第二章 43 『わくわくブーケトス②』
「どこまで花束は飛んで行ったんでしょうか…スタートが出遅れちゃったから完全に見えなくなっちゃいましたね。」
「参加者に影の鼓動が混ざってる可能性はあるけど、間違いなく相手はこの花束を奪いに来るし、私達で何とか頑張らなきゃよねロジェ!」
現在ロジェとガーベラは2人で地上の状態がある程度分かるくらいの高さから何処かへと飛んでいってしまった花束を探していた。
花束が飛ぶ速度は異常なくらい速かったが、飛ばした方角や高さ的には地上に近い場所を飛んでいるはずなので、高い位置で引っかかって居なければすぐに見つかるはずである。
「にしてもこのブーケトスに参加した人達も全力で走り回ってるわけですけど、私達だけでこれって見つかるものなんでしょうか…。こういう時に限ってあーるんは何故か連絡つかないし、実質1人だから心配しかないんですけど。」
「大丈夫。この街の事なら隠れたスイーツのお店から適当に指定した家に住んでる人の白髪の数まで私は知ってるし、頼りになるわ!だから少なくともここ1週間程度潜入した影の鼓動なんかに情報の差で負けたりなんてしないから安心しなさい!」
「それはそれで怖いですよ。なんで関係ない人の白髪の数まで知ってるんですか!」
スイーツのお店は知りたいけど、適当に指定した人の白髪の数まで把握してるとかもうそれストーカーじゃん。この街の偉い人全員それなら普通に怖いよ...
「まぁまぁ。それくらい情報を持ってるっていう例え話よ!幾つかの家なら知ってるけど全部は流石の私でも分かんないわ。とにかく何が言いたいかっていうと、私をもっと頼りなさいって事よ!」
幾つか知ってる時点で十分怖いです…。一種のホラーですよそれ。
「ところでロジェ、貴方が花束に使おうとしてた魔法ってなんなの?効果を聞いてなかったんだけど。」
「あれですか?あの魔法は『嘆願の欲』という変わった魔法です。相手に使うとその人が願った事を1つだけ叶える事が出来る魔法なんですが、生命体としての意志を持たない者や生命活動しない相手に使うと、自動的に術の発動者の願いを1つ聞き入れてくれます。なのでその魔法を使って花束が最終的に私の元へと来るように細工しようかと思ってました。私は元々運が悪いのでデメリットを食らってもあまり関係ありませんし、今回の要望なら酷い目には合わないと思うので。」
「なにそれめちゃくちゃ凄い魔法じゃない。私も魔法が使えるレベルまで魔力があれば是非とも覚えたいって言ってる魔法だわ!魔力が沢山ある人って羨ましいなぁ。憧れちゃう!」
他の魔法同様、一見優秀すぎるようにしか見えない結構強めな効果を持つこの魔法にもちゃんとデメリットはある。
この魔法は願った内容が、世界にどれだけの影響を与えるかによって代償として払う効果が大きく変わるのだ。この魔法を使った時に支払う代償は『自身の運』のみだ。(払えない場合は強制的な延命措置による地獄を味わうようになる。)
小さな模型を自分の手で組み立てられないから、魔法を使って組み立てる。などの小さなことであれば、『1つの出来事』として周りに影響を与える範囲が小さいので、数分間だけ少し運が悪くなる。とかで効果は終わる。
だが、世界征服とか国の代表になりたい!と望めば『1つの出来事』として周りに及ぼす影響が大きすぎるので、200年以上運が悪いなんて事もざらにあるのだ。しかもこの魔法は、願い事が大きくなればなるほど『死』のリスクが高くなる程の悪運が付与される。
つまり、世界への影響が大きな願い事をすればするほど、代償が払い終わるまで地獄のような生死のループが始まるのである。だからこそこれはかなり危険な魔法であり、使う場合には欲を完全に捨てて小さな願いをするしかないのだ。
「私はこれの他にも使い道がよく分からない様々な魔法を知ってますが、この魔法だけは絶対におすすめしませんよ。なんてったって、これは命を落としかねないとても危険な魔法ですから。」
「……ロジェ。あんた一体どんな魔法を覚えてんのよ。魔法知識がない私が言うのもなんだけど、そんな命を落とす可能性がある危険な魔法じゃなくてもっと安全な魔法も覚えなさいよね。全く!」
私だって使いたくてこんな癖の強い危険な魔法を使ってるんじゃないです!生まれつき持ってる呪いのせいでそういう魔法しか使えないんだし、私は魔法以外の才能が0だからこうするしかないのっ!
「私だって正直こんなの使いたくないですけど、こういう魔法も使わないと死ぬようなハードモードな人生を送ってるので仕方ないんです。生まれつき運が悪いので。」
リスクが高い魔法に助けられた事は何度もある。――というか魔法で酷い目にあった方が圧倒的に多いと思うが、それでも懲りずに魔法の使用をやめないのは、それを使わないと自分は何も出来ずに死ぬからだ。
私はあーるんのように素手で戦える戦闘技術があるわけでもなければ、グレイのように何か凄い物を作り出せる才能があるわけでもない。
せっかく異常な量の魔力を持っているのだからその長所を生かさなければ魔女失格だし、そもそも私は魔法以外に出来る事なんて何も無い。だから私に出来る範囲で魔法を使って次々とやってくるトラブルを乗り越える。もうほとんど記憶として残っていない幼い頃の私はそう誓ったのだ。
そんな事を考えていると、突然ガーベラが肩を叩いて話しかけてきた。本人はそんな力を込めていないと思うが、多少は慣れてきたとはいえ叩かれる度に肩が壊れそうなくらいの痛みが走るのでやめてもらいたい。
「見て見てロジェ!ついに花束を見つけたわよ!おまけに誰も気付いてないしチャンスじゃないかしら。」
ガーベラの指を指す方向に視線を向けると、道の端の方で群がっている5匹程猫の群れを見つけた。この雨の中出歩く猫は基本居ないので魔物の可能性もあるが、街の中なのでそこまで危険ではないはずだ。だから安心して花束を奪い返せるだろう。すぐにでも奪い返せる――――奪い返せるのだが、それよりも気になる事が1つあった。
――群れの中にいるあの猫の着ぐるみを着て花束を咥えているあのやたら大きな猫、何?
一応見間違いの可能性があるので何度も目を擦って確認するが、何度見ても人型サイズの猫が1匹混ざっているのだ。群れの中に人が混ざっている理由も、何故猫が群れを解散してその場から逃げないのかも分からない。多分あの猫も不審者おじさんの仲間だし、この街に来てから少なくとも4人は不審者を見てるんだけど本当にどうなってんの?
「固まってないで早く行くわよ!じゃなきゃ花束を奪われちゃうじゃない!」
「....ガーベラさんはあの光景を見て何か変だと思わないんですか?どう見ても怪しい物があると思うんですけど。」
どう見てもあれ不審者だよね?なんで絡みに行こうとするんですかこの人!確かに花束は大事だけど、猫の着ぐるみを着たおじさんなんて明らかにまともじゃないんだからどう見てもあれは触っちゃダメな地雷でしょ!!!
「...…え?どう見てもおかしい所なんてないじゃない。もしかしてロジェはこの距離で何か気付いたの?」
またあれですか!また私だけがおかしいってなる流れですかこれは!!私は!何回来ようと!おじモンなんて!認めませんからねっ!!!
「.........いや、分からないならもういいです。とりあえずここは敢えて様子見しましょう。あの怪しい奴は何かの罠かもしれないし、今の状態では情報が足りてなさすぎるので。」
――罠?軽く混乱してるせいで適当に罠とか言ったけど、おじモンが仕掛ける罠ってなに?仕掛けてきたとしても大した物じゃないでしょ。何言ってんの私!
「ロ、ロジェがそういうなら...そもそも箒の主導権は私に無いし文句は言わないわよ。」
お願いします。文句言ってください....普通におじモンの罠って何だ!って突っ込んでください...突っ込まれても大した返事出来ないけど!
そんなこんなで特に意味もなく建物の陰に隠れていると、ブーケトスに参加してると思われる女性が猫の群れを見つけて近づいてきた。彼女が影の鼓動だとしたら戦いになるかもしれないのでロジェはすぐさま警棒を構えて何時でも魔法が打てるように戦闘態勢を取る。
「はぁ...はぁ。ようやく見つけたわよ私のブーケ。これさえマスターに献上すれば...私は昇格間違いなしね。苦労して見つけたんだから絶対に私が勝ち取るんだから!」
なるほど...やっぱり影の鼓動も混ざっているのね...サンドホーク愛護団体に壊滅してもらったはずなのにまだ生きてるなんてしぶといなぁ。さっさと撤退すればいいのに。
そういえば何回かメッセージを送ったけど、一向に仮面の人達から返事が来ないから心配ね...。同業者なのに式場に居ないけど大丈夫かしら。
影の鼓動の人間と思われる女性が猫の群れに1歩、また1歩と近付いていく。猫は人よりも気配の察知に優れるはずなのに全く気付かれていないし、むしろ猫達はのびのびしているのでどうやらあーるん並の気配を消す技術を持っているらしい。下っ端でも技術を持ってるのは、流石有名な盗賊団の一員である。
そして彼女がボスネコのおじさんが咥えた花束に手をかけようとした瞬間、周りにいた猫達が爆発を起こした。爆風によって正確には見えなかったが、ボスネコおじさん(仮名)が相手の体を自身の爪で真っ二つに引き裂いたように見えた。声も出せずその女性は血を吐き出し続けて地面に倒れる。地面にあった水たまりに彼女の体内にあった血が流れ、赤い水溜まりの上に彼女の死体が浮かんだ。
「にゃにゃ!?何事ですかにゃ?」
あっぶな!これ以上おじモンと絡みたくないから適当に理由付けて隠れて見てたけどこのおじモンだけ殺意高すぎるでしょ!他のは何もしてこない平和な奴どころかふざけた奴しか居なかったのに、急に殺されるとか怖すぎるわよこの界隈!!
その光景を見て絶句していたガーベラがロジェに話しかけてくる。
「まさかロジェ...貴方はこうなる事を分かっててさっきは様子見しようなんて言ってたの...?」
「……え?」
「だってさっき言ってたじゃない。罠があるかもしれないから一度様子見しようって。」
この人は何を言っているのだろうか。こんな初見殺しの罠なんて分かるわけがないでしょ。あれは私はおじモンとこれ以上絡みたくないが為に言った適当な虚言なんです!!!
「私があの出来事を本当に事分かってると思いますか?全部たまたまですよ。たまたま...。」
「またそうやってロジェはぐらかす...。お父様もロジェが屋敷の事件を予知して逃がしてくれたって言ってたし、あーるんさんも同じような事言ってたわよ!ロジェは未来が見えてるって!」
またいつものあれですか!あーるんもそうだけど、私にそんな未来予知みたいな力があるわけないって何回も何回も言ってるだろーーー!そんな力があったら既に組織だって壊滅出来てるわっ!
「なんか皆さん誤解してますけど、私にそんな力はないですから。そんな変な噂を鵜呑みにしないでください....。」
「でも――」
そんな話をしていると、さっきの爆発した現場から一人の女性が屋根から降ってきた。恐らくこの人も参加者なんだろう。視線がおじモンに注がれている。
「……ったく。あんな奴に私の昇格のチャンスを奪われて溜まるかっての。」
「お前は――一体にゃに者だ!」
屋根から降りてきた女は何故か巨大な銃を肩に背負っていた。恐らく影の鼓動の一員なんだろうが、どうやらこの依頼を達成したら影の鼓動で身分的な何かが上がるので死んでも花束は自分の手で回収したいらしい。
.....確かにここにはこのボスネコおじさん以外居ないから同じ組織の人間同士で奪い合いになるかもしれないし、誰かが来てもその武器で見殺しに出来るから問題ないのかもしれないけどさ、だとしても仲間割れは酷く無い?あの人が純粋にブーケが欲しい一般人ならどうするのさ...。
「あーあ。おっさんの方も生き残ってたのか。周りの猫に爆発弾を直撃させたから消せたと思ってたのに残念だ。あの時死ねてたら楽だったのにな。」
「お前...よくも私の同士を....!この猫ちゃん達には罪はないはずなのに一体どうしてこんにゃ事をする!」
いやいやいや。そもそもあなた人間でしょ...?猫じゃないのにこんな発言するなんて頭の中お花畑なのかしらこの人。
「あそこにいるネコ系擬態おじさんは猫になることを極めたおじさんで、誰よりも仲間意識が強いって聞いてたけど、ここまで感情的になって怒ってる状態は初めて見たわ...。このカッコよさは人気投票でも40位台に乗るのも納得ね。」
――猫になることを極めたってなに?もしかして普通に猫と会話出来たり、そのまま猫として生活出来るってこと?どう見ても気持ち悪いんですけど...
「……何を言ってるんですか?どう見てもあれはただの不審者じゃないですか。」
「あの熱血具合がかっこいいって言われててかなり女性人気が高いのよあのおじさんは!ロジェもそう思うでしょ!」
ガーベラさんがしっかりと解説してくれるが、本当に意味が分からない。どこからどう見ても着ぐるみを着たおじさんだしかっこいい要素なんてないじゃない。どう見ても不審者だし通報案件よあれは。
「どこの小娘かは知らにゃいが、にゃんの目的だ?にゃぜこんな事をする。」
「まぁそんな怒んなって。私が欲しいのはふざけた見た目をしてるおっさんが咥えてるその花束だけだけだ。正直今すぐにでもその花束を完全に洗浄してもらいてぇとこだが―――今は時間がねえし文句は言わねえ。だから大人しく私に譲ってくれよおっさん。」
分かる...汚いよね。触りたくないよね。これに関しては私も相手に同情するわよ。うんうん...。
「その為だけに我が愛しのにゃんこ達を...」
「どうだ。譲る気になったか?今のうちに譲るってんなら命までは取らねえよ。」
そう目の前の女が言い残すと、おじモンは笑みを浮かべて行動に出た。
「それが狙いってんにゃら....こうじゃああああ!!!」
そう言ってキャット擬態型おじさんは、花束を全力で空の方向へと投げ飛ばした。想定外の出来事に影の鼓動の女もロジェ達も驚きを隠せずに固まっている。
――せっかく私が掠め取れそうだったのに余計な事すんじゃないわよっ!!!
「――!!てめぇよくも余計な事を!」
「これが私の覚悟だ!私の光る爪を受けてみろ!うおおおおおおおお!」
そういってネコ系擬態おじさんは影の鼓動の構成員に対して文字通り牙を向いた。すかさず相手も自身の腰に備えていた短剣で受け流そうとする。互いに一歩も引かない攻撃、あまりの迫力に見てるロジェまで思わず息を呑む。
――そして一瞬で決着が付いた。
正確に言えば、影の鼓動は特に何もせずに攻撃を受け流す為の構えを取っただけなのだが、ネコ系擬態おじさんは段差で足を躓いたせいで自分の爪が地面に刺さり、そのせいで爪が割れた事で、その場から動けなくなったのだ。その様子を見て呆れた影の鼓動の構成員はトドメを刺さずに花束を再び探しに向かっていく。
――え。よわ...。さっきまるで主人公みたいな勝ち確みたいな行動とか起こしてたのに負ける事ってあるんだぁ...。じゃあ一体私はさっきまで何を見せられてたの?
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △
くだらない戦闘騒動が終わった同時刻、サウジスト空中でも1つの事件が起きていた。
「きゅー!きゅきゅきゅきゅ!(危ないママ!僕は沢山食べて大きくなれたから僕の後ろに隠れて!)」
「そうかい…でもまだあんたは成長したばかりだし、下界の人間共が私達に攻撃を仕掛けてるんだから無理するんじゃないよ。」
親精霊はとある出来事をずっと不思議に思っていた。
先程受けた魔法の影響が出てきている可能性もあるが、突然小精霊が大人サイズにまで成長したのだ。この小精霊はまだ300年程しか生きていないのでいくら食べようがここまで成長するはずがない。何か嫌な予感がする。
「しかし、なんでこの街の人間共は私達に攻撃してくるようになったのかねぇ…。別に怒りはしないが、いくら温厚な私でも限度ってもんがあるよ。」
「ききゅ…きゅきゅーきゅ?きゅきゅきききゅ!(確かに何故か攻撃は多いね…けど僕は怒って攻撃なんてしないよ?ママがやれって言うならすぐにでもやるけどね!)」
高位精霊の立ち位置に所属する自分達に意味もなく攻撃する人間共は何を考えている。そんな事をすれば精霊の逆鱗に触れる事になり、街が崩壊する可能性も秘めているというのに一体どうして…?
そんな事を考えていると、自分の近くにいた小精霊が突然意識を失ったかのように動かなくなった。そしてその影響で地上に落下し始めるので急いで親精霊が受け止める。
子精霊が意識を失った原因は不明だが、よく見ると何故か体内に妙な花束が刺さっていたのでこれが原因で攻撃されていると見ても良いだろう。
「許さん……ここまでするとは絶対に許さんぞ下界の人間共ッ!」
親精霊が怒り始め、街中に降る雨が更に強くなる。そして親精霊が動き出そうとした時、1つの動きを視界に捉えた。
「――なんだあの異常な程の魔力を持つ者は。まさかあいつが使った魔法のせいで…」
今回小精霊が倒れた原因は蓄積された攻撃による反動だと思うが、もし仮にだが、先程受けた魔法のせいでやられた可能性はないだろうか?
だとすれば高度な位置に向かって正確に魔法を使う場合、かなりの集中力と、威力を維持する為のそこそこの量の魔力が必要になるはずだ。そのような事をするのは、自分を小精霊がいる式場と呼ばれる場所に案内してきた黒装束の男か、空中で何かを探しているあの魔力が異常な女の可能性が高いと考えられる。
「どっちがこんな事したのか分からないが、可能性があるのであればどちらも潰せば解決する話だ……とりあえず今は考えられる原因を全て排除してやる!」
全てはやられてしまった小精霊の仇の為に親精霊は、まずは空を飛んでいるとある2人の人間を狙い始めた。




