第二章 47 『怒る精霊③』
もう!なんで私が自殺行為みたいなことしなきゃダメなのよ!!!
ロジェは結局1人で10分の時間稼ぎをする為に空を飛んでいた。ずっとやりたくないと駄々を捏ねていたのだが、途中で精霊がロジェ達の居場所に気付いてしまい、攻撃をしようと仕掛けてきたのだ。
しかも空を飛んだ瞬間、攻撃が何故かロジェだけに向かって飛んでくるので災難ったらありゃしない。こうなれば式場にいると思われるあーるんに助けを求めるしかない。
――この世界はどうしてここまで私に厳しいのでしょうか?
『きゅきききゅ!きゅー!!』
相変わらず後ろの精霊はきゅうきゅう言ってて何言ってるか分かんないし、なんでこうなるのホント。
ロジェは時間稼ぎの為にも薬品鞄から『冷却』ポーションを取り出し、ビックスポットンで巨大化して精霊に向かってぶん投げた。
ただの小さなポーションだったが相手は水の塊だし、巨大化させれば演出は派手になるから少しくらい怯んで動きも鈍くなるだろう。そうなる事を願いつつ投げたのだ。
「よし!直撃したわね!あとはどうなるかだけど…」
ポーションが直撃した精霊は、巨大化されて演出が派手になった冷却ポーションによって内部が少し凍りつき、精霊が困惑していた。派手な演出のくせに効果が小さすぎるおかげで相手が混乱し、少しの間相手の動きが止まった。
「にしてもなんで私ばかりこんな狙われてるんだろ…私何かしたかな?」
私がこの精霊にした事なんてきゅうきゅう言いながら「協力させてください。」と言っただけだ。それ以外怒らせるような事をした覚えはない。
というかそもそもきゅうきゅう言ってるから同じように返しただけなのになんでそんな怒るの…?私何も悪い事してないじゃん。
多少の時間稼ぎにはなったが、しばらくすると状況を完全に理解した精霊は凍りついた状態から解放され、普通に動き出した。見掛け倒しの攻撃をされた事で怒りが更に増し、冷却ポーションによって凍り付いた腕と思われる部位から水蒸気のような煙を放っている。怒りすぎでは?
『きききゅ…きゅーきゅ。』
――本当に何を言ってるんだろう。私も同じ言葉で対抗した方が良いのかな?
「きゅーきききゅ。きききゅきゅー?(私何か悪い事しましたか?)」
これは最後の確認だ。これを聞いて更に怒らせたとしたら完全にロジェが悪いという証明になるし、話が通じなさそうならもう諦めて土下座でも決めるしかない。させてくれそうにないけど!!
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
――この女、どこまで私を舐めている?
母の怒りは限界を超えすぎて一周回って冷静になっていた。理由は先程この女が言った言葉にある。
何が『私が何か悪いことしましたか?』だ!貴様の行動全てが悪い事だろうがッ!
実に腹立たしい。先程まで挑発してくるばかりだったが、突然こうもまともな事を言うなんてこいつは一体何を考えている。今まで生きてきたこの1300年の人生においてここまで理解に苦しむ不思議な魔導師と遭遇したのは初めてだ。ここまで馬鹿にされれば怒りを通り越して呆れが勝つ。
一度深呼吸をして更に冷静になり、親精霊は口を開いた。
「全ては貴様の言動が悪いのだ!潔く死ね!」
『きゅーきききゅ。きゅ?(え?なんの事?)』
この女はそもそも精霊語を分かっているのか?それとも適当に話しているだけなのか?あーもう!このどちらとも取れる反応があまりにも腹立たしい!今まで戦ってきた事のある冒険者の中で間違いなく1番厄介な人間だし、最も私と相性の悪い最悪の敵だッ!
母は、何を考えているのか理解出来ない女の頭上に巨大な雨雲を出現させ、彼女の下には水型の容器を作り、何時でも水責めにする準備を完了させる。
そして雨を降らせようとしたその瞬間、目の前の女は近くに発生させていた雲を手持ちの不思議な薬品で凍らせ、その上に乗って頭を下げる奇行を始めた。
『きゅーきききゅきゅ。きゅ!(これは私の努力の成果だよ。綺麗でしょ!)』
…………………は?ここまでやっておきながら突然頭を下げる事が努力の成果だと自慢するなんて、今度は何の真似だ?
「……貴様、自分の今置かれているこの状況を前にして、頭を下げる事を自慢するなんてふざけているのか?」
『きききゅーきゅうきゅきゅう。きゅききゅうきゅう?(これ意外と楽しいんだよ。一緒にやらない?)』
「やる訳が無いだろ!貴様は私をどこまでコケにすれば気が済むのだッ!」
怒った母は即座に雨雲の仕掛けを発動させ、尖った水の棘が降る雨を目の前の女に降らせる。
――だが彼女は何事も無かったような顔をしながら雲を使って無効化してきた。
あぁ!そうだッ!分かってた。分かってたよ!どうせそうなることも!その何も考えてなさそうな腹立つ顔をしながら攻撃を無効化してくる事もッ!どうすれば私の精霊術でこいつを倒せるのだ!ああああああもう!挑発を繰り返す女があまりにも憎いのに攻撃が通らないので頭がおかしくなりそうだ。水の属性に関する攻撃しか出来ないのが今は無性に腹立たしい!この時ほど自分が水属性以外の魔法を覚えてこなかった事を恨んだ事はないぞッ!
『きゅー?きききゅきゅきゅ?(大丈夫ですか?悩みがあったら聞きますよ?)』
どわああああああああああああ!!!
母は彼女の煽りのような言葉を聞いて完全に精神が壊れた。今すぐにでも全力で殺したいのに、どうやっても殺せないこの女があまりにも憎い。どうすればこの女を……この女をッ!
そうやって母の中で混乱をしていると、突然後方から巨大な火の辰を模した攻撃魔法と巨大な水の辰を模した攻撃魔法が母に向かって同時に襲いかかってきた。
――なんだこの強力な魔法は…?
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ロジェは逃げながら時間を稼ぎ、ついにどうにもならないと悟ったので土下座をしていた。
なのに相手はこの綺麗で完璧な土下座を見た上で攻撃をしてきたし、いつものように『永久変化の雲』で無効化したら、何故か相手は怒るどころか軽く混乱状態に陥っていた。意味が分からない。
私が最初にきゅうきゅう言った時は特に攻撃してこなかったし、問題ないと思ってたけどやっぱりちゃんと会話出来てないのかな…?
不思議だった。相手を凍らせた後になぜ怒ってるか聞いた時、一度精霊は落ち着きを取り戻してくれたのだ。だから話は通じていると思っていたのに、土下座をすると再び怒り始めた。こうなればもうちゃんと伝わってるかどうかなんて分からない。
――私にどうしろって言うのよこれ…
ここからどうやって動くか考えていると、突然精霊に向かって火のドラゴンを模した攻撃と水のドラゴンを模した攻撃が飛んできた。恐らく指定された分の時間稼ぎが出来てたのだろう。地上にいた『すいめい』さん達が何とかしてくれたのだ。
――にしてもあの燃える火炎龍…というより、火の辰は凄く綺麗だなぁ…。私も覚えてみたい。
それはまるで御伽噺に出てくるような『辰』を想像させる姿をしていた。空中に浮かぶ蛇のような長い胴体に、2本の長い髭、ちゃんと再現して操れたら絶対強いし、芸術性も高いので是非とも使ってみたい。絶対難易度が桁違いに高いし制御が難しいんだろうけど!!
その2人の辰が咆哮をあげると、ある程度プレッシャーに耐性があるロジェですらも身震いして動けなくなりそうな程のプレッシャーと強すぎる火と水の気配を感じる。恐らくこれは衝撃波だ。耐性がない者が受ければ多分内蔵が抉られその場で死ぬことになってただろう。
そして火辰(仮名)は火の竜巻を発生させ、水辰(仮名)は雷撃の雲を発動させ精霊に直接ぶつけた。災害vs災害vs災害のぶつかり合いにより空中での死闘は一層激しさを増していく。この戦いを見れば世界の終わりだと比喩する者もいるだろう。
2匹の辰の攻撃も凄いのだが、それだけでは精霊の怒りは全く治まりそうになかった。2匹の辰は強いし、その攻撃のおかげで辰と戦う前よりも精霊の力が明らかに弱まっているのは分かるが、それでも精霊の怒りの力が勝ってしまっているようだ。
あの場を離れる前に『すいめい』さんから聞いたのだが、精霊の怒りはその感情を上回る圧倒的な高火力で殴れば理性を取り戻して落ち着くらしい。この辰もかなり強いはずなのにそれでも怒りが治まらないっておかしくない?どれだけ怒ってんの…?
「とりあえず私も何か加勢した方がいいわよね…このまま負けたら死んじゃうし。」
ロジェはとりあえず使えそうな物を探し始めた。使えるのは火辰の周りで散っている『火の粉』『雨雲』『大気中の水気』だけだ。
うーん…今戦ってる精霊は多分水系の個体だよね。こういう高位精霊って確か得意な属性が多めに体内が構成されてるはずだからあるとしたら.......水が多めに構成されているはず,,,,。だとしたらあれが使えそう!
ロジェは即座に思いつきで動く事にした。手元に構えている警棒に対していつも通りスイスールを使って魔法を1点に吸収させる。吸収するのは火辰だ。火辰を警棒を中心に吸収し、この街の空を覆い隠す程の1つの巨大な丸い火の塊にする。
「ぐぬぬ...これだけ巨大な火の玉は作ったことないわね…魔力の量も凄まじいし、扱いも普段以上に難しい。」
スイスールには隠れた仕様があり、強い魔法や使用魔力が高すぎる魔法を吸収すればするほど集めた攻撃の扱いが難しくなるのだ。恐らくこの火辰を作った人間も相当なやり手だろう。今までこの魔法を何度も使ってきたが、一度も感じた事のないすさまじいほどの魔力とを感じた事のない重さを感じる。きっと魔力が異常すぎるロジェじゃなければ体に負荷がかかりすぎて意識を失うレベルの物だ。
「で、でも…これだけあればいけるわ。」
『きゅききききゅー!?』
その超巨大な火の玉を見て精霊が驚きの声を上げた。相手もここまでの巨大な魔力の塊を見たことが無いのだろう。時間がかかればかかるほど巨大化していくので、現在火の玉はこのサウジストの街全てを完全に覆い隠すほどの大きさにまで成長している。
「これでも食らって、落ち着きなさ……ってあっ。」
丁度この攻撃を相手の近くに移動させようとした時だった。あまりの魔法の威力に耐えきれず警棒が途中で折れてしまったのだ。この魔法は基本的に警棒の先端に使っているので、折れた棒の移動に従い、火の玉が真横に飛ぶのではなく斜め下の地上へ向かって落下し始めた。
「あああああああああ!このままだと街にこれがおちるーーーーーーーーーー!!」
ロジェは急いで自分の手元残った警棒に再びスイスールを掛けて回収しようとするが、あまりにも強い火力によって回収が間に合わないと判断する。他に使えそうな魔法を考え、即座に違う魔法を火の玉に掛けた。
「こうなったら…これしかないわ!ファーディストー!!!」
今一瞬誰かがこの巨大な火の塊を跳ね返した気がするが、そんな事は関係無しにロジェはターゲット魔法を使う。
今回ターゲットにするのは目の前にいる精霊…………の後ろで精霊の動きを止めている水辰だ。
精霊を狙って直接攻撃しなければ、攻撃が『たまたま精霊に当たってしまって大爆発が起こった』という判定になり、呪いが発動しないかもしれない。という半分願望に近い行動てある。発動するかはやってみなければ分からないが、どうせこの魔法が失敗したら私は怒りを消化しきれなかった精霊に攻撃されてこの街と共に死ぬんだから、それと比べたら自分の呪いの発動なんて怖くない。失敗したら死ぬんだし、どうせ死ぬんだったら少しでも勝算のある賭けに出た方がマシよっ!
『きききゅきゅう!?きゅーきききゅー!』
精霊がそう叫びながらその場から逃げ出そうとするが、水辰が邪魔をして逃げる事が出来ない。そしてその巨大な火の塊が精霊に直撃し、水と強すぎる炎の塊が混ざった事で精霊の内部で大爆発が発生した。
「ふぅ…何とか間に合ったぁ。今度こそ街を直接破壊したのかと思ったわ…。」
ロジェはとりあえず近くまで来ていた式場の会場に一旦足をつける。ここなら少なくともやばい事は起きないだろう。どうやら呪いの発動条件は満たされていなかったらしいので一度その場に座り込み、様子を見る事にした。
大爆発の爆風が収まり、暫くすると雨の力も弱まっていく。そしてその爆風から落ち着きを取り戻したように見える精霊が顔を見せ、式場の方へと向かってきた。
――え?まだ何か怒ってるの?もう私無理だよ?そもそも攻撃出来ないし体力的にも逃げ回るのはきつい…
暴走してロジェに攻撃していた時の顔を怒る鬼だとすれば今の顔は女神である。落ち着きを取り戻した精霊はロジェに向かって話しかけてくる。
『きゅーきききゅきゅ。』
――相変わらず何言ってるのか分からない。どうすればいいのこれ!!!
ロジェは先程の反省を活かして、ゆっくり丁寧な声できゅうきゅう言うことにした。
「……きゅー。きききゅうきゅ?」
『きゅー。きゅうきゅうきゅー。』
しばらくの間、互いに訳も分からずきゅうきゅう言っていると、近くにいた男女2人組の魔導師が不思議に思ったのか、ロジェに向かって話しかけてきた。
「あの…先程巨大な炎魔法を使っていたロジェさん。そんな話し方しなくても精霊は我々の言葉が通じますよ?」
「………え?そうなの?」
なにそれ初耳なんだけど…。そういうの先に教えておいてくれませんかね!!!って事は絶対私が適当にきゅうきゅう言ってたせいで怒ってたじゃんこの精霊!!!
「まさかとは思いますが、知りませんでしたか?こういうのは冒険者の間では常識ですし、先程連絡石越しに《水冥》と話をしていた所を見かけたので話は聞いてると思ってたんですが…」
「ちょっとベージュ!あれだけの凄い魔法が使えるロジェさんがこんな冒険者にとっての一般常識を知らないわけないでしょ!相手を馬鹿にするような言い方するのは良くないわ!」
どうやらこの人は『すいめい』さんの知り合いらしい。だとしたら私に敵対してくることはないだろう。私は攻撃魔法を使えないし、また精霊が怒って攻撃してきたらこの人達を盾にして逃げよう。
「もももももちろん知ってましたよ。あれは常識ですもんね。あははは…」
『きゅうきゅうきゅー。』
「どうやらこの精霊は貴方に感謝しているようですよ。怒りを納めてくれた事へ感謝を述べているみたいです。子供の精霊の治療を頼みたいとの事ですが、ロジェさんは治癒魔法を使えますか?」
――ところで君達、知り合いみたいに気安く話しかけてくるけど誰?『すいめい』さんの知り合いなだけで私と接点ないよね?
「え、えぇ。治癒魔法なら私は使えますよ!ところであなた達は一体誰なんですか?物覚えが悪い私が忘れてしまってるだけかもしれませんが…」
とりあえずロジェは治癒魔法を使いながら彼らに質問をする事にした。
「僕の名前はベージュ・ストレイド。《紅焔轟者》のクランに属する魔導師です。二つ名はまだ無いし僕達はまだまだ成長途中の未熟者ですが、それなりに実力はありますよ!」
「ベージュは調子に乗らないの!私の名前はセレーナ・クリスタと申します。彼と同じクランに所属している魔導師で、貴方の実力や話は《紅焔轟者》から既に聞いております。名前だけでも覚えて頂ければ嬉しいです!」
どうやらセレーナは真面目なようだ。話が通りそうなまともな女性でとても助かる。私グイグイ来る人苦手だし…。
そんな事を考えると、セレーナの様子がおかしくなり、突如初対面とは思えないくらいの距離感で軽く興奮しながらロジェとの距離を詰めてくる。どうやらまともに見えたのは気のせいだったようだ。
「.....ところで先程使ったあのすっっっごい炎魔法はなんですか!?あの《紅焔》でもあの魔法は出来ないかもしれないですし、あそこまで大規模な魔法を使えるなんてめちゃくちゃ凄いことですよ!後で私にもこっそり教えてくれませんか?」
「.........はぁ....また始まった。すみませんロジェさん。セレーナは凄い魔導師を見るとこういう風にダメになっちゃうんです。悪い奴ではないので多めに見てあげてください。」
そう言いながら興奮したセレーナがどんどん顔を近付けながら話しかけてくる。一瞬でもこの子がまともだと思った私が馬鹿みたいじゃないか…。最初ヒューみたいに常識人の皮を被ったやばい奴かと思ってたベージュの方が何倍もマシじゃん。
.........てか村の外出てから思った事が1つだけあるんだけど、今のところまともな人を見た回数のが少ないってどうなってんの?まともな人......どこ?
「あーあれはたまたま出来た魔法なので気にしないでください。あれは『こうえんごうしゃ?』さんの魔法を利用しただけなんで…」
「あの大規模な炎魔法を利用したんですか!?あの嵐のような悪天候の中、炎の形を維持するだけでも神業と言わざるを得ない程に大変なのに、御伽噺に出るような『辰』の形を見事再現し、意志を持つ魔物の制御もあの凄すぎる火力もかなり実力のある者にしか使えない魔法として有名なんです!そんな強力で最強な攻撃すらも利用してしまうなんて..........あぁ。なんと素晴らしい腕の持ち主なのでしょうか.....!下手すれば貴方は《紅焔轟者》以上の腕の持ち主という事になりますよ!こんな歴史的な瞬間に立ち会えるなんて........神よ……っ!ありがとう!私は心からの感謝を伝えたい...........!」
その言葉を聞き、興奮したセレーナがその場で回転しながら早口で魅力を語ったり、ポーズを取ったりしながらどんどん近付いてくる。どう言えばこの子は私から離れてくれるんだろうか…
「..........これって、さっきのあれを見て興奮してるせいでおかしくなってるだけよね?普段からこのテンションならちょっと怖いわよ。」
「普段はとても落ち着いてるし、真面目でストイックな子なんですよ。ですが、このようにダメなところが表に出ると、彼女は1度話し始めて止まらなくなるんです。少し迷惑かもしれませんけど、その時は彼女の可愛さに免じて大目に見てあげてください。」
とりあえず口が動き出して動きが止まらないセレーナをスルーし、子供の精霊に治癒魔法をかけ終えたので親精霊に返そうとする。親精霊がお礼的な事を言ってくるが、何を言ってるのか分からないので適当にうんうん頷き続けた。すると彼女は私が探していた『幸福の花束』を渡してくる。…なんであなたが持ってるの?貰えるのは嬉しいから受け取るけどさぁ…
その光景を見て近くにいたベージュが目を輝かせ話しかけてくる。
「あれこれって…『幸福の花束』じゃないですか!かなりの数の影の鼓動も混ざって奪おうとしていたはずなのに勝ち取るなんて凄いですロジェさん。……つまりロジェさんはこの精霊がこれを持ってる事に気付いた上で敢えて自分で精霊のヘイトを買い、ライバルを蹴散らした上で安全に回収しようとしてたんですね!最初見た時は何がしたいのか全く分からなかったけど、そういう事ならあのめちゃくちゃな行動にも納得ですよ!」
――いや私はそんなこと知らなかったんですけど…。てか精霊を怒らせて魔道具を回収だって?そんな頭のおかしな思考回路は持ち合わせてませんっ!
「《水冥》が言ってましたよ!ロジェさんのお陰で街にいた影の鼓動が全員撤退したって!どうやって精霊をあそこまで見事に操ってたのかは知りませんけど凄い技術ですね...後で私にも種明かししてください!」
『すいめい』さんも言ってたけど、なんの事?そもそも精霊から逃げてる時は敵組織に大きな動きがあったなんて知らなかったんですけど…
「そんな訳ないですよ。私が精霊を操ったなんて誤解です。勘違いしないでください2人共。そもそも私はこれを精霊が持ってた事も、影の鼓動が暴れてる事も知りませんでしたから。」
セレーナとベージュの発言を即座に否定してその場から立ち上がろうとしたその瞬間だった。凄い魔力を纏った男が空から高速で降ってくる。恐らく怒りも相まって相当強化されているのだろう。魔力も気配が異常だ。彼から感じる全ての情報が異常なのだが、ロジェ的にはそれよりもダントツで気になることがある。
――なぜこの男は黒い服に酷い焦げた形跡が着いているのだろうか?遠目から見ても分かるくらいに目立つ焦げ跡がついた黒服なんてダサいからやめなよ.....
「誰だ?見た事もない姿だが、僕達に何の用だ。」
「怒る精霊を無事に鎮圧して花束を勝ち取った功労者の彼女を狙うってんなら私達が黙ってないわよ。一体何しに来たの。答えなさい!」
『…き、貴様。今日この日だけで何回吾輩に向かって強力な攻撃を受け流せば気が済むのだッ!貴様の貰い玉ばかりを処理するのはもう懲り懲りだッ…。いい加減にしろ!何度も何度も吾輩ばかり厄介事を押し付けやがって.......返答次第では――――』
「――えーっと…あなた誰ですか?というかそもそもそんな焦げ跡が目立つ服なんてダサいからやめた方が――」
「ぐわあああああああああ!」
その言葉を聞いて目の前の男の気配は更に増し、叫びながらいきなり魔法をロジェに向かって使ってきた。
――流石に考え無しに喋り過ぎたかしら!?




