聞いてセレーナが再び口を開けたまま固まってしまった。どうやら彼女はこの現実を受け入れられなかったらしい。何も珍しい事じゃないよこれ...。


「ロジェさん!今すぐそこから離れてください!攻撃がそっちに向かってます!」


 一体何の話だろうか?別に変わった事なんて何もないじゃん。シャドーは居ないけど急にどうしたのベージュ...。


 念のため周りを見渡すがパッと見は何もなかったので、一旦深呼吸でもしながら落ち着こうとしようとしたその時だった。さっきまで細すぎて良く見えなかったのだが、凝視すると何本も自分の首元や目の前に見慣れない物が仕掛けてあった。


「――これは....糸?」


 突然現れた糸に驚いていると、シャドーがロジェの目の前に姿を見せて剣を構えたまま飛び出してきた。避けようにもロジェの周りには切れ味の良さそうな糸が大量に巡らされており、一歩でも動けば糸によって体や首を斬られそうなので左右に避ける事は不可能だ。だがこのまま何もしなければ私は相手にそのまま斬られて死ぬし、脳や心臓が絶体絶命の状況だと知らせる危険信号を何度も出している。どうやらさっきの巨大な岩は自分の周りに糸を張り巡らせる為の時間稼ぎだったらしい。


 ――要するにこれ、詰みでは?こんな事されたら私はどうする事も出来ないよ...


 ベージュがいつでも発動出来るよう仕込んでいた突風の魔法を使うが、糸はビクともしなかった。そしてベージュとセレーナや急いで新たに魔法を使おうとするが、彼らはまだ経験が足りていないのでリンや『すいめい』さんのように即座に魔法を放つ事が出来ない以上、助けを期待する事は出来ないだろう。


「これで終わりだあああ!」


 そう言ってシャドーがまた一歩と距離を縮めてくる。


 ――どうせ失敗したら私も死ぬよね...こうなったら一か八かよ!


 そして斬られるまでの距離が硬貨数枚程の距離になった瞬間ロジェは魔法を使い、この絶望的な状況を打開する為の大胆な賭けに出る。そして暫くするとロジェの腕や体に剣や糸が深く刺さり、彼女の大量の血が屋外会場の緑の大地の一部を赤く染め上げた。

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