表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/80

第二章 41 『舞台の裏側』

「………次から次へと、今回は本当に呪われているようだな。」


「まさか式場からこちらに向かって冷凍保存された状態でケーキに取り憑いた魔物がこちらへやって来るとは思いませんでしたね…。しかも目の前で破裂して大きなエネルギーが解放されるし、これはもう確実に相手からの挑発行為とみなして良いのではないですか?」


 シャドーとドロシアは再び空から移動していた。シャドーは、先にこの街の入国の際に使う壁の仕掛けを管理する警備塔を2つの上位部隊と共に完全に制圧していたのだ。


 サウジストの入国には街を囲む高い壁を乗り越える事以外の方法だと1つしかない。それは普通に入国審査を受けて素性を調べた上で内部に入る方法だ。(ちなみにシャドー達は、組織の構成員を内部に潜ませているので、この国の入国審査は問題なく通るようになっている)


 この街への入り方は3つ出入口のような物があるのだが、緊急事態の時に仕掛けを起動させると、出入口に1つの壁が生成され、外部からは簡単に侵入できなくなる仕掛けが施してあるのだ。

 だからこそ先にこの場所を乗っ取り、人の出入りを完全に防いだ上で作戦を実行しようとした。


 ――なのに、問題が発生した。


 警備施設を内密に制圧し、シャドー達が外に出て空を飛んだ瞬間、氷漬けにされたケーキが自分たち目掛けて飛んできて巨大なエネルギーを解放しながら爆発に近い破裂をしたのだ。咄嗟に生み出した土魔法で作った蜘蛛の巣状の檻でケーキを捕らえていなければ恐らく周りには大きな被害が出たし、何人もの人が即死していただろう。威力も規模も尋常ではなかった。


「奴らめ…こんな挑発行為を式場から繰り返してないで直接攻めに来いッ!初見で吾輩の作った『絶望の権化(ヴァニッシユ・ハイド)』の弱点を見破れたのは賞賛に値するが、吾輩が居なければこの施設にいる人質も、周りに住む民間人も全員が死んでいたというのに何を考えている。奴らはこの街の警備依頼で来ているはずだろッ!」


 それはドロシアもずっと引っかかっていた。街に精霊をぶつけたり、この施設に向かってケーキを飛ばして爆発させたりと、シャドーが居なければこの街が崩壊するような出来事ばかりを繰り返すロジェとかいう女の考えている事が全く分からない。

 普通であれば街の護衛依頼なのだから、極力街に被害を出さないよう立ち回るべきなのだ。こんな事をしているとバレたら街を壊そうとするテロリストだと判定され処刑されてもおかしくはない。


「シャドー様、体調は大丈夫ですか?精霊の撃退に加えて物理的なダメージもあるのに、魔力の消費だったり、予想外の事ばかりで精神的なダメージとかもありそうですが。」


「……問題は無い。どのプランを取っても常に我々を潰そうとするあの女が気に食わないがまだリカバリー案はある。そもそも誰にも使いこなせないとされている『祝福の鬼嫁』を花嫁が使いこなせない限り、我々の作戦に大きくは響かない。嵐と共に現れる吾輩の幻影がこの場にある限り、失敗なぞ来るはずがなかろう!」


 親精霊のヘイト移しは対して魔力を消費していないが、あれだって多少の戦闘は起きたのだ。彼の使う特殊な魔法の『虚術(ホロウ)』は、魔力をかなり消費する。だから魔力が無くなれば彼は何も出来なくなる以上、多少の戦闘だとしてもかなり痛い一撃になりかねない。


 ……ところで、式場に差し向けた親精霊は今何をしているのかしら。式場から大した報告が上がってこないのだけれど、まさかあの女の手で既に精霊を完全に撃退したと言うの…?でも雨は止む気配もないから違うだろうし、もしかして精霊がこの街に来ていた原因を突き止めて衝突を回避した可能性がある。後で人を回して調べなければ。


「まだそうやって冗談を言えるようなら心配しなくても大丈夫そうですね。とりあえずシャドー様、次はどうします?私はプランBまでしか聞いてないので細かい指示の方を頂きたいのですが。」


「予定通りに行けば次は『ブーケトス』が行われるはずだ。スペアから部隊の誰かが『幸福の花束(フォーラブーケ)』を回収したと報告があった瞬間、吾輩が全員に向けて合図を出す。スペアがそう簡単に式を中止させるとは思えない以上、継続の報告が来るまで待機だ。それ以降の動きについてはAやBと同じだ。」


「分かりました。ではその――ッ!?」


 嘘でしょ…。シャドー様の計画に抜け穴なんて無いはずだし、こんな事は歴史上一度も起きたことが無いはずなのにどうして…?


「どうした。ドロシア。スペアからなんか報告が来たか?」


「……シャドー様、聞いても気絶しないでくださいね?スペアさんからの報告です。」


 そんなはずがない。私も『祝福の鬼嫁』について調べた。だけど幾ら調べても、魔道具として誕生してから様々な人間が使ったが、誰にも扱う事が出来ない危険な魔道具としか出てこなかったはず。なのに何故…?もしかしたらこれもあの女の手によって歴史を塗り替えたというの……?だとすれば本当にあの女は何者なの?


「私も未だに信じられませんが、『祝福の鬼嫁』を使った花嫁が仮面の主導権の略奪に成功し、力の制御を完璧に出来るようになったらしいです。スペアさんからの情報によると、力の制御に成功する秘訣を教えたのはロジェという女のおかげとのことです。」


「…………………なに?」


「ここで追い打ちをかけるような話になるのですが、報告がもう一つあります。」


「.....聞こう。」


「式場内にもう一つの『祝福の鬼嫁』が捨てられているのが発見され、見比べればすぐ偽物だと判断出来るような贋作の方を我々は掴まされていたみたいです。最初からあの女は本物を管理しており、我々に偽物の仮面が届くようにしていたと報告が上がりました。」


 その言葉を聞き、シャドーの態度が完全に変わった。長く共に過ごしてきたが、この男がここまで感情を露わにする事はなかった。恐らくこれはシャドーが相当怒っているのだという事が目に見えて分かる。


 怒る原因もドロシアには理解出来る。ミスはない完璧な作戦だと思って組んだ動きも、何らかの方法であの女に全て先読みされ、奴の掌の上で踊らされていたのだから怒って当然だ。あの女の道化になったという事実に耐える事が出来なくなる程の怒りと殺意を覚えているように見える。


「.....ドロシア。作戦を大きく変えるぞ。ブーケトスと同時に街を襲撃する部隊を全てを動かせ。『幸福の花束』を我々の関係者が回収した瞬間、吾輩が直接式場に向かってあの女は確実に始末してやる。あのふざけた女の首だけは吾輩が絶対にこの手で取る。」


「...…分かりました。」


 その時、まるでシャドーの怒りに反応したかのように大きな雷がこの街の近くで幾つも落ちた。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 この街の人達、本当に何考えてるの?


 現在ロジェ達は式場の別室で先程起こった事の報告とこの後の動き方について話し合っていた。挙式を中止すべきだという意見もあったのだが、何故か式場の過半数の人間が「ロジェ達が強いなら何が起きても大丈夫だろうし続行してほしい」という意味不明な意見でごり押しされたので、このまま続行する事になったのだ。本当に意味が分からない。


「ロジェ様、先程のあの爆発は一体どういう仕組みでやったんですか?」


 ――そんなのは私にも分かりません。


 私があの時やったことは2つだ。


 1つ目は、檻型の結晶を見つけたので、それを『スパンスパンダー』で檻の分身を作って、『ビックスポットン』で2つとも巨大化させた事。

 2つ目は、檻に何故かトロッコのような仕組みで運ばれてくるドライアイスを入れて、豆腐と雲剣士を閉じ込める事だ。


 ここまでは計画通りだった。問題はここからなのである。


 あの時は雲剣士の剣の威力が強すぎたし、剣を振った反動で発生していた濃いめの白い煙もあるので真実を誰も知らないと思うが、雲剣士が密閉していた2つの巨大な檻を即座に真っ二つに斬ったのである。本来はあの密封された空間に豪雨によって貯まったそこそこの量の水と過剰なドライアイスを入れてから大きな衝撃を与えて内部で爆発を起こす予定だった。


 だが、檻を壊されてしまったのでそれが出来なくなった。焦ってパニックになったロジェは、『スイスール』で空中にある氷魔法全てを吸収し、やけくそで雲剣士にぶつけたのだ。

 その結果、巨大な氷が雲に対する攻撃が通り抜けて後ろにいた豆腐に直撃し、しばらくするとケーキだけ想定外の大爆発を起こしたのだった。

 なぜあの時に爆発が起きたのかも、街の中心地に落とした豆腐ケーキの残骸を食い止めてくれたのは誰なのかも、私には分からない。分かることは、私がテロに近い攻撃をやりかけたという事実だけだ。


 ――パニックだったとはいえ、街を壊そうとしてしまった事は墓場まで持っていく事にしよう。


「人を集めて氷魔法を使うって言うからどんな事するか見ていたが、まさか空にあった魔法全てを使って一気に温度を下げて、あの高さから衝撃を加える事で巨大な熱を発生させてケーキを丸ごと爆発させるなんて中々やるねえあんた。あたしゃビックリだよ。」


 ――私はそんな事はしてません...確かにあの高度から強い衝撃を加えれば熱を発生させる事は出来なくはないけど精々出来ても5℃ぐらいなので、どう頑張ってもあそこまでの大爆発にはならないです....。


「私は大した事はしていませんよ。あれは水と氷とドライアイスの関係を上手く使って爆発させただけなので。」


 それが出来れば良かったんだけどな!私は失敗したから出来てないけどっ!!!


 ――ところでこの如何にも悪い魔女って感じの高齢のお婆さん、誰?


「そうだったのね...。それでロジェ、あの雲の剣士は一体何者なの?途中連絡石を乗っ取られてたけどケーキから逃げてる間に何があったわけ?これも影の鼓動のせいなの?」


「それは僕も気になるかも。なんかあいつは結構強そうだったし、ガーベラさんのお陰でたまたま撃退出来たけどまた襲ってくるなら厄介だよ?だから教えて欲しいかも。」


 ケーキも剣士も全部私のせいなんだけど――――なんて言ったらやっぱり怒られるかしら…


 もし仮にそんな事を言えばめちゃくちゃ怒られるだろうし、依頼失敗どころの騒ぎじゃないわよね...。だって豆腐を加える前ですらあれだけ暴れてた魔物を私が強化して、街中に強力な剣士を向かわせようとしたんだもの。こんなのバレたら極刑じゃない!


 てかそもそも豆腐ポーション使ったら弱ってたケーキが強化されるなんて誰が分かるのよ!取り憑いてた魔物を作った奴は本当に何考えてるのかしら。私が言える立場じゃないけど本当に頭おかしいんじゃないの!!!


 とりあえず本当の事を吐けばまずいことになると悟ったロジェは、いつも通りの冷静沈着キャラの口調でこう言った。


「...…悪いのは全部影の鼓動です。先日高位精霊がこの街に来たのも、あの雲の剣士が現れたのも、暴走するケーキが豆腐型のケーキに変化したのも、私の手元に何故か盗まれたはずの祝福の鬼嫁が届いていたのも、私が弱体化した爆発寸前のウエディングケーキをこの街に落とそうとしてたのも、この悪天候なのに何故か挙式が続行しているも全て奴らの仕業です。えぇ、全て!これら全ての事は影の鼓動のせいです!間違いないでしょう!!悪いのは影の鼓動だ!!!」


 ロジェは、ある事ない事全ての責任を影の鼓動に全ての責任を擦り付ける事にした。


 仮面の件は影の鼓動のせいではないかもしれないし、愛護団体の人達はどうやって仮面を手に入れたのかは知らないが、ロジェがこの仮面の事を隠してもいつかバレるのだから責任を押し付けるには良い機会だ。彼らは有名な犯罪者だし、今更罪が一つや二つ増えても文句は言われないだろう。というか絶対に言わせないわ!


 その言葉を聞いて、ライトが手を挙げた。


「ちなみに一つ聞きたいんだけど、ロジェさんは本当にそう言い切れるんですか?ケーキが豆腐になってたなんて情報は式場にいた人間全員が知らない情報だ。僕達が見たのは少なくとも普通のケーキだったはずだよ。被害者だって全員解放されてるから彼らに聞けばそれが嘘かなんてすぐに分かる。」


「......何が言いたいんですか?ライトさん。」


「僕は君が全部仕組んだんじゃないのかなって思っただけさ。僕は昔から嘘を見抜くのが得意でね。相手の顔を見れば一瞬で分かるんだ。目線、しゃべり方、呼吸の長さ、声の高さ。全てにヒントがある。だから君が何かを隠しているのはバレバレって事だよ。」


 ――これ、墓場まで隠し通すの無理そうですねー。これもう土下座して許してもらえたりしないかなぁ…でも事が事だからそんな事しても許して貰えるわけないしなぁ。私、割と詰んでるのでは?


 もうやだ...生まれ変わったら柔らかい豆腐になりたい。あたしはぷにぷにの豆腐だよ。皿の上でゆらゆら揺れる小さな豆腐…


 そんな感じで諦めモードに入ってニコニコ微笑んでいると、あーるんがいつものように吠え始めた。


「はあぁぁぁぁ!?大体、てめぇは騒ぎの時、式場にいなかったろ!僕からすればてめぇの方が何万倍も怪しんだよ!お前、あの時どこ行ってたんだぁ?あぁん!?」


「何を判断して僕をここまで敵対視しているのか知らないですが、いい加減僕の事も信用して欲しいものですね。あの時僕は式場から姿を消したガーベラの事を探してましたし、ケーキ騒動で行方不明になっていた人を見つけたのは僕じゃないですか。せっかくの功労者なのに疑われるなんて悲しいもんですよ。」


「それもどこまで信用出来るもんかねぇ。仮にてめぇが敵側だったとしたら、行方不明者を見つける事も容易いだろ?だからそれだけじゃあ信用出来るカードにはなってない。あの騒ぎでてめぇだけ姿が全く見えない時点で怪しすぎなんだよ!白を証明したいってんなら勝手に持ち場を離れんじゃねえ!」


「ライト…何か隠してるならせめて私にだけでも教えてくれない?私の事を心配してくれたのは嬉しいし、別に貴方の事は全く疑ってないけど、貴方の事をみんなに信用させてあげたいの。」


 ――うん、この発言は絶対嘘だ。大体、ガーベラさんは花園にいた時めちゃくちゃ疑ってたよね?私は別に敵だなんて思ってないけど、何を根拠に2人はそんな疑ってるのかしら?可哀想じゃん。


「安心してよガーベラ。僕は何も隠してない。まぁとりあえず僕はロジェさんが何か隠してると思っただけです。僕から言えることはこれ以上ありません。」


 その言葉を聞いてどうやら彼への尋問は終了するようだ。何故か知らないが敵対視してそうなあーるんが舌打ちしながら大人しく引っ込む。


「とりあえず話は分かりました。ガーベラに正しい仮面の使い方を伝授し、使い道を示してくれたロジェ様には深く感謝します。」


 ――いや私、本に載ってた仮面の効果をそのまま言っただけだし、仮面に関しても責任取りたくないから押し付けただけだし本当に何もしてないよ?なのになんで私の功績になってんのさ。凄いのはガーベラさんなんだから彼女を称えてよ…。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ――あの女、どこまでこの計画の事を知っているんだ?


 ライトは個室に戻り、シャドーから届いた作戦変更の連絡を確認しながらそんな事を考えていた。


 ロジェはケーキの件はともかく、仮面の件もこの挙式が組織票によって続けられた事も完璧に言い当てたのだ。

 仮面の件はあの女のせいだから言い当てるのは可能だとして、続行に意見した組織票の事については自分が引き連れて来た部隊の人間とシャドーやドロシアしか知らないはずだ。


 ――なのにどこまであの女に情報が漏れている。


 自分の部隊に内通者がいる可能性も考えたが、そもそもあの女と接触している組織の者は居ないはずだ。ケーキ騒動の間に部隊全員とコンタクトを取ってあの2人に接触があったかの確認も取れている。


 あの女が情報を言い当てた時、少し動揺して人差し指が一瞬動いてしまったが、あの小さい女にその仕草がバレていないだろうか?少しの匂いの変化に気付くような女にその動作を気付かれていない事を祈るばかりだ。


 そんな事を考えながら作戦の変更内容に目を通した。


 どうやらあの男はこの後行われる予定のブーケトスイベントで全てを終わらせる予定のようだ。あの男は利用出来る人質の数が減ることを酷く嫌っているが、どうやらここであの2人の始末をやる事を決断したらしい。珍しい事もあるものだな。


「じゃあ、僕もそろそろ本格的に動くとしようか。」


 ――そう。裏切りと惨殺という名のメインディッシュをね。まずはあのピンク髪の女を消さなくては話にならん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ