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第二章 31 『悩み事』

 式が始まるまで残り1時間。ロジェ達は式場で会場の装飾を手伝ったり、使い道のよく分からない魔法を使って演出面の補助をしていた。


 補助と言っても、『飾る造花の数を増やしたいけど間に合わないから分身を出して欲しい』とか『式場の開始時に飛ばすシャボン玉のような物を飛ばす水の演出を派手になるようにして欲しい』とか『ウエディングケーキを一時的に小さくして欲しい』だとか本当にロジェが手伝う必要があるのか分からない物が幾つかあったが、幸いにも全てロジェの魔法で全部カバー出来たので、式場当日に変な事してくるやつが居なければ無事に何とかなるだろう。この3つ以外にも色々やったが問題ないはずだ。


 そしてロジェ達は、衣装を式に合わせた衣装に着替える為に更衣室に向かっていたのだが、その途中で気になるものがあった。


「ねぇあーるん。なんか黒い雲がなんか少しずつ出てきてるんだけど、変な魔物寄せとか使ってないよね?」


「それに関しては僕知らないよ?魔物寄せは1つだけ隠し持ってたけど、あれは腹立つ男に全部かけたから手持ちにないし、自然現象とかじゃないの?」


 ロジェが気になったのは、綺麗な青空の中に混ざっている炭のように黒い黒雲だ。この街を覆い隠す程の雲はないので気にする必要は無いはずなのだが、ロジェは『空想の具現化(イメージ・スモーク)』で偽物の魔道具を作り出したという事実があるので、関係している可能性を考えると少し不安なのてある。


 あの時サンドホーク愛護団体に渡した偽物の仮面のせいでまた精霊がこの街に呼び寄せられてるとかじゃないわよね?

 本当に何か呼び寄せられてるなら私の元まで精霊の出現情報が回ってくるはずだし、まだ情報が来てないって事は無視していいのかしら。


 ――でもこういう時って無視して良かった試しがないんだよなぁ…


「どうしたの?なんか考え事してるし顔色悪いよロジェちゃん。」


「あの空にある黒い雲さ、なんか似た現象に心当たりあったりしない?」


「うーーん…僕はないかなぁ。確かに精霊が近くにいる時の現象に似てるけど、その割には数が少ないし全体的に雲が小さいんだよねぇ。だからほっといても大丈夫だと思うよ?精霊だとしたらどうせガキレベルとかだし。」


 高位精霊全てでは無いが、強力な雷精や水精は現れた時に自分の周りの天候や状態を変えるという厄介な性質がある。

 雷精なら雷を落とすような巨大な雷雲が、水精なら洪水クラスの雨雲を大量に発生させるし、呪精霊は基本的にレア物なので詳しくは知らないが、話によると周りの物全てを呪い殺す為に精霊の近くを暗くして呪いを発動するらしい。――怖い怖い。


「ならいいんだけど---私は運が良くないからまた変なのを引き寄せてるのかなって思ったのよ。今回は挙式を外でやるから天候を変えられると式場にも影響するしね。」


「大丈夫大丈夫!精霊なんてやって来ても僕がすぐに撃退してあげるし、最悪影の鼓動に押し付けちゃえばいいんだからロジェちゃんが気にする必要ないよ!」


 確かに昔から私は何度も何度も高位精霊と遭遇してきた。なので高確率で一緒にいるあーるんなら撃退した所を見たことがあるし、今回も無事に出来るのは分かる。だけど、精霊の押しつけって何?そんな事初耳なんだけど…


 てかそもそも式場に影の鼓動が現れる前提の話しないで貰えます?そいつらは全員サンドホーク愛護団体が壊滅してるんだし、来るわけないんだから!!!


「………まぁそれもそっか。そもそもこんな短期間に2回もこの街に精霊が来るわけないし、心配のし過ぎよね!」


 まだ仮面の件は残ってるが正装に着替え次第、ガーベラさんの願いである性別転換もしなくてはならないのでロジェにはそんな心配はしている時間などない。


 正直性別転換なんて事をしても何になるのかよく分からないが、依頼者の願いである以上は出来る範囲で聞かなくてはならない。じゃないとこの罰ゲームが終わらない可能性があるし、ロジェはさっさと依頼をこなして帝都から解放されたいのだ!!!


「ちなみにやってきた精霊って完全に消滅するまで殺っていいの?それともギリギリの所で止める?」


 この子はなぜ精霊がここに来る前提で話しているのだろうか。来ないよこんな短時間に2回も…

 てかそもそも精霊って消滅させる為には相手の体力と魔力を完全に無くさなきゃいけないから、どんなに実力ある人でも無理じゃなかった?

 私は戦ったことないから分かんないけどそんなサンドホークを狩る感覚で倒すべき相手じゃないと思うよ…うんうん。


「倒すのはいいけどギリギリの所で止めてよ。誰かの契約精霊だったらバレた時私達が恨まれるじゃない。」


「ちぇー。そもそも契約精霊をそこら辺で放し飼いしてる奴が悪いんだし文句言われる筋合いないもーん!」


「……流石にそんな事言い始めたら契約者が可哀想よ。」


 契約精霊問わず精霊は基本的に放浪癖があるが、精霊自体がOKすれば瓶や鞄の中に入れて管理することは可能である。

 だがプライドの高い精霊達がそんな事を許可するわけが無いので、そうやって管理するのは御伽噺だけの話とされている。少なくとも今まで400年近く生きてきたロジェはそんな事をする契約者は見た事はない。


「まぁいいや。僕の準備運動は終わってないけど影の襲撃もあるんだし、普段以上に気を引き締めないとだねぇ。もしかしたらネズミがここにも潜り込んでるかもしれないし、それもいつ動くか分かんないからロジェちゃんも気をつけてね?まぁロジェちゃんならもう目星を付けてると思うけど!」


「うんわかった。私もそのネズミ?に気をつけるわね。」


 ネズミ…?影の鼓動なら分かるけどネズミって何?なんか別の組織のことかしら。私はそんな話聞いてないんだけど…。


 そんな事を話しながらロジェ達は更衣室の中へと入って着替えを始めた。

 そして自分の名前が書いてある更衣室に入った途端、ロジェに1つの小さなアクシデントが発生する。


 ―――なんで私に用意されてる衣装って『メイド服』しかないの?



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



「お父様…何故影の襲撃について嘘をついてまで隠すのですか。」


 ガーベラは一通りの事を終えて、1人控室で悩んでいた。今の悩み事の全てはこの挙式を引き金に行われる影の鼓動の街の占拠のことだ。


 ガーベラだって一応貴族の娘だ。影の鼓動がこの街を狙っている事くらい少し調べればすぐに分かる。そもそも挙式に出てしまえば手元にある花園が無くなるし、私のせいで大好きな街が無くなるくらいなら中止上等だった。

 だからこそいつも以上に挙式をやりたくないとお父様にも言ったし、何度も何度もアクションを起こして中止させようとした。




 ――だが、お父様は絶対に止まらなかった。理由は何度も聞いたが詳しくは教えてくれなかったし、どうしても中止にしたくないらしい。


「せめて理由くらい教えてくだされば私だって少しは受け入れたというのに――何故なんですか。」


 ガーベラは、もうどうしていいのか分からなかった。全てを話してくれないお父様も、ある日突然花の事への興味が無くなった上に、この街のことを踏み台にすることしか考えてないクソ婚約者も、私の挙式を盛り上げようとする参加者も今は全てが憎い。


 どうすればこの街の人間を多く救えるのかずっと悩みすぎてここ最近ほとんど眠れていないせいで思考回路が異常になっている自覚はある。でもこれは仕方の無い事だった。


「どう足掻いても私のせいで街が無くなるんだったら、いっそ私が犠牲になれば解決……よね。そうすれば影の鼓動も襲撃を辞めるかもしれないし、警備はそのイベントだけに集中できるんだもの…」


 そう言ってガーベラは近くにあった髪を整える為のクシを見つけた。おそらくこのクシを力を全力で込めて喉に突き刺せばかなりの痛みはあると思うが、命を落とすが出来るかもしれない。


「こうすればきっと街のみんなも助かるし、誰も被害に遭わない。だからこうするしか…」


 覚悟を決めて部屋にあったクシを自分の喉に突き刺そうとしたその時、突然クシが別の場所へと移動させられ、自害を阻止された。この部屋には誰もいないはずなのだが…一体誰が――


「……まったく。何やってるんですかガーベラさん。この前話した時から何か隠してると思ってたので様子を見に来たらこれとは。そんな事するくらいなら私をもっと頼ってください。私とあなたは友達なんですよね?」


「!? 貴方いつから居たの!?あ、あはははは。ごめんなさい変なとこ見せちゃったわね!さっきのは忘れてちょうだい。」


「ガーベラさん。演技は要りません。」


「そうだ!ロジェさんが来たのは私の頼みのせいだったわね!えーと。何すればいいんだっけ?」


「ガーベラさん。強がらなくていいですよ。」


「そうだ!貴方に似合うと思って私がメイド服を指名したの!貴方は私の大切な友達だし、いつ魔法が切れるか分からないからメイド服着てた方が自然に近付けるでしょ?だから―――」


「ガーベラさん。隠さなくていいので私にだけでも全て話してください。私達はアルロさんに頼まれてこの街にきてるんです。せめて式の参加者全員幸せにならないと挙式とは言えませんし、こちらも依頼失敗になるので。」


 ガーベラの控え室のドアの前で警棒を構えながら立っていたのは、どこにいても目立つようにガーベラが指定したメイド服を着ているアホ毛の女性、ロジェだった。



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 あっぶねー…。なにか隠してるとは思ってたけど、まさかここまでガーベラさんが追い込まれてるだなんて思わなかった。

 さっきはノリでそれっぽいこと言ったけど、私は式場の衣装をメイド服にしてきた事を怒りに来ただけのに、こんな事されたら怒れなくなるじゃない!!!


「………なによ。なによなによなによ!私と少し花園で話した程度の貴女に一体何が分かるって言うのよ!私がこの挙式の話が出てからどれだけ苦戦したかも知らないくせに!」


 そんな本気で怒られても…そもそもそんなの教えて貰ってないし分かるわけないでしょ。――アルロさんもそうだけど、みんな私の事なんだと思ってるの?


 けどそんなこと言ったら何があったか分からないけど、精神的に不安定な彼女は何してもおかしくないしなぁ…。とりあえずここは上手いこと言って切り抜けよう。


「何一つそんな事を教えてもらってないんですから分かるわけないじゃないですか。私とあなたは気の合う友達なんだったら、そんな馬鹿な事する前にもっと頼ってください。」


 本当は違うけどなッ!こんな空気が重くなかったらブチ切れてでもメイド服を用意した件を問い詰めてやるんだから!!!


「うるさい!うるさい!誰かに頼ろうがもう何も変わらないわよ!私のせいで街の人に迷惑がかかるんだからもうほっておいて!」


 ――なるほどなるほど…。何か知らないけど予想以上に精神が参っているようだ。


 これはガーベラさんには『無の頂(ノン・ムーン)』を使って感情を消して落ち着かせるべきか?でもあの魔法は人に使うべきものじゃないし、そもそも時間が残ってないから効果が切れた瞬間、ガーベラさんが何するか分からない以上あまりしたくはない…


「私が出来ることは全部やったし、もう何をしてもこの挙式は避けることは出来ないの…さっきもお父様には話したけどやっぱりダメで、参加者を追い返すことも出来ない。式を天候不良で中止させるためにわざと式場の結界に細工をしかけたのにいつの間にかそれも対策されてる。絶望過ぎてもう笑っちゃうでしょ?あははは。あははははははははは。」


 …………式場の結界を対策したの私だなぁ。さっき式場の人に確認を頼まれて意見したんだけど――なんかごめんなさい。


「だからもう良いの。もう疲れちゃったんだ、私。花園に引き篭って一生を終えるのも悪くなかったけど、あの空間は神聖な場所だから汚したくないし、そんな事すれば花園って存在がバレて消されちゃう。だから私の誇れる友達に最後のお願いよ。」


「………先が読めたので友達の意見として言っておきますが、自害に協力するのは絶対嫌ですよ。私の目の前で命を粗末にする事は絶対に許さないし、私がいる限り知人の死人なんて1人も出させたりなんてしない!」


「…………そう。ならもういいわ。早く出ていってよ。しばらく1人にさせて。」


「でも大丈夫。あなたが助けたいと思ってるものは私が全てを救ってあげるわ!あとはこの天才魔法使いのロジェに任せなさい!」


「………………なにを―何この場に及んでふざけた事を言ってるのよ!!!ここまで来てまだ私を馬鹿にするの?貴方どれだけ人を馬――」


「別にお節介でも馬鹿野郎とでもなんでも勝手に言えばいいわ。この世界全員を笑顔にする事を目標にしてる天才魔法使いに不可能なんて文字はないんだから!この街も花園も全部私が守ってあげる!」


 もちろんロジェにも出来ないことは幾つかあるが、恐らくガーベラさんは自分のせいで街に被害が及ぶ事を一番恐れているのだろう。それに関しては問題なく出来ると思う。


 だって影の鼓動は既にサンドホーク愛護団体によって大打撃を受けているのだから、あーるんと言う名の狂犬とこの国の警備の人間に任せれば被害が出る前に確実に守り切れるはずだ。最悪連絡すればサンドホーク愛護団体の2人にも協力を取り繕えるだろう。……連絡取れるのか分からないけど。


「………そんな、そんな未来なんて実現出来るわけないじゃない!大体、なんで私なんかにそこまでしてくれるのよ!」


「だって私達、友達なんでしょ?まだ関わった日数は少ないけど、友達が困ってたら全力で助ける。それが理由じゃダメかしら。」


「…………………バカっ。」


 そう言うと、ガーベラはロジェに謝罪しながら抱きついてきて大泣きし始めた。式場直前の花嫁だというのにこんな事をしていては全てが台無しだと思うが、ロジェは心からの本音をぶつけたし、彼女の精神状態を安定させたので結果的にOKである。流れで自分に出来ない事もいくつか言ってしまったが、まぁ何とかなるでしょ!


 あーるんは強いし、サンドホーク愛護団体もいるし、まだ会ってないけど帝都から来る実力者もいるらしいしね!今までも適当にやってきたけどなんだかんだ乗り越えてきたじゃない!だから今回も問題ないはずよっ!!!






 ―――ところで、私はいつ衣装をメイド服にされた事について怒ればいいんでしょうか?完全に言うタイミング無くしちゃったんだけど…

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