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第二章 26 『影に潜む者⑥』

 シャドーは、精霊の騒ぎを終わらせつつ街の情報を収集し、ようやく専用のアジトへと戻り、自分がいつもいる自席へと座っていた


「花が散る混沌の世界から今帰還した。少し時間がかかったが特に問題ない。」


「怪我もなく無事に戻ってこられたようで何よりです。興奮状態の高位精霊(ハイエレメント)なんていくら実力ある者でも相当な魔力や体力を消費しますからね。」


「ふん。吾輩を馬鹿にするでない。世界が吾輩を祝福していると言うのに、あんな精霊如きに苦戦するわけがなかろう!」


 ………まぁ、実際はかなり苦戦したのだが、黙っている方がかっこいい。言う必要はない。


 高位精霊の襲撃は災害だ。

 高位精霊が通った場所は全てが破壊されるとされており、ただでさえ強いのに興奮状態という強化(バフ)を受けているので、いくら強いと自負しているシャドーとて楽ではない。

 火の精霊が起こす大量の火炎弾を対処するのも大変だったが、何より1番辛かったのは『上位部隊に1つも被害を出さずに撃退』することだった。


 別に周りの被害を考えずに精霊の撃退する事自体は、シャドーの土魔法や虚術(ホロウ)の術を使えばある程度簡単に撃退出来るのだが、人を守りながら戦うとなれば話が変わる。

 精霊の超広範囲攻撃に対応しながら戦場の人員を欠かないようにするには、周りの状況を常に確認する必要があるし、何より即死級の攻撃を何度も捌き切るだけでも厳しいのだ。それだけで難易度が桁違いに上がる。


「……確かにそれもそうですね。この組織のトップに君臨する方ですし、あまり苦戦すると思っていませんでした。ところで半日以上外に出てましたが、なにかされてたんですか?精霊の撃退に時間が掛かったとしても時間が長すぎる気がしますが。」


「少し野暮用でな。あの時に手合わせした例の2人の女について調べていたのだ。」


 精霊の撃退にはかなりの時間が掛かったが、その後シャドーは街に潜伏して情報を集めていたのだ。

 調べていたのは、作戦決行日に絶対に戦う事になるであろう2人の戦士、ロジェとあーるんについてだ。


 あの2人は何かが異質でかつ強い。あの化物を象とするならば、帝都から派遣された騎士団なんて蟻以下と言えるだろう。

 自分の実力には自信があるが、機動力が高くて戦闘に慣れたあの戦闘員と搦手が得意なあの魔導師が同時に襲ってくればシャドーでも負けてしまうかもしれない。

 この作戦は絶対に失敗出来ないからこそ負けないようにする為には、どんなに小さな情報でも徹底的に調べる必要がある。


「シャドー様が自ら動かなくても指示して頂ければこちらで調べるのに…ちなみに何かわかりましたか?」


「スペアもまだ接触出来てないようだし、大したことは分からなかった。だが、吾輩のフォール・ナイトメアを食らった相手に対して精神が崩壊しないよう延命措置をしたのは、あの現場で模擬戦を提案していた女という事は分かった。そして奴はあの系統の魔法に対して耐性がある可能性が高い。」


「え?あのシャドー様が逃げようとする時に使う時間稼ぎの為の魔法をですか?あれに耐性がある人間なんて見たことないのに…」


 ――吾輩の完璧でかっこいい魔法に対して時間稼ぎと言うのは失礼ではないか。別に認識は間違えてはないのが、もう少し言葉を選べ言葉を。それでは技のかっこよさが半減するではないか。


 フォール・ナイトメアは、効果範囲にいる者の魂を別空間に連れ出し、その空間でリトルメアの力を借りて痛みを幻覚として再現する魔法だ。その空間で基本的に痛みを感じない人間なんて存在する訳がないので、あの女は何かしらの方法を使って回避したという事になる。

 あの場所で不意打ちのような形で精神攻撃を受けたはずなのに、あのレベルの幻覚を常にスルー出来るとなれば他の虚術の魔法も通じない可能性もあるのでシャドーの天敵になる可能性があるのだ。奴の仲間の戦闘員よりも警戒するべき相手でもある。


「普通ならば絶対に有り得ない事だ。あの者達を倒すには吾輩の封印を解放し、眠っていた真の力も発動する必要がある。」


「……………なるほど。つまりシャドー様は、こうおっしゃるのですね。あの女は精神攻撃が全く効かない異常者だから、作戦当日までに誘拐か暗殺を行う必要があり、相手の二台戦力である1人を大幅に削って弱体化する必要がある。そういう解釈であっていますか?」


 別に吾輩はあの女を消せとまでは言ってないのだが、どう解釈したらそうなるのだろうか。


 ドロシアはとても真面目で隙のない女だ。だが、それと同時にシャドーの発言を拡大解釈して事態を大きくしてしまうという少し抜けたところがある。

 実際作戦としては良い線を突いているしその提案で助かった事が何度もあるので、あまり注意しないが彼女にとって吾輩がどう見えているのかは未だに分からない。


 ――だが暗殺か…。悪くは無いな。問題点を上げるとすれば奴の隣には常に勘の鋭いあの戦闘員が居ることだが、これが成功すれば作戦が失敗する可能性は無くなることだろう。


「………あ、あぁ。そういう事だ!よく吾輩の指示が理解出来たな。」


「組織の中で私はスペアさんと同じくらい最古参なので、これくらい理解出来ないと厨二病発言に対応出来ないので当然です。何年共に活動していると思ってるんですか?」


『厨二病』という物は未だによく分かっていないが、吾輩に対する褒め言葉と見ていいだろう。そんなかっこいい言葉を使ってまで褒めなくても大丈夫なのだが。


「それもそうだな。それと、『祝福の鬼嫁』が届いたという話が入っていたが、本当か?」


「はい。先程転送陣から送られてきました。これを担当した部隊はシャドー様に直接渡したと言っていましたが、あれは一体なんだったんでしょうね?」


 そう言いながらドロシアが『祝福の鬼嫁』を手渡ししてくる。手に持って魔道具を観察するが、しっかりと魔道具特有のオーラもあるし、特に変わった点などはなかった。偽物にすり替えられている可能性はないと見ていいだろう。色も事前情報の物と全く同じだし、このクオリティで偽物だというのならばそれを作った奴の顔が見てみたいくらいだ。


「考えても分からんものは分からん。一度調べる必要はあるが今は時間が無いので後にしろ。この作戦が終わってから吾輩直々にじっくり問い詰める。」


「分かりました…というかその仮面って本当に使う必要あるんですか?」


「この魔道具は式場当日に花嫁に使う必要があるし、事前情報通りならあの貴族の娘はこの仮面の適正ラインピッタリのはずだ。奴が暴走している間に『幸福の花束』も回収する予定だが、式場では何か変わった動きはあったか?」


「はい。一応ありました。本日式場に潜入を開始した上位部隊から入った情報ですが、式場のブーケトスイベントで、『幸福の花束』をブーケとして投げると言う情報が入ってきております。この街の貴族はそれを囮にして我々影の鼓動を誘い出そうとしている罠の可能性もありますが…。」


 それを聞いて特に意味もなく意味深な笑みを浮かべながらシャドーは答えた。


「…………なるほどそう来たか。そんなリスクの高い賭けに出るとは、この街の貴族も少しはやるようだな。」


 ――それは完全に想定外だ。これでは『祝福の鬼嫁』を手に入れた意味が7割近く意味が無くなるではないか。


 本来ならば、あの花嫁にこの魔道具を装備させ、式場で全てを破壊しようと暴走する花嫁を餌に貴族から安全に『幸福の花束』を奪い取る予定だった。

 そして式場が大混乱していると聞きつけた警備や騎士などの戦力が式場に向かう為、戦力が弱体化した瞬間に街の主要箇所を乗っ取り、街の占拠を完了させ、そこから式場に戦力を集中させるつもりだった。


 この魔道具の使い道が完全に無くなった訳では無いが、相手がそう出るのであればこちらも作戦を大きく変える必要がある。


「どうしましょうか?シャドー様。花嫁を魔道具で暴れさせる事には特に支障が出ませんが、交渉材料のない貴族は何をするか分かりません。暴走する花嫁を直接殺すことはないと思いますが、相手は花嫁に『祝福の鬼嫁』を使われる事を警戒している可能性があります。そうすれば動き辛くなるかと。」


「………少し作戦を見直す必要があるな。吾輩からこの街に潜入しているマウス全員に指示を出す。『今日1日この街で起きている動きを全て報告しろ。どんな些細な情報でも良い。作戦が大きく変わってもいつでも動ける準備をしながら行え!』とな。」


「分かりました。こちらの方でしっかり伝えておきます。」


 そう言ってドロシアがシャドーのいる席から離れていく。彼女の後ろ姿は誰よりも頼りになる背中をしていた。恐らく問題なく伝えてくれるだろう。


 その姿を見ながらシャドーは魔法を使用する際に使う腕輪型の魔道具、『有限の腕輪(ロスト・リング)』を丁寧に磨き始めた。

 この魔道具はシャドーの生命線だ。この魔道具は魔法発動の際に使う杖の代わりになるだけでなく、どんな魔法を使っても使用魔力を自動で最小限に抑えてくれる機能があるのだ。魔道具をチャージする際に使う魔力が多いというデメリットがあるが、少しでも戦闘中の魔力の消費を抑えたいシャドーにとっては無くてはならない存在なのである。


「あの2人の実力者と頭の回る貴族…か。これは相手をしていて面白そうだ。吾輩の天才的な頭脳を上回れるか見せてもらおうではないか!」


 ――崩されるはずのない完璧な作戦を崩そうとする愚か者を見るのは滑稽だ。作戦が成功した時に帝都からやってきたあの化物2人どう利用するかも考えなければならないだろう。

 シャドーは自分の仕込みを含めて4か月以上の時間をかけて経てた計画を相手がどう壊してくるのか考えると笑いが止まらなかった。




△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「お、おいモモ!その黒い指輪を引き継いだってのは本当かよ!」


「あぁ!夢でもねぇし完全に現実だ。嘘みてぇな話だろ?未だに僕も信じられないぜ。」


 マスターの魔法によりトラウマから解放されたクロはモモから話を聞いていたが、驚きの連続だった。


 マスターがよく分からない魔法でクロを解放した事や、この部隊が組織のトップの座を受け継いだ事、そしてそのマスターから直接組織の壊滅を任された事など、普通に考えれば有り得ないことばかりだ。自分がその場に立ち会えていないので確実に良い方向に流れていると言いきれないが、悪い方向には行ってない事だけは確かだ。


「まぁでも組織のトップになったってのに、いきなりそれを破壊しろと命令を出すマスターは相変わらず鬼畜だな。相変わらず何を考えてるのか分からねえ。壊滅させたあとはサンドホークで世界を取れってのも何かの隠語だと思うが…」


「今はそこまで深く考える必要はねえだろ?僕達は俺達が信じたマスターの指示を聞くだけだし、きっと壊滅させた後は何かしら手助けしてくれるはずだ。だから今は僕達が考える必要はねえよ。」


 本当にそうなのか…?その現場に居合わせなかった俺が悪いが、やはり何度考えてもマスターがそんな指示を出すとは思えないのだが。


「お、おう…だが、あまり人を過信し過ぎるなよ?俺達は本物のマスターってのにあった事がないんだから間違いの可能性だってまだ1%くらいはある。毎回言ってるが、常に疑いを持つ事が成功に繋がるんだ。騙されないようにだけ気をつけろよ?」


「大丈夫大丈夫。今回は他の奴らも隠れてマスターの話を聞いていたから証人はいっから。何より『人の感情を一時的に無にする』魔法なんていう倫理観がイカれた魔法を使えるのはマスターだけだ。クロが死んでたあの現場でも相手の精神に直接干渉する魔法を使ってたし、お前を直した魔法もその1つに過ぎないと思うぜ。」


 噂程度だが、マスターは精神干渉を得意とする禁術に手を出していると言う噂を聞いた事がある。

 正直信憑性のない情報なので信じる気は無いが、実際にそれでトラウマから自分が解放されているので、クロは強く反抗出来なかった。


「とりあえずそれもそうだな。とりあえず今は壊滅についての作戦を立てる必要がある。時間もないし今すぐ立てるぞ!」


「おう!任せと――――って、また上位部隊からの依頼かよ。」


「………組織のトップになったはずなのだが、こうして連絡って来るものなのか?」


 マスターが直々に権利を譲渡したのならば事前に上位部隊全員に話が通ってそうなのだが、もしかしてまだ話がついていないのだろうか?少し疑問に残る出来事だった。


「それは分からねぇが、まだ組織全体に情報が行き渡っていないとかだろ。どうせそのうち手違いだって連絡が来るはずだしほっとこうぜ。」


「だといいんだが…。」


 そうしてクロ達は指示の内容を確認することなく指示書を橋の方へと移動させ、壊滅作戦の方に集中し始めた。

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