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第二章 42 『わくわくブーケトス①』

 報告会の後、ガーベラの体力の回復や汚れた式場の清掃などがあるので、時間を少し開けてから再び挙式を開催する事になった。気のせいかもしれないが、雨風がケーキ騒動が終わる前よりも酷くなっている気がする。これ以降何か不穏な事が起きなければいいのだけど...


 そんな事を考えていると、何故か同じ部屋にいる元気になったガーベラが機嫌良く鼻歌を歌いながら話しかけてきた。


「みてみてロジェ!貴方のおかげで私は今とっても体が軽いの!あの仮面が与えた力って凄いわね!」


「……会議中も言ったし、何度も同じ事を繰り返して言いますが、私は本当に何もしてないですよ?私は本に載っていた仮面の効果を教えただけなので凄いのはガーベラさん、あなたです。」


 何を勘違いしているのかは知らないが、ロジェは本当に何もしていない。この仮面がもたらす効果を教えただけなのだ。仮面の誘惑に打ち勝ったのは彼女自身の力だし、処分に困っていた仮面を押し付けただけの私がここまで持ち上げられる理由が本当に分からない。


「そんな事ないわ!あの後よく考えたんだけど、貴方が私に仮面を渡してくれたのも、この先影の鼓動が襲ってきても大丈夫なようにする為なんでしょ?その力の解放を試すチャンスを作る為に雲の剣士を式場まで引き付けてたってのは分かってるし、私にまで隠さなくていいのよ!」


「……全然違います。あれはそんな狙いじゃないですし、これも会議でも言ったけどあれは影の鼓動が私に攻撃を仕掛けたせいです。私の狙いなんかじゃありません。」


 そんな事したら式場に化け物を召喚したのと同じになるんだからテロ行為と同じでしょっ!あの時の私はガーベラさんが仮面が発動した事も確認出来てなかったのに都合よく用意出来る訳ないでしょうが!何を考えたらそんな結論に辿り着くんだもーーーー!


「またまた照れちゃって〜!まぁいいわ。ロジェって何故か功績を隠したがる所があるらしいし、仕方ないわよね!」


「...…色々言いたい事がありますけど、ガーベラさん。その魔道具をどうやって力を上手く解放したんですか?あの時にも言いましたけど誰にも使いこなせなかったという呪いに近い魔道具だったはずですよ。確か余程強力な強い思いや願いがない限り、仮面の力を受け取るだけで精神が壊れる代物だったと思うんですけど。」


「これ?これはね、ひたすら甘い方向へと誘惑してくるからそれを永遠と否定し続けてたの!私の口調が所々変わってたからロジェも多分気付いてたと思うけど、実は私、所々人格が乗っ取られたりされてなかったりしてたんだ....。でもでも、完全に乗っ取られる事はなかったし、ロジェから仮面を受け取った時からあの時までずっと誘惑を否定し続けて、最終的に仮面の課す力の付与に耐えきった事で相手の心を折ったって感じかしら。あの仮面が嘘を言ってないなら私はいつでもあの時並の力を使えるはずよ!」


 よく分からないけどそんな事で主導権を乗っ取れるんだ。結局何のおかげで耐えきったのかは不明だし、鬼化の為の力の付与に耐えきった事も驚きだけど、私はガーベラさんが後ろにいた時に人格乗っ取られた事を全く気付いてなかったし、強いであろう仮面の精神を折るなんて凄すぎない?


 ――やはり頭のネジが外れてる人は基本化物という事ね…恐ろしい世の中だわホント。


「結局どうやったのかはよく分かりませんでしたけど凄いじゃないですか。私は何もしてないけど、ほぼ全ての人が主導権を奪う事を諦めるような仮面を、逆にガーベラさんが乗っとるだなんて歴史的快挙です!あれの力を引き出したのも過去に1人しか居なかったらしいですし凄すぎます!」


「へへへ。こんな事じゃロジェの作ってきた実績に比べたら私は足元にも及ばないけど、全てロジェのおかげよ?だから私は感謝してるわ。まだまだイベントが残ってるけど残りの挙式も私の護衛は任せたわよ!まだ影の鼓動が大きく動いてない以上中止させるか平和なまま終わらせるしかないんだから!」


「……多分今のガーベラさんは私より強いんだから護衛なんて必要ないと思います。」


 ――そもそもこの嵐なんだから、参加者の意見なんて無視して式自体を中止するのが1番平和じゃない?もうやめようよこんなの…



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



『以上がおじモンと呼ばれる愉快な仲間達による愉快で祝福の気持ちがとてもよく伝わってくる素晴らしいコントでしたね!只今コンビ名、愉快なおじさん達様よりお祝いのお気持ちを頂戴いたしました。皆様、彼らに向けて盛大に拍手の方をお願いします。』


 天候問題以外の式場の準備が終了し、挙式の方は先程の人喰いケーキ騒動がなかったかのように再開し始めていた。

 あれ以降は影の鼓動による大きな動きもなく平和な挙式が行われており、天候さえなければ最高のガーデンウエディングである。この悪天候がなければなッ!!!


 ――なんで明らかに不審者なおじモン達は存在が普通に受け入れられてネタが大爆笑の渦に呑まれるほどウケているのだろう。やっぱり私の感性がおかしいのかな…


『皆様、大変申し訳ございません。先程のトラブルにより、本日の挙式については予定を大幅に変更させて頂きます。』


 確かにケーキもやばかったけど、一番の大きなトラブルはこの悪天候なのでは?予定を変更するんじゃなくて式自体の開催日を変更しようよ…


 というかこのやたら強い雨は何時になったら止むんだろか…。何時間も雨に当たってるから明日辺りに風邪で寝込んでそうでやだなぁ。

 一応式場の人に掛けてもらってる雨避けの魔法はあるけど、雨が強すぎて全然防げてないし、このメイド服についてた髪飾りみたいなホワイト・ブリムのせいでフードとか被れないから髪にダメージありそうでやな事ばっかだよぉ…


『ここからは新婦のガーベラ様による、幸せのおすそ分け、通称ブーケトスを行います。ご参加頂ける女性の方は前の方へとお集まりください。』


 ――出たわね…今回のこの意味不明な挙式で最も大事な『ブーケトス』のイベントが!


 ブーケトスとは、結婚式で花嫁が参加者に背を向けてブーケを後ろに投げ、それを受け取った人が次に結婚できる。という幸せのおすそ分けを意味する定番イベントである。


 結婚式によくあるただのブーケトスならば、何かと人目に付くようなイベントだし、とにかく目立ちたくないロジェは幾らでもスルーしただろう。だが今回は違う。


 今回は、アルロさんが影の鼓動を炙り出す為に使用する花束をわざわざ『幸福の花束(フォーラブーケ)』と呼ばれる魔導具に変えているのだ。もし仮に敵の手に渡ってしまえば何が起きるのか予想が出来ないし、そんな事をすれば依頼失敗だ。この街のどこに敵組織が潜んでいるのか分からない以上、魔法を使ってでも全力で勝ち取らなくてはならない。


 とりあえずロジェは、何故か彼女の護衛をすることになっているので、常に近くにいるガーベラに小声で話しかける。


「ガーベラさん。先程お伝えしましたけど、やる事分かってますよね?」


「もちろんよ!私を誰だと思ってるわけ?式の開始前と違ってライトに今回は何も言われてないし、仮面にも私はもう迷わないって誓ったんだから、ちゃんと私の役割をこなしていてあげるわ!」


 ……本当に大丈夫だろうか?今までの態度を見ていたら心配なんだけど。


 ロジェとガーベラは事前に打ち合わせをしている。少々汚い手だが、ロジェがガーベラに向かって念波を飛ばして合図ともにブーケを投げ、投げたのと同時に魔法を使って回収する算段になっている。


 同時にやる理由としては、事前に使うとロジェが魔法を使った事が参加者にバレるからである。文句を言われないよう公平性を保つ為に魔法で細工した事がバレないよう息を合わせて行動する力が求められるのだ。


 続々と集まってくる参加者を品定めしながらロジェはガーベラに話しかけた。


「軽く見た感じ多分ですけど、参加者にはかなりの猛者は居なさそうです。だから仮に同時行動が失敗してもある程度はカバー出来ますが、あまり期待しないでくださいね。」


「そんなに言わなくてもわかってるわ!全く。ロジェは心配症なんだから…」


 ――その心配の原因を作ってるのはあなたです…あなたなんですよガーベラさん。言っておきますけど今日一日の行動見てたら全く信用出来ませんからね。


「じゃあ私達もそろそろ行くわよ。ロジェの方こそ失敗しないでよねっ!」


「……あなたにだけは言われたくないです。」


 そう言いながらロジェとガーベラは所定の位置についた。今までなんだかんだずっと彼女の近くにいたので、こういう時でもロジェが近くに居ても細工を疑われたり、文句を言われなかったりのは護衛についていて良かったと思える数少ないメリットである。


 ロジェは自分の体の後ろに手を回して人差し指を構え、魔法を使う準備をする。


『参加者の皆様、準備はよろしいでしょうか?新婦のガーベラさん、勢いよくお願い致します。行う前に軽く合図のような物を出して頂ければこちらでカウントの方をさせて頂きます。』


 ……初めて参加したから知らなかったけど、ブーケトスってそんな事やるんだ。普通に合図無しでやると思ってたからなんか新鮮ね…。


 その言葉を聞き、ガーベラが後ろを振り向いて花束を空へと掲げた。恐らくこれが彼女にとっての合図なのだろう。その合図を確認し、アナウンスの人が声を上げた。


『どうやら準備が整ったようです。それでは参りましょう!』


 その言葉と同時にガーベラは動き出す。その動きを確認した瞬間、ロジェがガーベラのみに念波を飛ばして意思疎通を取れるようにした。


『ガーベラさん、私のカウントに合わせてくださいね?』


『えぇ。分かってるわよ。何時でも来て問題ないわ!』


 私の掛け声次第か…責任重大なんだし、確実に成功させる為にも慎重にやらなくちゃ。


『じゃあカウント行きますよ。スリー…ツー…ワ…ぶぇくしょん!』


『!? ちょっとロジェ!?』


 式が始まってからずっと雨に当たってしまっていた為、体が冷えてしまっていた事からついくしゃみをしてしまった。いくら念波で会話しているとはいえ、これはくしゃみなどの生理現象の声も拾ってしまうのだ。念波会話の数少ない弱点である。


 そして案の定、魔法を使うタイミングと花束の動きが会わずにズレてしまった。魔法は一応使ったが、花束には当たらず別の方向に飛んでいってしまう。


「ロジェ!貴方くしゃみしてるけど大丈夫なの?」


 鼻を啜りながらロジェは答えた。


「すみません…ずっと雨に濡れてたせいで体温が下がってたみたいでついくしゃみが出てしまいました。そのせいで魔法の標準が合わなくて…」


「それなら仕方ないわね…ほら。私の雨避けの衣装来ていいから無茶しないで。」


 主役から雨避け用の透明な上着を1枚借りるのは申し訳ないが、このまま断っても話が進まなさそうだったので、大人しく借りることにした。

 そして、ロジェの中で1つ疑問になっていた事があったので質問をする。


「……それで1つ聞きたいんですけど、ガーベラさん。花束にどれだけの力込めて投げたんですか?」


「私は全く込めてないわよ!普段スプーンを持つ程度の力で投げたのになんか凄い速度で飛んでいっちゃって…もしかしたら仮面の力で鬼化したせいで私の握力がおかしくなってるのかも。」


 彼女の投げた投球フォームは、凄かった。投げる前に腕や足を上げたりする予備動作を挟みながら、後ろに振りかぶってブーケを投げていたが、どう考えてもブーケトスをやる花嫁がするような投げ方では絶対にないし、そんな投げ方をすれば間違いなく勢いが出るだろう。

 あまりの威力に、移動する花束が一瞬にして見えなくなってしまった。速度換算をすれば恐らく180kmは出ている。正確には分からなかったが、移動速度は多分ロジェの箒よりも速いはずだ。投げる前に予備動作があるとはいえ、少しやりすぎだ。


 ブーケトスのイベントに参加した人も驚いていたが、全員すぐさまどこかへと走り去ってしまったので、ロジェ達も急いで追いかけなければならない。


「……仮面の影響ってここにも出るんですね。互いに色々と文句言いたいですけどこんなところで止まってる暇はありません。私達で何とか取り返さないと――」


 ロジェはその場から立ち上がろうとした時、1つの巨大な映像が映し出された。それは花束を追いかける参加者達の姿である。

 映像を映し出す技術は、五人程の魔導師が一体となって大量の魔力を消費するため全然オススメはしないが、やろうと思えば出来なくはない芸当である。


『それでは式場内部から、ブーケトスを奪い合う様子をこちらで実況していきたいと思います!誰が花嫁からの幸せを勝ち取るのか。誰にも予想が出来ません!』


 その様子を見て残った参加者達が盛り上がっている。ガーベラさんから話を聞くまで知らなかったが、どうやらこれは恒例行事らしい。


 ――やっぱり私の知ってる結婚式じゃないよこれ…。


 呆れながらポケットから箒を取り出し、箒を使って空を飛んで移動しようとするとさも当然のようにガーベラさんが後ろから肩を掴んできた。鬼化の影響があるのかもしれないがロジェの肩にかなりのダメージが入る。


「痛い痛い痛い!壊れる壊れる!ちょっとガーベラさん!何のつもりですか!人の肩を壊す気ですかっ!!!」


「ごめんなさい。まだ力を完全に制御出来てなくて...。そんな事より私も後ろに乗せて連れてってよ!こうなった原因は私にあるんだし、何より貴方の近くにいる方が安全なんだもの!」


 ――――軽く肩を触られただけでこれなのに、このイベントが終わるまで私の体の感覚は生き残れるのでしょうか?正直めちゃくちゃ怖いんだけど...



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「きゅきゅきゅー!(この水は何度食べてもおいしいー!)」


「そうかそうか。あんたはあんな遠くからこんな美味しい食べ物まで見つけてくるだなんて良い子だねぇ。」


 サウジスト上空。空中で親精霊と小精霊が空中に浮かび上がるシャボン玉のような水の膜を食べていた。

 最初、親精霊は子供が何者かの力によってこの街へと来てしまった事に動揺し、空を飛んでいた黒いロングコートを来た眼帯の男を軽く襲ってしまったが、あの男の言う通りの場所に行くと無事子供を発見出来たので、親精霊の脳内は襲ってしまった事への申し訳なさでいっぱいだった。


「きゅーきゅきゅきゅーきゅ?(ずっと食べてるけど、まだ食べてていいの?)」


「良いよ。私は止めないから食べたいだけ食べていいさ。あんたはよく食べて強くなって貰わなきゃいけないんだから。」


 精霊の成長には500年は最低でも掛かるとされているが、人間で言うと9〜15歳までの食事の量によって精霊としての力の強さが大きく変わるのだ。

 だから今回のように無限に湧き出てくる旨味のある水の膜なんて中々出会える物ではないからこそ、この機会を生かして無限に湧き出てくるこれを小精霊はひたすら食しているのだ。子供の成長を願っている親精霊が止める筋合いなんてない。


 親精霊もそれを少しずつ食べながら子供の様子を見ていると、突然魔法攻撃が子供に向かって飛んでくる。


「!? 大丈夫かい?何か変な事は起きてないだろうね!」


「きゅきゅう。きききゅきゅきゅーきゅー!きゅきゅきゅきゅきゅ!(僕は問題ないよ。僕強いからすぐには影響出てないし、心配しないで!)」


 その言葉を聞いて少しほっとする。だが油断は出来ない。魔法攻撃は時間差で発生するものがあるからだ。何者かが自分の子供を狙っているとすれば、今すぐにでも全力を見つけ出して原因を排除しなければならない。


「この子にはまだ何も起きていないようだが…何かあった時はこの街に住む生命体全ての息の根を止めなければ。」


 親精霊は子聖霊から貰った水の膜を食しながら、地上に住む全生命体に警戒の目を向けた。その精霊の怒りに反応するかのように、街の外では大きな雷が数本落ちていく....

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