第二章 33 『天候』
「…結局あまり睡眠は取れなかったな。吾輩の頭がおかしくなりそうだ。」
「ここまでシャドー様が作戦前に混乱されてるのは珍しいですね。普段ならこういう時は厨二病発言をして余裕の顔をしているというのに。」
挙式まであと40分となったその頃、シャドーとドロシアは街の中で最後の準備をしていた。シャドーが持ち込むアイテムの確認と作戦内容の確認。そして上位部隊の状態確認である。
「で、どうだ吾輩に忠誠を誓いし右腕よ。部隊に変わった動きはないだろうな。」
「何度も言ってますがドロシアと呼んでください。ちなみに上位部隊はほぼ全てがこの街に合流しました。なのでこれが失敗すれば実質組織の壊滅に繋がりますので、本当に気をつけてくださいね?」
「吾輩に失敗などあるはすがないだろう!まぁあの憎き女の手でここまで作戦を荒らされるなんて思ってもみなかったが、こうしてなんとか立ち直れたのだ!ドロシアが案ずる必要などない!」
――あのアホ毛女の事を思い出すだけで腹が立つ。
正直今すぐにでもあの女を潰しに行きたいが、そんな事をすれば作戦の成功率が0になる以上吾輩の感情だけで動くことは出来ん。
「分かりました。私はいつも通りシャドー様の補佐をしますが、どうしましょう。上位部隊に何か連絡事項や指示することなどはありますか?」
部隊への指示か…吾輩から指示する事は特にないのだが作戦に影響しない程度のかっこいい発言をしておきたいところだ。何か良いものはないだろうか…。
「そうだな…我々は古の封印を解放する為の神託を受けし者だ。封印から解放されし意志の化身がこの世界を闇に飲み込んだ時、世界に絶望が走る事だろう。とでも言っておけ。」
ふっ…決まったな。吾輩の中でも中々にかっこいい決め台詞を言えたのではないだろうか。これならドロシアも深読みしないし、作戦にも影響は出ないだろう。
「………なるほど。シャドー様の攻撃宣言を起点に、下位部隊に作らせたサンドホークを街に放流し、混乱状態に陥らせている間に式場から『幸福の花束』を盗み出すのですね。」
吾輩はそんな事一言も言っていないのだが。何をどう聞けばそう聞こえるんだ?なんでもかんでも深読みするのはやめたまえ!!
「吾輩はそんな事一言も言っていないが、悪くは無い作戦だ。だがドロシア、吾輩が指名して作らせたサンドホークはもう使えない。例の女に手を回され使える状態では無くなっている。」
「そうだったんですか!?私のリサーチ不足が目立ちますね…以後下調べについては気をつけます。」
吾輩からすれば深読みし過ぎる事を気をつけて欲しい。作戦を下す権限は吾輩にあるし、かっこいいことを言えていればなんでも良いので止める気はないが。
「そういえばシャドー様、『導きの祝儀』はどう使うつもりなのですか?残り2つの魔道具の使い方は聞きましたが、それだけは教えて貰ってないのですが。」
「あれか?あれは占拠した後に輝く魔道具だ。『幸福の花束』は国を揺るがしかねない秘宝なので、これを使って逃亡する必要のないアジトをこの街に作るのだが、『導きの祝儀』は9割の確率でどんな事でも常に正解の方向性を指し示す魔道具だ。あれは組織の強化や道標として使う。だからこの作戦では使用するつもりない。」
「でもそれならば、先に方向性だけでも知っておけばあの帝都から来た実力者の暗躍を止められたんじゃないですか…。」
――確かにそうだ。吾輩とした事が完全に忘れていたではないか!
『導きの祝儀』を使えば奴らの作戦の1つ上を行けるからほぼ確実に成功すると言うのになぜ過去の吾輩はそんな初歩的な事に気付かなかったのだ!!!
「まぁこの私が気付くような考えですから、シャドー様ならまさかこの魔道具を使う事を忘れていたなどという初歩的なミスをする訳ないですよね。きっとシャドー様は使わなくても占拠が出来ると判断したのですから私はその指示に従います。余計な事を聞いてしまいすみませんでした。」
吾輩は普通に忘れていたのだが。今からでも遅くないから使ってきてくれないか?
だが、そんな事を言えば吾輩のクールキャラが崩れてしまう…どうするべきだ。
そんな事を考えていると、ドロシアが顔を真っ青にして言ってきた。
「!? シャドー様!精霊の出現を意味する黒い黒雲がこちらへ近付いております!しかも方向的に我々のいる街の可能性が非常に高いかと!」
また精霊か!まだ1日も立て続けに精霊がこの街にやってくるのだ!近くで戦争でも起きていない限り精霊の襲撃など有り得ないはずだぞ!
「………なぜこの短期間に精霊が2度もやってくる。妙だな。」
「確かにこの短期間で2度も精霊が来るなんて変ですね…誰かが違法薬物クラスの魔物寄せでも炊いているのでしょうか。」
シャドーは自分の行動を振り返るが、特に魔物寄せを使った記憶もなければ、精霊を呼び寄せるほどの行動を起こした覚えがない。
強いていうのなら、下位部隊がマスターの証だと言っていた『黒いダイヤの着いた腕輪』をかっこいいからという理由で現在シャドーの指に嵌めている事くらいだが、これは恐らく関係ないだろう。
「そういえばあのアホ毛の女、魔物を寄せ付ける体質か何かがあるようだったな…もしかしてあれか?」
シャドーはロジェとの衝突を思い出した。正直なんで興奮された魔物に追われながら吾輩と一騎打ちを取ろうとしたのかはよく分からないが、あの女に近くにいる魔物を引き寄せる体質が本当にあるとすれば、精霊がわざわざこの小さな街に2度もやってくるのにもある程度納得はできる。
――なぜ2匹も精霊がこの街の近くに居るのかは謎だが。
「そうなんですか?ですがそれならば私達が屋敷にいる時に精霊や魔物が誘き寄せられていてもおかしくありません。あの者には魔物を引き寄せる条件があるかと。」
確かにそうだ。普通に考えればそんな厄介な体質を持っているのならばこの街に入れてくれるわけが無い。
「とりあえずあの精霊は奴らに送り返すぞ。街が滅びる可能性が無くなる場合のみ吾輩も加勢して処理するが、そう何度も何度も精霊を撃退していては作戦が終わるまで吾輩の魔力が持たん。あの女の尻拭いなんぞやってられるか!一々吾輩に押し付けず自分でやりやがれ!」
怒った場合を除いた精霊の押しつけ自体は簡単である。精霊というのはターゲットを決めてその者や場所に向かって移動してくるのであの女の元へ誘導し、ターゲットにしてやればいいのだ。
あの者は『式場』にいると聞いているが、ある程度弱らせれば中止するほどまで式には影響しないだろう。向こうには吾輩の自慢の左腕であるスペアもいるのだから心配する必要なんてない。
「了解しました。私も陰ながら援護します。」
そう言ってドロシアとシャドーは、式場に向かって結婚祝いを送る準備を始めた。
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「これは凄い魔法だな…僕もまさか女性側を体験出来るなんて思ってなかったよ。」
「そうでしょ?私も出来るって聞いてびっくりしたの!一生に一度の結婚式を男側で体験出来るなんて思ってなかったからまだ夢を見てるんじゃないかと錯覚するくらい!」
式場開始まで残り15分。ロジェは新郎新婦の元にいた。本来ならば一時的に解放してもらって作戦の最終確認をする予定だったのだが、ガーベラさんが何するか分からないので、ロジェはその場から離れられなかったのだ。
そして何故か知らないけど、適当に頷いていたら挙式中はガーベラさんの元で付きっきりのメイドとして参戦することになってしまったのである。
私の戦闘力は0に等しいのにこんな大役を任されるなんてプレッシャーヤバすぎて吐きそう…現実逃避したい。
「ちなみに分かってるとは思いますけど、2人ともうっかり例の言葉を耳にしないよう気をつけて下さいね?」
「分かってるわよ!まぁ全部回避することは無理だとは思うけど、元に戻ったとしても大丈夫ように貴方を傍に置くことにしたんだから解除されたら即座に魔法をかけて戻してね?」
「……どうせそう言うと思ってました。」
どうやらサボることも許されないらしいです…てか性別転換して式自体を中止させる作戦は何処に行ったのだろうか?
ロジェが守るべきガーベラさんの願いは3つだ。
①この街の人達に被害を出させないようにすること。
②作戦実行中に式場参加者に影の鼓動の被害を出さないこと。
③ガーベラの地位が下がってもいいから、何としてでも上手いこと式場を中止させること。
①は多分サンドホーク愛護団体の人達が解決してくれているので何とかなると思うが、②の難易度がとてつもなく高い。
もし仮に影の鼓動が式場を直接襲いかかってきた場合、参加者を1人も怪我させないように避難させながら戦わなければならないのだ。
あーるんはどうせ戦っているから避難誘導の人員として使えないだろうし、いくら癖の強い魔法を持っているロジェでも50人弱の参加者を安全に避難させる事ができるのかは分からない。
というか③に関しては、考えることを放棄した丸投げ行為である。確かに協力するって言ったけど少しは考えるの手伝ってよッ!一番難しいんだからッ!
「ちなみにロジェさん。これは彼女の希望だし僕は別に女装しても構わないのだが、参加者にこの事を説明しておかなくて大丈夫なのか?みんなびっくりし過ぎて失神するかもしれないんだが…」
それは私もずっと思ってますよ。てかそれは私じゃなくて直接ガーベラさんに言えばいいんじゃないですかね!!!
「私もそう思います。でも私はただの付き人ですしそれを決める権利ないので。」
「それに関しては問題ないわ。お父様は私に男装癖があるの知っておりますもの。多分花嫁姿を見たかったと思うかもしれませんが、こうすれば一生忘れられない式になるのでOKよ!」
――何も良くないと思います。アルロさん絶対悲しみますよそれ。いくら今回の挙式を失敗させるかので、また今度花嫁姿を見せる事が出来るとしても、下手したらトラウマになるかもしれないし。
「そ、そうなら良いんだが…流石にアルロさんが可哀想じゃないか?あの人はずっと花嫁姿を見たいと言っていたし、凄く悲しむと思うぞ!」
「…………分かったわよ。あとでお父様の所へ行ってくるわ。」
「そういう問題じゃないと思いますよガーベラさん。」
――やはりこの人、私よりも酷いズレた所があるな。
そんな話をしていると、式場の関係者が1人大急ぎで部屋に入ってきた。
「大変ですガーベラ様!ライト様!突然嵐のような雨が降り始めて外での挙式が出来ない可能性があります!どうしましょうか?」
いやどうしましょうかって---どう考えても中止か中でやるでしょ。確認する必要なんてないのに報告しに来るなんて何を考えてるの?
ガーベラがその言葉を聞いてロジェの事を見てくる。私は何もやっていないのだが、どうやら私がやったと勘違いしているらしい。
「こ、これは中止にするしかーないわねぇ――あ、雨なら仕方ないなー。」
ガーベラさん、演技下手すぎでは?あまりにも棒読みすぎるし下手したら私の5倍くらい下手なんだけど…。
「ただの付き人が意見するべきじゃないのは分かってますが、私も中止にするべきだと思います。式場は参加者の身が1番大事なので。」
というかそもそも屋内でやればいいのでは?と言われるかもしれないが、何もせずに式場を中止に出来るのであればここは敢えて黙っておくのが正解だ、
「分かりました…この後親族の方にもどうするか聞く予定だったのですが、新郎新婦の方の意見が最も優先されますので今回は中止ということで――」
「ちょっと待った!式場内部は魔封じの結界が貼られているし、そもそも今日の天候は快晴の予定だったはずだ。だからすぐに嵐なんて治まるはずし、式は外で続けよう!」
………え?馬鹿なの?もしかして、ライトさんもガーベラさんと同じく頭お花畑なの?
「ちょっと待ってくださいライトさん。確かにそうかもしれませんが、嵐は参加者に危険が及ぶ可能性があります。こんなタイミングよく嵐が来るなんて何者かの陰謀かもしれませんし、せめて別日に開催すべきです。」
――というか外でやるくらいなら屋内で行えばいいのでは?
「それもそうだが…でも挙式なんて人生で一度きりだし、せっかくなら外でやりたいだろ?それに今日の為にわざわざ予定を空けてくれた人だっているんだ。その人達に申し訳ないじゃないか。ちなみに屋内でやれたりは出来ませんか?」
「申し訳ないのですが、本日屋内での挙式は出来ないのです。我々も内部をしっかりと警備していたのですが、何者かの手によって使い物にならないレベルで破壊された形跡がありまして最低でも1日はないと完全な修復は不可能かと。」
…えぇ。式場はちゃんと警備しておきなさいよ!なんでそんな都合よく屋内が使えなくなるのよ!
「そうか…でも僕はどうしても今日この日に式やりたいんだ。だからガーベラ。無理を言っているのは分かるが、受け入れてくれないか?」
そんなの受け入れちゃダメよ!!あなたが式場を中止させるって言ったんだからちゃんと貫き通しなさい!!!
そう言ってロジェがガーベラに無言の圧をかける。何かガーベラさんが紙を読んでいた気がするが、ガーベラは暫くして口を開いた。
「――ラ、ライトがそう言うなら…私は付き合ってあげてもいいわよ。」
はぁぁぁぁぁ!?あんたクッソちょろヒロインかよッ!ふっざけんじゃないわよ!!!さっきまで中止させろとか言ってたガーベラさんはどこに行ったんだほんとにもーーーーー!!!
そして結局嵐の中ガーデンウエディングが開催される事になった。
――私もうこの式場から逃げ出していいかな。
長かった第二章も次回から式場編突入です!嵐の中どうなるのか全く予想が付きませんが、良ければ最後まで付き合ってくれると嬉しいです!
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