第二章 32 『悪巧み』
「………とりあえず出来る手は打ったが、ここからどうなるか――だな。」
「大丈夫ですよアルロさん。この街には2人の化物がついてるんです。彼女達ならきっと問題なく式場もこの街も守ってくれると僕は思いますよ。そうだろ?姉ちゃん。」
「うんうん!ロジェちゃんはなんか怒ってどっか行っちゃったけど、メイド服を着てるかわいいあの子と僕が一緒ならあんな奴らに負けないし安心していいよ!あとセージちゃん。シンプルに僕達を化物扱いするのやめてよね!」
セージとアルロ、そしてあーるんは別の部屋で作戦の最終確認をしていた。本当ならここにロジェもここに来るはずだったのだが、彼女は何故かメイド服を着てどこかへ行ってしまったらしい。
「彼女の起こす行動には全てに意味がある。」と彼女に詳しいあーるんが言っていたので心配はしていないが、アルロは式場直前なのに何故そんな事をしているのは少し気になっている。
「それであーるん様、本当にライトは『黒』なのですか?」
「まだ確実とは言えないんだけど、なんっか怪しいんだよねぇ。さっきも隠れて尾行してたけどガーベラさんの控え室の前で何かしようとしてたし、前話した時も人の血の匂いがしてたから黒の可能性があるかも。誰か人が消えてたりしませんでしたか?」
「一応確認しましたが、確かに使用人が一人だけ姿を確認出来てない者がいます。ですがその者は暫く休暇を取ると言ってたようなので、今の段階では確実に黒とは言えません。内通者が居る場合はこの情報も無意味になるのでなんとも言えませんが。」
「このタイミングで休暇か。絶妙に黒とも白とも言えないラインで厄介ですねこれは。」
「……ったく。これが影の鼓動の仕業だったらダルすぎんだろ。僕だって余裕ある訳じゃないってんのにぃ。」
その話を聞いても、アルロは理解が出来なかった。
ライトはプリンスタと呼ばれる大都市の人間であり、かれこれ何年も接点があるのだ。最初から影の鼓動が変装して話を持ちかけていた可能性はあるが、アルロはプリンスタに何度も行ったことがあるし、さっき直接ライトの親族から参加の確認を取ってきたところだ。
あるとすればこの国に入る前にライト(本物)が誘拐されて入れ替わった可能性ぐらいだが、プリンスタで何度も話したあの男が入れ替わった事をアルロが気付かない訳が無い。
「ちなみに姉ちゃん。虚術で記憶操作とか出来るか分かったりしないか?」
「んーー。僕はよくわかんないんだよねぇ。そういうのはロジェちゃんが詳しいんだけど今居ないしぃ…」
記憶操作―――とはまではいかないがアルロが騙されてる可能性を考えるなら精神干渉の類だろう。シャドーがそういった術を得意とする以上、自然と可能性として浮上してくる。
式場1か月前辺りからライトの本物の関係者全員を誘拐し、この日の為だけに偽物が全てプリンスタの国を回していた可能性を考えるよりも明らかに納得出来る手段だと思う。
―――どちらにしてもそんな都合の良い話はないと思うが。
「とりあえず話は分かりました。式の前にライトの件は私が直接確認しておこう。」
「あー。ならその時は僕も同行していい?もし仮に敵だったら相手はかなり手慣れだから、アルロさん1人だとその場で消されちゃう可能性もあるでしょ?だから護衛代わりに僕も連れてってください!」
……確かにそうだ。真実を知ってしまった相手はアルロに対して何をしてくるか分からない。口封じのために眠らされる可能性もあれば、そのまま誘拐されて動けなくなる可能性だってあるのだ。
それに彼女が強い事はロッキーとロジェから聞いているので護衛としては申し分ないだろう。
「分かりました。では共に行きましょう。あーるん様、護衛は任せましたよ。」
「はいはーい!僕にまっかせといて!」
そう言ってアルロとあーるんは会議室を後にした。
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式場控え室。ライトは部屋の中にあった通信機等を見つけ次第全て破壊し、シャドーと連絡をとっていた。中にあったカメラや通信機を壊せば、この個室は誰も勝手に入ってこない完全な密室となる。今回は1つも仕掛けられてなかったが、確認して損はしない。
『そうか。式場は問題ないのか。なら残りは任せるぞ。ただでさえ手駒が減ってるせいでそっちに人を回す余裕がない。』
「ドロシアから聞いたぞ。そっちは上位部隊が何隊か死んだんだって?お前がこんな初歩的なミスるなんて思ってもなかったよ!一体誰の仕業だ?」
『吾輩もミスはないと思ったのだが、帝都からやってきたロジェとかいう女に馬鹿共が騙されてな。第三者の介入はある程度考慮していたが、下位部隊のほぼ全員を集めて反逆行為を起こさせるなんてこっちも想定外だ。』
「はははっ!それは大変だったな!僕から見たその女はただの無能にしか見えなかったが、気をつけるよ。正直隣にいる小さい女の方が警戒するべき対象だと思うが。あっちよりやばいんだろ?」
『……どっちも警戒すべき相手だが、アホ毛の方を特に警戒しておけ。奴は何か特殊な術で精霊や魔物を操れる事が分かっているし、何してきてもおかしくない。とりあえず式場は任せたぞ。』
「わかったわかった。とりあえずこっちは任せろ。今のとこは問題ねえし、予定通り仮面は相手に付けてやる。」
そう言ってシャドーとの通信が途切れた。
「にしても厄介だな。小さい女にずっと後ろを付けられてるし目立った動きが出来ないじゃないか。しかもあの女、尾行が上手すぎるし、多分俺でなきゃ気付けてない。」
ライトはあの女と接触してから一生後ろを付けられてる事に気付いている。正直尾行だけなら裏社会の相当な実力者と変わらないだろう。彼女は足音も気配も何もかも完璧に消しているのだ。ライトがそもそも尾行に気付けたのもたまたまだ。運が悪ければ奴に始末されてしまっていたかもしれない。
奴は相当な手慣れだ。1手間違えれば致命傷になるだろう。
「とりあえずどうするかな…厄介な奴に目を付けられたもんだ。」
本来なら開始直前に祝福の鬼嫁を渡してとあるイベントと同時に付けさせる予定だったのだが、あの女に跡を付けられているのであればそう簡単に渡すことも出来なくなる。
ライトが式場に潜入させている部隊の者と手を組んで仕掛けた物は絶対にバレないと思うが、そのイベントと同時に仮面を起動させる事が出来る事も上手く出来るか分からない。
ただでさえ今回は、本物のライトとその関係者を全員誘拐し、1ヶ月の間影の鼓動が一時的に国を乗っ取った上で政治を回しているのだ。ここまで大規模な事をしておいて失敗なんぞ許されない。(ちなみにその関係者は全員シャドーの元で管理されており、この作戦が終われば何も無かったかのように国に返す予定で、罪を被せるつもりはない。)
そんな事を考えていると部屋がノックされた。ライトが入る許可を出すとアルロが入ってくる。1人でこんな場所に来るなんて、一体何をしに来たのだろうか?
「おやおやアルロさん。一体なんのご要件でこちらに?」
「式場前だし色々と確認したいことがあってな。どうだ?ガーベラとは上手くやっていけそうか?」
「……それに関しては問題ないですよ!アルロさんなら僕との付き合いも長いですし、僕自身も何度も彼女の魅力について語っているでしょ?だから心配なんてする必要ありません。僕が彼女を幸せにしてみせます!」
「そうかそうか。私はもうそこまで命が長くはない。だからこそあの子を任せられそうで安心したよ。」
……まぁ体が良くないと錯覚させたのはシャドーなんだがな。
掛けたのは3週間ほど前だが、自身に精神干渉の攻撃をされていると気付けていないとは実に愚かだ。
本物の口をシャドーの力を借りて割らせたから、この貴族が本物とどういう関係だったのかの情報を持っているし、完璧になりきれているはずだ。そう簡単に偽物だと気付かれる事は無いだろう。
「………実はだな。この式場に影の鼓動が潜んでいる可能性が高いらしいのだ。私の信頼出来る仲間がそう言っておる。だから式場では何がなんでもガーベラの事を守ってやってくれ。それを直接頼みに来たのだ。」
「えぇ。もちろんですよ。私の嫁になるお方ですから命に代えても守ると約束しましょう。これは嘘ではないとあの夏の日にガーベラとアルロさんと共に見たキンモクセイに誓いますよ。」
彼女の命はお守りはしますよ。だけど彼女には式場で暴走してもらい、その後は我々の人質としてこちらで利用させてもらいますが……ね。
「懐かしい話だな。あれはもう何年も前の話だが覚えていてくれたなんてびっくりだよ。とりあえず私からはそれだけだ。時間を取ってしまって悪かったな。そろそろガーベラも準備が終わってる頃だろう。会いに行ってやったらどうだ?」
「そうですね。それでは僕も彼女に逢いに行くとしましょう。」
そうしてライトが部屋を出る。1歩ドアの外に出た瞬間、例の警戒していた女が、傍で話を聞いてた事に気付いた。
「なんだあーるんさんもここに居たんですね。どうかされました?」
その質問をすると、目の前の女がライトに向かって指を指しながら低い声で警告をしてくる。相手の目を見るが、軽く相手への怒りを感じさせるような強者の目をしているように見えた。その証拠に水色の目が半分くらい赤色に変化している。
「…………言っとくけど、僕はてめぇを信じた訳じゃないからここに居るだけだ。もし本物なんだったらそこにいるアルロさんとガーベラさんだけは絶対に悲しませんじゃねぇぞ。偽物だったら僕が問答無用でぶっ殺すけどな。」
――面白い。むしろ望むところだ。あのギミックだらけの式場で僕を殺せるなら殺してみろ。
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アルロは、ガーベラの部屋へと向かっていくライトを見送るが、やはりあの男が偽物だとは思えなかった。長い付き合いがあるが、話し方も何もかも奴は本物そのものだ。
「どうでしたか?アルロさん。奴は黒だと思います?黒ってんなら僕が今すぐにでも首取ってきますけど。」
「奴は本物に限りなく近い話し方をしているし、彼の言うキンモクセイは2年前にガーベラとライトが初めて出会った場所だ。偽物が知っているとなれば大変な事だぞ。」
「ふーん……でもまだ警戒はするべきだと僕は思いますよ。行動はともかく、自分に着いた血の匂いを上手く消せる男なんてぜってぇろくな奴じゃない。アルロさんは疑わなくても大丈夫ですけど、僕は一人で警戒し続けます。元々そのつもりで跡をつけてるので。」
その通りだ。このエピソードを知っているだけで本物だと判断するなんて甘すぎる。そんな簡単に騙されているようではこの街の運営なんて出来るはずが無い。相手は盗賊団の中でもトップクラスの実力者な以上、心を鬼にして疑う必要がある。
「今あの男はガーベラの元へと向かいましたが、大丈夫なのだろうか。この後彼女に何か仕掛けを施されたら大変な事になるのだが…」
「大丈夫だよアルロさん。ガーベラさんの元には、僕の大好きな世界最強の魔導師が隣にいるし、あの子が居る限り酷いことにはならないよ!」
「そうだったな。ロジェ様ならばきっとどうにかしてくれるだろう。」
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一方ガーベラの控室では…
「どう?私の見た目は大きく変わったかしら!?かっこよくなってる?」
「え?あ、うんうん。凄く似合っていると思いますよ。」
「――もう!絶対適当言ってるでしょ?私は貴方が嘘言ってる事くらい簡単に分かるんだからね!」
ロジェが『ジェンリバーサル』と呼ばれる魔法を使って、ガーベラを男性の姿に変化させていた。
『ジェンリバーサル』とは、特定の言葉を聞くまで永遠と性別を逆転させる魔法である。
デメリットは、身体能力も変わった方の性別レベルに応じて変化されてしまう事である。男が女になれば女性用の体になるので体力や筋力が減るし、その逆もあるのだ。
魔法が解けてしまうNG単語は、「交代」や「チェンジ」とか変化に関係する言葉だ。
挙式では変化に関係するワードなんていくらでも存在するので使うべきものではないのである。
――挙式が始まるまであと25分なのに、本当に私は何をしているんだろう…




