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第二章 18 『魔女vs影武者①』

それは、シャドーと対峙する少し前まで遡る。



 ロジェは目を覚ますと、またしても見知らぬ空間にいた。

 前回サンドホークの愛護団体と会った時と明確に違うのは、体の自由が聞く事と、箒に跨ったまま移動出来る事だ。とりあえず箒から降りて地面に着地し、その場を歩いて状況の確認をする。


「………つい先日も似たような体験したんだけど、この手の拉致って流行ってるの?」


 ロジェは自分がなぜこの空間にいるのかを考える。恐らく愛護団体に連れていかれたアジトとは違うだろう。しばらく考えていると1つ思い当たる原因があった事を思い出した。


「そうだ。私確かあの黒く光る何かに襲われて…」


 それは突然の出来事だった。あーるんがあの場で大声で叫んでくれたお陰である程度対応出来たのだが、自分に目掛けて『何か』が飛んできたのだ。


「ってことはあの攻撃した奴がいるって事よね。一体誰が―――」


『この場所に導かれし者よ。今まで犯した罪を数えよ。』


 突然後ろから見知らぬ声が聞こえ、即座にロジェが時空鞄から警棒を取り出して構えるが、後ろには誰もいなかった。


 この警棒はこの依頼中に借りていた備品である。


 警棒は、この世界でも殺傷能力の低い護身用のアイテムとして使われており、相手に攻撃が当たったとしても大したダメージにならない事から、自身の呪いに引っかからない可能性を考えたロジェは事前に借りておいたのだ。警棒さえあれば相手が剣持だったとしてもある程度は太刀打ちできるだろう。いつも通り倒せないけど!


「あなた、一体何者なの!答えて。」


『この場所に導かれし者よ。今まで犯した罪を数えよ。』


 質問をするが同じ返答が帰ってくる。どうやら相手は名乗る気は無いようだ。


「一体何が目的なの?こんな空間に閉じ込めて何するつもり!」


『この場所に導かれし者よ。今まで犯した罪を数えよ。』


 あー!もう!分かったから早くその罪がなんなのか教えなさいよ!何の罪を数えればいいのか分からないじゃない!もー!!!


「…もしかしてあなたは誰かと勘違いしていませんか?見知らぬ誰かに裁かれるような罪は私は起こしていません。」


『嘘をつくでない。私は貴様が既に罪を犯している事を知っている。』


 正直な事を言うとロジェには『罪』として思い当たる節が大量にある。


 魔法を使って物や建物を壊した事なんて数えきれない程あるし、人を実際に殺したことはないが事故とはいえ魔法の力で死にかけ寸前の状態にした事だってあるのだ。


 魔法関係じゃなければ村にあったよく分からない封印が何もしてないのにロジェが近くに行っただけでいくつも勝手に解放された事だってあるし、☆3程度の低レベルダンジョンから帰る途中に突然出来上がった☆8ダンジョンの出現に巻き込まれて付き添いの人を殺しかけた事もある。


 その行動がロジェの責任になるほど悪いか悪くないかはともかく、何かやばい事をやらかす度にロジェはめちゃくちゃ怒られ、怒られる度に全力で謝り続けて成長してきたのだ。


 ロジェの数えれる範囲での罪なんてほぼ無限に等しいが、見知らぬ誰かに裁かれるような酷い事はしていない。というかそもそもこういった出来事は村の中でしか伝わっていないはずである。恐らくこの声の主は誰か別の人と勘違いしているのだろう。そうに違いない!


「……私の犯した罪という物が分からないんですけど――もしかしてあなたは誰かと勘違いしているかもしていません。良ければですがとりあえずお茶でも飲みながら私とゆっくりお話しませんか?」


『……』


 まずい。どうやら姿の見えない謎の生命体も予想外の質問が飛んできて困っているようだ。何も考えずに話したけどこれってなんて返すのが正解だったのかな…。


「あー。別に深い意味は無いんです!私は誤解を解いておきたくて、そもそも私は犯罪行為なんて物に手を出していませんし、本当に裁かれるような罪はないんです!これに関しては神にだって誓えます!」


『………いいや。あるはずだ。私は全てを見通す者。貴様の起こした罪も既に知っている。』


 確かに恐怖ポーションという名の違法アイテムを使って軽い犯罪行為的な事はしたが、あれはそもそも事故というかそうせざるを得なかったというか…。あれを罪と言うのはちょっと違うくない?


「私の罪は事故みたいな物ですし…とりあえずこの空間にいるとなんだか寒気がするので解放して頂けませんか?」


『いい加減にしろ!私はこんなところでふざけている時間などない!こうなれば罪の自覚がないならこの場で分からせて――』


「あ!そうだ!その罪を聴く前に1つお願いがあります!あなたの姿を見せて貰えませんか?」


『――――分かった。貴様の罪を清算する前だし、吾輩の姿を見せてやろう。』


 そうしてロジェの目の前に謎の生命体は姿を見せた。どうやら怒って殴り込むような人ではなかったらしいので少し安心する。


 ――だが、相手の姿に問題があった。

 

 相手の見た目は完全にロジェであり、手には本物と同じようにしっかりと箒と警棒を握りしめられている。


「これは…私ですか?再現度が凄いけど一体どんな魔法を使ったんだろう…面白そうだから私もやってみたいわね。」


 相手から感じる気配も姿形も大きさも全て私なんだけどこの魔法を生み出した人誰なんだろ?見れば見るほど再現度高いから面白いし地面から出てくるのも凄いしで、普通に興味ある魔法だから私も使ってみたいな…


『貴様!自分の偽物を見てその態度とはふざけているのか!もういいッ!自らが犯した罪を直接受けよ!リトルメアの力を思い知るがいい!』


 そう言って目の前の偽物が指を鳴らした。何が起きてもいいようにロジェは即座に警棒を構えて周りを警戒する。











 ――しかし、いくら待っても何も起こらない。



「あれ?偽物さん今何かしましたか?」


 指を鳴らしたから何か攻撃してくるかもって警戒してたんだけど、あれはなんだったのかな…見掛け倒し?


『馬鹿な…そんなはずは。えいっ!えいっ!』


 何度も偽物が指を鳴らすがロジェには何も起こらなかった。初めての経験に偽物が混乱し始める。


『何故だ…今までこの術にかかった者は漏れなく全員が痛みを食らう手筈になっているのにどうして…虫でも動物でも生命体を1度でも殺した事があれば必ず痛みが走るはずなのに…』


「あのぉ…もしかしてこの広い空間で何かの見世物をしている方でしたか?感覚が鈍い私だけが気付けてないとかなら本当にごめんなさい。でも偽物の再現度とかは素晴らしいですし、ここで会えたのも何かの縁です。良ければ私にもぜひその魔法を教えて頂けませんか?」


『――黙れッ!初対面で自分の偽物を見た時の態度もそうだが、もしかして私を馬鹿にしているのか!いい加減にしやがれッ!』


 何故か怒られてしまった。見世物をしている人じゃないならこの人は一体何者なのよ…


 この世界でも『見世物』という文化は残っている。

 『マジックショー』と呼ばれる物であれば、滅びた文明にあったとされている『手品』という謎の技術を大衆の前で見せて魅了したりする事がそれに当たるし、魔法少女の衣装を着用した中年くらいの大人達が劇のような『ヒーローショー』を行うのも見世物の1つとして区分される。


『………貴様の事はこの空間に来た誰よりも嫌いだ。だからもう二度とここへは来るな。貴様がこの場から離れる事を望むのであれば今すぐ解放してやろう。』


「えぇ。望むところよ!私だってこんなに薄気味の悪い空間になんて居たくないもの。」


 いや私も来たくて来てるんわけじゃないし…。私だってこんな気味の悪い空間に来るのはお断りよ!というか私、初対面で相手に嫌われるような事は一度もしてないのになんでこんなに嫌われてんの?


 そうして偽物が両手で指を鳴らすとロジェの意識は失い、この空間から解放されるのだった。



  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 そして現在、謎の空間から開放されたロジェはシャドーは対立していた。互いに戦闘の構えを取り、いつでも合える体制を取っている。


「……貴様がどうやって吾輩の位置突き止めたのかとか、直撃させたはずのフォール・ナイトメアからどう解放されたのかだとか、聞きたいことは色々とあるが、貴様が今纏っているその気配といい、どうやら相当強い精神力を持っているようだな。吾輩でも少しは楽しめそうな相手だ。」


 いや普通に話してたらなんか解放されたんだけど…てかあのよく分からない空間に連れていったのはやっぱりこいつなのね。絶対に許さないんだから!


「私にあんな見掛け倒しの魔法なんて効かないわ!あの空間で起きた事よりも酷い出来事に何度も巻き込まれてきたもの。」


 一応この場に来る前にロジェはあーるん達に一時凌ぎの魔法、『無の頂(ノンムーン)』で苦しみを一時的に解放したが、それだって効果は永遠ではない。効果時間の間で彼らの精神が完全に壊れる前に相手が使った魔法を解除させなければならないのだ。


無の頂(ノンムーン)』とは、思考回路や精神状態を一定時間の間だけ『無』に変える代わりに、攻撃力や機動力といった自身の能力を最大まで強化出来る魔法である。

 デメリットとしては、『無』になった事で本人に行動する意思や思考回路が完全に無くなっている関係上、何も行動を起こさない生きた屍状態になる事である。


 この魔法を作った人は何がしたかったのか未だによく分からない。


「ほう。貴様は意外と面白い事言うな。たが1人では吾輩には勝てんぞ。貴様のお友達とやらがこの場にいれば勝てる可能性も上がるだろうが、彼女がこの場にいないのがとても残念でならん。あーとて――」


 その言葉に有無を言わせずロジェが、先程飛ばした擬音文字をシャドーにぶつけようと文字を高速で動かす。案の定避けられるがそんな事くらい想定済みである。


「この場所に来られないようにしたのはあなたでしょ!自分でやっておいて人を馬鹿にするような言い方をする人は絶対許さないから。」


「はて、なんのことやら。それより1つ提案がある。吾輩をこの場から見逃さないか?」


「そんな要望なんて呑むわけないでしょッ!」


 そう言ってロジェは指に着けている黒いダイヤの指輪を起動させ、美しく燃える氷の舞がシャドーに襲いかかる。

 これは、この前の双龍の砦でリンが使っていた氷炎舞(コールドフレア)を脳内に想像し、魔道具の力で再現した物である。


 ロジェとて、戦場に出る以上何も用意せずに突撃しに来た訳では無いのだ。

 呪いが発動するかもしれないのは怖いが、友達の為ならば自分の命なんて幾らでも犠牲にする覚悟はある。


 ロジェの持ってきたとある秘策がバレて全く通用しなくなれば自身に強化魔法をかけて、全力で相手に殴りかかったりして捕縛するつもりでいる。動きは完璧に初心者だけど強化魔法をかければある程度は戦えるはずだ。


「チッ。厄介な魔法を発動しやがる…。にしてもこんな魔法は見たことがないな。」


 相手は常に冷静だった。シャドーの周りを美しく舞っている燃える氷の数を即座に数え、襲いかかってくる氷の嵐に大きな岩を混ぜ込んだ巨大な砂嵐を発生させて無効化しているのだ。どうやら相手は土魔法の使い手でかなり高い戦闘技術を持っているようなので、やはり一筋縄ではいかない相手らしい。


「貴様の使える魔法はこの程度か?魔法の見た目も美しく吾輩の感性に激しく刺さる攻撃をしているが、この程度の術で吾輩を捕らえられると思うな。吾輩の封印が解け、真の覚醒をすればこんな技は屁ですらない!」


「これだけで終わりだなんて、思わないでよね!」


 そう言ってロジェは今自分の手に持っている警棒を魔法の杖代わりにし、シャドーに向かって魔法を唱えた。


高磁石(ハイロムーブ)!」


 それを使った瞬間、空中に舞っている燃える氷や岩が全てシャドーの元へと引き寄せられる。突然の出来事にシャドーも流石に対応出来ずに大量の無機物に激突する。


 そしてシャドーに大ダメージが入り、大きな隙が生まれ―――



闇の呪石(ナイトストーン)・S』


 シャドーは魔法を発動させると、彼を覆っていた岩や氷がまるで磁石同士が離れていくかのような動作をしながらその場から離れていき、離れた岩や氷が爆発して消滅した。


「面白い…面白いぞ!まさか吾輩の作った土魔法すらも利用するとはやるではないか!流石帝都からやってきた実力者だな!」


「褒めてもらえるのは嬉しいけど、私はその実力者なんかじゃないわ!帝都から派遣される実力者がこの街に来るのはこれからよ!」


 そう言ってロジェは100本以上の大量の氷柱を魔道具で自分の周りに生み出しながら『スイスール』という魔法を警棒に使って、威力を更に高める。

 この魔法の元ネタはヘンリックと名乗る男が使っていた氷魔法の再現である。


 スイスールとは...魔法を発動させた時に1箇所に全ての魔法を集結させて吸収し、魔法の威力を最大100倍にして大きな一撃を放つ魔法である。

 デメリットは、集められる魔法の属性は1つだけな事と、10秒以内に新しく魔法を吸収しなければその場で大爆発を起こす事である。


「それと先程から気になっていたのだが、なぜ貴様は先程から分身にだけ魔法攻撃をさせているのだ。もしかしてなにか理由があるのではないか?」


 どうやらロジェの秘策は相手にバレていたようだ。


 ロジェには攻撃ができない呪いがあるが、実はこの呪いには明確な抜け穴がある。


 この呪いは、ロジェが自身の魔法や手で『直接』ダメージを与えるような攻撃行為をすれば発動するのだが、魔物や分身が勝手に暴れてダメージを与える分は呪いの対象ではない。呪いが発動したとしても、ペナルティは行動を起こした分身のみが受けるのである。


 ロジェは上手く認識阻害フードを使って姿を隠しながら、口の動きや声を本物と同期させる『エコトーン』という魔法を使った分身のみをシャドーの前に姿を現して攻撃させていたのだ。どうやら相手の観察力が異常すぎて最初からバレていたので意味はなかったが。


「一体なんの事か、私には全く分からないわね!」


 そして威力の上がった1つの巨大な氷柱をシャドーに向かって飛ばしたのであった。


漆黒の深淵(ナイト・アビス)


 シャドーも負けずとまるで小さな霊体のような黒い玉をいくつも召喚し、巨大な土型の蔓の網目を大きな塊となった黒い玉に絡ませて、同じ物をいくつも召喚して氷柱に対抗する。互いの技と技がぶつかりあったことで、サウジストの遥か上空では魔法の衝突による大爆発が発生したのであった。

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