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第二章 15 『本物と偽物』

 私は今、自分でもよく分からない盤面に直面している。先程出会ったオノマトペガチ恋おじさんも中々に意味不明だが、彼がくしゃみをした瞬間『はっくしょん!』と書かれた擬音語が現実に実体化されて高速で飛んで行ったのだ。自分でも言ってて意味がわからない。


「え?これって止めなくていいんですか?人に当たったりなんてしたら大惨事なのでは?」


「きょろきょろ。いえいえ。別に問題ありませんよ。ピタッ。私の擬音文字はかなり頑丈ですけど、こくこく。人に被弾しないように出来ていますので、」


 その謎の安全性能っている?擬音語を実体化できるのもそうだけどこのおじモンってみんなこんな感じで変なのこと極めてるのかしら?


 ―――――やばい。私も残りの150人いるおじモンが少し気になってきちゃった。


「安全なら良かったです。あんな危険な物が人に当たらない工夫が出来るなんておじモン?と呼ばれる方々は素晴らしいと思います!それでは私達はこの辺で…」


 すると不思議そうな顔をしながら、目の前の不審者は言った。


「はてな。確かに人に当たらないといいましたが、安全機能にも限界がありますよ?運が悪い人には直撃する事なんてザラにあります。ニコニコ。そのせいで定期的に警備の方にお世話になってますよ!」



 ――やっぱりこのおじさん達って危険人物じゃないの?




△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




 そして現在、その擬音文字とやらを止めに行くためにロジェはすぐさま箒を使って、文字が飛んだ方角まで飛んできたのだ。その文字を追いかけ続けた結果、アルロさんの屋敷に到着した。


 到着するや否や屋敷の目の前で誰かが倒れているのを発見したので、その人を助けようとするが相手はまさかの知り合いだった。しかもその顔があーるんと共にこちらへ来ているはずのセージと同じなのだから尚のこと驚きが隠せない。そして暫くするともう1人の知った同じ顔に出会う。


 先程のオノマトペガチ恋おじさんも意味不明な事に直面してしまった事ランキングのTOP30くらいにはランクインするが、これまで生きてきた400年近くの私の年月を全て考慮したとしても目の前の出来事は、TOP20には間違いなくランクインするだろう。




 なんで同じ顔に同じ気配をしたお兄さんが3人もこの屋敷にいるの…?


 少し遅れてあーるんとセージもこの屋敷に到着するが、2人とも空いた口が塞がらなかった。恐らく今の状況を飲み込めていないのだろう。

 変装している奴らに分かりやすいミスがあれば話は違ったのだが、彼らから感じる気配や見た目は完璧に隠されていて見分けが付かなかった。1番困るパターンである。


 すると、アルロさんの近くにいたセージ(仮)が口を開いた。


「まさか自分の偽物が2人もいるなんて…偽者たちは私に化けて一体何するつもりだったんだ!今のうちに自首することを進めますよ。」


 それに負けずと私達の後ろにいるセージ(仮)が口を開く。


「おいおいおい。ちょっと待ちなよ偽物さん。偽物は君達2人じゃないか。僕にはここにいる嬢ちゃん達と居たってアリバイがあるし、そもそもさっきまで僕は外に居たんだ。明らかに怪しいのは君たちの方じゃないか。何するつもりだったのかは分からないけど、まさか僕に化けて犯罪紛いのことをするなんて許せない。僕のこれまで積み重ねてきた素晴らしい経歴に傷をつけるのはやめてもらいたいね!」


 ――いや?このセージさんも充分怪しいですよ。もしかしたら敵がアリバイを作るためにわざわざ接触してきた可能性もあるんですから…。


 それを聞いた擬音文字にぶつかったセージ(仮)が喋る。


「おいおい冗談じゃねえよ!本物は俺だ!さっき警報が鳴ったから外に繋がる出口の警備をしてた俺が怪しまれるだなんてたまったもんじゃねぇよ!こっちは依頼でこの国に来てんのにふざけんじゃねえ!」


 セージがセージとセージに話しかけて口論になるという自分でも言ってて意味不明な状況が出来上がってしまった。

 …てかこの屋敷に侵入するにしても、ここまで綺麗に変装先が被るなんて言う馬鹿な話ってあるの?もし同じ組織なら連携取れて無さすぎでしょ。


 このままではロジェ自身も混乱してしまいそうなので、『私達の元にいる個体をA』、『アルロさんの近くにいる個体をB』、『怪我している個体をC』と呼ぶことにした。


 するとアルロさんが口を開く。


「まさかセージ様がここに3人も同時に現れるって事は…時期的にもここに『影』か混ざっていると見てもいいのか…?」


 それを聞き、Bが賛同する。


「えぇ。私もアルロ卿と同じ考えです。恐らくはここにいる3人のうちの2人は影の鼓動でしょう。ここには『導きの祝儀』が持ち込まれているとの話もありましたし、それを聞きつけた影の人間がこの場にやってきた可能性が高いです。アルロさん、我々だけで早急に何とかしましょう!私は剣を構えるのでアルロ卿は後ろから合わせてください!」


「おいおい馬鹿かてめぇは!こんな所でドンパチしたら偽物が捕まったとしても、その後アルロ様の屋敷の弁償代はどうする?下手したら本物の俺が処刑されちまうじゃねえか!もっと冷静になってから物事を言えよこの偽物風情が!」


 どうやらBは正義感が強いタイプで、Cは冷静な思考回路を持つ個体らしい。ロジェは脳内に特徴をメモしていく。…あとさっきBが言ってた導きの祝儀って何?


「……確かにそれもそうですね。偽物の意見に乗るのは癪ですが、確かにこの屋敷は帝都管轄の街で尚且つアルロさんの私有地だ。こんな場所で暴れたら僕の手持ちだけでは弁償出来ませんし、余裕で破産してしまう。僕はこの件で今の安定した職を失いたくないし、自分のお金を無くす事だけは絶対避けたいのでやめるべきだ。」


「てめぇ!自分の金の事しか考えてねえのかよ!もっと周りの命とか考えろ!影の構成員がここにいるんだったら、ここで暴れれば屋敷どころか中にいる人全員消えるだろうが!」


 私もそう思います…。お金だけじゃなくて周りの事も考えてあげてください。


 とりあえずAは、自分の金の事を優先して考えているらしい。……もうこれAが本物なのでは?お兄さんとの付き合いが長いから分かるけど、あの人は如何なる時でもお金の事を考えて行動してるし、1番本物っぽいんだけど...


 そんな事を考えていると、小声であーるんが話しかけてきた。


「ねーねー。ロジェちゃん。今後ろにいるセージちゃん以外全員殺っても良いかな?確かに全員気配とか血の匂いとか気持ち悪いくらいまで同じなんだけど、喋り方とか全然違うし、あのセージちゃんが金の事を言わないのってなんか気持ち悪いんだよね。殺ってもいい?」


 どうやら彼女も私と同じ結論に至っていたらしい。会う度にセージとじゃれあってる彼女が言うんだから間違いないだろう。だが最悪の事態を考えなければならないので、ロジェはこう言った。


「……言いたいことは分かるわ。それに関しては私も同じ意見だけど、完全に息の根止めるのはダメよ?この1番怪しくないと思ってるお兄さんも偽物って可能性を考えてまだ泳がせる必要があるわ。私にいい考えがあるから任せて。」


「うん。分かった。ロジェちゃんが許可出すまで僕黙ってるね。」


 何とか見切り発車は踏みとどまってくれたらしい。今はそれだけでもかなり有難かった。とりあえず目の前で繰り広げられているセージ論争がいつまで経っても終わらないので、ロジェは両手を合わせて音を出し、注目を集めたところでこう言った。


「3人のお兄さん、全員そこで言い合いするのはやめてください!私に良い考えがあるのでそれを行って本物なのか見極めます。もし嫌なら逃げても構いませんがその場合は偽物判定しますし、あなた達が本物って言い張るならもちろん……協力して貰えますよね?」


 それはまるで挑発のような言い方だったが、偽物が楯突けばすぐさま嘘がバレるのでこの場で襲ってくる心配は無いだろう。全員が頷いて話を聞いてくるので続ける。


「今から皆さんには、外で私の自慢のお友達といつものように軽い模擬戦をして頂きます!本物ならよく知ってるいつものあれです!分かってると思いますが、もちろん命までは取らないので安心してくださいね。もし嫌というなら逃げても構いませんが……どうしますか?」


 その言葉を聞いても3人は拒否すること無くその場で全員受け入れた。どうやら全員本物の自信があるようだ。受け入れた3人を屋敷の外にある開けたスペースに移動させていると、その話を聞いて不審に思ったあーるんが小声で話しかけてくる。


「ねーねー。ロジェちゃん。模擬戦やってもいいの?まだ泳がせるんじゃなかった?」


 質問とかで本物か判断してもいいが、犯罪組織の人間だった場合、私達の事まで調べられている可能性がある。

 その為、普段からじゃれあってるのを逆に利用して模擬戦をすれば本物か分かるだろうと言う安易な考えだった。


「やっていいわよ。あなた達はいつもじゃれあってるし、実際に戦って貰って見極めるのが1番早いんだから。あと、命を取るのだけは禁止だからね?それだけは絶対守ってよ?」


 その言葉を聞き、あーるんが目を輝かせて私の顔を見てくる。


「………!!うん!分かった!絶対命取らないって約束するから本気で攻撃してくるね!依頼の前に準備体操する機会までくれるなんてロジェちゃん優しすぎー!」


 彼女は心の底から嬉しそうにあーるんが私に抱きついてくる。…本気出してもいいけど、絶対殺したりしないでね?


「よしそうと決まればぁ、早速始めちゃおっか!まぁ…雑魚が何十匹、何百匹と群がろうとぉ、僕に勝てるわけないんだけどなぁ"!」


 そう言ってあーるんが即座に地面を蹴って3人との間合いを詰める。元々距離はそこそこあったはずなのに、1秒も掛からず相手の目の前に移動していた。相変わらず何度見ても理解不能な速さである。


 そして目に止まらぬ速さで相手の首元に蹴りを放った。首元を狙うのは普段から2人がじゃれあいでやってるぶつかり稽古の1つでもある。…受け身ミスしたら普通に死ぬんだけど、君達ホントなにしてんの?


 そして結果は、Aは当たり前のように蹴りを受け止め、Bは突然の出来事に少し反応が遅れるが、ダメージを受けることなく上手く腕を使って蹴りを受け止めた。


 そしてCは、脆に蹴りが首に直撃し、凄い勢いで近くにあった木をいくつも貫通して屋敷の門近くの壁に直撃した。飛んで行ったCは何が起こったのかも分からずその場で軽く意識を失っている。


 その光景を見て明らかにあーるんが舌打ちをし、誰が見ても分かるくらい不機嫌になった。

 彼女自身の見た目が大きく変化する。目が水色から赤色へと変化し、赤色の美しい羽が姿を見せ、自身の八重歯が少し長くなる。その姿はまるで吸血鬼を思わせるのような風貌になった。認識阻害をつけていなければ絶対に吸血鬼だとバレているレベルである。


「はぁ…。まだ『じょぶ』だよ?ぼくにとっては、こんなのまだあいさつ程どの『じょぶ』とおなじなんだよ?なのにさぁ…このてい度のぉ、よわい攻げきすらもぉ、止められないだなんてぇ…」


 あっ…これはまずいやつだ。目の色も変わってるし、結構やばいかも。



「『変装する相手へのリスペクト』ってものがぁ"…!足りてねぇんじゃぁないかなぁッ"!」


 そう言ってあーるんが意識のないCに向かって生命力付与を行い、無理やり回復させてドスの効いた声で怒り始めた。


「おいッ"!変装するんだったらもっと強くなってからやれよ"!本物はそこそこつえーのにてめぇがこんな雑魚なら変装元のセージちゃんが可哀想だろうがッ"!無駄に高いレベルの擬態なんてしやがって"!…この―――恥さらしがッ"!やるなら!もっと"!強くなってから!出直してこい"!!!」


 恐らく確定で偽物のCが理不尽な理由であーるんに説教をされながら殴られ続けている。死にかければ復活させるので死にたくても死ねない生き地獄の始まりである。


 あー。何が逆鱗に触れたのかわからないけど、これ完全に何とかかんとかの人格が目覚めちゃったやつだ。3人とも生きて帰れるかな……本物ならともかく偽物は確実に死にそう。


「おいッ”!そこでぼーっと見てる雑魚2匹も同じだぞ”!てめぇらもやる気ねえなら今すッ”ぐに帰りやがれッ”!」


 意識を失ったCに興味を失ったのか、怒りの矛先が残りのAとBに向いてしまった。すぐさま彼女が飛んでいき、本格的な戦闘が始まる。どうやらこの暴走列車は止まる事を知らないようだ。


 とりあえずロジェは即座に箒を取り出し、何が起こるかわからない暴走列車から無害な人を守るために、アルロから順番にこの場から逃がすことにした。


「アルロさん!ここはすぐにでも地獄を彷彿とさせる危険な場所になるので今すぐ避難します!私の箒に乗ってください!ここから離れましょう!」


「え?いやでも私の屋敷にいる者達が――」


「それは大丈夫です!何が起きても私が全員何とかするので先にアルロさんだけでも!」


「....わ、分かりました。そこまで言うのであればお願いします。」


 そう言ってロジェ達は空へと浮かび上がり屋敷から離れた位置に向かって空に飛んで行った。


 とりあえずロジェは建物の被害を抑えるために鞄から『ケッカイくん』を取り出してすぐさま起動させる。


 ケッカイくんとは、グレイが市販の魔道具を魔改造して生み出したオリジナルの魔道具である。

 効果は、発動した近くにある建物全てに結界を発動させることである。


 これを作る事になった発端は、あーるんの破壊の悪魔(デビル・アライズ)が出てきた時に何でも壊してしまうので、それを対策するためにグレイがわざわざ何日も徹夜して生み出したのだ。いつ暴走するのかわからない彼女の為にロジェとグレイは常にこの魔道具を持ち歩いている。

 ちなみにこの魔道具で貼れる結界は、原理は分からないけどあーるんの攻撃以外何も守ってくれないので、実質彼女専用の魔道具になっているのだった。


 屋敷から少し離れた場所まで移動した所でアルロさんが質問してきた。


「あ、あのロジェ様。彼女のあれは一体…?」


「あー、あれは大丈夫です。いつもの発作みたいな物なので時間経過で戻りますし、恐らく彼ら3人が彼女の逆鱗に触れてしまったのでしょう。彼女も明らかに手加減出来てましたし、死にかけてても最悪私が治癒魔法かけるので安心してください。」


「そ、そうだったのです…。くれぐれもやりすぎないようにだけ後で言っておいてくださいね。」


「あ、あはははははは…。」


 言ってて思ったけど、これ安心するのって無理じゃない!?私みたいに見慣れてるなら何とかなるけど、初めて見た人なんてあーるんがやばい奴にしか見えないのでは?――いや確かにあの人格はやばい子ではあるんだけど!!!


 とりあえずアルロさんを無事に避難させて屋敷に戻ると、戦場は決着していた。

 どうやらAとBが何とか生き残り、Cは何とか生き延びているけど、戦意を完全に失ってその場から動けなくなったらしい。…本当に彼女は手加減していたのだろうか?


 ――――てか結局何も問題が解決してないし、ただ騒ぎを大きくしただけでは?もうやだ…現実逃避したい。


『ロジェちゃん今すぐそこから離れて!!!やばいのがくる!』


 そんな事を考えていたら、突然あーるんが叫んできたので箒を大きく旋回させてアルロさんを避難させた方向へと飛ぶ。きっと現場では大声で叫ぶ程のやばい事が起きているのだ。私がそれを信じない訳にもいかない。


「何が起きてるかわかんないけど…あと少しで屋敷は見えなくなるわ!あの子が逃げろって言って私に託してきたんだから、事情を知る前に私だけでもまずはちゃんと助からないと。」


 完全に屋敷が見えなくなるまでどんどん距離が短くなる。

 すると突然ロジェの目の前に黒い『何か』が現れてその場で強く光りだし、まるで爆発のような感覚を感じた。そしてその直後に正体不明の強力な『何か』にロジェの体が囚われ、そのまま目の前が真っ暗になった。

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