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第二章 46 『怒る精霊②』

 ――馬鹿な…。私の千の槍を全て無効化した、だと?


 水飛沫が飛び散った以上確実に被弾していたはずだ。偶然にしてもあの数を無傷で攻撃を回避出来るはずがない。何かがおかしい。


 ――効かなければもう一度同じ攻撃をするだけだ!


 再び同じく水型の千の槍を出現させて先程同じように襲わせたが、当然のような顔をしながら無傷であの女は姿を見せた。


『ちょっと!あなたはなんで怒ってか分からないけどね、私に向かって攻撃をするのはやめてくださいよ!こっちには一般人も居るし、あの数の攻撃を魔法で捌き切るのは大変なんだから!私の話が通じてるかわかんないけど!!!』


 この女は約2000本の槍を無効化したのか…?そんな事が出来る魔導師なんて見たことがないし、そんな話を聞いた事がない。明らかに異常だ。


 母は1度怒りを抑え、話をすることに出た。これ以上攻撃を続けても無駄になる可能性が高い以上、一度様子を見るべきである。


「そもそも私を怒らせているのは貴様だ。何故貴様は挑発を繰り返す?」


『うーーん……またきゅうきゅう言い始めちゃった。やっぱり私もきゅうきゅう言った方が話が出来るのかしら?』


 まさか、こいつは精霊語じゃなければ会話が出来ないと思っている常識知らずなのか?......いや、そんな訳がない。こいつは確実に精霊語でこの私を馬鹿にしたのだ。全てが偶然煽りになる確率を考える方が馬鹿だろう。つまりこれも精霊語以外会話が出来ない無能だと煽られていると見た方が可能性としてあり得る。


 ――いずれにせよ一度確認する必要があるな。


「貴様、私をまだ馬鹿にするつもりか?」


『きゅー。きゅきゅききゅ、きゅ?(お前の攻撃を受けたが、本当に精霊か?あまりにも弱すぎるぞ。)』


 ――ッ!やはりこいつ、言葉分かっていてわざと馬鹿にしているではないかッ!じゃなければ煽りの文面ばかり出てくる訳がない!


 いや一度落ち着け…落ち着け私。もう一度だけ確認し、煽りならば直接消せばいい。


「最後の質問だ。貴様は、私に殺されたいのか?」


『きゅきききゅ。きゅうきゅきゅきゅー。(お前みたいな弱者が殺せるわけが無い。やれるものならやってみろ。)』


 その言葉を聞いて、再び母は怒りのボルテージを最大まで上げた。確信した。どうやらこの女は確実に馬鹿にしているようだ。もういい。街の事を考えて攻撃は控えめにしていたが、もう知らん!絶対に殺してやるッ!



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ――私は平和的解決を望んで話してただけなのに、なんで怒ってるの?


 ロジェはようやくまともな会話が出来ると思っていたのだが、何故か先程よりも感じるプレッシャーや強さが増しているように感じる。一体私が何をしたって言うのよ!!


「ちょっとロジェ!あんたホントにどういうつもり!精霊相手に何言ったの!」


「だから、私は、何も、言ってませんって!『攻撃しないで平和に行きましょう。』とか『なんで怒ってるんですか?』しか、言って、ませんから!」


頼むからそんなに空中で揺らさないでください。揺らされてる時に体に走る痛みが凄すぎて本当に私が死ぬからっ!!!


『きゅきゅきゅ!きゅうー!!!』


 こうなれば交渉決裂である。命の危険が迫っていると判断したロジェは、薬品鞄から『目眩し』と書かれたポーションを取り出し、アクトピクチャで派手にして精霊にぶん投げた。怯んでいるこの隙に逃げ出して時間を稼ぐ作戦である。


「とりあえず『すいめいさん』なら何か知ってるかもしれないし、彼に強力を頼みましょう!私一人じゃあんな化け物倒せません!」


「あんなに精霊が怒ってたら、いくら強さが保証されてる《水冥》が強くても倒せないわよ!ロジェは何考えてるかわかんないけど、ノープランで街中を走り回ってたなんて言ったら後でめちゃくちゃ怒るからね!」


 ――だから私が何をしたって言うんですか…。最初から私はずっとノープランだわッ!



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「一体なんということだ…」


 地上では《水冥》の2つ名を持つ帝都でトップクラスの実力を持つ冒険者、メイル・メザードが精霊に立ち向かう1人の魔導師を見つめていた。


 彼女の魔力は異常だったが、精霊術の攻撃を完全に無効化するその技術は何かが変だ。恐らく世界のどこを探してもその領域に届いている者は居ないだろう。


 精霊術は単なる魔法術式とは違い、精霊特有の強力な魔力と力があるので、いくら特定の属性に強い優秀な魔導師であろうとも完全に再現する事は不可能だし、精霊術を無効に出来るほど強い魔導師なのに何故今まで話に出てこなかったのか不思議なくらいだ。


 そんな事を考えていると、箒に乗った2人組が自分の目の前に降りてきて話しかけてきた。


「はぁ、はぁ…初めまし"でぇ"、『すいめい』さん。わだ"じ"はロジェともうじ"ます。」


「お、おう…。私の名前は水冥ではなくメイルだ。先程の精霊術の攻撃を無効化していたアレはなんだ?私も長年生きてきたが見たことがないぞ!」


 もし精霊術を無効化する技術を持っていると公表すれば世界中の国の偉い人間は黙っていないだろう。精霊術の仕組みを知っているのであれば、魔法技術の大きな進歩に繋がりかねない。


「はぁ…そんな事はどうでもいいんです。そもそもあれはたまたま私との相性が良かったので無効化出来ただけだし、私でも全ての精霊術なんて無効にはできません。勘違いしないでください。」


 ――そんな事はどうでもいい?相性が良かった…?一体この者は何を言っているのだ。精霊術なんて相性なんてもので解決する問題じゃないぞ。


「すみませんメイルさん。時間もないし彼女は疲れてるらしいので、ここからは代わりに私が話をします。私はガーベラと申します。結論から言いますが、メイルさんはあの精霊って止めることは出来ますか?」


「君は確か挙式を上げているはずの花嫁だったか。精霊の怒りによって街が凄い事になっているが、何をしてあそこまで精霊を怒らせたんだ?」


 精霊を怒らせる条件は限られているが、この者達が子精霊に手を出すとは考え辛い。なんせ2人からは魔物や人を殺した時に感じる血の気配が微塵もしないのだ。子供にちょっかい出したくらいなら謝れば精霊は許してくれるはずである。


「それは………私にも分かりません…。ロジェが精霊の相手をしてたので彼女なら何か知ってるかもですが…。でも彼女は精霊と話をしていただけだし…。なので、思い当たる節はないと思うわ!」


 会話だけで怒らせたのか…?確かに影の鼓動の残党は厄介だったが、この雨のおかげで奴らは大人しくなっているどころか撤退を選択したと聞いた。だが、これは街を滅ぼしかねない災害だ。こんな手段は一歩間違えれば重罪になるような動きだぞ。こんな事をして何が狙いなんだ。


「ぜぇ…私にも分かりませんよ。私はただ『困ってたら力になります』と宣言してただけなのに何故か怒っちゃって…」


 ――話が全く見えてこない。本当に何をしたんだこの者は。会話程度で知能とプライドが無駄に高い精霊が怒るなど信じられない。会話だけでここまで怒る事なんてよほど精霊のプライドに傷をつけたか、子供を殺した上で相手が弱かったと煽った時くらいだぞ。


「……あそこまで怒ってる精霊を見るのは私も初めてだ。あの規模の精霊のエネルギーを解放するのは私一人では無理だが、グロリオサが居れば何とかなるかもしれん。彼女は今何処にいる?」


「火撒きのグロリオサですか?あの人なら確か式場にいると言ってましたが…せめて大人しくするのだけでお願い出来ませんか?」


「式場か。なら連絡は着きそうだな。」


 そう言ってメイルはポケットから連絡石を取り出し、誰かと通信し始めた。


「突然呼び出して済まないグロリオサ。今話せるか?」


『誰かと思えばメイルか。あんたは街の方に集中しろと言ったろ。何サボってんだい!』


「私はサボってない。それに仕事はほぼ完了したのだ。私は無駄話をしに来た訳じゃない。とりあえずグロリオサ、今手は空いてるか?」


『あぁ!?騎士団の団長からの依頼だし、失敗したらあとで文句を言われるのはあたしなんだ。最後まで油断せずしっかりやりな!大体、あたしゃは暇じゃないんだ。式場内部にいる影の鼓動を燃やさなきゃならないし、この雨もあるからあんたなら一人で大体の事は解決出来るだろ。私まで借り出すなんてなんて何をするつもりだい?この街を完全に壊すってんなら大歓迎だが違うんだろ?』


「無理を言ってるのは分かってる。だが私一人ではこの怒った精霊は止められん。大人しくさせる為の手を貸して欲しい。」


『........怒った精霊って何の話だ?雨が強くなってるのは分かっちゃいるが、そっちは何が起きてる。』


 その声を聞き、ガーベラがメイルの持っている通信石に近付き、ガーベラが会話に割り込んだ。


「メイルさん会話に割り込んだりしてごめんなさい。もしもしグロリオサ!聞こえる?私の声!」


『なんだ小娘もそっちに居たのか。式場に居ないと思ってたけどそんなとこで何やってんだい?』


「私の事はロジェが守ってくれてるからこの話は後で良いの。それより今めちゃくちゃ精霊が怒ってるから大変な事になってて…《水冥》だけじゃ倒せないって言ってるし、協力してくれないかしら?」


『そんなに精霊を怒らせるなんて一体何やったんだい?精霊のガキに手ぇ出したんじゃ無いだろうね!』


「そんな馬鹿な事してないわよ!とにかくグロリオサ、今は協力して貰えないかしら?このまま放置したら街が水に沈むかもしれないの!」


『……分かった。そういうことならあたしも協力しようじゃないか。街を崩壊なんてさせたら騎士団の団長に獄へと連れてかれちまう。』


「グロリオサ…普通にしてたらそんな簡単に捕まらないはずなのに、あなた普段何してるの?」


『小娘、あたしゃ色々と燃やしてるだけだし余計な事に首突っ込むんじゃないよ。とりあえずメイル。あんた今何処にいるんだい?こっちは手が離せない。だから居場所を教えな。』


「あぁ。私は今中央通りのハルトマン像の跡地にいる。近くには怒り狂った精霊がいるが、グロリオサは一体何するつもりだ?」


『なるほどねぇ…。分かった。10分後そっちに火で作った化物を飛ばしてやるからしっかり合わせな!あたしゃ1度しかやらないからね。』


 そう伝えて《紅焔轟者》は通信を切った。今居る場所に向かって攻撃魔法を使うなんて相変わらずめちゃくちゃな女だ。リスクの高い行動を回避する事を常に考えて動いているメイルには真似出来ない芸当である。


「……ったくもう。グロリオサは相変わらずめちゃくちゃな事やるわね…。それに獄に連れてかれるかもしれないって普段から何やってんのかしら?」


「グロリオサは昔から少々やり過ぎる気概があるからな。彼女の言った通り、壊しちゃいけない物を壊したり何人か関係ない奴まで燃やし切った事なんて数えきれない程あるから獄に連れていかれてもおかしくない。これでも彼女がこうして自由にしているのはその実力と実績のおかげだ。とりあえず話を戻すが、君達が精霊に何をしたのかは知らないが、私は連絡の時に話した通り全面協力しようではないか。」


「!? ホントですか!?」


「街にいる影の鼓動はこの精霊の騒ぎを見て撤退を選択したらしいから街の方は私が見なくても大丈夫と見ていいだろう。あの様子だと精霊はそろそろ動き始めるかもしれないし、ターゲットは君達のどちらかと見ても良い。話を聞く限りではロジェさんの方が反感を買っている気がするし、疲れてるところ申し訳ないがロジェさんは時間稼ぎを頼めるか?」


「え?私が囮ですか?なぜ精霊に怒られてるかも分からないし、時間稼ぎもやるのはかなり大変なんですよ?」


「そんな事は私にも分かっている。だがあそこまで怒った精霊は放置すると本当に街を壊しかねないのだ。10分でいいから頼めるか?」


 その言葉を聞いて疲労が溜まってそうな彼女はものすごく嫌そうな顔をしていた。当然だろう。先程よりも凄い攻撃が来るかもしれない以上やりたがる人間なんて居るはずがない。


 どうするか考えていると、ガーベラと名乗る女は何かに気付いたかのように目を見開いてこういった。


「まさかロジェ…貴方は影の鼓動を撤退させる為に精霊をわざと怒らせてたの?あの時は何考えてるか分からなかったけど、それが狙いだとしたら手段がめちゃくちゃじゃない。街に被害を出さないって言ったのは貴方なのに一体何考えてるのよ!」


 ――ガーベラさんは何を言っているんだ…?精霊を操って犯罪組織を追っ払うなんて芸当が出来る者なんて存在するはずがなかろう。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ――なんだこの女…。無駄に早すぎるし、攻撃の軌道が全く読めねえ。


 現在スペアは式場内部であーるんとの戦いを始めていた。スペアの剣技は組織の中でもトップクラスの実力だ。誰にも負ける自信はなかった。


 ――だが目の前の女は確実に自分以上に強く、そしてとにかく早い。


 何十発と隙を見てなんとかダメージを与えたが、彼女は硬すぎるのか全く効いている素振りをしないし、移動速度が落ちる事はなかった。それどころか笑みを浮かべながら戦っている。


 目で追い切れない速度で動き、彼女は拳や蹴りの威力は高くはないが、そこそこ強い攻撃を何発も連続して放ってくるので、硬くて早いというのは相当厄介な相手だ。


「まだまだこれからが本番だろ?もっとかかってこいよ!」


「その余裕はどこまで続けれんだろうな!」


 そうしてスペアの持つ剣は剣型の魔道具だ。『過熱剣(ヒートソード)』は剣が受けたダメージを全て熱に変換出来る。剣自体が今まで貯めた相手の攻撃を一時的に出力し、相当温度が高くなった剣が相手に熱を付与する。


「チッ。余計な小細工を。」


 彼女が怯んた隙に致命打になる1太刀を浴びせようと動き出す。スペアの剣技は静かで早く、そして切った痕跡を全く残さないのが最大の特徴だ。このスピードに対応出来る者はなかなか見ない。魔道具の力に頼るのはあくまでも最終手段であって、この力が無くてもスペアはかなり強いのだ。


 そして勢いで彼女に追加の1太刀を浴びようとする。彼女は左腕に熱を持った剣の攻撃を受け、かなりの深手の傷を負ったあーるんはその場で初めて声を上げ、その瞬間スペアが相手の左腕の神経を狙って剣でダメージを与え、確実に優位を取った。


 そこから更に致命打になる一撃を与え、圧倒的有利な盤面にする予定だ。そのはずだった。



 ――だが、彼女はその場には居なかった。


「!? 消えた?」


『僕がその程度の小細工でやられると思ってたか?』


 突如動けなくなったはずの女の声がする。そして自分の目の前に相手の左手から高速の拳が飛んできた。あまりの威力に耐えきれず後ろの壁へと飛ばされていく。


「はぁ…余計なことしやがって。この程度の熱や傷で動けなくなったらあの子の隣になんて居ることが出来ねぇんだよ!」


 ――馬鹿な…確実に腕の神経に近い部分に攻撃を与えたはずだ!普通なら動けなくなるほどの痛みを感じているはずなのになぜ動ける?


「……なんでその深手の傷で普通に動けてんだ?一応この部屋には貴様の苦手な甘味も大量に配置しているのにここまで動けるとかさっきからぶぶぶ不気味でき、気持ちわりぃぞ!」


「この傷か?確かに痛みはするが、僕はこの程度の痛みなら昔っから何度も受けてるから慣れてんだ。ロジェちゃんの隣に居るならこんな攻撃は当たり前のように受けるし、体が自然と慣れんだよ!あとこの程度の匂いならさっきのケーキと比べりゃ何千倍もマシだッ!」


 痛みに体が慣れる…?意味が分からない。神経を抉る程の痛みを何度も受けて体を慣らすなんて相当高レベルな狂人のする事だ。普通ならやろうと思う奴が居るわけないし、有り得ない。


 そして彼女は再び蹴りを放ってきた。小細工や痛みが彼女に通用しないとなれば更に厄介だ。神経の近くにまで攻撃を与えても無傷な人間なんて今まで見たことがないし、そうなればどう倒せば良いのか分からない。


「もしかしてぇ、この程度の攻撃で僕が動けなくなると思ってたの?こんな攻撃でやられる訳ないっつーの。確かにてめぇの剣の腕はそこそこあるけど、僕はこの程度の攻撃じゃ痛みに慣れてるから全然動けるし、これで僕にビビってるようなら影の鼓動も大したことないなぁ…」


 そう言いながら彼女が歩いてスペアとの間合いを詰めてくる。剣士相手に自分から距離を詰めてくるなんて自殺行為も良いところだ。自分の間合いに入った瞬間奴の心臓を貫いてやればいい。


 そう思いながら距離を詰めてきた彼女に構えを取り、500m、300mとどんどん距離が少なくなっていく。そして自分の間合いに入った瞬間、彼女の体に剣を突き刺した。剣には手応えがあったので、確実に倒せたはずだ。



 ――なのだが、彼女は生きていた。


 正確には剣を指先で挟んで止め、剣の刃の側面で自分の指の皮膚を抉っているのだ。狂気の沙汰とは思えない。気安く自分の体を差し出すとか、こいつは間違いなく狂人だ。


「勝手に何やってんの?まだ僕の面白い技を見せれてないのに余計な事しないでくれる?」


 そう言って彼女は更に間合いを詰めてくる。剣をそのまま下に振り下ろして相手の手をまるごと切ってやりたいが、彼女の2本の指に込められた力が強すぎて動かせない。無理に動かせば剣が折れそうな雰囲気まである。


 そして彼女はスペアの左腕を掴み、笑顔を浮かべてこういった。


「じゃあこれ、今まで僕が受けた分のダメージ、全部綺麗に返してあげるね!」


 その瞬間、スペアの体内に激痛が走った。高熱のような痛みや神経を抉る痛み、指が削られる痛みなどあまりにも強烈な痛みに耐えられない。彼女は何も攻撃していないはずなのにおかしい…何が起きているのか理解しようにも痛みが酷すぎて脳が働かない。


 まるで体力が回復されているような感覚と酷い痛みの感覚が同時に襲ってくるので地獄を超えた生地獄だ。もう自分が生きているのかも死んでいるのかも分からない。


「まだまだ僕の体力はあるし、おかわりはあるから安心してね!絶対にそう簡単には死なせないから。」


 そう言って彼女は笑顔を浮かべたまま謎の攻撃を辞めなかった。この瞬間スペアは心からの敗北を悟った。


 ――だが、この程度で負けてたまるかよ!


 スペアは負けを認めず、地獄のような痛みを気合いだけで耐え抜き、相手が伸ばしてきた腕を剣で思いっきり切り刻む。スペアはこの時、初めて相手がまともに動けなくなる瞬間と、相手の腕から大量に流れる赤い血液を見た。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「おいクロ!なんとかアジトから脱出出来たがここからどうする?あの偽物もこの街にいると思うが。」


「そこまではまだ考えついてないが、多分あの偽物に同士も全員やられてると思う。何とか脱出出来たが、俺達の存在がバレないよう慎重に動かなきゃまずいかもな。」


 クロとモモは、偽物の使った睡眠状態と石化の仕組みをなんとか解き明かして窮地から脱出し、こっそり作っていた緊急用の脱出経路から外に出ていたのだ。現在サウジストの狭い路地で2人でどう動くか話し合っている。


「まさかあの偽物。あそこまでやれるとは思ってなかったぜ。この反逆の混乱に乗じて組織を乗っ取ろうとするなんて外道すぎんだろ。なにもんだあいつ。」


「多分作戦はマスターの思惑通りちゃんと動いているはずだ。だとしたら俺達が行くべき場所は『式場』だ。作戦中はあそこにずっと居るとマスターがいると自分が自ら言っていたし、一度俺達の作戦が失敗した事を伝える必要がある。」


「……それもそうだな。あのマスターはいつだって何考えてっかわかんねーけど、あの人ならきっと突然生えてきた偽物も何とかしてくれるはずだ。あの人が式場に居るなら僕達にもまだやれる事はある。」


 そう言って2人の構成員は式場にいるマスターに自分達の状況を連絡をする為に動き出した。

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