第二章 13 『呼出』
日も落ち始めた夕暮れ時。ロジェ達は自分達を呼びに来たセージと合流し、アルロさんの屋敷向かっていた。本来ならばもっと早く屋敷に向かうつもりだったのだが、あーるんが仮面の2人の意識を飛ばしてしまったので治療していたらここまで遅くなってしまったのである。
「ねぇあーるん。なんであの人達の意識を飛ばしちゃうの?彼らはまだ何も悪いことしてないじゃない。あの時あなたの顔を見たのはそういう意味じゃないのにッ!」
「いやだってさぁ、どう見てもあいつらの見た目が怪しいじゃん。それに出来るのか無理なのかどっちかわかんない中途半端な解答されても困るし、鉄は熱いうちに打てって言うでしょ?」
あの状態だとまだ鉄は暖まってすらいないと思うんだけど…。
「大体、あんな痛々しい仮面を被ってるような奴らが影の鼓動の壊滅なんて出来るわけないでしょ?あれは規模のデカい盗賊団だし、そもそも奴らは隠密性能が無駄に高い厄介な組織なんだから見つかんないし。」
「別に私も組織の壊滅まで出来るだなんて思ってないわよ。でも私は現場で戦えないし、少しでも頭数を減らせるなら良いかなって――」
「甘い!ロジェちゃんは考え方が甘いの!そういう真っ直ぐで心配性な所はロジェちゃんの可愛い魅力の一つだけど、あんな危険な魔物を取り扱う組織なんて絶対まともじゃないんだから。まともじゃない人間相手に何もしなかったら相手が調子乗ってこっちの言う事聞かなくなるかもしれないし、あれぐらいやって怯えさせておかないと危険だってぇ!それに、もし仮に彼らが影の一員だったらどうするのさ。」
あの変な仮面を被った人達が影の鼓動の一員?いやいやいや…そんな馬鹿な話があるわけないじゃん。あんなふざけた仮面を被った人達が各地を騒がせる盗賊団とは思えないし、出来る物なら目の前でやってほしいくらいよ。
「大丈夫よ。彼らには首輪があるし敵だとしても絶対裏切ってこないわ。それに、もし本当にあの人達がその影?だったとしても、私達に味方するなんて事は相当な間抜けじゃない限りしてこないはずだもん。だから影じゃないって事だけは言い切れるし、それに何かあったらあーるんが守ってくれるじゃない。」
「――もう!ロジェちゃんのバカっ。そんな事言われたら僕は何も言い返せなくなっちゃうじゃん…ロジェちゃんはいつも何か考えて動いてるのは分かるけど、いつまた影が襲ってくるかわかんないんだし前に出るのは程々にしてね?ロジェちゃんは特殊な体質だし僕はずっと心配してるんだから!」
私はいつも何も考えてないけど、もしかして策略家か何かだと思われてる?今考えてることなんて、どうやったらこの依頼で人と絡まずに乗り越えられるかくらいだよぉ…。
「大丈夫!今度こそ私は騙されたりなんてしないわ!」
そんなこんなで話していると、式場まで呼びに来ていたセージが話に入ってくる。
「2人が言ってるその仮面の集団ってそんなに変だったのか?僕も少し気になってきたし、会ってみたくなってきたよ。」
「えー?セージちゃんが見たらきっとびっくりしてドン引きしちゃうよ?だって仮面なのに右目には眼帯がデザインされてるし、左目には黒だったりピンクだったりの火が書かれてんの!めちゃくちゃ厨二病っぽくて痛々しいから出来ることなら見ない方がいいよ?あー。でもセージちゃんなら意外と刺さって大笑いするかも!私も笑っちゃったし!」
いやあなたは出会った瞬間からめちゃくちゃ警戒してたし、そもそも一方的に首輪つけてたじゃない…。笑ってるとこなんて見てないんですけど?
「なるほど…ますます僕は気になってきたな。どうにかしてその人達と会えたりしないかい?確か嬢ちゃんはその人達と繋がりがあるんだったら僕がいる時に頼んでみてくれないか?」
「………別に私の方からそんな事しなくても会えますよ。彼らは同業者ですし、私達と同じく式場の護衛依頼を受けてる方なんですから明日くらいには普通に会えるはずです。」
「えー!?そうなの?僕そんな事知らずにぶん殴って意識飛ばしたり、強制的に首輪付けちゃったけど大丈夫かな…」
―――うんうん。何も大丈夫じゃないね…。あなたは愛護団体と繋がりがあるんだから後でちゃんと外してあげてください。
「そうなのか…。僕も観光はそろそろ満喫したし、明日は君達の依頼の方に着いていこうかな!その変な仮面集団も見てみたいし、頼まれた監視仕事もこなさなきゃいけないからね。」
そういえばこのお兄さんは観光目的で来ていたんだった。あまりにも自由にしてるから正直さっき合流するまで完全に存在を忘れてましたごめんなさい…。
「着いてくるのは別に大丈夫ですけど、特に面白い事は何もないですよ?明日やることって式場の準備のお手伝いと式の主役に会いに行くだけな――ってあいた。すみません!私は別に悪気が……!?」
ロジェは話に夢中になりすぎて、どうやら歩いていた人にぶつかってしまったらしい。謝る為に顔を上げたその時、ロジェの脳内思考が完全に止まった。
理由としては、目の前に無駄にでかい眼鏡をかけた赤いボクサーパンツ1枚になって街を出歩く変質者の男が居たからである。
「ぺこり。こちらこそぶつかってしまいすみませんでした。シュッ。僕も周りが見えて居ませんでしたから謝る必要は。パタパタ。ありません。」
?????
突然目の前に現れた擬音語を混ぜて会話する変質者の存在に、ロジェはあまりにも理解が追いつかない。
――なんでこの人は捕まってないの?
「はてな。あれ?どうかなされました?もしかして僕の後ろに何か居ましたかね。くるり。」
あなたです!!!そのインパクトのある見た目と擬音語をわざわざ口に出しているあなたのせいで私は困惑しているんですっ!!!
てかなんで明らかに変質者なのに当たり前のように堂々と街中を歩いてるんですか!警備の人達仕事しろーーーー!!!
しかし、ロジェがそんな失礼な事を相手に向かって言える度胸は持ち合わせていないので、この場を何とか切り抜けるために、一度深呼吸しながらいつもの冷静沈着キャラモードになる。
「―――べ、、別に私は何もありませんよ。少し見た目が変わっている癖の強い御方だなぁ…と思ってビックリしてしまいました。あなたもそう思うわよね!あーるん?」
もうどうしていいのか分からないので、無理やりあーるんを巻き込んで助けを求めることにした。
すると、彼女はまるで「何言ってんの?」と言っているような顔を私に向けてこう言った。
「…………え?別に僕はそんなこと思わないけど?てか目の前にいるこのおっさんはレアモンスターだから僕が書くもの持ってたら喜んでサイン貰う位だし、むしろテンション爆上がりだよ?」
?????????
助けを求めて彼女に話を振ったはずなのに、目の前にいる変質者と同じくらい意味不明な答えが帰ってきてロジェの脳内は更に混乱する。その様子を見て察したのか、セージが解説し始めた。
「あれ?もしかして嬢ちゃんはおじモンを知らないのかい?結構有名なんだけど…」
「――おじモンですか?」
「そうさ。この世界にはおじモンと呼ばれる癖の強い何かを極めている変なおじさん達が151人存在していてね。カードゲームのモデルになっていたりと凄い人物なんだよ。ちなみに目の前にいるのはオノマトペガチ恋おじさん。喋る度にオノマトペがついてて、実は喋ったオノマトペを実態化させて攻撃する事も出来るのさ!凄いだろ?」
――――うん。本格的に何を言っているのか分からない。
てかそもそもそれって滅びた文明にあったとされている有名なあのゲームのパクりだし、なんでこんな明らかに変質者の見た目を変なキャラクターがカードゲームの元ネタになってるのよ!もう!もう!もーーーー!!!
「ニコニコ。おやおや。そこにいる皆様は僕のファンの方でしたか。スン。僕実はですね、どよーん。おじモン人気投票でいつも下位の方にいるので存在感が薄いんです…しょんぼり。」
――そんな癖強い見た目してるくせに、人気ないのかよ!!!てか私は別におじモンなんて物に興味は無いので、同類にしないでくださいっ!
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「何?帝都で騎士団とヒュー達が共同でネオリス残党と全面戦争をするだと!?」
「はい。先程帝都からそのような報告が。話を聞くと獄の警備を任せていた彗星の神子が、エリー・アーロンの獄付近で怪しい動きをしていた人を何人も見たらしく、不審に思った彼等は第三騎士団の団長に相談したところ、近日中に帝都の冒険者や人間を集めて共同で叩くと決断したらしいです。」
現在ロッキーは、アルロの屋敷のとある一室で部下からの緊急の報告を聞いていた。
本来ならば予告にもあった盗難予定の魔道具について知る為に帝都から連れてきた魔道具や過去の文明に詳しい『古代遺物調査院』の研究員から、先日見つけた魔道具についてじっくり話を聞く手筈になっていたはずだったのだが、目的の部屋に向かっている途中に部下からの急遽緊急の連絡が入った為、こうなっている。
「それを了承したのがまさかの第三か。奴は仕事熱心で真面目だし、私が居ない間の指揮権を預けても問題ないと思っていたが、その真面目さが返って裏目に出たか。ヒューの強すぎる正義感と真面目過ぎるあの男を組み合わせたら帝都など幾つあっても足りんぞ。」
ロッキーと彗星の神子の付き合いは実はかなり長い。彼らがこの国で冒険者として登録した初日から交流があるので、互いの事をよく理解している間柄である。
彼らとの最初の出会いは、帝都で子供中心に起きていた「人攫い事件」だった。その頃ロッキーは、帝都の騎士団総出で捜索していたのだが、全く情報が掴めていなかったその事件を彼らは帝都に来て3日で組織を壊滅させて全てを終わらせたのだ。
話を聞くと壊滅作戦を考えたのはヒューであり、どうやら人攫いの噂を聞いた彼らが帝都にいる子供達を見つけ次第、特殊な魔法で特殊なサインを付けてアジトを特定し、内部が宴で緩んでいた所を急襲して終わらせたらしい。
このようにヒューは、昔から突然とんでもない手段を取って勝手に物事を解決してしまう所がある。突拍子のない行動を提案するヒューと、誰が考えても無理だと判断する要望を忠実にこなしてしまう仲間達が居ることを除けば、彗星の神子は超一流の冒険者パーティなのだ。
そんな彼らが帝都て残党共と全面戦争なんてしたら何をするか分からないし、建物や民間人にどれだけの大きな被害が出るかなんて予想できない。すぐにでも止めなければならないのだ。
「どうしましょうか団長。我々も指示さえあれば即座に帝都へ戻る準備をします。指示の方を。」
「――帝都には確か、我々第零騎士団以外の騎士団全員が国に残ってネオリスの事や龍の襲撃事件の後始末をしているはずだ。我々が戻らなくても帝都の被害を奴らだけで止めることは可能だと思うか?」
正直な事を言うと今すぐにでも帝都に戻りたいのだが、ロッキーにはサウジストでの影の襲撃も対策しなければならないのだ。ここで手を引けば、現場で戦力の指揮をするものが減ってしまい、影を取り逃す可能性が出てきてしまう。
一応帝都にいる《紅焔轟者》の2つ名を持つ帝都でもトップクラスで強力な魔導師にも今回の作戦の協力を要請しているが、彼女は被害を考えずに街中で広範囲かつ高威力の炎魔法を使うような戦争屋だし、それだって影の鼓動相手にどこまで機能するか分からない。
なので現在、ロッキーは非常に厳しい選択を強いられているのである。あの者達に指揮なんて出来るとは全く思っていないが、仮にロジェ達に代理を頼もうとしても彼女達は式場を守らなければならないので無理だった。
「………それは厳しいかと思われます。噂によると、残党の中に大物賞金首や高位精霊と契約している者が混ざっており、かなりの被害が予想されています。そのため帝都に残った団長達だけでは手が足りないかと。」
契約精霊とは、契約者が精霊の力を借りて広範囲の魔法や強力な攻撃魔法を使う為の存在である。
彼らの関係は基本的に対等であり、力を借りるには代償や対価が必要になるのだ。対価は個体ごとに大きく変わるが、高位精霊クラスになれば、かなりの対価が必要になる代わりに、街を1つや2つは簡単に落とせるほどの力を秘めているとされている。
「よりにもよって高位精霊か…。それはまた厄介だな。それが帝都に現れたりすれば間違いなく大量の民間人に被害が出るだろう。影を私の手で直接止められないのは残念だが、今は一刻も早く帝都の方を止めなければならん。」
「分かりました。では我々第零騎士団も―――」
「いや、帝都に戻るのは私だけだ。今全員が撤退すれば、いくら《紅焔轟者》がこの街にいるとはいえ間違いなくサウジストの戦力が削られるし、何より協力すると言っておきながら騎士団全員が撤退するのは、人として論外だ。心配しなくてもあの男は私と同じぐらい頭の回る男だ。第零騎士団は全員アルロ卿の指示に従い、影の襲撃を全力で抑えよ!絶対逃がすな!」
「ハッ!今すぐ伝えてまいります!」
そう言って報告しにきた部下が部屋を颯爽と出ていった。その後を追いかけるようにロッキーも部屋を出る。
部屋から出れば、まずはアルロにこの事を相談しなければならないし、今ここにいないロジェ達にも伝えておかなくてはならない。
元々彼女達には魔道具の鑑定結果を伝える為に、この屋敷まで来るよう呼び出しておいたので運が良ければロッキーが帝都を出る前に纏めて話がつくだろう。そんな事を考えつつロッキーが部屋を出る。
するとそこには、サウジスト特有の衣装である白いロングコートの中に黒い薄着のノースリーブを着た見知らぬ女性と、その隣で歩くセージがいた。
「ちょうど良いところに。セージ殿。私は訳あって早急に帝都に戻らなくてはならなくなった。私の代わりに私が帝都に帰ったことをロジェ殿に伝えておいて貰えないか?」
「え?あ、はい。私に出来ることであればなんなりと……」
彼の口調に少し違和感を抱く。だがそんなことに構っている時間はないロッキーは、伝える情報も特に機密事項でも無いという事を理由に追及する事なくその場を後にした。
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現在シャドーは、変装して貴族の屋敷に潜入していた。今回の潜入のモデルになったのは、この屋敷を頻繁に移動しているという薄い緑色の髪をした男である。
見知らぬ男から伝言を頼まれた影の鼓動のボス、シャドー・コメットは隣にいたドロシアに話しかける。
「吾輩に忠誠を誓いし――」
「何度も言いますが、私はドロシアです。もはやわざとしてますよね?」
「………………………その件は後回しで良い。そんな事よりも誰かと勘違いしているあの男が言っていた『ロジェ』と言う奴の事について何か分かるか?」
「さぁ。一応ここに来る前に帝都から派遣されてきそうな冒険者のリストを個人的に作りましたが、私はそんな名前を一度も聞いた事がありません。あの男が帝都へ戻ると言っていたので、恐らく関係者だとは思いますが……早急に下位部隊に連絡を出して調査させましょうか?」
「あぁ。頼んだ。どんなに小さい情報でもいつの日か役に立つ事がある。吾輩が求めるのは鮮度の高い確実な情報だ。それを手に入れる為に吾輩は今自ら街に潜入し、この屋敷にいる!」
「一応潜入中なのであまり大声は出さないでください。とりあえず指示の方は出しておきます。それでシャドー様は今回何故この屋敷に?」
「この屋敷には今回の予告状を出した目的の中で最も優先度の高いアイテムが眠っているのだ。そしてそのアイテムの回収は一般マウスがやるにしては荷が重すぎるし、そもそもこれは知識がある物でしか入手出来ない仕掛けになっている。だから吾輩が仕方なくこうして足を踏み入れて潜入しているのだ!吾輩自ら敵の本拠地に潜入するなど実にかっこいいじゃないか!覚えておくがいい。吾輩に忠誠――」
「ドロシアです。そろそろ本気で怒りますよ?」




