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第二章 48 『食す者と食される者』

 ――また新たな料理がこの空間に来たか。


 リトルメアは自分のいるこの空間に新たにやってきた迷い人の気配を察知する。

 リトルメアは悪魔族と呼ばれる禁忌の種族だ。シャドーとリトルメアの関係は、契約精霊ならぬ契約悪魔という対等の関係と言っていいだろ。シャドーとの出会いは相手が15歳くらいの頃だった。あの男が禁忌とされていたはずの召喚型魔道具を使用した事で現世に召喚され、契約の証を結んだのだ。本当ならリトルメアは契約などせずその者が持つ魂を喰らい尽くし、相手の身体を乗っ取るつもりだった。


 だが、奴からはその年ではありえない異常な程の魔力と、人間とは思えない強い野心が見えたのだ。


 ここまで魅力的な存在を見たことがないとリトルメアは歓喜した。この男を利用すればこの世に存在する生命体全ての『悲鳴』を味わえるかもしれないからだ。リトルメアにとってその感情は、人が食事をして生きるための力を授かるように、生きていく上で欠かせない栄養素と言っても過言ではない。この男なら人間だけでなく、迫害種族である『魔女』や『妖怪』といった貴重な種族もいずれ味わう事が出来る。そう確信したからリトルメアは以下の内容を掲げてシャドーと契約したのだ。


 ――私の望む感情を定期的に献上すれば、貴様に制限のない異なる空間同士の接続が可能になる特別な能力を授ける……と。


 リトルメアは種族の中では上位悪魔と呼ばれるランクにぎりぎり届かないくらい実力しかないし、食においてはどの悪魔よりも拘りが強いが、空間転移の力を授ける程度の事は簡単に出来る。そもそも空間拡張や接続は、やろうと思えば才能のある人間でも似たような事を再現出来るし、悪魔であれば生まれたての赤子でも空間転移や空間同士の接続は出来る。つまり相手を騙してやったのだ。全ては相手を自分の良いように利用し、自分が満足すればあいつの魂をいつでも食べれるようにするため。


 契約内容に違反するのは『相手が感情を献上しなくなった時』だが、こちらから拒否すればいつでも契約違反にする事が可能になる落とし穴を相手に付けてやったのでどうとでもなるだろう。人間如きに悪魔が知恵比べで負けるわけがない。


 ――さてと、今回はやけに送られてきた数が多いな。


 新たにやってきた気配を察知するが10や20は確実にいる。そんな予感がした。前回食事をした時には絶滅種でかつ貴重な『吸血鬼』が混ざっていたので、とても味わいの深い料理を楽しむ事が出来たが、次はどの味が味わえるのと思うとワクワクが止まらない。一度にまとめて全員を食しても良いが、そうすれば楽しみという物がなくなってしまうし、何よりそれはリトルメアの食事の流儀に反する。


 ――だって食事は『限られた量を骨の髄までどれだけ丁寧に楽しみ尽くすか』が一番大切なのだから。


 吸血鬼の味は最高だったが、あの時遭遇した『魔女』は食す事が出来なかった。リトルメアは初めて魔女という存在に出会えたので、どんな味になのか分からない以上テンションが最高潮にまで上がり、今まで感じた事がない最高の気分になっていたのだが、相手がそもそも食べる事が不可能となれば話が変わる。


 いくら食の拘りが強い者でも絶対に食べられない物に興味を持てと言われて出来る訳がない。リトルメアにとって最も酷い肩透かしを食らった瞬間だった。

『もうここには来ない』と誓ったのでまた遭遇する可能性はないと思うが、次遭遇した場合はそう簡単に追い返せないだろう。配膳された食事は相手の了承を得て初めて下げる事が出来るのだ。自分が苦手な物でも食べれば何か評価が変わるかもしれないし、何より自分勝手な理由で調理された料理の皿を下げるなど美食家としてのプライドが許さない。この空間はリトルメアの拘りに基づいて作られた空間なのだ。


 あの時は魔女が自ら帰ろうとしたのでなんとか追い返せたが、次相手をすればそう簡単に帰らないだろう。何より魔女はリトルメアの出来る『相手の姿形を完全に再現する能力』に酷く興味を持ってしまったからだ。

 最もリトルメアが苦手とする『騙しが効かない純粋すぎる人間』と話を続ければ限界を超えた精神的ダメージで現世の体が消滅し、もう二度と現世に干渉出来なくなる可能性もある。だから奴との遭遇は絶対に避けなければならないし、仮に遭遇した場合は自身の死を覚悟しなければならない。


 ――そんな都合よく出会うわけがないし、とりあえず食事を楽しむとするか。


 食事前にナーバスになるのはご法度である。リトルメアは気分を変え、わくわくしながら指を鳴らすと自分の目の前に新たな料理の様子が見えてくる。指を鳴らせば料理が昏睡状態から目覚め、空間の中で自由に動けるようになる仕掛けが施されているが、料理を食べる順番を自分で設定出来ないので最初に配膳される料理が何か予想するこの時間は最高だ。





 ――――そしてこの瞬間、リトルメアは初めて食事をする事に後悔した。




『....ここはどこ?この空間なんか見覚えがあるんだけど、どこで見たっけなぁ...』


 ................は?


 リトルメアの前に配膳された最初の料理は、今自分が最も警戒していた天敵、『アホ毛の魔女』だった。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「この空間なんか見覚えがあるんだけど、どこで見たっけなぁ...」


 先程ロジェは、突然現れた黒装飾の男に屋敷で食らった攻撃と同じ物と思われる攻撃魔法を喰らったのだ。もう二度と同じ手に乗るつもりは無かったのだが、いきなり目の前に現れたから話したのに自分に向かって攻撃してくるなんて完全に予想外だ。あんなの誰が予想出来るってのよ!


「ベージュやセレーナは無事かしら...?あの子達は確か近くに居たから絶対同じ被害に合ってると思うんだけど、生きてるかな?仮に前と同じ攻撃ならあーるんみたいに発狂してそうなんだけど...」


 あの時に見た屋敷の地獄絵図と言ったら堪った物ではない。あそこに残っていたら自分まで同じように叫んでしまいそうになる狂気の現場だった。あれと同じような事が起きているなら式場にいる参加者にも凄い被害が出るかもしれないし、一刻も早く止める必要がある。精霊の治療してる時は式場に誰も居なかったから心配する必要ないかもしれないけど、内部に人がいる場合を考えればここに似た空間に来た事がある自分が率先して動くべきだ。


 ――そういえばここが前と同じ空間だとしたら、前に見世物をしてくれているあの人もいるのかな?


 それは前回ここと似た空間に来た時の事である。その時は一瞬で自分の姿形を再現する面白い人が居たのだ。二度と来るなと言われたのであの時と同じ場所である可能性は低いが、可能性が0ではないので試しに相手の事を呼び出してみる価値はあるだろう。なんたってあの目の前にいる人を再現する技術は面白そうだから私もやってみたい!


「すみませーーーん!私の姿形を再現出来る見世物をやっている方居ませんかーーー?私もやってみたいのでその技術を教えてほしいんですけどーーー!」


 大声でそう質問するが前回のように脳内に話しかけられる事もなく、誰かがいる気配もなかった。もしかしてここに居る人はさっきまでの私と同じように全員寝てたりするのかな?それともなんかの空間に閉じ込められているだけ?


 前者はともかく、後者の可能性はそれなりにある。だってサンドホークの保護活動している集団が別空間を作って魔物を保護するような時代なんだし、あの焦げ跡のある黒装飾の男が攻撃されて動けなくなったロジェを誘拐してこの空間に閉じ込めたとしてもおかしくはないのだ。


「全員寝てるかもしれないし、大声出せばもしかすれば私を誘拐するなんて馬鹿な真似もやめるかもしれないわよね!こうなったらやるしかないわっ!!」


 敵がいる可能性も無くはないが、さっき質問した時に誰も来なかった事を考えれば恐らく問題はないだろう。というか誰が襲ってきたとしても私には厄介な呪いがあるし、この真っ暗な空間では使えそうな搦手がない以上どうにもならないのだ。何とか生き延びる努力はするが、敵と遭遇しても相手に致命傷は与えられないし既に軽く詰んでいる。私は傍に戦える人間が居ない限り無力に等しいんだから!


 そしてロジェは息を大きく吸って再び大声で叫び始めた。


「誰かーーーーー!聞こえてるんでしょーーーーーー?だったら返事をしてくれまんせんかーー!おーーい!おーーーーーーーーい!見世物が出来る偽物の私ーーーー。出てこーーい!」


『うっさいわ!こっちはようやく食事が楽しめると思ったのに約束を破ってここに来た貴様をどう処分するのか真剣に悩んでいるのだ!うるさすぎて集中出来ん!貴様は何度私を馬鹿にすれば気が済むんだッ!!』


「あ!ようやく誰か反応してくれた!あなたはもしかして姿を自由に変える事が出来る見世物の人ですか?」


 ――あと馬鹿にしたって何?私はそんな事した覚えなんて一度もないんだけど...。


『黙れ!私は芸者ではない!あの偉大な悪魔族に喧嘩を売っているのか貴様!』


 ――悪魔族...?あの頭脳明晰で人の感情を吸収しないと生きていけないっていう欠陥種族でしょ?いやいやいや。そんな賢い種族がそんな相手の姿になりきるなんて言うネタに走るような事するわけないじゃん。確か彼らってプライドが物凄く高い種族だし、どうやってもあり得ないあり得ない。


「え?あなたは見世物をしてる方じゃないんですか?じゃあなんであんな一発芸みたいな事やってるんのか気になりますし、あれが魔法なら私もやってみたいので是非とも教えて欲しいです!!」


『...貴様と話していると本当に頭がおかしくなりそうだ。大体、突然脳内に話しかけられたり、自分が別の空間に連れていかれた後に自分そっくりな人間を見ても全く怯まなかったりと、貴様には恐怖心という物がないのか!!!』


 ――いやあるけど....。怖いものがない人なんて居るわけないじゃん。


「脳内に話しかけられる事も突然どこかに攫われる事も私からすれば日常茶飯事です。それに怖いものが1つもない人なんて存在しませんし、何馬鹿な事を言ってるんですか。あの頭脳明晰な悪魔族なら考えればすぐにでも分かる事でしょ。そんな事も分からないなんてやっぱり悪魔族って事も嘘じゃないんですか?それともその自称悪魔族のあなたがものすごーく世間知らずなのでは?」


 ――だってここ最近起きた事だけでも酷いよ?久しぶりにダンジョンに向かったら勝手に魔道具は脳内に話しかけてきて初心者に封印術式をやれって命令してくるし、騒ぎの起きた現場に向かったら勝手に誘拐された上に何故か玉座まで座らされるんだよ?この程度なら普段起こるような出来事の何百倍も優しいけどおかしくない?


『.....正直ふざけたことばかり言う貴様を今すぐにでも殺してやりたいが、料理に直接手を下す事はこの空間のルールによって禁止されている。だから再度聞こう。貴様はこの空間から帰るつもりはあるか?』


「え?そんなのないに決まってるじゃないですか。前回と同じ空間なら私がここであなたの足止めをすればこれ以上の被害は出ないんですよね?だったら出る必要はありません。そんな事より!あの姿を変える方法を私に教えてください!!」


 自分より先に目覚めている人がいるなら話は別だが、さっきこの声の主は『ようやく食事が来た』と言っていたのだ。その発言を考えれば初回のターゲットに私が選ばれた可能性がある以上、被害をここで食い止める為にも私が簡単に退くわけにはいかない。前回屋敷に居た時は、私が帰った後から悲鳴を上げる人間がどんどん増えた事を知っているので出来る強気な選択である。


 ――ところでこの自称悪魔が言う『食事』ってなに?私は骨ばかりで美味しくないよ...


『じゃあ貴様は一体どうすれば帰る気になる。正直今すぐにでも追い返したいが、言ってもどうせ聞かない以上条件を聞くしかない。』


「そうですね...じゃあまずはこの前見せた変身魔法と他の芸を見せてください!あと、自称悪魔さんがここに捕らわれてる人を全員解放してくれたら考えてあげます!どうですか?」


『.....』


 正体が分からない自称悪魔は黙り込んでしまった。人質の解放はともかく、そんなに芸を教えるのって嫌なのかしら?私なら全然抵抗ないよ?そもそもネタ魔法と芸者が使う技術って似てるようで全然違うし、教えるのは難しいかもしれないけど少しくらい教えてくれてもいいじゃん...困るようなものじゃないし。


『それは断る。何度も言うが私が芸者ではないから教えることは出来ないし、この数の料理を自ら捨てるなんて以ての外だ。絶対に認めん!』


 えぇ...この数って言うけど、捕まってるのってどうせベージュとセレーナだけじゃん。どうせ誰かに寄生してるんだから感情なんていくらでも手に入るし、2人くらい解放しても問題ないでしょ。...あとなんでそんな頑なに変身の芸を教えてくれないの?


「じゃあ交渉決裂です。私はここから一生離れませんから後は自称悪魔さんの好きにすればいいんじゃないですかね!私には関係ない事ですしっ!」


 そう話した瞬間、突然自分の周りに大量の分身が姿を現した。軽く数えただけでも30はいるだろう。


「わぁすごいですねこれ!私の為こんなにも分身を作ってくれるなんて素晴らしいサービス精神です!そのやり方もぜひ教えてください!」


『黙れ!貴様がこの場から立ち去らないのであれば、貴様を無理やりにでも食って処分する事にしたのだ!なんとしてでも貴様から感情を引き出してやるわッ!』


「はぁ...そういう事でしたか。なら仕方がないですね。せっかく素晴らしい宴会芸を使える御方だったのに....そう来るのであれば名残惜しいですけど、こちらも1つ手を打たせてもらいましょう!言っておきますけど、私は表に感情を出さない事においては右に出るものは居ないんで覚悟しておきなさいよこの自称悪魔!勝負にもし負けたら私がなんでも言う事を聞いてあげるから、あなたも同じ条件を吞みなさいよね!」


『.....望むところだ。』


 そしてロジェは自分に向かって『フィールプレッション』を使い、誰よりも完璧に無を再現する事にした。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「思ったよりあっさり終わりましたね。」


「表面上はな。だが吾輩は油断しない。ここには吾輩のフォール・ナイトメアを一度耐え抜いた狂人がいる。油断は出来ん。」


 シャドーとドロシアは現在式場会場で昏睡状態になっているロジェを睨みつけていた。あれだけの事をしておいて『誰ですか?』と聞かれた時は、怒りが限界に達した事で思わずフォール・ナイトメアを使ってしまったが、こんな事は普段のシャドーなら絶対にしなかったはずだ。少し落ち着かなければ負けてしまう可能性がある。


「それでどうするんですか?この場で眠り続けている女がいるのですから、今すぐ相手の首を切り落とすべきだと思いますよ。」


「分かっている。だが引っ掛かっている事が1つだけあるのだ。」


「引っ掛かっている事ですか?」


「あぁ。こいつは我々の予想の遥か上を行き、計画だけでなく組織までも乱した女だ。どこから情報を手に入れてるか知らんが、それほどの実力を持つ策略家がこの状態になる事を想定していないと思うか?」


 少なくともこの女は一度この魔法を食らっている。だから普通なら睡眠しないように予め対策を用意したり、自分の近くに誰かを配置していてもおかしくないのだ。どこから組織の動きを掴んだのかは知らないが、あれほどの妨害工作をすぐに実行出来る策略家なら『同じ攻撃に当たらなきゃ大丈夫!』と考える間抜けでは無いと見ていいはずだ。きっと何か仕掛けていると見た方がいい。


「...確かにそうですね...でもこの女の仲間と思われるピンク髪の女は、作戦通りであればスペアさんが例の空間で相手をしているので来ないはずですよ。あれ以降全く連絡が返ってこないので少し心配ですけど。」


 スペアは大丈夫だろうか....あいつは確実に強いが相手は観察力が異常だ。剣の癖を見抜かれた場合は戦況を簡単にひっくり返されてもおかしくはない。


「少し様子を見る。だが確実にこの女だけは警戒をしなければならん。」


 そういってシャドーは、手元から乾いた砂を生成し、それを虚術で目で見ることが出来ないほど細い糸に変換する。そして糸を何本も眠っている女の首元や腕の近くに配置しようとする。その時だった。


「俺達のマスターに!」

「触んじゃねえ!」


 アジトに封じ込めたはずの元下位部隊の2人、『ダークピーチ』の2人がシャドーに向かって攻撃をしてきたのだ。

 真っ直ぐ飛んでくるメリケンサックを付けた女の拳と男の持つ剣をさっき作った糸を使って意図も容易くシャドーは食い止めた。


「貴様ら、大人しくしておけと命じたはずだぞ。仕掛けを解いてまで自ら死に来るとは一体何のつもりだ。あれほど言ったのにまだこの大馬鹿野郎を信じるのか?」


「てめぇの方こそまだ言ってんのかよ。お前よりそこで寝てるマスターの方が魔力も高いからそっちを信じるに決まってんだろ。偽物風情が....舐めんのもいい加減にしろよ!」


「それにだ。仮にお前がマスターだとしても俺達はそこで眠ってるマスターから頼まれてんだ。組織の壊滅と、サンドホークを使って世界を取れってな!」


 ――次から次へと…大馬鹿共がッ!


 そしてシャドーは即座に糸を上に振り上げ、女の拳の皮膚を糸で軽く抉り、男の剣を二つに折ってやった。部下に極力手を出したくないシャドーはついに彼らに対して警戒を向ける対象だと判断する。


「……どうやら貴様ら。本気で死にたいようだな。この女に何を唆されたのかは知らんが、吾輩に楯突けばどうなるかその身に教えてやろう。」


 そしてシャドーは裏切り者2人に対して新たに糸を生成し、それぞれの腕に雁字搦めにする。そして少しずつ糸を締め付け、腕の血管を少しずつ時間をかけて切り刻み始めた。あまりの痛みに二人が叫び始める。


「大丈夫だ。即座に腕を切り落とすのではなくゆっくりと時間をかけて切ってやる。降参するなら今のうちだがどうする?今降参するってんならこんな拷問はやめてやるが.....」


「はぁ…はぁ…。僕達はマスターを裏切るつもりはない。このマスターには命をかける価値がある!」

「俺もだ…。いくら痛めつけようと俺達がマスターの意思は引き継ぐし、考えは変わらない!」


「………そうか。非常に残念だ…。」


 そして少しづつゆっくり確実に切り刻み始め、悲鳴を上げている様子を見る。その光景を見てシャドーは攻撃している側なのに密かに精神的なダメージを食らっていた。


 何故自分の作った組織の部隊はここまで馬鹿になってしまったのか。

 こうなる前にもっと何とか出来たのではないか?


 そんな自分の未熟さをこの場で思い知り、悲しみながら部下の命を少しずつ切り刻み続ける。その時だった。


『――そこまでよ。大悪党。』


 その言葉と同時にシャドーに向かって巨大化した風の竜巻に炎魔法を足した2属性魔法が飛んでくる。シャドーは裏切り者への攻撃を中断し、魔法を凌ぐため同程度の大きさの砂嵐を発生させて相殺させた。


「チッ。目覚めやがったか。」


「はぁ...ほんっっとビックリした。仕掛けが無駄に凝ってる癖に結局あの自称悪魔は最後まで宴会芸を教えてくれないまま消滅しちゃったし、目覚めたら目覚めたで誰か分からないけど攻撃されてるしでホントやな感じね…。」


「ちょっとロジェさん!僕達にあんな無茶振りしておいて今は宴会芸とか言ってる場合じゃありませんよ!....というかその話知らないんですけど、宴会芸って何の話ですか?」


「ベージュ。今はそこに突っかからないの!そんな話は後でいいし、今は戦闘に集中しなきゃ貴方も死ぬわよ。」


 ――まさかこいつ、吾輩の契約悪魔のリトルメアを消滅させたのか?


 急いでシャドーは契約しているリトルメアとの繋がりを示す魂の刻印(ライフパス)を確認するが、特に反応は無かった。奴の発言的にも多分これは事実だ。

 という事はつまりこの女はリトルメアを完全に消滅させ、フォール・ナイトメアの被害者全員を無理やり解放したという事になる。この女の隣に立っている2人の魔導師が何よりの証拠だろう。


「まぁいいや...さっきはいきなり攻撃してきてビックリしたけど、あなたの力の源であるリトルメアは完璧に攻略してあげたわ!だからあなたはもう空間転移に関する悪魔の契約はないし、逃げる手段は限られてるはずよ。もうあの時と同じように逃がさないし、私達は簡単には負けてあげないから覚悟しなさい!影の鼓動のボス…いや、『シャドー・コメット』!」


 そうして再び、目の前でボロボロになったメイド服を着ているアホ毛の女、ロジェが近くにあったスプーンをシャドーに向かって構え、綺麗な赤い瞳を一段と強く光らせながらあの時と同じように宣戦布告をするのだった。

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