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第二章 38 『人喰いケーキ②』

「建物の中にあるこのクリームの量、明らかに異常すぎるわね…一体何が起こっているのかしら?」


「しかもこれ、チョコクリームとか果物も混ざってるし、急がないと取り返しのつかない事になるかもしれません。この波をとりあえず抑え込まないと式場の人が危ないかも。」


 クリームの波で建物の中を移動することが出来なかったので、ロジェ達は再び箒に乗って空中から式場会場に向かうことにした。はっきりとは見えないが、なんとか見える建物内部の光景は軽い混乱が起きており、あーるん1人で何とかケーキを別の場所に逃がそうとしていた。空を飛んでケーキを式場から別の場所へと誘導しようとしているあーるんとなんとか合流する。


「ごめんちょっと到着が遅くなったわ。大丈夫?」


「ロジェちゃん!?.....ようやく来てくれたんだね!とりあえずあいつの攻撃に吞まれないように気を付けて後ろから補助してほしい!多分僕だけじゃ勝てないから!」


 会場にいたのは特大サイズのウエディングケーキだった。チョコレートクリームと生クリームが混ざった茶色と白の巨大な腕に、クリームで作った羽を使って空を飛び、大量の果物が中に入っているのが分かるとても美味しそうな大きなケーキである。オマケにいくつかの蠟燭に火がついていた。

 このケーキが暴走していなければ大の甘党であり、甘味巡りが大好きなロジェはさぞ大喜びして食べていただろう。ケーキから漂うとても甘い匂いを感じるので、少しでも油断すれば魅了されて動けなくなりそうだ。


「グレードスケート!ケーキよ。1mほどの小さなケーキになーれ!」


 ロジェはケーキから離れた場所でそう唱えるが、ケーキは全く小さくなる気配はなかった。どうやらロジェの使った魔法は完全に効果は切れているらしい。


「やっぱり駄目か...。この感じ、多分効果切れね。」


「あれは多分だけど魔法生物が寄生して暴走してるケーキだよ。さっきまで普通サイズだったんだけど途中で魔法が切れたんだと思う。ロジェちゃんがこれに使った魔法ってどんな効果なの?」


「私が使ったのは、『伸縮自由の未来(グレートスケート)』と呼ばれる効果時間中だけ大きさを変更する魔法。今までも使った事があるから分かるけど、この魔法は固定しておけば勝手に巨大化するわけないし、多分取り付いてる何かに問題があると思う。」


 伸縮自由の未来(グレートスケート)とは、1時間以内であれば対象物に対して具体的な大きさを伝えれば自由に大きさを変更できる魔法である。「グレートスケート」と言えば大きさを固定する事が可能で、その度に1時間のカウントがリセットされる。

 デメリットは、1時間のカウントを過ぎるとその大きさから一生変更できなくなる事である。同じ魔法を使っても変更は出来ないし、途中解除は出来ない。


「なるほどねぇ。じゃあほぼ確実に魔法解除は無理っぽいし、もうこのケーキを壊した方が良さそうだね。」


「ちなみにここまでで何か分かった事とかってある?」


「一応警備の奴らから奪ってきた剣を何本もぶん投げてあいつに刺してやったけど、巨大化してるせいでケーキの層が厚いから生物でいう所の心臓まで届かないし厄介すぎる。僕の嫌いな匂いがずっとしてるから思考回路が乱されるし、頭おかしくなりそう!」


 ちなみに彼女は異常なくらい甘い物が苦手である。彼女は優しいので誘ったらなんだかんだ甘味巡りに付き合ってくれるが、鼻が良すぎる彼女にとっては、店のドアを開けただけで鼻が曲がりそうになるくらい辛い場所になるらしい。今みたいに巨大なケーキとずっと戦い続けるなんてまさに地獄だろう。


「せめてケーキに何が取り付いてるか分かれば何とかなりそうですけど...…全く見当が付かないですね。剣で切断しきれないなら私でも無理そうだしな...」


「頼むからガーベラさんだけは絶対に何もしないでください。いくら仮面があると言っても立ち向かえば多分やばいことになるし、私がアルロさんに顔向け出来なくなるから。」


「ちょっ!それどういう意味よロジェ!」


「そのままの意味です。魔物退治は一般人のやる仕事じゃないですし、いくら強化アイテムを持ってると言っても命を落とす危険がある以上戦わせるわけにはいかないんです!戦闘経験なら私達の方があるからここは任せてください。」


 ――こんな事言ってるけど私はいつも通り戦えないから補助するだけなんだけどね...。


「....分かった。けど危なくなったら頼りなさいよね!私だってこの街の人を守る義務があるんだから。最悪何もかも全部ぶっ殺してやるわよ!」


 なんか今危ない発言が聞こえた気がするけど、とりあえず思考回路を元に戻す。

 こういう時に有り得るのはスライムとかのなんでも吸収出来るタイプの魔物か、怨念やゴーストなどの悪霊系に絞られる。この世界では、霊系が取り憑けば無機物であろうと自由に行動出来るし、ケーキであろうとも自由に操って暴走させる事が出来る....とかだった気がする。


 悪霊の類なら厄介極まりないなぁ。あれを倒すには聖水か神職系の攻撃がないと話にならないし私達だけじゃ抑えきれないわよ。いくら挙式とはいえそれが出来そうな人がこの場にいるわけないし、呼んだとしてもすぐに来れないし...。せめてケーキだけでもなんとかなればいい――――


 そうだわ!魔物を斬るんじゃなくて、ケーキを高い所から落として形を崩せばケーキとしての性能が無くなって全部解決じゃない!多分この匂いのせいであーるんは少し弱体化してるし、これ匂いさえ消えればあの子なら一瞬で倒せるわ!


 ロジェは真剣な顔をして質問をした。


「突然なんですがガーベラさん、ケーキの作り方とかって分かります?」


「急にまた変わった質問ね...ある程度なら分かるわよ!私プロ級とまではいかないけど、一応料理はそれなりに出来るし大体の物は作れるわ。」


「よかったぁ..。.じゃあケーキを作る上での注意点とかやっちゃダメな事とかって分かります?もしかしたらケーキ側の弱点を探れば何か見えるかも。」


「……!なるほど!そうね…例えば生地を数時間常温保存にする事と、何日も生地を乾燥させることかしら。そんな事したら中にある水分が無くなったら生地がダメになってケーキじゃなくなってしまうもの。」


「要するに水分か…って事はこの雨を吸収したせいで巨大化をしてる…?でも普通ならケーキは水が苦手だしそんなはずが――」


『ベリベリ…』


「!? まずいロジェちゃん!あいつが攻撃してくるから気をつけて!」


「え?あ、うん!」


 ……冷静に考えてケーキの攻撃って何?


『ベリー!!!』


 ケーキがそう叫ぶと、頭部と思われる場所についている蝋燭から巨大なレーザービームのようなクリームの砲撃を高速でロジェに向かって撃ってきた。偶然避ける事が出来たが、恐らくあれが当たれば消し炭どころか街一つ無くなってもおかしくないだろう。


「2人とも大丈夫?怪我とかしてないよね?」


「めちゃくちゃ危なかったけどロジェの運転技術のおかげで助かったわ。普通に落ちるかと思ったぞ…」


「わ、私もビックリした…一瞬走馬灯が見えたしもう終わりかと思ったわよ…」


 ケーキのレーザービームってなによ!いくら魔法生物が寄生してるからってやりたい放題し過ぎじゃない!!!これ作ったやつホント何考えてんのよ!もーーー!!


「あの魔法生物、多分僕達の持つマナか何かに反応してると思うんだよね。あいつは式場でも基本僕と炎を操る婆さんしか狙ってこなかったし、多分そういう系の細工がされてるはず。」


「……じゃあなんで私だけさっきのビームが飛んでくるのよ。私なんてこの前の双龍の砦で1年振りにマナを吸収したんだからその理屈はおかしいわ。それならどう考えてもあーるんの方がマナを多く吸収してるじゃない。ガーベラさんが私よりマナを吸収してるなんて思えないし。」


 腐ってもあそこは☆8の高難易度ダンジョンだ。最深部に行けば行くほど濃いマナが存在するので、今のロジェは最低でも中級以上の冒険者と同じくらいのマナの気配しか纏ってないはずである。――ロジェはマナが普通よりも抜けやすい体質なので、時間が経ってるからもう気配自体は抜けきってるかもしれないけど。


「なら魔力に反応してるとかはありませんか?ロジェの魔力は一般人から見ても異常なくらい凄い事が分かりますし、あーるんさんが狙われなかった事に納得がいくと思う。」


 ――そんなことってある?そんな私だけを絶対殺しますみたいな性能してるとか本当にふっざけんじゃないわよ!


「てか式場の方はどうなってんの?こんなレーザービーム出せる奴が暴れてたら参加者に被害とか出てそうだけど大丈夫よね?」


「それなら大丈夫!会場にいたおじモン達が神職系の強力な結界を貼って攻撃されないようにしてたから!その中に居た人たちはみんな無事だよ!」


 ?????


 おじモン達、明らかに不審者なんだけどなんで貴重な神職系の結界なんて使えるの?どう見てもそういうのと無縁の能力でしょうがっ!


「なら安心しました…てっきり参加者まで被害が及んでたらどうしようと心配してたのだ。」


 なんかガーベラさんまでおじモンの結界を当たり前のように受け入れてるんだけど、やっぱりこれって私がおかしいの?もう何が普通なのかわかんなくなってきた…この依頼が終わったらゆっくり寝よう。


「とりあえず、不審者の話じゃなくて今の話をしましょう。もしガーベラさんの予想が当たってたとしたら、あなたがこのまま私の箒にいるのは危険です。あーるん。彼女を背負って逃げ切れるかしら。」


「別に出来るけど――でもそうしたら僕が戦えなくなるけどいいの?ロジェちゃんは呪いがあるし…」


「………私に1つだけ考えがある。上手くいくかは分かんないけどやるしかないわ。ちなみに確認だけどあーるん。あなたこのケーキの匂いが無くなったら今よりも動けるのよね?」


「もちろん!この匂いのせいで思考回路が乱されてるし、早く消せるならそれに超したことはないよ!」


 ならここは私がかっこよく決めるしかわね。彼女が動けるならきっとこれ以上の戦いが起きても何とかなるはず!


「2人にはやって欲しいことがあるの。とりあえず今から私が箒で逃げ回って時間を稼ぐからその間に準備して欲しい物が2つある。お願いしてもいいかしら?」


「準備して欲しいもの…?ロジェは一体何するつもりなの?」


 そう言って2人に作戦内容を伝え、3人は別行動を取り始めた。それとほぼ同時にケーキがレーザービームと言う名のクリーム砲をロジェのいる方向に向かって放った。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「はぁ……一体どうなってる!なんで吾輩に向かって『絶望の権化(ヴァニッシユ・ハイド)』の攻撃が2回も飛んでくるのだ!こんな威力の高い攻撃を放置すればこの街は消え去るぞ!」


「理由は不明ですが、誰かの悪巧みの可能性が高そうですね。たまたまシャドー様が空中に復帰していたので助かりましたが、まさかレーザービームが2回もこちらに飛んでくるとは想定外です。」


 シャドーとドロシアは空中で再び準備をしていた。

 先程はあのアホ毛の女に邪魔をされてシャドーにかなりのダメージが入ったが、ポーション漬けにし、少し時間を空ければ何とか前線に復帰は出来る程度まで回復出来た。


 しかし復帰した途端にあのような攻撃がシャドーや自分目掛けて2回も飛んでくるのは完全に予想外だ。ここまでくれば何者かの手回しと考えられる。


「吾輩の魔法生物が巨大化しているのは聞いていたが、何がどうなれば吾輩が空中に出た途端にこちらに攻撃が飛んでくる。偶然で片付く範囲ではないぞこれは!」


「スペアさん曰く現在ロジェとあーるんと名乗る2人の女がケーキと戦っているようですね。もしかしたらあの女2人は私達を狙って攻撃を差し向けた可能性もあります。もちろんあの二人が逃げた方向が偶然我々と重なってこっちに飛んできた流れ弾の可能性もありますけど。」


 普通に考えて、そんな私達が都合よく復帰したタイミングで敵の攻撃を差し向ける事が出来る奴なんて存在しない。そんな事はドロシアが1番分かってるけど、シャドーが言った情報が正しいのであればロジェとか名乗る女なら何を起こしてもおかしくはない。


 シャドーの情報曰く、あの女は魔物や精霊を操れる能力を持っているのだ。もし仮にあの女が彼の作った絶望の権化(ヴァニッシユ・ハイド)を既に手懐けており、こちらに向かってレーザービームを放ったとすれば?


 そうなれば確実に奴らはシャドー様を潰そうとしていると言うことになる。

 シャドーとの衝突事故は狙ってやったようには見えなかったが、息の根を止めるのならば確実に相手にダメージを与えて作戦の中心人物をダウンさせ、この攻撃をぶつける為に時間稼ぎを行った。と考えればあの馬鹿馬鹿しい行動にも納得が出来てしまう。


「………待てドロシア。そう考えたくなるのも分かるが、吾輩含めて一旦冷静になるべきだ。今思ったのだが、戦いながら吾輩の復帰するタイミングまで読めるような者など存在しない。あの攻撃は流れ弾として考えるべきだ。また同じような事があれば奴らが差し向けたと判断して式場に乗り込むことも考えるが、そう同じような事は2度も起きるまい。あの攻撃を止めるために魔力をそこそこ消費してしまったが、作戦には影響しない。だからあまり深く考えすぎるな。」


「それ、半分くらい私が言ったことですが?別に構いませんけどね。」


 発言内容はともかく、明らかに焦っても良いタイミングだと思うが、ここで1度冷静になって判断しようとするのは彼の真の強みと言えるだろう。

 普段から冷静なドロシアでもここまで焦るのだから普通の人間なら怒り狂って式場に乗り込んでいるはずだが、感情に微塵も流される事無く行動出来るのは数少ない天才の持つ才能とも言える。


「それと少し作戦を変更する。奴が攻撃を操れる可能性があるならそれを考慮したプランCに作戦を変更せざるを得ない。とは言っても大きく内容を変えないが、奴らの指示の方を任せても大丈夫か?」


「……プランCってなんですか?」


「具体的な説明は長いのでカットするが、今から『警備塔』にいく。まずは吾輩の手でそこを落としてからこの街を要塞都市にして相手を追い込むぞ。」


「仰せの通りに…」



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 あーるんの背中に背負われる形で移動しているガーベラの脳内には同じ言葉がずっと響いていた。時間が経つにつれて何度も何度も語りかけてくる声がどんどん大きくなってくる。


『力が欲しいか?』


 ――要らない。私は貴方の誘惑なんかに負けたりしないし、何度乗っ取ろうとしても無駄だから諦めなさい。


 ガーベラは1人、目を瞑りながら別の戦いを続けていた。自分の意識を強く保ち、全てはこの仮面の主導権を乗っ取る為の自分との戦いだ。


「ガーベラさん大丈夫?なんか凄い辛そうだけど、自分の意識保てる?」


 ――どうやら気付かれてたようね。きっとロジェも様子がおかしい事に気付いてるとは思うけど、バレてるなら彼女にはこの事を説明しておかなきゃ。


「……やはり貴方にもバレてましたか。隠すつもりはないですし、白状しましょう。実はさっきまで私は所々人格は乗っ取られてましたが、今は完全に主導権を戻して耐えてます。口調が変わっているのは乗っ取られているサインですが、意識を完全に乗っ取られてない限りは暴れたりしないので気にしないでください。」


「……………分かった。ロジェちゃんにも君の事を任されてる以上暴れたとしても僕が何とか止めるから安心して!」


「ふふっ。貴方もロジェみたいなこと言うのね。とても頼もしいです!」


 彼女はロジェが1番信用出来る仲間だと言っていたのだ。彼女の仲間ならきっと裏切ってきたりはしないだろう。


 この仮面の危険性を聞いた上でガーベラは仮面を受け入れたのだから誘惑に負ける訳にはいかないが、最悪暴走したとしてもこの子なら何とかしてくれる。彼女の言葉からは不思議とそう感じさせる説得力があった。

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