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第二章 36 『ハッピーウエディング③』

 ――何故かは知らないが、護衛は離れたようだ。今のうちに仮面を仕込むべきか?


 新郎新婦席では、現在ライトとガーベラの2人きりの空間が出来ていた。あーるんと名乗るふざけた名前をした女は他の場所にいる事は確認済なので、すぐにはこちらへ来れないだろうし、先程まで近くにいたシャドーが最も警戒していたロジェとかいう女は何処かへ行ってしまったので、隣の花嫁に仕掛けるなら今が1番のチャンスだろう。


 仮面を仕込むためにわざわざ新郎新婦用の席を1つ用意したのだ。本来の外の挙式ならこんなもの仕掛ける訳がないが自然と不自然な要素を導入出来るのは主役の特権である。

 ライトはここで仮面を仕掛けるべきなのは分かっているが、1つの疑問がライトの中に残り続けていた。


 ――ここまであからさまに何か仕掛けてくれという状態、逆に怪しいんじゃないか?


 帝都から来たとされる実力者2人は現在近くにいないが、このように誰も近くに護衛がいない事態を想定しない間抜けなんて居ないだろう。実際にさっき一瞬で新郎新婦席に移動してきたあーるんという女をこの目で確認しているのだ。奴は本気を出せばどんなに離れてても一瞬でここまで来る事が出来るのかもしれない。


 どうすれば良い感じに仮面を仕込めるか悩んでいると、ガーベラが話しかけてくる。


「ねぇライト。私はあの時の伝言通り無理やり挙式を開催する事にしたけど、なんでこの天候の中で挙式をしようと思ったの?別日でも良かったのに。」


「僕はどうしても今日挙式をしたかったんだ。実は君には今まで言えてなかったけれど、僕の母上はもう長くないんだ。だから1日でも早く挙式の光景を見せてあげたかったんだよ。」


 嘘は――というかほぼ全て嘘だが、間違えてはいない。

 ガーベラの父親の寿命が少ないと言えば彼女は何をしでかすか分からない以上はそんな大胆な発言は出来ない。だから自分の母親の寿命が残り僅かだと言えば大体の者は納得するだろう。挙式を無理に開催している理由付けにもなる。


 いくら口が滑ったとしても、予告状の為に無理やり決行しただなんて絶対に言えない。

 そんな事を言えば、ライト(本物)の国の政治を乗っ取り、アルロという貴族に錯覚させる術を使った意味も、式場の内部をバレずに破壊し、使い物にならならないようにした努力も、ここまで3ヶ月も費やした日々も全て無駄になるのだから。


「………そうだったの。そんな大事な式だったのに私が性別転換なんて言う変な提案してごめんなさい。ライトのお母様もあんな事したらびっくりしちゃうわよね…。」


「大丈夫さ。びっくりし過ぎて意識が飛んだらしいけどさっき話した時には元気そうだったし、笑ってた。だから気にする必要なんてない。」


「……………」


 恐らく彼女は根が優しいので偽物の母上を心配しているのだろう。精神が不安な状態であれば祝福の鬼嫁も押し付けやすくなるはずだ。適当に護身用アイテムとでも言えば彼女は手から離さなくなるだろう。そうすれば例のタイミングで起動させればライトの準備完了だ。


「ガーベラ。そんなに僕の母上の事が不安かい?なら僕がお守り代わりに持ち歩いているこの仮面を持つといい。この仮面は先祖代々伝わる物で、不思議な力がで持ち主に降りかかる身の危険から守ってくれるんだ。だから手放さないようにしてくれ。」


「……ありがとう。大事にするわね。あとごめんなさい。少し御手洗に行ってもいいかしら?」


「あぁ。構わないよ。既に大体の人に挨拶したし、残りの相手は僕の方でやっておく。」


 そう言って彼女は仮面を受け取って席を外した。彼女が何を不安がっているのかは知らないが、予告状イベントまであと少しだ。ライトとしてのこんな嘘くさい演技ももうすぐ終わるのだから彼女がどうなろうと気にする事はない。


 ――あとはどう護衛にバレずに彼女の持つ仮面を起動させるかだな。理想は例のケーキと同時だが、そんな上手くいくだろうか?



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



『式中の不安な事や式場に入った時に不審な出来事は見つけ次第、私に全部相談してください。私が要望通り何もかも全てを救ってやりますので、あなたが私の事を友達って言うならもっとガッツリ頼ってくださいっ!』


 ガーベラはライトと合流する前に最近出来た頼もしい友達が言っていたこの言葉を思い出しつつ、式場の内部に向かう振りをしながらとある人物を探していた。


「一体ロジェはどこに行ったのかしら。」


 正直ガーベラもこんな悪天候の中に式をするつもりは無かったのだが、ライトに『誰にもこの手紙の事を話さないでくれ。何としてでも今日式を決行したい。だから今は協力しろ。理由は後で話す。』と書かれた紙をその場で渡されたのだ。


 正直なんでそんな伝言を用意出来ていたのかも分からないし、協力してくれているロジェには申し訳ない事をしたが、ガーベラは何故今日式をやるのか理由を聞いてから友人と共に中止に向けて動き出すつもりだった。

 だが、先程貰った手紙と母親の寿命が少ないという発言を聞いてガーベラは確信したのだ。


 ――ライトと語るあの男は、恐らく影の鼓動の人間であると。


 ライトの母親とは何度も話した事があるし、あの人は怪我も病気にも1度もなった事がない健康体の塊だったのだ。なのにあの母親に残された寿命が少ないというのは有り得ない。本当だとしたら1ヶ月で体調が変わりすぎだし、何者か手が加えられていると見た方が良い。


 あの男が先日式場に入って施設にあるテーブル席の数や、参加者の確認をしていたのは知っている。元々その日はガーベラも同行する予定だったのだが、急用が入り同行出来なかったのだ。


 ――だが、その急用すらも影の鼓動によって仕組まれていたのであればどうする?


 あの男が単独で式場にいたのであれば、確実に会場への仕込みは既に完了しているだろう。だとすれば一刻も早く敵の仕掛けを止めなければいけない。


 この情報は現在ガーベラのみが持っている戦況を大きく変えられる切り札であり、慎重に扱うべき代物だ。恐らく彼の手によって既に内部にも多くの影の鼓動の構成員がこの式場に入っている事だろう。


 だからこそ今1番頼りになる友達の手を借りる為に一度席を離れたのだ。自分が式場から長く離席すれば相手の作戦がバレた事が疑われてしまう。何処の誰が裏切り者なのか分からない以上は慎重かつ一秒でも早くまずは友達を見つけなければならない。


「確かあの時あの子は用事があって会場の端の方に移動してたと思うんだけど…全然見当たらない。本当にどこいったのぉ。」


 この際お父様でもいい。信頼出来る誰かにこの事を伝える事が出来れば、きっと影の鼓動の暗躍を止める為の鍵になるはずだ。彼から受け取ったこの仮面も恐らく何かに使う予定の物なのだから1秒でも早く処分したい。


 そんな事を考えながら歩いていると、何も考えてなさそうな顔をしながら皿に入れた残飯で食べ歩きを行っている1人のメイド服の女性を見つけた。彼女はどうやら人の目に入らない場所で呑気に散歩しているらしい。


「探したわよロジェ!貴方今まで一体どこに行ってたの!」


 即座に緊急用として常に隠し持っている花園に設定していたテレポーターを起動させ、ロジェと共に強制的に移動する。こうする理由はどこに敵の目があるか分からないからだ。1箇所しか登録していないので、移動するまでには会場に戻るまで少し時間が掛かるが、今回は仕方ない。


「!?わふぁしでふか?といどぅか、いっだいなぜがーぶぇらはんがこんなヴぁじょじいるの?」


「何言ってるか分からないけど食べながらでいいから聞いて欲しいことがあるの。貴方にしか頼めない事だからよく聞いて。まずはこれを見てほしい。」


 そう言ってガーベラは、服の中に隠していた『祝福の鬼嫁』を周りには見えないようにロジェにだけ見せた。

 その仮面を見てロジェは驚きすぎたのか食べた物を外に出しかけているが、何とか堪えている。


「げほっ、げほっ。なんであなたがこれを持ってるんですか!本物は1つしかないのに!」


 本物という事はやっぱりこの子はこの仮面について何か知ってるのね!私にあれだけの担架切った友達だしやっぱり頼りになるわ!持つべきものは優秀な魔法使いよ!


「このアイテムについて何か知ってる事は無い?危険物だったら今すぐにでも処分するか預かってて欲しいの。相手はこれを私に使おうとしてるかもしれないから!」


 そう言うと、彼女は冷めたような目線を送りながらこう言った。


「………………それ、ただの偽物なので仮面の事を意識しなければ自然に消滅しますよ。なんてったって本物の仮面は私の手元にあるので。というかなんであなたはこんなやばい物を持ってるんですか。」


 ――――え?なんでロジェはそんな物持ってるの?



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 正直何度聞いても意味が分からなかった。


 なぜガーベラさんは私がサンドホーク愛護団体にその場しのぎの為に押し付けた祝福の鬼嫁(偽物)を持っているの?

 ガーベラさんって変な仮面を付けた人と接点ないはずだよね?私、ちょっとサンドホーク愛護団体が怖くなってきたんだけど…


「え?本当なの?てかなんで偽物とか本物とかロジェが知ってるわけ?」


「だって本物は私がずっと管理してますから。色々訳あって本物の仮面は私の手元に回ってきたので仕方なく管理してるんです。アルロさん達に任されたので。」


 任されてないけど、バレたら何言われるか分からないしこういうしかないの!勝手に巻き込んでごめんなさい!アルロさん!


「……そ、そうだったのね。てっきりロジェも『敵』なのかと思ったわよ。」


「敵?敵って一体何の話ですか?もしかして私の知らない所で式場内に動きでもありました?」


「そうなの!まだ確定では無いんだけど…」


 どうやら相当やばい話らしい。誰も簡単にアクセス出来ないようになっている花園にいるにも関わらず、限りなく耳元に近付いて誰にも聞こえないような小声で話してきた。


『多分、今式場にいるライトは偽物なの。寝返ったのかそもそも偽物に入れ替わってるのか分からないけど、ほぼ100%黒だと思う。この仮面を私に押し付けてきたのは彼なの。』


 仮にあの男が敵だとしたら、なんで偽物の仮面なんて持ってるんだろう。サンドホーク愛護団体は私と同じく式場の護衛をしに来た同業者のはずだし、彼らは影の鼓動を潰すって言ってたよ?


 味方同士で潰し合うなんて考えられないし、どういう経緯で影の鼓動が仮面を手に入れたか知らないけど、接点があるようには見えなかったよ?


「落ち着いてくださいガーベラさん。まずは一度情報を整理しましょう!とりあえずまずあなたが貰った仮面は偽物だと言うことから1つずつ片付ける必要があります。」


「………そうね。ちょっと私、焦りすぎてたわ。」


 そうそう。人生は何事も落ち着かなきゃ始まらないのよ。私は何度も意味不明な展開に巻き込まれたからそうやって焦る気持ちは分かるわ。だからこそ一度落ち着かないと。


「では話していくわね。私が式を続行した本当の理由は、あの時ライトに手紙を使って続行して欲しいと頼まれたからなの。で、ちゃんとその式を無理やりにでも決行する理由を聞いたの!」


「良かった…。ガーベラさんは頭がおかしくなったわけではなかったんですね。それで?彼はなんて言ってたんですか?」


「私に嘘をついてまでお母様の寿命がないから無理やり決行したって言ってたの。彼のお母様とは何度も話してるし、寿命が足りていないなんて事は有り得ないわ。病気なんて一度も掛かったこともないし、その傾向すらもない健康的なお母様ですもの!仮に本当だとしても、突然寿命が無くなるのは変だし、影の鼓動の手が回ってるって考えるのが普通じゃない?」


 ……それを信じて大丈夫なのだろうか?私は会ったことないから信じるしかないんだけどなんか騙されてたりしないよね?

 あの男が敵だなんて全く思えないんだけど…。


「確かにその言葉通り信じるなら彼は怪しいですけど、腑に落ちない点があります。なんで本物の影の鼓動なら彼は偽物の仮面をあなたに押し付けようとしたんでしょうか。かなり有名な盗賊団がそんな初歩的なミスをすると思えないんですけど…」


 そのピースだけがロジェの中で上手く腑に落ちないのだ。世間を賑わせるような盗賊団が偽物を掴まされてる事を気付かない訳が無い。

 確かに『空想の具現化(イメージ・スモーク)』の再現度は本物そっくりだけど、実態化した影響なのかもしれないが、全体的に仮面の色の濃さがかなり薄いのである。そんな事にすら気付かないのであれば相当な間抜けだ。


「それは……分からない。もしかしたら組織の中で誰かがスパイか何かしていて内部で大きな混乱が起きてるのかもしれないわ。」


「混乱…ですか?」


 スパイか……一体そんな厄介なことしてる人って誰なんだろう。混乱を起こしてくれてる人が居るなら、内部崩壊なんて容易く出来るし、依頼の難易度も下がるから感謝でしかないわね。もしそのスパイとやらに会えたらフィールプレッション付きの土下座でもして感謝の気持ちを伝えるレベルよ。そんな事したら不審者過ぎるからしないけど!


「とりあえずロジェはこれから私の近くで護衛してくれない?彼が影の鼓動である可能性は限りなく高いし、もう私一人で彼の隣にいるのは怖すぎて耐えられないの。」


 私が居たところで攻撃出来ないので何も変わりませんけど?私が出来る事なんて魔法を使って道化になるかサンドバッグになる事くらいだよホントに…


「本当に護衛は私なんかで良いんですか?他にももっと強い人が会場にいると思うんですけど。」


「彼はこの式場に大量の仕掛けを施してると思うの。だから会場全員が敵って可能性を考えるのであればお父様か貴方しか頼れる人が居ない。確実ではないけど多分ライトも貴方の事をかなり警戒してるからきっと大丈夫。だから頼んでいいかしら。」


「なら…何が起きても絶対に文句言わないでくださいね?私、生まれつき運が悪いのでガーベラさんにも何か被害がいくかもしれません。」


 そこまで言うならやってやるわよ!あの男が敵なのか結局分からないけど私の近くにいるせいで魔物か何かに人格を乗っ取られようが雷が直撃しようが私は知らないからね!完治とまではいかない最低限ラインでしか助けてあげないんだからっ!!!


「えぇ。もちろん文句なんて言わないわよ!だって貴方は私の友達でしょ?今の貴方ならお父様と同じくらい信用出来るわ!よろしく頼むわね!」


 そう言って2人は握手を交わし、とりあえずの結論を出そうとした時、ロジェのポケットに入っていた連絡石が震え始めた。式場護衛メンバーからの連絡である。


「もしもーし。どうしたの?」


『ちょ▲▽ロジ▲ちゃん!きこ▲▽▲▽?』


 ――あれ?壊れたのかしら?音声が途切れ途切れなんだけど。


「花園は実は別空間に存在するの。私の部屋にある屋敷から繋げてるから辛うじて音声を拾えてるけど、こちらから通信事態出来るか怪しいかも。」


 ――やっぱりこの空間を作った魔道具ってやばい物なのでは?ガーベラさん幼少期の頃にどんな魔道具拾ったの…。


「とりあえず私はこの部屋から出ながら連絡石越しに情報収集をします。ガーベラさんは早く出口に案内してください!」


「え?あ、分かったわ!今から行くから着いてきて!」


 ロジェはガーベラの後ろを追いながら話を聞くことにした。相変わらず音声は何を言ってるか分からないが、頑張れば上手く聞き取れるものなので気合いで乗り切る。


「なんとか辛うじて聞こえてるわ。どうしたの?」


『実▲ね、式場で何▽かケーキに喰われ▽行▽不▲になってる▲▽てるんだけど、今から▲い▲こっちに▽れる?出来▲け早く来て▲▽▲かも!』


 あまりはっきり分からないけど、多分人がケーキに喰われてるって言ってるよね。ケーキに人が喰われるわけないじゃない。何言ってんのかしらあの子。

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