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第二章 40 『人喰いケーキ④』

 地上では、着々と準備が完了しようとしていた。

 街の中にいた魔導師が何人が式場に到着し、魔封じの結界が解除され、式場では演出に使う用のドライアイスが大量に集められようとしている。


 その状況を見ながらライトは1人悩んでいた。


「どこ行ってもガーベラが見当たらないと思ったらあの女と共に行動してたのか!これじゃあいつまでた経っても仮面の着用を強要できねぇ。」


 ライトはこの暴れるケーキの対処法を知っているのだ。

 鬼化レベルした人間の力は鍛えた人間の1000倍以上の力を誇るので、無駄に身体能力が高いガーベラにその力を与えれば、中に取り憑いている魔法生物は力に耐えられず消滅し、ケーキを綺麗に2つに分断出来るのだ。彼女が仮面をつければ帝都なんて簡単に乗っ取れるし、現状最難関と言われている☆9ダンジョンすらも攻略出来る可能性が見えてくる化け物になるはずだ。


「だがこの方法はまずいな。確か今回使った魔法生物は確か異常な冷気に弱いはずだ。あれだけの魔導師が集まってるなら仮面無しで突破される可能性がある。魔封じの結界が解かれたのは想定外だったが、このままじゃ仮面の起動が上手くいかなくなるし、色々とまずい。」


 魔封じの結界が一時的に解除されているのは影の鼓動にとって都合が良いが、仮面の起動がない場合だと作戦に影響が出てしまう。あれが無ければ『人質』という強力なカードを失い、作戦がやりづらくなるのだ。

 暴走するガーベラというカードがない状態だと《紅焔轟者》やこの街の貴族が何をやるかなんて想像が出来ない。


「潜入組もこれに関しては何も出来ないようだし、非常に厄介だな。作戦が上手く機能しないなら今までの努力が無駄になっちまう。シャドーに連絡しても特に返信が来ないし、何か手を打たねぇと…」


 そんなことを考えながら式場内部を歩いていると、クリームに紛れ込んだ1つの石仮面を発見する。クリームで汚れて分かりにくいが、少なくともライトにはこの仮面に見覚えがあった。


「これは『祝福の鬼嫁』か…?本物はガーベラに渡したは――ッ!って事はまさか…!畜生やられた!俺達が最初から持ってたのは『偽物』か!」


 状況証拠でライトは何が起きていたのか全てを察した。

 このタイミングで2つ目の仮面が見つかるなんて有り得ない。ガーベラがコレを落とした可能性も無くはないが、彼女はそう簡単に仮面を手放すとは思えない。となれば考えられるのは『自分達が偽物を掴まされていた可能性』だ。

 シャドーから聞いていた情報が本当なら、ロジェという女が下位部隊に手を出していたはずなので、盗むのを担当していた部隊が偽物をシャドーに送っていてもおかしくない。


「チ。このままじゃマズイ!とりあえず俺の部隊と合流だ!緊急でアレの準備が必要になる!」


 ライトは急いで建物の内部に移動し、自分の部隊に集合連絡をかけた。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



『ベリベリべ…』


「あっぶな!この豆腐、当たっても柔らかいから痛くなさそうに見えるのに、なんでこんな速度と威力があるのよ!」


 ロジェは現在豆腐型ケーキとの第2ラウンドを開始していた。自分でも意味が分からないが、この豆腐型ケーキはやたら好戦的で体術を駆使して襲ってくるのだ。先程の遠距離な姿勢はどこに行ったんだ!どこにッ!


「冷却ポーションの影響で異常なレベルで硬くなった残骸の雲が一瞬で粉々になるなんて聞いてないわ!これに取り憑いてる魔法生物って一体何者なのよ!しかもさっきよりめちゃくちゃ接近してくるし、魔法が狙いにくい!」


 パンチやキックを駆使するその姿は、近接戦闘職の人と錯覚してもおかしくないレベルで様になっているのだ。あーるん程は動きが速くもないし、強くはないが、恐らく冒険者に換算すればそれなりに強いと評価されるレベルまでは強くなっているのだろう。そう言い切れる程の技術がある。


「こうなったら使ったことの無いから上手くいくか分かんないけど使ってやるわ!」


 ロジェは目を瞑り、特定の感情だけを脳内に念じ続ける。


 ――戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい…


 少し時間はかかるが、脳内を戦闘狂のような攻撃意欲で満たしてから魔法を唱えた。


「『大いなる挑戦者(マスクタスリート)』!」


 大いなる挑戦者(マスクタスリート)とは、魔法使用者の感情や意欲を1つそのまま実体化させ、それが物に取り憑いた瞬間、再現した感情に身を任せて大暴れする魔法である。欲が完全に消え去るまでその分身は消えることがない。

 デメリットとしては、1つの感情や欲につき1種類の個体しか生み出せない事と、感情に身を任せて暴れるので魔法使用者もついでに襲われる可能性がある事、そして念じる感情が強すぎると地上に降り立った瞬間街が大惨事になる為、念の強さ次第では強さと引き換えに色々な物や人がなくなるリスクが高くなる大変危険な魔法なのである。


「よしよし、巨大な思念が実体化されたし魔法自体は成功ね。あとはこれがどこまで暴れるかが問題なんだけど…」


 ロジェの念じた思念が雨雲に取り憑き、巨大な黒い雲形の巨人が姿を見せた。どうやら今回実体化させたのは『剣士』タイプのようだ。


「そこの女。俺と戦って自分の力を示せ。」


 挨拶代わりに剣士型の黒雲が剣で出来た雲をロジェに向けて振り下ろして2つに斬ろうとしてきた。そんな簡単にやられる訳にはいかないので何とか全力で攻撃を避ける。


「………え?ちょっと何を言っているか分からないし、大体私剣なんて持ってな――」


 そしてまた1太刀、また1太刀と剣が下ろされる。何とかかろうじて剣を避けているが、その剣型の雲には明らかな殺意を感じる。


「聞こえなかったか?特別にもう一度言ってやる。俺にお前の強さを見せろ。」


「い、いやいやいや。あなたが戦うのはそこの豆腐…ってうぉ!?あっぶな!」


 目を瞑っていた時もワンパターンな豆腐ケーキの拳の攻撃を何とか避け続けていたのだが、どうやらそろそろ避け方もバレてきたらしい。対応され始めていた。


「なんだこのふざけた見た目をした不届き者は。俺の獲物を横取りしようとするとはマナーがなってねえな。」


 ――いやぁ?貴方も挨拶代わりに私を斬ろうとするんだから同じだと思いますけど??


 そして黒雲型の剣士と豆腐型格闘選手の試合が始まった。正直私も何を言ってるのか分からないが、これ以上意味不明な対戦カードはないと思う。剣で豆腐が木っ端微塵にされるが、豆腐は無限に再生してくるのでもはやどっちが勝つのか最後まで見届けたい。


『ベリベリべリ?ベベベリ!』


「そう褒めんなよ!お前は俺の獲物を横取りしようとしたんだ。俺の手でお前だけは斬らせてもらおう。」


 ――もしかしてこの2人は会話出来てるの?豆腐と魔法で作った雲って基本的な部分が違うから無理なのでは?


 もう意味が分からないのでロジェはその場から離れようとする。すると巨大な豆腐の壁がロジェの目の前に展開され、何本もの雲形の短剣が円を描くように突き刺さり、ロジェは身動きが取れなくなる。


「おい、何逃げようとしている。お前はこいつが終わったあとの獲物だ。そう簡単に逃がす訳にはいかねえ。」


「……いやです。」


 そう言うと、一瞬で移動してきた雲剣士が喉元に長い剣を軽く当ててこう言った。


「ならお前から先に俺の剣で粉々に刻んでやろうか?それが嫌ならそこで大人しくしてろ。指示を出すまで動くな。絶対にだ。」


「……」


 ――あれ?もしかしてこれ詰んだ?というか私、生みの親よ!生みの親には優しくしなさいよ!!


 そんなことを考えていると連絡石が反応した。隠れて連絡を取りたかったが雲剣士に鋭く睨まれるので、仕方なく雲剣士の目の前でポケットから石を取り出して話を聞く。


『ロジェちゃんこっちは準備出来たよ!いつ来ても大丈夫だから来る合図だけは出してね!例のアレは用意しとくから!』


 ――私、絶体絶命だからそれ所じゃないんだけど…


 すると雲剣士が石を無理やり奪い取り、ロジェの生死を無視してこう言った。必死に魔法で抵抗しようと左腕を構えようとするがすぐさま剣を直当てされ、動きを封じられる。軽く当てられてるだけなのに腕が痛い。


「下界の奴ら、よく聞いとけ!俺が今からそこにいる豆腐と共に侵略しに行く。覚悟をしておけ!」


『ベリベリー!ベリリリ!』


『………おいてめぇ。何者だ?5秒以内に答えろ。』


「ちょっ、あなたは私が作った魔法生物でしょ!何勝手なことを言ってるの!てか連絡石を返して!」


「は?俺はそんな事は知らねぇし、召喚はお前が勝手にやった事だろ。俺はただ強い者を倒したい。その為に存在するんだよ。お前みたいな弱者に構ってる暇なんてねえ。黙ってろ。」


『おいそこの野郎。話聞いてんのか?てめえは一体何者だ。』


「名前か…そうだな。俺の名はクラウン。最強と名高い剣士だ。とにかく下界の奴ら、今すぐに強者を集めろ。俺からの要望はまだ――っておい!何をする!」


「あーるん。私よ!私はこの通り無事だし、こんな自称最強野郎の言い分は無視でいいわ。とにかく今からそっち向かうから氷魔法を空全体に発動させておいて!それじゃあまたあとで!」


『え?ちょ!ロジェちゃ――』


 そう言ってロジェは無理やり通信を切った。敢えて隠してた右手で浮遊魔法を使い、連絡石を掠め取れたのは奇跡だったが、これ以上ロジェのせいで何かやばい事が起きるのだけは絶対に避けなければならない。


「………おいお前。殺されたいのか?」


「私はあなたの生みの親よ。なら私はお母さんなんだから私の言うことくらいちゃんと聞きなさい!」


 ――てか今思ったけどなんでこの豆腐ケーキとこの剣士は手を組んでるの?さっきまで殺し合いしてなかった?


「知るか。俺は俺の意思で生まれた剣士だ。お前みたいな胸のデカさ以外語る事が無くて、親みてぇな事を言うやつなんざ知らねえ。勝手な事言うな!」


「……なんか今聞き捨てならない言葉が聞こえたけど、今は特別に見逃してあげるわ。それに私はそう簡単に死なないから。しぶとくて最後まで諦めないのが私の強みだもの!」


「ほう…じゃあその強みとやらを見せてもらおうか!」


 そう言ってロジェの顔面を目掛けて剣が飛んでくる。剣が軽く掠って少しロジェの髪が空から落ちるが直前で何とか避け、ロジェを覆っていた豆腐の壁が破壊される。壊れた衝撃と共に箒に指示を出し、すぐさま逃げ出す。


「あなたの実力もこの程度かしら?私はそう簡単にやられないわよ!」


 そう言ってロジェは手元から爆発ポーションを取り出し、アクトピクチャで演出を過剰にして目の前で爆発させて時間を稼ぎ、その隙に更に速度を上げて逃げ出した。


 ――あれだけ煽っておいて逃げるなんてダサいことはしたくないけど、今は緊急事態。とにかく今は地上にある氷魔法でケーキの方処分しなきゃ。雲剣士の方は………剣持ってないけどあーるんなら強いし勝てるでしょ!頑張って!!!


「ちっ。逃がしたか。」


『ベリベリ!ベベベリリ!ベリ!』


「ほう…お前、奴の逃げた先を知っているのか。ならまず1人目の獲物はあの女にすっか。」


 雲剣士と人喰いケーキは、逃げた魔女ロジェを追うために下界へと移動を始めた。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「通信が切れてしまいましたね…。一体空では何が起きてるのでしょうか。」


「分かんない…けど多分なんかやばい事になってる事だけは分かる。ロジェちゃん大丈夫かな。」


 あーるんはロジェの帰還を待つために式場の中心地にいた。近くにはアルロや《紅焔轟者》と呼ばれる実力者もいる。


「ガーベラ。あんたの信用するその魔導師は本当に役に立つのかい?今のところ私の中の人生でもトップクラスでポンコツ臭がしてるのだけれど、信じていいんだね。」


「きっと大丈夫よグロリオサ。あの子は私の望んだ物は全て守ってくれると約束してくれましたもの!あのクラウンと名乗った奴もきっと何か考えがあって引き付けてるんだと思うわ!」


 確かにロジェちゃんの行動に今まで間違いはなかった。彼女のやる事はいつだってめちゃくちゃだけど、なんだかんだ結果的に最適解になる事ばかりだし、今回だってきっと何か考えがあるはず。

 ――だけど今回だけは本当に狙いが見えない。あの意味不明な剣士もそうだけどそんなのまで引き連れて何するつもり?


「とりあえずグロリオサさん。氷魔法の準備をお願い出来ますか?多分彼女は今こっちに向かってると思うので空中に氷魔法を打って欲しいです。」


「そこの小さいの。あたしは何かやる必要はあるかい?炎で焼き尽くすのならば幾らでもやるが。」


「グロリオサ…。それは街が燃えて被害が出かねないのでおやめください。」


「……とりあえずグロリオサさんは、1度様子見しましょう。あの剣士の強さが未知数だし、最初はあの剣士にロジェちゃんが襲われてる可能性もあるので僕が相手しますけど、やばそうなら相手毎燃やしてください。僕は何とかして攻撃を避けるので。」


「ほう…見た目が小さい癖にやたら自信家だね。あたしゃそう言う血気盛んな若造は嫌いじゃないが、くれぐれも無理だけはするんじゃないよ。命を捨てようだなんて考えは捨てときな。」


「はい…」


 あの子の為なら自分の命なんて惜しくない。そんな考えを見透かされている気がして少し弱気になるが、戦場にいる以上は落ち込んでいられないのですぐさま切り替える。

 そんな事をしていると、突然空から大量の豆腐が降り始めた。雨のほとんどが豆腐に変換されている。


「何かしらこれ。一体どんな魔法なの…?まさかこれもロジェがやったの…?」


 すると空から1つの動く影が見える。そしてその奥から巨大なケーキと人型の影が動き始めていた。


「ほう……ついに来たかい。あんた達、出番だ。私のクランに加入している以上ミスしたら許さないよ!」


 グロリオサがそう声を上げると、魔導師が一斉に空中に氷魔法を使い始めた。巨大な氷柱や氷塊、結晶を作る者、吹雪の時のみに現れるという氷龍を再現したオブジェクトや雪を発生させる雲を作る者に、氷の槍や剣などの武器を生成する者など多種多様である。

 空を氷魔法だけで埋めつくそうとするその光景は、どう生きてきても中々見ることは出来ないだろう。


 そして1人の魔導師が氷魔法を使って線路とトロッコのようなオプジェクトを作り、空中にいるロジェに向かってドライアイスを送り届けた。


「ロジェ…私達がやれる事は全部やったけど、貴方はここからどうするの…?」


 ガーベラが心配そうに空を見上げながらそう言う。あーるんも今回ばかりは何をしようとしているの全く理解は出来なかったので少し心配である。


 すると、空中にあった氷魔法がロジェの手により密閉された大きな檻へと変化し、残った氷を全て1箇所に集めて巨大な塊を作っていた。檻のサイズと比べればその五倍はある。その瞬間一瞬深い煙のような雲によって戦況が見づらくなるが、何かが爆発する大きな音がした。

 恐らく彼女が檻の中へと氷の塊を直撃させたのだろう。そうなれば彼女の呪いが発動しないか心配だ。


 すると、ケーキらしき影が地上に向かって落下し、地上に落ちる前に大爆発を起こす。


「けっけっ。まさか氷魔法を1つに集約させてから威力を上げて爆発させるとは。あの手の魔法は難しいと言うのに中々やるじゃないか。」


「あの大爆発が起きたのならきっとケーキが襲ってくることはないわよね!なんで豆腐が降ってくるのかは未だに理解出来ないけど、これで1つの脅威が無くなりましたわ!」


 多分他の誰も見えていないだろうが、あーるんはケーキが爆発する前に起きた1つの不審な動きを目で捉えていた。あのケーキのいる位置に向かって誰かが土っぽさのある蜘蛛の巣を貼り、ケーキの落下を防いでいたのだ。


 確かこの前ロジェちゃんが話していた気がするが、ドライアイスと水を密閉させた空間に大きな衝撃を与えると、内部で小さな爆発が起きて中身が丸ごと破裂するみたいな話をしていたので、ロジェが行ったのはその仕様を生かした攻撃だろう。


 だが、一体誰があの高速で落ちるケーキに向かって蜘蛛の巣なんてクッションを作ったのだろうか?あそこまであーるん達は手を回せていないし、グロリオサの連れてきた魔導師がやったようにも見えなかった。あれを止めなければ恐らくかなりの被害が出ていたので感謝でしかないけど....


 そんな事を考えていると、ロジェが黒焦げになりかけている黒い雲に追われながらこちらに向かって過去一番情けない声を出して叫んだ。


『誰かああああああああぁぁぁ!この雲を何とかしてええええええええええええ!』


 その言葉を聞くことなく、あーるんが空へと飛び出そうとするが、それよりも先に頭から1本の角を生やした女性の影が空へと飛び立った。


「OK!残りの事は私に任せなさい!ロジェ!」


 その女性は『祝福の鬼嫁』を装備したガーベラだった。手元には1本のフォークを持っている。普段以上に長く伸びた髪は着ているドレスのように神々しくなり、美しさに磨きがかかった姿。そしてあーるんを超える異常なまでの跳躍力と、相手に引けを取らない戦闘技能はまさに美しさを兼ね備えた『鬼』を連想される変わり様だった。


 彼女が握ったフォークはまるで1人の強力な剣士を思わせるような剣技で相手を圧倒し、そこから一撃で相手の雲形の剣を薙ぎ払った。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



『力を求め吾輩を装備する者よ。流されるがままに身を委ねよ。』


「言いなりにはならない。逆にこの私が貴方を乗っ取っるわ。」


『……身を委ねれば貴様の友達もすぐに助けられるぞ。素直に吾輩の指示に従え。』


「嫌よ。貴方なんかに捧げる人格も時間もないわ。いくらそんな甘い誘惑を見せようが私はもう迷わないし、全て1人で切り抜けてみせる。」


『なんという異常なまでの忍耐力だ。ここまで何時間も繰り返し続けたが一切動じないとは…素晴らしい…素晴らしいぞ!ますます気に入った!』


「……」


『強靭な肉体に、全く引き出されていない才能。そして一切動じない忍耐力!ここまで感動する使用者は久しぶりだ。吾輩が唯一負けたあの男にそっくりで最高だ!そんな素晴らしい戦士に2つ選択肢を授けよう。自我はなくなるが初心者でも力を最大限発動出来るオートモードと、力を制御出来なくなるが人格を残すマニュアルモード、貴様はどちらを選ぶ?吾輩はマニュアルモードを推奨する。』


「……うそつき。どうせこれもマニュアルモードを選択させて人格を乗っ取るための誘導なんでしょ?」


『……』


「だけど今はその挑発に乗ってやろうじゃないの!私はマニュアルを選ぶ。貴方の思惑なんて絶対に乗ってあげないんだから!私の覚悟って物を見せてやるわ!」


『....やはり貴様は面白い。では貴様に眠る秘められし才能を我の力で開花させようではないか。貴様がこれに耐え切れるとは思えないが、この異常なまでの力に耐え切ることが出来れば完全な吾輩の負けを認め、貴様の思うように使われてやろう!』


 そう脳内に言い残し、仮面はガーベラに鬼化に必要な異常な力と負荷を与えた。ガーベラは異常なまでの激しい体全身の痛みと吐気、そして強烈な痺れが走るが、彼女は自身の精神力のみで全てを耐えきってみせると誓った。


 ――全てはこの魔道具の扱いを教えてくれた友達の為に。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「な、なんて力なの…?しかもガーベラさんは仮面の制御までちゃんと出来てるし凄い…一体どうやったのかしら。」


 ロジェは、ガーベラが仮面を装備したことにも驚いていたのだが、もっと驚いたのは彼女がただのフォーク1本で相手の剣を薙ぎ払っている事だ。


 あの仮面は一時的に眠る力を解放する代わりに鬼化に必要な負荷を掛け、その反動から自我を完全に失うと本に書いてあったが、まさかあの自称最強の剣士との試合で、剣術初心者が実力を上回ると思っていなかった。

 相手が自称なので弱い可能性もあるが、剣を持った事すらなさそうな彼女がフォーク一本勝つのは異常事態である。


 恐らくだが彼女は仮面の主導権を乗っ取ることに成功し、見事鬼化の条件を満たしたのだ。

 そして、再び雲剣士は剣型の雲を生成させ、高速でガーベラの背中に回り込んで襲いかかってくる。


「危ない!ガーベラさん避け――」


 しかし彼女はロジェが叫び終わる前に雲剣士の速度を上回る速度で移動し、雲の背中にあった思念の核を包丁で貫通し、完全に破壊した。


「!? まさか、この俺よりも早く動けるなんて…」


「その程度の速度じゃ私なんて止められないわよ!」


 そしてガーベラは雲剣士に向かって目にも止まらぬ速さで1太刀、また1太刀と攻撃を加えていく。


終焉の黒炎(エンドオブブレイズ)


 ガーベラにまるで攻撃を直接当てるかのように一人の高齢な魔導師が雲剣士を囲うようにして強力な炎を配置し、その場を中心に黒い炎が空に向かって激しく燃え上がる。

 この軽い嵐のような天候の中でかなり広範囲でかつ強力な黒い炎でガーベラ諸共包み込み、雲だけを正確に燃やし尽くすその技術は明らかに人間離れしているし、恐らく相当強い魔導師だろう。

 ロジェも魔法に通ずる者として軽く尊敬の目を向けてしまうほどに美しく派手な攻撃だった。そして雲剣士はガーベラの剣技と炎魔法によって消滅し、元通りの雨雲になって空中へと帰って行った。


 相当な力を使ったのか反動で空からガーベラが崩れ落ちるので、急いでロジェが浮遊魔法で軽く浮かせてからゆっくりと地面に寝かせてあげた。そして彼女に治癒魔法を掛けてあげると、ガーベラはこう言った。


「ロジェ…貴方は無茶しすぎよ。こんなのに追い回されるなんて一体空で何してたの?」


「あれだけ警告したのに私に無言で仮面を使用しておいてどの口が言ってるんですか。少なくともあなたはそれを言える立場じゃありません。無茶はお互い様です。」


 そして会場では襲撃者を跳ね除けた2人の姿に拍手が巻き起こる。心無しか空から降ってくる豆腐も、2人のMVPを祝福しているかのようにも思えた。

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