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第二章 20 『悪夢』

 ――私は一体何故式場にいるのだろうか。


 ロジェは、気が付くと行った覚えのない挙式会場にいた。

 雲ひとつない綺麗な青空の元で目の前では沢山のサンドホークが参列し、見た目の性別が反転している人が新郎新婦としてガーデンウエディングを上げている。


 ――これは本当になに?嫌がらせだとしてもどんな悪夢なのこれ。


 周りを見渡すが、特にこの状況を不審に思っている人間は居なさそうだった。周りを確認するとセージやロッキーは当たり前のように式場にいるし、少し遠くにはサンドホーク愛護団体の仮面を被った2人も参加していた。私の隣にいるあーるんですらこの異質なイベントを全く気にしていなさそうだったし、よく見ると奥の方にはサウジストにいるはずのないヒュー達もいる。…本当になんで?


 勇気を出してロジェはあーるんに質問してみる。


「ねぇあーるん。これなんか変じゃない?」


「…………………ん?変な事ぉ?なんも変なことなんてないじゃん。もしかしてロジェちゃん疲れてるんじゃない?僕の目には変なものなんて1つもないよ?」


 ?????


 性別が反転してる新郎新婦だったり、参列者が全員サンドホークなの明らかにおかしいでしょ!なんで分からないのよ!!!


「いやいや…参列者がサンドホークなのもおかしいし、大体なんで新郎新婦の2人が男装と女装が逆になってるの?明らかにおかしいじゃない。」


「え?普通じゃない?だって今回の依頼って参列者はサンドホークって責任者さんが言ってたし、性別反転もおかしいことじゃないよ?最近はそういうのが流行りらしいし…」


 ―――何を言っているのか全く分からない。この子、あの時に受けた精神攻撃のせいで頭までおかしくなったのかしら。


 急いでメモメーンでメモした情報を確認するが、参列者がサンドホークだなんてそんな情報はどこにも乗っていなかった。明らかに目の前の状況は異常である。


「…私、そんな話聞いてないんだけど?」


「えー!僕ちゃんと言ったじゃん!この挙式は特殊だって。てかその説明聞いてる時ロジェちゃんも居たでしょ?まさか忘れちゃった?」


「あ、あはははは。そうだったわね…うんうん…。」


 ――ダメねこれは…この子は完全に頭がおかしくなってるし手遅れなのかもしれない。こうなったらまだまともそうな人に話を聞いて確認するしかないわ。


 少し移動して別の場所に居たセージに話しかけてみる。


「すみませんお兄さん、この式場何か変じゃないですか?色々と変な事ばかり起きてると思うんですけど…」


「? 何を言ってるんだい?この式場に変なところなんてないじゃないか。そもそも嬢ちゃんのおかげで(シャドウ)を壊滅させる事が出来たんだし、こうして平和な式場になったんだ。嬢ちゃんが心配するようなことはないよ。」


「そうですよロジェ殿。貴方が一人で影の鼓動のボスを捕まえたと聞いた時には驚きましたが、貴方のお陰で全てが解決しました。協力感謝します。」


 ???????


 ....あれ?やっぱりこれって私がおかしいのかな。記憶だと確か戦闘中に変な術を使われて負けたはずなんだけど…。あーるんはともかく、お兄さんやロッキーさんはこういう場面で冗談を言う人じゃないし、ここまで3人に聞いて意見が一致するなら本当に私はあの時の男に勝てたのかしら?




 ――考えてもわかんないし、今はそういうことにしとこう!戦わなくていいならそれで十分よね!



「そ、そうでしたね。ちょっと私、少し戦った後の記憶がなくて…変な事聞いてしまってごめんなさい。」


「何を言っているか分からないが、今は式中だ。くれぐれも問題を起こしたり目立った行動はしないように。」


 もしかして私ってそんなヤバい奴に見えてるのかな…?私は人目につきたくないから目立つような事なんてする気ないし、そもそも問題は向こうから勝手にやって来るんだから回避なんて出来ないよ...


『それでは次の式目です。これより、新郎新婦様によるケーキ入刀を行いたいと思います。』


 まさかのメインイベントじゃない!さっきまでの記憶が全くないけど、式場がカオスな事を除けばある意味一番の見所よこれは!もう影のなんとかがどうなったかなんてどうでもいいわ!


『今回は、新郎新婦の要望にお応えしましてケーキのサイズを3mの特大サイズにしております!』


 ??????


 ――そんなに高くしてどうやってケーキを切るの…?もしかして私の感覚がズレてる?もうこの世界の常識が分からなくなってきた...


『それでは新郎新婦の方に入刀をお願いしたいと思います!今回ケーキ入刀で使うナイフはこちらです。』


 司会の人がそう言うと近くから巨大な刃がついた工具のようなナイフを持ってきた。形状が滅びた文明にあった『チェーンソー』と呼ばれていた物にそっくりである。


 いやこんな物持ってまでケーキの入刀をするくらいならサイズを一回り小さくすればいいのでは...?しかも使用する入刀用のナイフはめちゃくちゃ重そうだけど---そもそも持てるのかしら。


『今回出席して頂いた皆さんは、新婦の方がチェーンソーを持てるのか不安ですよね?ですかご安心ください。なんとですね…』


「ふ"ん"っ"!」


 突如花嫁の人が足元のドレスを破き、チェーンソーのような巨大なナイフを片手で持ち上げた。その持ち上げた姿は完全に王者の貫禄を持った凄腕の格闘家と見間違う程のカッコよさがあった。...一応この人花嫁だよね?なんでこんな貫禄があるの?


『なんと今回の新婦の方は、昔からの夢でジャンプしながら高いケーキを入刀してみたいと言う夢があったようで、その要望を我々は叶えることに致しました!それでは新郎新婦による入刀になります!お願いします!』


 突然の奇行に周りの人々は動じることなく拍手をして応援の歓声を上げている。…もしかしてこの式場ってお笑い会場なのかな。そもそもそれだとケーキを切ってるの新婦さんだけだし、もはやそれは新郎新婦の共同作業と言わないよ。それだとただのスイカ割りならぬケーキ割りじゃん!圧倒的に突っ込みが足りてないじゃないッ!!




 ――薄々気付いてたけど、やっぱりこれ―私の知ってる結婚式じゃないわね…。




 そのアナウンスと共に新婦の人が地面を強く蹴って空を飛び、ケーキの頂点に届いた瞬間ナイフでケーキを豪快に切っていく。


「こうしてケーキを切ってみるのは私の夢だったんだよなぁ"!てりゃぁ"!」


 そう言って新婦が1人でワイルドに縦回転しながらケーキを入刀し、半分くらいを切った所でとある異変が発生する。

 切断したケーキの中から、先日出会った上裸のオノマトペおじさんが巨大化して出てきたのだ。本格的に意味が分からない。こんな悪夢を見るなんて何か悪い事でもした…?


『それでは皆様。ケーキを入刀しました新郎新婦のお2人方に盛大な拍手をお願い致します!』


 会場がその言葉を聞いた途端、今まで以上に大きな拍手が沸き上がる。誰も突然出現した変質者には誰も触れなかった。どうみても明らかに異常なのだが周りが止めない以上は、もうこの状況を受け入れるしかないらしい。あーもう現実逃避したい…。


 ケーキから現れた大きなオノマトペおじさんが頭を支点とした逆立ちしながらその場で回転したり、突然参加者がよく分からないダンスを始め、ここになにをしに来たかすらも分からない。1人で現実逃避モードに入って完全に結婚式から目を背けていると、突然ロジェの意識が遠のいた。















 ――そして私は、あの悪夢から現実へと感覚が戻ってきた。



 横になって寝ていたので、頭からは何か柔らかい感覚がする。まるで誰かの膝に乗っているような気分だった。


「………なんか今、死んだ方がマシに思えるくらいの酷い悪夢を見た気がする。」


 そう言いながら目を覚ます。すると起きた時の視点が高かったので本当に誰かが膝枕してくれていたのだと確信した。周りの明るさ的にも恐らく長い間意識を失っていたのだろう。戦っている最中は夜だったが、目を覚ますと周りは日が昇る夜明け前になっている。


 誰が長時間膝枕をしてくれていたのか疑問に思ったので顔を上げると、そこには下着一枚の男の変質者がいた。しかもこの前見たオノマトペおじさんとは特徴が微妙に違っている。


「!? ひ、ひいっ、いーーーーやぁぁぁぁー!!!ああああなたは、だ、誰ッ!?!いきなり知らない人が膝枕してくるなんてめちゃくちゃ気持ち悪い”!」


 あまりの驚きで反射的に目の前のおじさんの顎を殴ってしまった。その攻撃によってロジェの呪いが発動し、体内にある魔力が棘に変化して体に突き刺さってまた意識を失った。自業自得だ。


 明らかにサイズが会っていない小さな丸い眼鏡を付けた髪がないおじさんは顎を突然ロジェ殴られて死にかけている。

 このおじさんの名前は『膝枕大好きおじさん』。倒れている人間を見ると性別関係なく膝枕を行い、定期的に世界各地の獄のお世話になっている正真正銘の変質者である。




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「この人は何者なのだろうか?」


 おじモン人気投票で90番目くらいのなんとも言えない位置にいる膝枕大好きおじさんは、自分を殴ったこの女性が何故意識を失ったのか分からずにいた。


 このおじモンと目の前にいるとても可愛らしい女性との出会いは数時間前まで遡る。


 かれこれ1週間の間このおじモンはサウジストにある牢獄にお世話になっていて、ようやく解放された。久しぶりの外の空間を楽しむために街の中を歩いていると、突然街の中で何か巨大な物が地面に落ちたと思われる大きな音がしたのだ。何が起きているのか確認するために現場に向かうと、1人の女性が倒れていたのである。時間帯的にも深夜に近かったので、その音に反応して一般人が現場を見に来る者はいなかった。つまりこのまま放置されれば彼女は死ぬ可能性がある。


 私は、世界に151人いると言われたおじモンの中で誰よりも『膝枕』を極めたちょっと変わったおじさんだ。

 ある時は街中や何もない平原で、またある時はダンジョン内部で中で倒れている人間を見つける度に膝枕をして助けてきたこの男の膝枕は、誰であろうと身体的な疲れや精神的苦痛から完全に解放してくれるという特徴がある。…まぁ大体の場合はおじモンの顔を見た瞬間にぶん殴られて近くの街の警備の人に通報されるのだが。


 そしていつも通り今意識を失っているこの女性にも迷うこと無く膝枕を行ったのだ。倒れた人や死にかけている人相手に膝枕をして苦痛から解放するのはこの男にとっての生きる意味であり、使命なのだ。膝枕を行ってから既に5時間近く経過しているのだが、もしかしたら目の前の女性はまだ癒しが足りていないのかもしれない。


「にしても顎が痛い…。再生能力がおじモンの中でもかなり高いこの私が回復に時間が掛かるなど異常ですが…」


 このおじモンの強みはなんと言っても再生能力にある。膝枕をされた人間はもちろん、自身の回復力もかなり高いのだ。それなりに力のある冒険者に殴られようが即座に回復するし、腹を刺されようが半日あれば元通り再生出来るのである。


 なぜそこまで再生能力が高いのかは――教えなくても分かるだろう。知らない人に膝枕をし続けるということは、目覚めた相手に反撃される可能性が高いという事を意味する。つまり…そういう事だ。攻撃される事に慣れているので、勝手に再生能力が上がったのだ。


 なのに先程彼女に殴られた顎の痛みが全く引かなかった。彼女が何か魔道具を使った可能性があるので何か付けてないか調べたが、彼女の指には『力の指輪(パワー・リング)』が幾つも装着されていたのだ。恐らくその影響だと理解する。


「……だとしたら再生にかなり時間がかかりそうだな。それは困った。」


 するとこちらに向かって何かが飛んでくる強力な気配をおじモンは察知した。恐らく相当強い者が高速でこちらに向かっているのだろう。即座にこの場から避難する為、足元にいる彼女を丁寧に地面に降ろそうとしたその時、目の前に小さなピンク髪の女が現れた。あまりにも動きが速すぎて何をしてくるか予想出来ない。


「その子に膝枕していいのはぁ…」


「待った!そちらのお嬢さん!話せばわか――」


「【僕ッ”だけ】――――だッ"!」


 その言葉と同時に顔面を目の前の小さな女に蹴られ、頭蓋骨が割れる程のダメージが入った。自分でも割れたと感じるほどの痛みである。恐らく命に関わるような致命傷になっただろう。

 頭を蹴られた事以外何が起きたのか分からないまま、膝枕大好きおじさんはその場から高速で吹き飛び、街の外へと吹き飛んでいった。




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「おい!この街の外でなにかでかい音がした!今すぐいくぞ!」


 この街で警備をしている者が警備隊を纏める者の声を聞いて一斉に動き出す。自分は他の書類業務をしていたので知らないが、何か外では大きな動きがあったらしい。


 自分も現場に駆けつけた。するとサウジストの入国審査を行う関所前で、綺麗に頭から地面に埋まっている男がそこにはいた。しかもよく見るとその男は上裸であり、大事な部分を隠していた唯一の衣装も半分くらい破けている。


「貴様!何者だ!こんな所で何をしている!」


 何人かの警備の者が纏まって埋まっている男を地面から引き抜くと、そこにはつい先日サウジストの牢獄から解放されたはずの男が出てきたのだ。こうしてこの街の牢獄でお世話になるのは、5回目のはずなのだが、なぜこの男は懲りないのだろうか?


「はぁ...いくら流行になるようなカードゲームのモデルになる男でも、公共の場でこのような姿をする者は我々とで見逃すことは出来ない。せっかく解放してやったのにどうしてお前は同じことを繰り返すのだ!」


「……」


 目の前の男は顔もボロボロで何も話さなかった。恐らく喋る気力すら残っていないのだろう。懲りずに誰かに膝枕してここまで吹き飛ばされたあたりの説が有力だ。


「とりあえずお前ら、こいつを連れてくぞ。やりたくはないがこのまま放置する方が悪手だ。手伝ってくれ。」


 サウジストの警備隊を纏める男がそう言うと、全員が少し嫌そうな顔をしながら再び目の前の不審者を牢獄へと連れていくために動き出した。

今回は少々カオスな回です。前話までとの温度差が酷い事に....。


評価や感想など頂けると創作のモチベになるので、送ってくれると嬉しいです!


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