第一章 05 『襲撃①』
「北門までの大通りまで来れば人が少なくなると思ったけど、この調子じゃここも地上に降りて歩くのは厳しそうね…。」
ロジェは空を飛んで北門へ向かっていた。
最初は目立たないよう走って移動していたのだが、南門へ向かって我先にと避難しようとする住民に巻き込まれて身動きが取れなくなり、仕方なく空に逃げることにしたのだ。
「ここまで来る時も沢山の怪我人や迷子を見かけたけど、北門への大通りには他の所と比べて想像以上にいるしやばいわね…あの時声をかけた少年が色んな人を助けてくれるといいんだけど大丈夫かな。」
北門への大通りを通っている途中、それなりにマナを吸収している少年を見つけたので声をかけた。
それっぽい理由をつけて怪我人や動けない人を助けるよう指示したつもりなのだが、果たしてちゃんと伝わっているのだろうか?
「でも今はそんな事を心配してる場合じゃないよね。多分だけどこの騒ぎは私にしか止められないから急がないと!」
さっき鑑定してもらった龍のペンダントが北門へ向かえば向かうほど、ペンダントにある結晶が赤い光と強い力を放っているのだ。今は何も効果を発動していないが、いつ何が起きてもおかしくない危険な状態だった。
「てかこんな危険な物なら簡単に私に渡さないでよ!そもそもペンダントがレアな事も聞いてないし危険な物って知ってたら私だって貰わなかったもん!!!」
これはあくまでも推測なのだが、恐らく襲撃してきたドラゴン達はこのペンダントを取り返しに帝都までやってきたのだろう。貰い事故みたいな物だが原因が私にあるなら自ら止めに行くべきだ。
いつもみたいに頼れるグレイやあーるんは居ない為、完璧主義者の彼らと違って今回は助けられる命の数は限られているが、あの時見つけた小さな戦士ならきっと沢山の命を救うことが出来るだろう。
小さな戦士に期待を込めつつ、ロジェは更に移動する箒の速度を上げて北門へ向けて飛んで行った。
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箒で10分程移動すると、北門の戦場近くに到着した。
戦場を見てみると雷竜や火竜・水龍などのメジャーな龍族から、本来-50℃の気候でしか姿を見せないようなレアモンスターの氷龍までも群れの中に混ざっている。
…そもそもここ地上なんだけど条件的に当てはまらないはずのレアな龍まで混ざってるの?
「…まずは状況確認が必要よね。拡張の眼力〜!」
拡張の眼力とは、その名の通り使うと視力が50倍になり、普段は絶対に見えないような遠くの物がハッキリと見ることが出来るようになる補助魔法である。
デメリットとしては、拡大する視力の倍率が50倍固定な事と半径50kmの範囲は何も見えなくなること。そして5分間魔法を強制的に解除出来なくなることである。
現在ロジェは、かなり高い高度から戦場を見ている。理由としては、高い所から観察しないとペンダントに大量の龍が引き寄せられて私が袋叩きにされる可能性があるからだ。普通ならゴマ粒のような大きさでしか龍を確認出来ないが、魔法を使うことではっきりと戦場を確認することが出来るのである。
「ちゃんと戦場は確認出来るけど、自分の周りの状況が何も見えないから不意打ちされたらすぐ死んじゃうし、絶妙に使いづらい魔法なのよ…。もう少し何とか出来ないのかなこの魔法。」
戦場では、襲撃している龍の数が20匹近くまで減っていた。周囲を見渡すと大量に龍の残骸があったので、恐らく帝都の騎士団や冒険者達で抑えきれているのだろう。
しかしそれでも人間側に余裕があるとは言えない。理由は簡単だ。龍は1人で街を崩壊させる程の戦闘力を持っているが、人は違う。
彼らは団結しなければ龍1人すら倒せない。
時間が長引けば長引く程、負傷で戦場を離脱する者が増えていき、どんどん不利な状況になるのだ。あの時の小さな戦士が戦場に行くなと必死で止めてくるのもよく分かる。
考える…。今自分に出来ることを考える。自分の魔法と薬品鞄の内容を照らし合わせ考える。しばらくの間考えた結果、1つの可能性を見つけだした。
『爆発』ポーションと魔法を組み合わせて少しの隙を作り、その隙にペンダントを返せば全て解決するのでは…?
予想だが、彼らはただこのペンダントを求めて帝都に襲撃してきているのだ。よく考えれば私が龍を倒す必要など無いのである。魔法を使って爆発の演出をあげれば猫騙しぐらいにはなるだろう。
その隙に土下座でもなんでもしてペンダントを返せば全て解決するのだ!
「ふっふっふ…。我ながら完璧な作戦ね!そうと決まれば今すぐ実行よ!」
とある秘策を思いついたロジェは魔法を使い、秘策を実行することにした。
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冒険者パーティ【彗星の神子】は現在目の前にいる火龍と戦っていた。彼ら4人は全員が幼馴染であり「剣士」「重戦士」「魔導師」「武器職」で構成されており、全員が治癒魔法を使えるという安定感の優れた帝都屈指の冒険者パーティである。
目の前の火竜に怯えることもなく攻撃を引き付けて相手の弱点を探っていたリーダーのヒューが仲間に向かって叫んだ。
「お前ら大丈夫か?火竜と氷龍は周りの温度を強制的に変化させて、ブレスを中心とした遠距離攻撃を仕掛けてくるのが特徴だが、奴らは近距離攻撃が他の龍と比べて大した威力がない。だから奴らから距離を取りすぎんじゃねえぞ!あと目の前の火竜の背中に傷跡があるのを見つけたんだ!一瞬で良い。そこを狙うから誰か隙を作ってくれ!」
それを見ていた重戦士のガッツが反応する。
「あのバカっ…!いくら風魔法をつけて機動力上げてるからって盾や鎧無しで龍の攻撃を引き付けて弱点を探るなんて無茶し過ぎだろ!…だがとりあえず分かったぜリーダー!俺とリンで隙を作ってやるから死ぬんじゃねえぞ!」
それを聞いた魔導師のリンが続く。
「わ、分かった!とりあえず私達で隙を作るんで無茶しすぎないでくださいね!リーダー!」
最後に銃で火竜の足元に電撃が走る落とし穴のような罠を仕掛けた武器職のランスが言う。
「OK!了解だリーダー!後のことは俺たちに任せてデカいの一発決めてこい!隙を作るのも簡単じゃねえんだからぜってーミスるんじゃねえぞ!」
ガッツが火竜のヘイトを取り攻撃を自分へと引き寄せ、リンが氷結雷を使って火竜に対して確実なダメージを与え、ランスが手持ちの弓と銃で罠の方向に誘導し、火竜の足を穴に落として奪った。
動けなくなった火竜に対してヒューが剣に水・風・雷の3属性を纏わせた累双斬を火竜の古傷に向かって放ち、龍を戦闘不能にした。
4人同時に息のあった動きで龍の群れ相手に戦う姿は、まさに新時代の英雄と言っても過言ではなかった。実際彼らのおかげで何十匹もの龍が既に討伐されている。
目の前の火竜を倒して上機嫌なヒューが仲間と合流して言った。
「ふぅ…。何とかこれでこいつも討伐だな!」
ご機嫌そうなヒューに向かって心配そうにガッツが言う。
「おいヒュー!いくら風魔法で動けるからって言っても、盾職の俺無しで龍の弱点探るなんて無茶し過ぎだ!昔からお前は無茶するから今更止めないが、もうちょい俺達を頼ってくれ。不安でしかねえよ。」
ヒューとは真逆で不機嫌そうな顔をしているリンがガッツの言葉に続く。
「そうだよヒュー!私すっごーく心配してたんだからね!そんな無茶ばかりしてたらそのうち取り返しのつかない目にあっちゃうよ?」
「でもたまには無茶しないと何も解決しないだろ?今回に至ってはあの数の龍の群れなんだ。僕が頑張らないと帝都が龍達に襲われて滅んでしまうんだし頑張らないとな!」
そう言い残してヒューは地面を強く蹴り、次の相手である雷竜の攻撃を引き寄せながら再び弱点を探し始めた。
「もうヒューってば!昔から全く懲りないんだから…。これじゃあいくつ心臓があっても心配でしかないんだからね!まったくもうっ…!」
頬を膨らませ、ますます不機嫌になるリンに向かってランスが言った。
「まぁまぁ…。あいつが無茶するのは今に始まった話じゃないだろ?あいつなら簡単には死なねぇし、俺たちのリーダーならきっと期待通りの成果を出してくれるんだ。なら俺達は俺達に出来ることをやるだけだろ?ガッツ!リン!いつも通り準備だ!」
「おう!」
「はーい…」
いつも通り2人を慰め、ある程度龍から距離を取ろうとランスが動き出した瞬間、とある光景が目に入ってきた。
雷竜の周りで攻撃を避け続けていたヒューを目掛けて他の場所にいた氷龍が氷のブレスを放とうとしてきた。
「おい!ヒュー!今すぐそこから離れろ!」
大声でヒューに向かってランスが叫んだ。ランスとほぼ同時に気付いたのか他の2人も即座に動き出す。
ガッツはウォールドという防御魔法を使い、即座に地面を蹴って大盾を構えながらヒューの元へと飛んだ。
リンは自分で作ったオリジナルの最上級魔法の氷結の業火を発動させ龍に向かって即座に放つ。
ランスも常に手元にある雷撃の矢を龍の喉元に向かって高速で何発も飛ばした。
だが3人の行動は誰も間に合わない。
「くそっ。氷龍は元々予備動作が少ない種族だと聞いていたが、まさかここまで短ぇとはな…。これじゃあ攻撃が誰も間に合わねえじゃねえ!」
ヒューが声を出した頃には、既に氷龍の口元は発光していた。恐らくあと数秒でブレスを放てる状態だったのだろう。
仲間が全員諦めかけたその時、何かが高速で空から落ちてきた。
「なんなんだあれは…。」
落ちてきた『何か』の大きさからしてまるで人が自分達へ向かって高速で落ちてきているようにすら見える。
罠の知識が豊富なランスはダンジョン内の仕掛けなどを解くことが多い為、経験を重ねたことで日々勘が鋭くなっている。
高速で落ちてきている『何か』を見る度にランスはとても嫌な予感がしていた。
「ガッツ!リン!一旦ここから――」
一旦離れるぞ!とランスが言い切ろうとしたその時、『何か』が地上に落ちてきた。
その瞬間、赤い雷が地上に向かって落ちてきたと同時にその場所を中心とした大爆発が起きる。あまりの威力に戦っていた龍も冒険者も全員がすぐに気を失い倒れていく。
日頃から鍛え、精神力にはパーティの中で誰よりも自信があるランスでも少しでも気を抜けばすぐに倒れそうになる。
「クッソ…。これは誰の仕業だ!こ、こんな攻撃を戦場に放つなんて一体何考えてやがる…!」
周りを見渡すとあまりの威力に倒れてしまっているガッツとリンの姿も見える。雷龍に立ち向かったヒューの姿は確認できなかったが、あいつならばきっと大丈夫だろう。
「ヒュ、ヒュー…。こっちは全員大丈夫だ…だからお前は…死ぬんじゃねえぞ…。」
ランスは自分の鞄から収納鎖を取り出し仲間の元へと向かおうとするが、道具を取り出す前に途中で意識が途切れてしまった。
武器職...弓や銃、槍など様々な武器を使用して周りを補助する後衛職。罠の探知や解除なども行う職業でもある。
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