第二章 25 『会議②』
「たっだいまー!」
「ただいま戻りましたぁ。なんか突然退室してしまってすみません。」
「あ、あぁ…我々は別に構いませんが、何かありました?」
「いいえ。別になぁんにもありませんでしたわ!」
テンションがややおかしくなっている2人組はようやく会議室へと戻ってきていた。
あまりの変わりようにドン引きされている気がするが、もう依頼などほとんど解決したようなので視線は全く気にならなかった。あとは適当に式場でそれっぽい動きをするだけで終わりなのである。
「嬢ちゃん達なんかやたら機嫌がいいな。少し席外しただけなのに本当に何があったんだ…?」
「僕はなんも分かんないけどロジェちゃんが機嫌良いしぃ、僕も機嫌が良くなってるだけだよ?なんか良い事あったみたい。」
なんか余計なこと言いそうだし、せめて彼女の前ではそんな態度出さない方が良かったかしら…。まぁ付き合い長いから隠してもバレそうだけど。
「とにかく!私は別に何もありませんので、式場の事とか盗まれた『祝福の鬼嫁』と『導きの祝儀』の事についてお教え頂いてもよろしいですか?」
このままでは私が『トイレに行っただけでテンションがおかしくなる女』という最悪の肩書きが貼られかねないので、無理やりにでも話を戻す。
「は、はい。ロジェ様がそう御所望であれば…。とりあえず警備の者よ。ここからは機密事項だ。一旦部屋から離れてくれ。」
ロジェの言葉を聞いて、アルロが部屋の中にいた警備の物を部屋から追い出した。どうやら相当凄い話をするらしい。……私なんかに教えて大丈夫なんですか?それ。
「ロジェ様は『幸福の花束』、別名フォーラブーケという魔道具をご存知ですか?この魔道具の情報は効果が強すぎる以上、表向きにはしていない貴重な魔道具でして、この魔道具の存在を知っている者は私のような街の責任者とイリステリアの皇帝様しか居ないのですが…」
もしかして『虚術』について知ってたからこの魔道具の事も知ってるとでも思われてます?そんな存在を消された魔道具の事まで私が知るわけないでしょっ!
――あと教えろって言った魔道具じゃない物をわざわざ教えてくるのはなんで?
「いえ。そのような魔道具の名前は聞いた事がありません。それがどうかしたのですか?」
「『幸福の花束』は、この街の秘宝とされてきた魔道具です。それ故にこの街に居る時しか効果を発動しませんが、魔道具の効果はその魔道具の近くにいるだけで不幸になる事がなくなり、効果範囲にいる者の安全が永遠に保証されるという優れ物になっております。この魔道具は銅像にもなっている『ヘルトマン博士』により見つけられて以降、この街に封印されているので、今日この日まで街の平和は保証されていたのです。」
――――なにそれ私もその魔道具欲しい。『祝福の鬼嫁』は素直に返すので、代わりにその魔道具を私にくれませんか?
昔から何かと厄介事に巻き込まれる不幸体質のロジェとこの魔道具が合わされば一周回って大事件が起きそうな気もするが、運の悪さをカバー出来る魔道具なんてロジェにとっては、喉から手が出るくらいには欲しいのだ。そんな物はいくら合っても足りないのである。
「へー。そんな便利な魔道具って存在するんだぁ。確かにそんなに強力なアイテムってんなら効果範囲にも制限があるよね〜。」
「僕も長年魔道具の事は情報を仕入れているから知識に自信があったけど、この街にそんなのがあったなんて知らなかったよ。自身の運勢を上げる物なんて聞いた事がない。」
ロジェが幼い頃に村にあった本で読んだ内容なので本当かは分からないが、この世界には20個の運勢を良くするアイテムがあると聞いた事がある。
この『幸福の花束』もその20個のうちの1つであれば、それは世界中の人間がこの小さな街に全力で乗り込んででも盗もうとする代物である事を意味する。
街や国の安全が永遠に保証される魔道具だなんて聞いたら、国を運営する責任者は自分の元へと置いておきたいと考えるのが普通だからだ。
「そんな魔道具がこの街に――でもなんでそんな貴重な情報を私達に教えたんですか?別に私は漏らすつもりはありませんけど、ここにいるお兄さん辺りがうっかり口を滑らせて話が広がるかもしれませんよ?そうなったらこの街も危険な目に遭うかも知れません。」
「おいおい。嬢ちゃんは僕の事をなんだと思ってるんだい?僕は口が世界一堅い男だし、そんな貴重な魔道具の情報なんてイリステリアにある国家予算の3倍くらいのレベルの高額を出されない限り教えるつもりなんてないさ。」
「セージちゃん…それなんの安心材料になってないから。結局お金積まれたら話すって事になってるし意味ないよ?」
「これはあくまでも僕がこの事を話すならここって言う線引きみたいな物さ。僕だってある程度常識は弁えてるから情報漏洩については心配しなくていいよ。そんな高額を払える者なんて存在しないからね!」
――常識ある人は買取額を誤魔化したり、ギルドのルールに違反してまでお金を取ろうとしないですよお兄さん…。
「とりあえずこのお金にうるさい人は置いておいて、そんな情報を与えて大丈夫なんですか?」
「はい。問題ありません。情報が外に漏れた瞬間、イリステリアの皇帝様がその話を知った者は存在事抹消するし、噂を聞いた者は全員消すと仰ってるので。ここにいる方達皆さんは消されないよう気をつけてくださいね。」
―――皇帝様野蛮過ぎてこわっ!こわすぎるんですけど!!もしかして私達帝都に帰ったら消されちゃうの?もうやだ怖いよ村の外…
とりあえず一旦落ち着かせるためにも用意してあったお茶を口の中に含む。
あまりの美味しさに少し笑みが零れる。その影響からか自分の特徴的なアホ毛も真っ直ぐになり、まるでビックリマークのような形に変形する。――あぁ、この街のお茶美味しぃ...。
「それでここからが本題です。この『幸福の花束』を明日、式場のブーケトスで使用する予定にしました。ロジェ様達にはその花束を受け取った花嫁から終わったあとに回収する役目もお願いしたいのですが、よろしいですか?」
突然の爆弾発言に、口に含んでいたお茶を少し吹き出してしまった。自分の座っている席の周りにあった本などは既に片付けられていたので問題は無いが、そういった行為は国の機密事項が詰まっている書類をダメにするので1歩間違えば捕まってしまうので気を付けなければならない。
「げほっ、げほっ、げほっ。ごめんなさい。突然の事でびっくりしてしまって。その――一応聞き間違いかもしれないのでもう一度だけ聞きますけど、今なんて言いました?」
「明日式場で行われるブーケトスに『幸福の花束』を使用するので、それをイベントが終わった後に回収して貰えませんか?」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
馬鹿なの?もしかしてアルロさんって想像以上のダメな方の貴族なんですか?さっきこの街の秘宝だとか言ってたよね?それをブーケトスで使うとか何考えてるの?やだよ?確かに1度その魔道具を間近で見てみたさはあるけど、そんな責任重大な仕事なんて受けたくない。
――――だって!運が悪い私が!そんな責任重大なイベントで!問題を起こさない訳が無いじゃないの!!
「………………一応聞きますけど、何か考えがあって行うんですよね?式場に花束がないから代わりに使用するとかだったら驚きですけど、私はそこまでアルロさんが間抜けな人だとは思っていないので考えがあると信じてます。大丈夫ですよね?」
「そのような馬鹿な事は行うつもりはありませんし、ちゃんと考えはあります。ご安心を。」
良かった。考え無しに動くような人間ではないと思っているが、ちゃんと考えはあるようなので、無駄な心配はしなくてもいいらしい。私はその依頼を絶対やりたくないけど。
「今回恐らく影の鼓動が狙っているのはこの『幸福の花束』だと思います。どこで情報を仕入れたのかは分かりませんが、この小さな街を占拠する理由はそれしかないのです。予告状にも街は壊すつもりは無いと書いてありましたしね。」
「ねーねー。その予告状?っての僕達は聞いてないんだけど、何の話?もしかしてそこに奴らの目的でも書かれてたりする?」
「あれ?ロッキー様から聞いておられなかったのですか?依頼書と共に予告状の内容を共有したと聞いていたのですが---こちらが予告状の内容になります。」
あー多分それ私が最初に依頼内容を確認せずに全部捨てたから、予告内容も見てない事になってる奴だこれ。
―――勝手な事して本当にごめんなさい…。
アルロさんから予告状の内容が書かれている1枚の紙を受け取って読み始めた。
えーとなになに…。――我々は影の鼓動。サウジストで近日中に挙式を上げる予定の花嫁を利用し、この街を破壊する事無く全てを乗っ取る影の支配者だ。我が漆黒の闇に街が支配されし時、この街に眠る3つの魔道具と共に絶望が持たさられるだろう――――なにこれ子供のイタズラかな?いくら歳の若い子供でももう少しまともな内容書くと思うんだけど、我が漆黒の闇だとか、影の支配者だとか、これ作ったやつ痛過ぎじゃないかしら。厨二病じゃん。いたたたた。
「………これ、ただのイタズラとかじゃないですよね?どう見てもそこら辺の子供が作った物にしか見えないんですけど。」
「確かに内容もふざけているので信じられないのは分かりますが、これは列記とした本物の予告状ですよロジェ様。奴らはこういったふざけた文書を使って油断させてきますが、ここに書いてある内容を100%実現してくる事で有名なのです。」
だとしたら相当ふざけた組織なのでは?裏社会でもかなり有名な組織って聞いてたからなんかガッカリなんだけど。こういうのってもっとちゃんとした予告の内容を出す物じゃん、ふざけてる?
「――とりあえず分かりました。ブーケトスの件はこちらで何とかしてみます。で!す!が!私は生まれつき運が悪いので、当日に何か凄い事が起きても文句を言うのはやめてくださいね?私はちゃんと警告しましたからっ!!警告しましたよッ!!!」
ロジェは先に忠告する作戦に出た。こうやって先に忠告しておく事で、仮に影の鼓動にその魔道具が盗まれたとしても責任を問われ辛くなるからである。ここまで露骨に保険をかけておけば相手も嫌がるかもしれないし、嫌なら私以外の誰かに頼みなさい!!!あとお茶美味しい。
「……1つお聞きしますが、そんなに強調すると言う事はロジェ様はその凄い事とやらに心当たりがあるのですか?先程あーるん様からロジェ様は未来が見えているので彼女に従っていれば間違いはないと聞いたのですが。」
その言葉を聞いて隣に座っているあーるんを睨みつけるが、またもや彼女は違う方向を見て前と同じように口笛を吹いていた。この子もそうだけど私にはそんな能力ないってずっと言ってるでしょ!!!
「....先日も言いましたけど、未来なんて見えるわけがないじゃないですか。何が起こるかだなんて私にだって分かりませんよ。全てたまたまなので彼女の出鱈目なんて信じないでください。私は未来どころか現在すらあまり見えてませんから。」
「えー!ロジェちゃん絶対なんか知ってるでしょ?僕はずっとその力を信じてるのにぃ!」
――もう否定するのも面倒だからそういう事にしておこうかしら。全部運の悪さによるマッチポンプなんだけど。
「………まぁ起こるかもしれない事と言えば、式当日にウエディングケーキの中から人が現れて大騒ぎになるかもしれない――って事かしら。今の私が言えることは以上よ。」
それは、夢で見た内容の1つである『入刀したケーキの中からオノマトペガチ勢おじさんの登場』という物である。そんな出来事が有り得るわけが無いので、ここまでめちゃくちゃな事を言っておけばきっと彼らも私が未来を見えていない事も分かるだろう。こんなのが再現されたらそれこそ世界の終わりか悪夢である。
「――それは本当に起こることなのですか?だとしたら当日使用するケーキも入念に検査しなければダメですね...」
「いえいえ!そんな事に時間を使わなくて大丈夫ですよ。あくまでも可能性の話ですから!私のこういう発言なんて当たったことないので!!」
ただでさえ準備期間が少ないのだから、こんなロジェの適当な発言なんかで時間を取らせる訳にはいかないので、ロジェは急いで適当な発言をフォローに入れる。
その発言を聞き、アルロは渋々了承してくれたが絶対にそれを警戒しているという事がわかる険しい顔をしていた。……信じて欲しくないからって適当な事言ってごめんなさい。
すると、突然会議室のドアがノックされ、知らない女性が中に入ってくる。
「会議中失礼します。お父様、明日の挙式の事で聞きたい事が――って見知らぬ人が沢山。一体この人達はどなたなの?」
「あぁ。『ガーベラ』か。この人達は明日の挙式で演出を盛り上げる為に急遽呼んだエキスパートの人だ。警戒するような危険人物じゃないから安心してくれ。」
部屋に入ってきたのは、オレンジに近い赤色をした長い髪が特徴の女性と常に光っているかと錯覚するくらい目立つ金髪の男性だった。
女性の方は美しい白い肌に長身でスタイルの良い見た目、そして指には綺麗なピンク色のダイヤモンドを付けている辺り、もしかしたらこの人が式場でメインになる人なのかも知らない。
――だってピンク色のダイヤの石言葉は『愛の宝石』なのだから。
「皆様初めまして。私は、ガーベラ・スモールと申します。皆様、本日は私の父親であるアルロ・スモールの無茶な要望にお答え頂きありがとうございます。以後お見知り置きを。そして隣にいる方は、私の婚約者になるライトです。」
やっぱりこの人が貴族の娘さんだったのか…。礼儀正しい人だし、忘れないうちに覚えておかなくちゃ。えーと――ガーベラ…………何とかさんとライトさんだよね。メモメモ…と。
「初めましてガーベラさん。私の事はロジェとお呼びください。今回の挙式では魔法を使って出来る限り演出面のお手伝いをしますので、何かあれば気軽に頼ってくださいね。」
「………うそっ!?もしかして貴方が最近この街で話題になっているあの有名な魔法使いのロジェさんなの?ということはもしかしたら…」
「僕も初めて見たが、君の色んな噂を聞いてるよ。僕たちの最初で最後の記念すべき式場に完璧な演出を頼んだよ。」
「え?あ、私で出来る範囲であれば何でも手伝いますので、ライトさんもよろしくお願いします。」
――私の知らない所でどんな噂が飛び交っているのだろうか?ただでさえ目立ちたくないのにもう何もかも放棄して逃げ出したくなってきた。現実逃避したい…
何かブツブツ言っていたガーベラさんが突然顔を真っ赤にしながら口を開いた。
「………えっとじゃあ…1つだけ変なお願いがあるんですけど…それも聞いてくれますか?」
変なお願いとは?まぁ演出用の魔法は沢山あるのである程度の事ならば出来るのだけれど、一体何を頼むつもりなのだろうか?
「?はい。別に構いませんが…何をするつもりですか?」
「じゃあ、私と一緒に別室に来てくださいっ!お願いしたい事があります!!」
そう言ってロジェの腕を引っ張り、婚約者の男を放置して彼女が部屋からロジェを誘拐するように連れ出していった。
間近でその光景を見ているはずなのに珍しくあーるんがこっちまで飛んでこなかったので、恐らく誘拐判定されていないのだろう。このまま私を狙って攻撃されたら何も出来ないのでせめて道連れにしたかったのだが、来ないのならば仕方ない。
―――え?てか本当にこの人何頼んでくるつもりなの?怖いんだけど。




