第二章 22 『会議①』
暫くすると呪いからようやく解放されたので、ロジェはあーるんに背負ってもらいながらアルロの屋敷へと戻り、屋敷の廊下を歩いていた。
呪いからは解放されているので自力で動いても問題ないし、箒で移動しても良かったのだが、魔力はまだ少ししか戻ってないし、これから先に何が起こるか分からない以上、魔力と体力を無駄に消費するわけにはいかなかったのでこういう形を取ったのだ。こんな無茶なお願いを聞いてくれたあーるんには感謝しかない。
「ところでなんだけど、あーるん以外の精神攻撃を受けた人って大丈夫なの?死んだりしてないよね?」
精神攻撃で心を病むものも居てもおかしくないがそれ以上に心配だったのはロジェがポーションに使った『無の頂』の魔法である。
あの魔法は『無』でいる事に脳内が慣れてしまうと神経回路が腐って正常に体が動かなくなる可能性があり、永遠の屍状態になる可能性を秘めた結構危険な魔法である。あーるん曰く何度もポーションを使ったらしいのでとても心配だった。
「それに関しては特に問題ないよ?あの攻撃から完全に解放されたらみんなピンピンしてたし、ロジェちゃんの魔法のおかげで生き延びたー!って喜んでたから大丈夫じゃないかな?まぁ、あの魔法で強化を受けれるくらいに強くなったのは僕だけみたいだったし、みんな弱っちぃから僕は心配だけどね!」
良かった…これで精神まで壊れてる人や屍になっている人がいたら大問題だったし、一先ず安心ね。簡単に魔法の耐性が付くわけじゃないのもわかったから無駄打ちには気をつけなきゃダメだけど。
あとみんなが弱いんじゃなくて、あなたが異常なだけだと思うわよあーるん…。
「よいしょっと。とりあえず会議の部屋に着いたけど、中に入って大丈夫?まだ心の準備とか出来てないなら待つけど?」
私が昔から人前で目立つことに慣れていない事を気遣ってくれた発言だろう。今はその気遣いが有難いが、私がこんな所で止まっていても会議は進まないだろうし、一応これでも今回の依頼の中心人物なので今すぐ中へ入る以外の選択肢がなかった。
―――もしかしたら『空想の具現化』で火精を呼び出した件がバレていたら怒られるかもしれないが、その時は罪を認めて素直に土下座しよう、うん。もちろんそんな簡単に許してもらえるとは思ってないけど…
「大丈夫よ。早く中に入りましょう。心配しなくても既に私は準備は出来てるわ。」
そう言ってあーるんが部屋のドアを開いた。すると中に居た人の視線が全員やる気のなさそうに彼女の背中に倒れているロジェに向かって飛んでくるので、慣れない視線に少し寒気が走る。
全く知らない人も何人かいるので、まだ人と話すことに抵抗のあるロジェにはその場で吐きそうになるくらい気分が悪くなるが、今は何とか耐えるしか無かった。
「お待ちしておりましたロジェ様。とても辛そうな状態なのに呼び出してしまってすみません。」
「いえいえ…私は大丈夫なので気にしないでください。一応私も関係者なので話に混ざらない訳にはいきませんから。」
そう言ってあーるんがロジェをゆっくり席に下ろしてくれたので、少し楽な姿勢になりながら話を聞く。普段なら人前でこんな情けない姿を見せることは絶対にしないが、事が事なので仕方なく受け入れる。
「それでロジェ様、まずは私から言っておきたい事があります。」
「え?あっはい。」
言っておきたいこと…?もしかしてもう『空想の具現化』の事で怒られるのかな…。
「あの時ロジェ様があの場所で起こることを予知し、今回の影の鼓動の撲滅作戦の司令塔の役割を持つ私を優先的に逃がしただけでなく、屋敷にいた者全員に延命措置をしてくれた事、深く感謝します。あの時私も同じように攻撃されていたら、こちらで用意した作戦全てが無駄になっていたかもしれません。それだけでも凄い事なのに、影のボスまで相手をして情報提供をして頂けるなんて感謝でしかありません。」
?????
予想していた内容と全く違うことが帰ってきて驚きが止まらない。
「え?いやいやいや。私は別に何も凄いことなんてしていませんし、大体未来予知なんて出来るわけないじゃないですか。私は勝手に敵のボスまで追いかけたのに逃がしてしまったへなちょこなので、そんな私に頭を下げるのはやめてください!」
未来予知とは?私はあの時暴れるあーるんから守るためにアルロさんを優先して逃がした結果、あんな結末を迎えただけだし、そもそも使った魔法だって下手したら人として死んでたかもしれない魔法なんだから私を褒めないで欲しい。
そもそも起こること全て予知できるなら最初から全員屋敷から逃がしてるわよ!
しかも、それだけでなく?怒りに身を任せて?独断で敵のボスを追いかけたくせに?しっかり分身作って逃げられて?オマケに街中に高位精霊を呼び寄せたのだ主犯格?
こんな肩書きはどこからどう見ても私はただのテロリストなのだ。なのに何故この人達は私の事を神か何かだと勘違いしているのだろうか?本当にやめてください…
「しかし、先程あーるん様がロジェ様は未来が見えていると言っていたのですが...」
それを聞いて即座に隣に座っているあーるんを睨みつけるが、彼女は分かりやすく口笛を吹きながら知らない振りをしていた。その様子を見てロジェは片手を使って彼女の右頬を引っ張りながら顔を前に戻して口を開く。
「そんなこと出来るわけないじゃないですか。それは彼女の適当な発言なので信じないでくださいよ!未来予知なんて馬鹿げた話は誰が聞いてもこれは嘘って分かりますし…」
――この口か?この口がまたなんか変なこと言ってるのか!
確かに言霊の力は強いのかもしれないけど、私が未来予知なんて出来る訳がないでしょ!この子は勝手に未来予知が出来てるとでも思ってるのかもしれないけど、私は出来てないんだから勝手なことを言わないでちょうだい!!!
彼女からの悲鳴が出始めた所で一度引っ張る事をやめ、アルロが口を開いた。
「確かに。誰が聞いているかも分からないのにその力の存在について触れるのはご法度でしたね…。私からはこの件はこれ以上触れないので、本題に移りましょう。ロジェ様が戦った『影』のボスについて教えて貰ってもよろしいですか?」
「……私の件で言いたいことは色々ありますが、一旦後にします。結論から言わせてもらうと、敵について分かったことは一応あります。あの時戦った相手はこの世に存在しないとされている『虚飾の術』と呼ばれる禁術を使っていました。術自体は大したものでは無かったので、あの精神攻撃さえ何とかすれば太刀打ち出来ると思います。……相手に手を抜かれていなければ、の話ですが。」
「えー!あいつ虚術使いなの?この世界でそれを使える奴なんて居ないと思ってたのに〜。」
私だってびっくりしたわよ!この魔法はあまりにも強力すぎるから『歴史に消された魔法』とされてるはずだし、虚術の情報はこの世から全て消されてるんだから!!!
技を受け継ぐ者も、それに関する書物も全て消されたので、虚術に関する文献があるのは村の中にあるグレイの部屋だけである。彼はこの世界で唯一虚術を使用できる専用の魔力と書物を全て受け継いだ者なのだ。
どこでその魔法の存在を知ったのかは知らないが、あの男の裏に何かしら契約精霊がいて、そこを経由して魔法について知った可能性がある以上あの男の暗躍は何としてでも止めなければならない。あの魔法は簡単に悪用していい代物ではない。
「私にはその虚術とやらが分かりませんが、精神攻撃などが出来る魔法とみておいて良いですか?」
「あくまで私も噂程度でしか聞いたことがないので分かりませんが、多分その認識で大丈夫です。あまり詳しくは知らないので私が力になれるかは、分かりませんが…」
―――嘘である。ロジェはグレイが居ない間に部屋に入って、興味本位で虚術に関する書物を幾つも読み漁った事があるし、なんなら実際に術を取得しようとした事もあるので、基本的な事は全て知っている。(ちなみに魔力の使用効率が悪すぎるので途中で取得は諦めた。)
ここでそれを明かさない理由としては、そんな情報を知っているとバレたら今度は何に巻き込まれるか分からないから言いたくないのである。虚術について上手く説明するのが難しいのもあるが、わざわざ自分から迫害種族の可能性を思わせる破滅への道へ行く必要などない。
「そうでしたか…。でも相手の攻撃方法について分かっただけでも大きな1歩です。ご協力感謝します。」
「いえいえ。私はただ戦った感想を述べただけですから。これくらいで良ければ幾らでもお教えしますよ。」
「ちなみにロジェ様、あの屋敷で攻撃を受けた被害者達が皆口を揃えて『過去に攻撃した箇所が痛んだ』と証言しているのですが、これも虚術と呼ばれる魔法の1種なのでしょうか?何か知ってたりしませんか?」
――――いやそんな事までは知らないよ?確かにある程度の知識はあるけど、虚術って魔法は、使用者の練度で基本的になんでも出来ちゃうような万能魔法なんだからそんなの分かるわけないでしょ!私は専門家じゃないのっ!!!
「すみません…私もそこまでは分かりません。力になれなくて申し訳ないです。」
「そうですか…。ロジェ様ならば何か知っているかもと思ったのですが…」
もしかして私ってなんでも知ってる超人だとでも思っているのだろうか?実際は何も出来ないポンコツだよ?自分以外を攻撃したらその場で気絶しちゃうようなか弱い女の子だよ?
「わかりました。とりあえずこちらで残りは何とかします。ロジェ様は明日行われる式場の警備の方をお願いしますね。私の娘の晴れ舞台ですので、警備の方よろしくお願いします。」
「はい。式場の方は私にお任せ――」
話がいい感じに纏まったので、会議室から出ようとしたその時、警備の者が会議室の中へと入ってきた。息切れしているし、顔もかなり真剣だったのでおそらく何かあったのだろう。…てかこの街に来てからこのパターンで私が巻き込まれるの多くない?気の所為?
「大変です!アルロ様!魔道具博物館に展示されていた『祝福の鬼嫁』が偽物にすり替わっている事が先程判明致しました!入れ替わった時期からして『影』の仕業である可能性がとても高いです!」
すごく嫌な予感がする。あー…現実逃避したい。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
1件の報告があってからは、会議室の中の様子が目まぐるしく変わっていた。街の偉い人と思われる人はすぐに部屋を出ていったし、この会議室には博物館に関する情報や展示されている魔道具についての書物や紙が大量に流れ込んでくる。
正直ロジェも部屋にいた偉い人達と共に外へ逃げたかったのだが、アルロさんに直接「残って手伝ってくれ!」と頼まれてしまったので、断れる事が出来ずに部屋の中に取り残されていた。この部屋には私達とアルロさんの他には、何故かこの部屋に一緒に残っているセージの4人だけが居た。
ロジェはこの部屋で特にやることも無かったので、時間潰しも兼ねて目の前にあった博物館に展示中の魔道具について詳しく載っている本を手に取って読んでいると、あーるんが突然口を開いた。
「ねーねー。アルロさん。その魔道具博物館だっけ?そこの建物の警備ってどんな感じなの?簡単に盗み出せちゃうザル警備な感じ?」
「いえ。そんな事はありません。魔道具の入っているショーケースには認証術式を掛けておりますし、魔道具を関係者以外が台座から物を動かせば即座に出入口が全て閉鎖される仕組みになっております。それに、手入れを行う職員も特定の物だけが行うようにしておりますし、この数日間特に増えた人間も減った人間も居ないようです。本当に不思議なやり方で盗まれたものですからやり方が分かりませんね」
――なるほど…魔道具の置いてある台座とショーケース両方に仕掛けを施しているのか。だとしたら基本的にどちらかで判定が引っかかるはずなんだけど、どうやってその判定を犯人はすり抜けたんだろう?もしかして内部に裏切り者が居るとかなのかな?
「ふーん。ちなみにその魔道具が最初から偽物だった〜みたいな話って無いの?この街に届く前に既に入れ替わってて今気付いた〜みたいな話とかってたまにあるじゃん?」
「おいおい姉ちゃん。そんな馬鹿な話がある訳ないだろ?いくら不思議な事件だからってその予想は適当すぎるぞ。」
「もう!僕は今セージちゃんには質問してないでしょ!てかなんでそんな事言い切れるのさ!」
「だって僕もこの街で観光するついでに博物館に行って見てきたからね。魔物しか目が無いように思われがちだけど、僕って結構魔道具の知識もあるんだよ?だからアレが本物だってわかるのさ!あれには魔道具特有のオーラみたいなのもあったし――」
「……お兄さん。その話なら後で聞くので一旦黙ってて貰えます?大事な話が進みません。」
「そうだそうだー!セージちゃんは反省しろー!」
「煽ったら長くなるから、あーるんも悪ノリしないで。」
「はい…」
「ごめんなさいアルロさん。雑音が入りましたが止めておくので続きをお願いします。」
やり取りが長くなりそうなので無理やり中断させたけど、本当にこれで良かったのだろうか?
後で二人に何の話されるか不安だが、とりあえず話を再開してもらう。
「……分かりました。ちなみにあーるん様の予想はほぼ確実に当たっていないと言い切れます。この街に入った瞬間、帝都で1番の腕を持つ鑑定士に本物かの判定をして貰いましたし、この街で1番の腕を持つ鑑定士にも博物館の営業開始直前と終了時にすり替えられていないか毎回確認しています。先日までは『本物』と判断を受けていたので、盗まれたのは今朝の夜中の間という事になります。」
その鑑定士の人が洗脳されてない限り、盗まれたのは営業が終了した後の夜中って事になるのか…。やっぱり国をざわつかせる盗賊団って凄い実力持ってるのかしら。どうやって盗んだのか全く見えてこないわ。
「なるほど…貴重な情報ありがとうございます。聞いてて思いましたが、影の鼓動?って凄い組織ですね。」
「本当に手のかかる盗賊団ですよ彼らは。」
情報を聞いたのでしっかりとお礼を言い、手元にあった本に再び目を通し始める。隣であーるんがだる絡みしてくるが一旦スルーし読書に集中していると、何か見覚えのある魔道具が目に入ってきた。
――この魔道具…サンドホーク愛護団体に貰ったあの仮面にそっくりね。効果は、適性者が使った時に、鬼族レベルの身体能力や攻撃力を与える代わりに、その人間の自我を失わせて使用者の体が消滅するまで暴走を始める危険な魔道具―――なにこれ。めちゃくちゃ使用リスクが高い危険な魔道具じゃない。名前はえーっと…『祝福の鬼嫁』…………………え?
目を擦ってもう一度本に乗っている名前を見るが、何度見ても『祝福の鬼嫁』と書かれていた。
……まさかね。あの愛護団体から貰ったあの仮面がそんな訳ないじゃない。あの人達って見た目が変なだけのただの研究員だし…
そんな訳が無い。そう思いながら容量ギリギリになっている自分の時空鞄に手を突っ込み、暫くしてから例の仮面を念の為机の下に取り出して本に書いてある写真や内容何度も見比べる。
目を擦りながら確認もしたし、魔道具の色や形も違っていないか入念に確認したが、見た目が完全に本物と一致していた。その事実にロジェの手は震え始め、顔が真っ青になる。
その異変に気付いたあーるんが話しかけてくる。
「あれ?ロジェちゃん。なんかめっちゃ顔色悪いけどなんかあった?」
「あぁ"ああぁ"あああぁぁ"ーーーーーー!」
突然話しかけられて反射的に大声で叫んでしまった。このままでは明らかに変人だし何か隠していると怪しまれるかもしれない。
「うぉ…ビックリした。ロジェちゃん急に叫んでどうしたの?なんか様子が変だよ?」
「嬢ちゃんが叫ぶなんて珍しいな。何か分かったのかい?」
「い、いやいやいや。何も無い何も無い何も無い…。」
「………なんか様子が変だよ?ロジェちゃん。もしかしてぇ……僕になんか隠し事でもしてる?」
まずい。このままだと魔道具を盗んだ犯人(暫定)にされてしまう。その事だけは絶対にバレないようにしなければ!とりあえずこの場からいち早く離れないと…そうだ!
「……すみません。ちょっとだけ御手洗を借りてもいいですか?」
「……は、はい。別に構いませ――」
「し、失礼しまあああああああああす!」
ロジェは半分パニックになりながら、何故か行きたくもないトイレに行くことを選択し、風のような速さで逃げるように外へ走っていった。
――――このままだと私の人生が色々と終わりかねないし、せめて愛護団体に返すか誰かに押し付けなければ!!!




