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第二章 30 『真のマスター』

「外から来る部隊は3つ潰せたか。流石上位部隊ってのもあって、僕らの部隊だけじゃ壊滅は一筋縄ではいかねぇか。」


「奴らは俺達よりも圧倒的に長く経験を重ねているから戦闘センスってのが磨かれてるのさ。だから周りとの連携が即興でもビビるくらい合わせてくるし、戦闘技術も高いし厄介だな。」


 現在クロとモモは作戦を伝えたあとアジトに戻り、戦場の情報を集めていた。

 現場には指揮を執る者全員に連絡チップを渡している。なので戦場の情報は全て入ってくるようになっているので集めた情報を即座を纏めあげ、どれぐらい人を導入するのかとか、撤退の指示を出すのかなど司令塔の役割に徹している。


「まぁでもさっきサウジストの中に潜入している部隊の中でトップレペルで強い部隊が3つもやられたみてぇだし、完全に崩壊するのも時間の問題じゃねえのか?これはマスターの仕業とみて間違いないだろ。」


 クロ達は一応作戦前にマスターにも部隊の位置情報を共有しておいたのだ。マスターはいつ合流するかとか、そもそもこの作戦に参加するかなど色々と心配な点があったが、どうやらクロ達が動くまでに全てを終わらせてくれたらしい。

 上位部隊の強さランキングでTOP3を誇る部隊をマスター潰してもらった以上、失敗は許されない。これはマスターに試されている証なのだ。


「そもそも下位部隊だってこの街にいる上位部隊の何倍もの数がいる。だから負けるはずはないし、これを完璧にこなして平和主義者のマスターの意思を継がないとな!」


 マスターの指示した内容は『花を生産しろ』だとか『サンドホークで世界を取れ』とか意味不明な内容だったが、マスターの意思を継ぐと発言した以上は意味不明な事でも最低限は呑まなくてはならない。それが影の鼓動の王座を受け継ぐという事なのだ。


「平和主義が本当なら街を火の海に変えることだけは怒られっから気をつけ--」


『貴様ら。一体誰の入れ知恵でこんな馬鹿げた真似をしている。下級マウス如きがやって良いラインを遙かに超えているぞ。』


 突然自分達の後ろに現れた謎の侵入者にクロ達は驚き、即座に戦闘態勢を取る。クロは組織から貰った炎の属性付与が自動で行われるタイプの剣型魔道具を構え、モモはダンジョンの攻略中に拾った『メリケンサック』と呼ばれる道具を自分の拳に装着して構えた。


「てめぇ、一体こんなとこに何しに来た?あとここはそう簡単に入れる場所じゃねえ。何が目的だ?」


「おい、お前!まさかお前が帝都から来た実力者って奴か?」


『……ほう。影の鼓動をここまで成長させてきたマスターであるこの吾輩がわざわざ下級マウス如きのアジトに来てやったというのにそのような舐めた態度を取るとは、どうやら相当死にたいようだな。』


「はぁ?てめぇがマスターだと?」


『あぁそうだ。ちなみに貴様らの用意した部隊は全員吾輩が対処し、既に動けなくしてある。裏切り者は全員殺すがこの騒動を起こした貴様らには、死んだ方がマシだと思えるレベルの拷問を受けてもらう。そう簡単に殺す訳にはいかん。』


 確かに目の前の男は全身黒装飾で、人とは考えられないレベルの魔力もある。オマケに腕には指輪をつけているからこれだけ見れば本当にマスターだ。マスターなのだが――俺が知ってるマスターから感じる魔力量が明らかに少ないのだ。…流石にこれは偽物だよな?


 同じ結論に至ったのか、予想通りの発言をモモが自分をマスターだと思い込んでいる男にこう言った。


「は?何言ってんだてめぇ。そもそもマスターは既に現場に出て組織の壊滅を行っているし、僕らが知ってるマスターはてめぇよりも圧倒的に魔力が多いから偽物だってわかんたよ!あれか?てめぇこの組織を乗っ取りに来たのか?残念だが、僕達が既にマスターから直接黒い指輪を譲ってもらって組織のトップに出てるんだ。だから悪い事は言わねぇから帰れ帰れ。」


「そうだぞ。俺達影の鼓動の前でマスターを語るなど死罪に値する。今なら俺達はまだ見逃してやるから訂正しとけ。今の俺達は下位部隊じゃないし、もう組織の権限だって持ってんだ。だから俺達を脅して乗っ取ろうとするのはやめておけ。」





『………………………………………は?』



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 こいつらは一体何を言っている。マスターの座を献上?本物よりも魔力が少ない?吾輩とドロシアが組織の全ての権限を持っているのに何寝ぼけたことを言ってるんだ。


 シャドーは過去一番困惑していた。ドロシアから聞いた主犯格のアジトに乗り込んだのに、何故かその下級マウス共から吾輩が偽物扱いされている。今回の予告状イベントは本当に意味のわからない事ばかり起きていて頭がおかしくなりそうだ。


「貴様ら、一体何と勘違いしている。吾輩はそんな権限を雑魚に譲った覚えないぞ。挑発行為はいい加減やめろ。吾輩とてそこまで温厚では無い。」


「いやいや。煽ってないし、そもそも僕達はマスターの地位に君臨してんだ。そもそもてめぇが本物だって言うなら対等なはずだし、第一てめぇの所属だって調べることが出来るんだぞ。」


「マスターにそんな権限はない。権限があると嘘をつくのもいい加減にしろ。」


 マスターことシャドーが持っている権限は精々作戦の指示権限と物資や資金に関する権限くらいである。


 シャドーは、あまり人付き合いが上手いわけではないし、そもそも情報を集められるような権限を持った所で、聞いた情報をすぐに信用出来ない性格な以上は邪魔になるという理由で上記の権限以外は全てドロシアに丸投げしたのだ。


 だから情報収集に関する権限や、依頼の受け答えなどは全てドロシアが持っているので奴らの言っていることは嘘である。


「これが嘘だと?そんな訳あるか!そうでなければマスターが全員の特徴を見抜いて鍛え上げているって噂が嘘になるし、マスターはその人の能力のギリギリを攻めて常に指示を出して成長を促してるって噂もあるんだぞ。能力を見極める以上、情報収集に関する権限を持ってないわけないだろ!」


 ――そんな馬鹿な話を誰が言い始めたんだよ。いくら最強な吾輩でもそんな人の能力を見抜く力なんて持っているわけないだろ。

 基本的に下位部隊は上位部隊よりも圧倒的に時間が余っているし、その時間を無駄にしないよう死なない程度に無茶難題を押し付けてるだけだ。吾輩の要望に耐えられるかの最終試験として課す腕試しの時と作戦に関する事以外は、思いつきとかでしか依頼を振った事がない。


「マスターがそんな能力を持ってるわけがない。吾輩はそんな馬鹿な噂を鵜呑みにする部隊なんぞにした覚えはないぞ。」


「それに俺達は今作戦で忙しいんだ。マスターの指示にあった組織の壊滅が終わった後は、マスターの意思を継ぐためにも更なる花の増産体制も整えなくてはいけないし、サンドホークで平和的に世界を取る必要がある。影の鼓動はサンドホーク愛護団体として生まれ変わるんだ!」


「―――ッ!何を意味不明なことを言っている!吾輩はそんな馬鹿な指示を出していないし、誰が聞いても偽物の指示だと分かる指示を信じるなんて貴様らはどれけ間抜けなのだ!いい加減にしろ!」


 これが下位部隊のトップだと信じられない。下位部隊はそれなりに動けるから直接会って指示しなくても大丈夫だと思っていたが、まさかここまで腑抜けの集団になっていたとは――ドロシアだけに指示を任せたのが裏目に出たか。


「――とりあえず今は時間もないし吾輩をここまで侮辱した事や組織を無茶苦茶にした事は今の間だけは見逃してやる。貴様らの処分はこの作戦の後だ。」


「はぁ?偽マスターが何言ってんだ。第一僕達だって正式に座を引き継いだマスターだ。てめぇなんかに従う気はねぇぞ。」


 そう言って目の前の女は黒いダイヤの付いた指輪を見せてくる。何処かで見た記憶があるがイマイチ思い出せないので一旦スルーする。


「……どうやら貴様らはまだ立場という物がわかってかいようだな。」


「立場も何もあんたが偽物な以上わかるわけが無いだ――っ!?なんだ…これ、全く動かねぇ…!」


「ちっ。石に近い泥って事はこれは土魔法か。卑怯な手を使いやがって…」


 シャドーは指を鳴らして土魔法を発動させた。これは屋敷で戦った戦闘員の女の動きを拘束した時と同じ石化の効果を付与したのだ。足元にある石を壊すまでは動けないだろう。


「吾輩に遊んでいる時間なぞない。今から貴様らには2つの質問に答えてもらおう。答えなければ――――こうだ。」


 そう言ってシャドーは2人の腕に対してかけた泥の質量をを重くし、喋れるギリギリのラインで壁に押付けて圧死させようとする。


「――クッ…わかった、わかったよ!答えりゃいいんだろ?」


「あぁそうだ。1つ目の質問は『貴様らにこのような馬鹿な指示をしたマスターとは誰なのか。』ということ。そしてもう1つは『誰が聞いても嘘だと分かるような馬鹿な噂をなぜ信じたのか』だ。」


 そうしてシャドーはすかさず黒い光を2人に向かって打つ。これは虚術の魔法を応用した強制的に本当の事しか喋れなくなるようにする自白剤のような魔法である。


「………この指示をしたのは女だ。名前は名乗らなかったので分かねぇが、その女は事前に聞いた見た目の情報と一致していたし、何より奴は精神干渉の魔法が使えた。だから僕たちは信じたんだ!嘘じゃない!」


「あぁ!それは本当だ。奴は魔法を使って俺の精神が壊れている状態から救ってくれたんだ。だからそんなこと出来るのはマスター以外有り得ないと思ってたんだ。」


 精神干渉の魔法に吾輩の流した見た目の情報と一致する女か…まさかとは思うが、あの屋敷にいた女か?だが悪意という物を知らなそうな残念な女がこの組織に潜入し、ここまで荒らすような真似事を出来るとは思えない。


 ――だが一応聞いておく必要はあるな…


「それは『ロジェ』と名乗る女で間違いないな?奴は間違いなく帝都から来た実力者だが。」


「名前は分かりませんでしたが、その女の隣には常にピンク色の髪をした小さな女が居ました。偽名の可能性も捨てきれませんが、そいつがロジェだと呼んでいたのでその可能性は充分にあると思います。」


 そうかそうか…やはりあのアホ毛の女が全て手を回していたのかッ"…!予想通りあの女は侮れるような相手ではないし虚術にも知識があって、裏からここまでの厄介な事をしてくる以上はあの戦闘員よりも先に潰すべき相手だ。もう時間は残されていないが、作戦を再び変更する必要がある。


 シャドーはここまで組織をめちゃくちゃにし、作戦を最悪の形で全力で妨害してくるロジェへの怒りを自分の拳を込めながらこう言った。


「……貴様らの言い分はよく分かったッ"。作戦が終わり次第貴様らは処分する。それまでは遺書でも書く位の時間はやるからこれ以上何もするな!貴様らの権限は全て停止させているから、吾輩が補助するまではここから出る事も出来ないであろう!」


 そう言ってシャドーは、女の指に着いてある黒い指輪を回収してから指を鳴らし、転移魔法で急いでアジトへと戻って行った。


 使える手駒の大幅減に加えて、当日使う予定だった兵器型サンドホークの完全消滅はあまりにも痛すぎる痛手だ。もう作戦決行まで時間が無いというのに今回の作戦は本当にどうなっているのだ!



△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 ドロシアは自分の課せられた仕事をこなしていた。即座に実行犯を特定してシャドーに共有したし、現在だってスペアと彼の部隊以外の通信権限を消した。理由は噂を聞き付けた下位部隊が更に参戦し、更なる混乱を起こさないようにする為である。


「今までダークピーチは優秀な部隊だったというのに、なぜそんな馬鹿な行動に出たのかしら…」


 今回の下位部隊で一番の実力を持つダークピーチは、経験も下位部隊の中でも長く、実績もかなりある優秀な部隊だった。だからこそ今回下位部隊を率いるリーダー権限を渡したし、作戦前にも直接ドロシアが話したが反逆の兆しは感じられなかった。だからこそ不思議なのだ。


「あるとすれば第三者の入れ知恵……だけど、異常なくらい高い魔力量を誇っていて厨二病みたいな見た目をするような奴なんているはずないよね――ってことは奴らが騙された責任は私にあるかしら。」


 シャドーが人付き合いが苦手な事を知っている以上は直接話を聞いたりするのはドロシアの仕事だったのだが、無理やりにでも下位部隊とシャドーをぶつけるべきだったのだろうか?

 いくら下位部隊とてその辺の冒険者を本物だと信じるほど馬鹿ではないはずなのだが、一体誰がそんな事を…。


 とにかくこの事件が起きた責任は、魔力量があそこまで異常で分かりやすく、全身黒装飾で無駄に目立つ黒い指輪といった特徴も絶対に被らないだろうという理由から本物と対面させなくても良いと甘い考えをしていたドロシアにある。


 これが終われば私もそろそろ潮時かもしれない。シャドーと違って戦闘も出来るわけでもなく、スペアのように前線で潜入作業が出来るわけでもないドロシアが長年組織のNo.2として生きてこられたのも奇跡だ。組織を抜けることが責任を取る事に繋がると思っていないが、全てが終われば一度話す必要がある。そう判断した。


 ドロシアがデスクに座わりながらそんな事を考えていると、シャドーが戻ってきた。付き合いが長いから分かるが、今の彼は相当怒っているだろう。普段のふざけた態度とは大違いだ。

 すぐさま立ち上がり、ドロシアは声をかけた。


「お疲れ様ですシャドー様。無事諸悪の根源を潰せたと聞きましたよ。2割ほど数が減りましたが、使える手駒はまだ150人ほど残っているので作戦には大きく問題ありません。」


「………そうか。ちなみに減った分はすぐに補充出来るか?」


「えぇ。シャドー様が裏切った下位部隊を幻覚を見せて意識を失わせてくれたお陰で最小限の被害で納めることが出来たので、足りない分の穴埋めは出来るかと。でもこの数を出してしまえば組織の上位部隊は全てこの作戦に導入する事になります。もし失敗したら組織の壊滅に繋がりかねないので、それだけは理解しておいて下さいね。」


「分かった。ちなみにドロシア、吾輩に向かって意味不明な事ばかりが襲い掛かってくるので少し睡眠を取りたいのだが、自由時間って残ってるか?」


「――初めての反逆者が出たというのにふざけてるんですか?もう作戦実行まで2時間もありませんよ。」


 どうやらこの男は、意味不明なことを言ってふざける余裕はあるようだ。

 こんな状況で睡眠を取りたいだなんてさっきまでの私の覚悟が馬鹿みたいじゃないですか…。


「ちなみにドロシア、この事件は貴様に責任があるわけじゃないぞ。これはあんな馬鹿げた話を信じた下級マウスが全て悪いのだから、貴様が組織を離れるのは吾輩が許さん。」


「!?いつから私の独り言を聞いてたんですか?」


「…………割と最初からだ。姿を見せるタイミングが中々なくて少し聞かせてもらった。勝手な事をしてすまない。」


「次同じことやったら許しませんから!」


 ――――全部聞かれていたなんてはずかしい。シャドー様のバカっ!

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