第一章 04 『おつかい③』
結局あの後の価格交渉は、私が黒蛇以外にもあった嘘を全て指摘すると彼は嘘をついたお詫びとしてあーるんが査定した額で買い取ってくれた。
「いやぁ。行けると思ったんだがまさかあの姉ちゃんにここまで対策されてるとは思わなかったよ。」
「だから先に仕掛けても意味無いって教えてあげたのになんでこうも諦めが悪いんですか…。彼女は魔物に詳しいし、常に相場については確認してるんですから、私達から買取額を少しすり抜こうとするのは時間の無駄だと思いますよ?」
ちなみに今回の買取額はあーるんが言っていた4700万よりも少し多い5000万タールで買い取ってもらった。差額の300万は個人資金である。
彼女なら絶対そんなことはしないが、私は違う。元々お金はそれなりに持ってきているが、大都市で有名な帝都を観光するのだ。いくらあっても不安なのである。
まぁ普段から彼も他の冒険者相手でも同じような事をしているのでお互い様だ。たまには仕返ししても罰は当たらないだろう。
「僕は基本どんな事よりも利益を優先する男だからね!そもそも知識のない者から搾り取らないとあんなとこで買取なんてやって行けなくなるから仕方の無いことだよ。世の中は弱肉強食なのさ!」
弱肉強食だなんて言われたら言い換えそうにも言い返せなくなるじゃない…。というか、お兄さんはこの帝都でトップクラスの査定の腕があるんだから早くまともな後輩を育てて欲しいんだけど。
セージは、若くして冒険者ギルドの中で最も知識と経験を持った査定のプロだ。元々は凄腕の冒険者だったらしい。
ちなみに私達が持ち込むような魔物は基本高ランクな魔物な関係上、他の職員では知識や経験が足りない言う理由で門前払いされてしまうので、仕方なくこのお兄さんに買取をお願いしているのだ。それを良いことに毎度毎度私達から、買取額を誤魔化すのはどうかと思うけど…
そんな事を考えていると、龍から貰ったペンダントのことを思い出した。あれが危険な代物であれば早く処分しなければならないし、鑑定士に聞けば何かしらは分かるだろう。 別に自分でそれっぽい身代わりを召喚して起動させても良いが、問題を起こして帝都出禁などになったら話にならない。
「そういえばお兄さん。帝都で魔道具に詳しい鑑定士さんのこと知りませんか?ちょっと鑑定したい物があるんですけど。」
「そりゃもちろん知ってるよ?けど君達が魔道具の鑑定なんて珍しいね。村でなにか見つけたのかい?」
そう言われたので、私はペンダントを見せた。新しい玩具を貰った子供のように目を輝かせて彼がペンダントを観察しながら言った。
「ほう…。こんな魔道具は僕でも見たことがないな。真ん中に付いてある大きな鉱石も中々見ない物だしきっと凄い能力があると思うよ。」
やはり珍しい物らしい。それならば1度鑑定に出した方が良さそうだ。
「ならとっておきのお店を紹介してあげよう。とりあえず紹介料として1000タールほど欲し――」
私は彼の言葉に重ねるように言った。
「お兄さん。ギルドの規約に違反してますよ?私は払う意味が無いのでお金は絶対払いませんからね。」
ギルドの職員が道案内や書類の再発行などでお金を取るのはルール違反とされている。ルール関係なくお金を徴収してくるので、やはりこの男は油断出来ない…
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
青年に教えてもらった魔導具店はまるで廃墟のような古びた建物だった。
見た目だけでは、人が住んでいるのかすら分からないが、どうやらこのお店は帝都てもトップクラスの鑑定士であり、知る人が知るお店らしい。営業中の看板があったので、ドアを開けて店の中に入ることにした。
すると視界に入ってきた景色は、黒を基調とした内装にズレひとつなく並べられた大量の魔道具と本がぎっしりと詰まっている本棚が壁際に並べられていた。
「こんなにも沢山の魔道具や本棚…長いこと生きてきたけどここまでの取り扱ってるお店は見たことないかも。」
店の雰囲気に圧倒されていると、奥から店主と思われる強面の白髪の老人が出てきた。
「よく来たな!鑑定屋ウインドブレッドにようこそ!お前さんは見ない顔だが、うちになんか用か?」
「は、はい!ははは、初めまして。私はロジェと申します。帝都に観光に来る途中で魔道具らしき物を拾ったので危険がないか1度見てもらいたくてやってきたんです。お願いしてもいいですか?」
強面の顔に想像以上に低い声で話しかけられて思わず萎縮してしまう。
「ほう…。お前さんの身から溢れてる魔力量が周りと比べて高すぎる。長い事この店をやってるから分かるが、そこら辺の冒険者を圧倒的に超えておるくらいには魔力が高い。だからてっきり他の国から来た魔導師かと思ったが違うのか。」
私の魔力量は確かに高い。生まれつき高かったのもあるが、変わった魔法で遊んでいたらいつの間にか村でも一番の魔力量に成長していた。
まだ店主さんと会って大した時間が経っていないのだがその事実を見抜けるあたり、本当に見る目があるようだ。
とりあえず私はペンダントを店主さんに渡した。
「珍しいな。アクセサリー型の魔導具はそう簡単に見つかるものじゃないぞ。おまえさん、こんなもの何処で拾ってきたんだ?」
それはドラゴン達がどこかのダンジョンから拾ってきた物なので分からないんです!てかアクセサリー型の魔導具が珍しいなんて知らなかったんだけどおおおおおおおおお?!
心の中でそう叫びながら、必死に彼らとの会話を思い出す。
話をちゃんと聞いていなかったので何も思い出せない…
そもそもあの時、私はずっと自分が使った魔法が失敗していないか心配していてそれどころじゃなかったのよ!話を聞いていないに等しいのにそんな事を思い出せるわけがないでしょうが!もう!もう!もおおおおおお!
感情を表に出していないので、焦っているようには見えていないはずなのだが、あまりにも私の顔色が悪く、異常な量の冷や汗をかいていた事に気付いた店主さんが心配しながら言ってきた。
「お前さん…なんだか顔色がめちゃくちゃ悪いけどなんかあったか? もしかしてだが、帝都にやってくる道中でなんかやべぇ魔物でも倒して手に入れたから軽いトラウマになってんじゃねえだろうな。」
なんだか凄い方向に話が転がってしまった。だがこれはチャンスだ!
正直に龍を治療しただなんて帝都の人間にバレたら何か言われるかもしれないが、上手く嘘を言えばそんな情報をばらさずに済むし、そもそも風龍が持っていた魔道具を譲り受けたのだ!これはある意味ドロップ品だし、別に嘘は言ってない!上手く行けば魔道具を拾った経緯も話さなくても良くなる。
それらの理由から私は全力で乗っかることにした。
「はい…。ここに来る途中、とても強い魔物の群れに遭遇しまして。帝都の近くだし強い魔物は居ないと油断して魔物の相手をしていた私も悪いですが、かなりの強敵で思い出すだけでも辛いです…。なんとか群れを撃退し、その時のボス的な魔物が持っていた物がそのペンダントになります。」
「おいおいまじか…あんた程の魔力を持つ実力者がいるってのにそれですら苦戦するような相手だなんて相当強いんだな。外に出ないうちに帝都も恐ろしいとこになったもんだ。ちなみにどんな魔物が相手だったんだ?場合によっては騎士団に連絡せねばならん。軽くでいいから教えてくれないか?」
まずい…!魔物の事まで考えていなかった。そりゃそうだ!そんな危険なモンスターがいるならば、帝都は全力で対策をしなければならないのだ!場合によっては騎士団や冒険者が大量に派遣されるだろう。
「そうですね…。あの時かなり苦戦したので、あまり思い出したくないですが、確かミノタウロスの群れでした。」
「ミノタウロス?あれは中級の魔物だろ?おまえさん程の実力者が苦戦するとは思えないんだが何があったんだ?」
ミノタウロスとは、そこそこ経験を積んだ冒険者が力試しに戦う人と馬を組み合わせたようなモンスターだ。一撃が強く、馬並みの速度と視野で移動する彼らに見つかると、ミノタウロスからは逃げることは不可能とされている。
そもそもこんな魔物は帝都の近くになんて現れないんだけどね…
「私も最初はそう思っていました。ですが彼らは普通の個体では無いと思われます。普段の個体からは考えられない程の魔法耐性と攻撃力を持っていました。それに中には通常の個体とは異なる者もいくらか混ざっており何者かが裏で手を加えているのかもしれません。」
「…。俺は元々冒険者だったんだが、今はそんな魔物が普通に現れるってのか!?冗談じゃねえぜ。ちなみにその変わった個体って一体どんな奴らだったんだ?」
「確か…少数ですけどワイバーンや毒蛇のような物と合体している変異種が居ました。彼らは通常の個体よりも機動力が高かったり、襲ってきた冒険者達を毒などの異常状態にする事も可能なので、誰かが手を加えているとなれば、この件を放置するとかなり危険だと思います。」
適当なことを言い過ぎてどんどん不味いことになっている気がする。
というかこんな話信じないでよ!!!店主さんも元冒険者ならどこからどう考えても嘘なのが分かるでしょ!!!ミノタウロスなんてこの辺にいるわけないじゃん!
なんで信じてるんですかもう!!!
「…。なるほどな。やっぱり帝都でなにか起きてるかもしれないな。最近まで信じてなかったあの話も本当なのかもしれん。」
「あの話?この帝都で何かあったんですか?」
「いやな。この前鑑定に来た馬鹿共が言ってたんだ。帝都の近くでレッドオークと合体している人間が歩いてたって。その時はそんな訳ないって笑い飛ばしてたんだが、最近日が増す事にそういった話をよく聞くようになったんだ。たまたまやってきた観光客のお前さんまでそんな事を言うならば、相当な数が街の近くをうろついているのかもしれん。後で俺から騎士団に連絡しておこう。」
…え?本当にそんなのいるの?ワイバーンだとか黒蛇ってのは近くに置いてあった魔道具の素材とか本のタイトルになってたのを見て私が適当言っただけなんだけど???
その時、誰1人ロジェの髪がうっすらと光っていた事に気付くことはなかった…
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とある男は驚いていた。たまたま入った店で魔道具を見ていたのだが、とんでもない会話が聞こえてきた。
なぜか、我々が長年秘密裏に研究している魔物の改造実験がバレている。
確かに手懐けが出来なかった精神の強い個体や、上手く体を動かせないなどが理由で失敗作とされていた個体が最近外に逃げ出すことがあったが、それらは全て後から処分している。
仮にバレたとしても「そんな魔物は有り得ない」で流されるということで目撃者などを消したりせずに放置していたのだが、今そこは問題ではない。
なぜこのクエスチョンマークのようなアホ毛を持つ黒髪の女は、我々が現在秘密裏に研究している「毒蛇」と「小型龍」の事を知っているのだろうか?
そもそも魔物を使用し改造するなど完全に法に違反している犯罪行為だ。この実験の存在を知っているのは同じ研究チーム、もしくは裏社会の相当な権力を持った人間のみである。
謎の男は裏社会の人間にかなり詳しいが、少なくとも彼女は裏社会の人間ではないだろう。聞いたことすらもなかった。
つまりあの女はどこかから情報を手に入れ、何かを企んでいるということになる。
このまま放置すればいずれ我々【ネオリス】の大きな敵になるだろう。まだ簡単に刈り取りうちに危険因子は排除しなけ--
『あのすみません。さっきから私の事ずっと見てますけど何か御用ですか?何かあるなら話を聞きますが――』
「!? き、貴様などに用はないわ!」
突然危険因子の女が不思議そうな顔をしながらヘンリックに話しかけてくる。突拍子のない出来事に驚きを隠せない。そのまま謎の男ことヘンリックは逃げるようにして店の外へと出る。
そして外へ出たと同時に、研究室にいる仲間達に連絡して、先程話しかけてきた危険因子の女を取り除く為の計画を練るのであった。
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「うーーん。このペンダント本当にどうしようかな…。」
1時間ほどお店にいたが、大きな事は分からなかった。身代わりの召喚許可を貰ったので、それを犠牲に1度宝具を起動させてみたが何も起こらなかったし、色んな資料を見てもこのペンダントに近い性質を持った魔道具はなかった。
魔道具とは基本的に滅びた文明の再現だ。滅びる前の文明は電気と呼ばれるエネルギーを使って物を温めたり、薄い板を使って遠くの者と会話をしていたらしい。
そういった文化は現在魔法などで代用されているので、一般市民などは魔道具を使う事はないが、過去の文明を調べたり、使用することで自身を強化される物が一定数存在するので、冒険者や研究者の間ではメジャーな道具として取り扱われている。
恐らくこのペンダントも滅びた文明で使われていた何かだと思っていたが何も分からなかった。ここで分からないなら他の所でも分からないだろう。完全にお手上げである。
一応わかったこともあったのだが、このペンダントに使われている鉱石には特殊な術式がかかっていて、特定の条件を満たせば効果を発揮する魔道具らしい。ロジェは元々特殊な術式がある事に気付いていたので大した収穫にはならなかった。
この魔道具は危険なのかそうじゃないのかすくに判断出来ない非常に困った魔道具であった。
「まあいいや。わかんない事をずっと考えててもわかんないし、やばそうなら最悪燃しちゃえば全部解決するよね。そんなことより観光だ観光ー!」
自分の中でそんな結論を出した時、ふと警告が聞こえてきた。
『緊急!緊急!ドラゴン襲来につき、市民の皆様は直ちに南門から避難をしてください!騎士団及び冒険者各位は至急北門へ集合し、ドラゴンへの討伐にご協力ください!』
変異種ミノタウロス(仮)の出現といい、突然のドラゴンの襲撃と言い、帝都の治安どうなってるの?少なくとも前来た時はここまで治安悪くなかったはずなんだけど…。
とりあえず私は、ギルドを出る前に貰っていた地図を見ながら北門へと向かう事にした。あの時助けた風龍達が暴れていたら大問題だし、1度確認しておかなくては。
小説活動自体初心者なので、誤字脱字などあれば気軽に指摘してください。
感想など頂けると嬉しいです。
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