第二章 10 『影に潜む者③』
「ハァ…ハァ…。あぶねえとこだったぜ。まさか窓から大量に魔石を投げてくるとは思ってなかった。ただ荷物を届けに来ただけだってのにマスターは俺達を殺すつもりか?」
「...上位部隊になるには突然の攻撃にも対応出来ないとなれねえって事だろ。上位部隊から話を聞いたことがあるが、影の鼓動は上位部隊になる前が1番辛いって言ってたしな。これも試されてるって事だ。」
マスターに渡しそびれていた連絡用のチップを届けに来たクロとモモが宿の近くにあった路地で息を殺しながら話していた。
マスターは何も考えてなさそうな顔をしながらチップを受け取っていたが、その直後に大量の魔石を自分達を目掛けて投げてくるとは思ってもいなかったので、マスターのやり方に少しだけ恐怖を覚える。
手を使わずにどうやってあの数の魔石を投げてきたのかは知らないが、ニコニコと笑みを浮かべながら自分達に向けて攻撃するなんて発想が完全にやばい奴の思考だ。
「にしてもこの魔石、色からして明らかに市販の物じゃねえぞ。マスターは普段からこんなの持ち歩いてんのか?」
モモが自分達に向けられた魔石が入った鞄の中身をクロに見せる。あの時、咄嗟の判断で鞄を開けて魔石をこの中に無理やり回収したのは、触れるとその場で爆発する可能性があったからだ。いくら組織のマスターとはいえ、何を考えているか分からない以上警戒はするべきである。
「オレンジ色に近い魔石か。これもきっとマスター直伝の特殊な物だろう。マスターは特殊な魔力を使って魔道具を改造して使ってるって話だからな。俺達が持ってる専用の移動用魔道具、『混沌の次元』もマスターがテレポーターに手を加えて作ったオリジナルの魔道具らしいし、魔石くらい簡単に作れるはずだ。」
混沌の次元は、各部隊のリーダーに渡されている星形の魔道具だ。この魔道具の裏側についてある赤いボタンを触りながら「混沌の次元」と発言すると、黒い球体の中へと自動で転移出来るというアイテムである。
黒い球体の中は、外部からの攻撃を一切受けないし、魔道具の発動者が決めた人間しか内部へ出入りする事が出来なくなる。
デメリットをあげるとすれば、黒い玉を回収する必要がある事ぐらいだが、基本的に大量のゴーレムが黒い玉を回収して、空間の出口となる黒い玉を人目のない場所に置いてくれるのであまり痛手にはならない。
「まぁそれもそうだな。マスターなら有り得る。にしても黒い玉の回収を任せた隠密ゴーレム達がボロボロになってたらしいんだが、なんか聞いてるか?クロ。」
「俺は特に聞いてないが、修理してた奴が傷の入り方やダメージの量的にゴーレムに致命傷を負わせたのは、結構な実力者らしい。もしかしたら帝都から派遣されたっていう凄腕の実力者かもしれないかもな。」
「マジか。式があるのは今日含めて3日後だってんのにもう到着してんのかよ…。銅像から回収されたっていう『導きの祝儀』もまだ手に入ってねえのに動きづられーな。」
そんな話をしながら、どう動くか悩むモモの元に1つの書面が届いた。恐らく上位部隊からの連絡だろう。すぐさま中身を確認する。
「えーとなになに。我らのマスターが魔道具を所望している。今日の日没までに2つの魔道具をアジトの魔法陣を経由して献上せよ。作戦前に魔道具の確認をする為、出来るだけ急ぐように…ってまずいな。今日中になんとしてでも『導きの祝儀』を回収するぞクロ!」
そう言って2人の影は作戦を実行すべく動き出した。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
「お待ちしておりましたロジェ様。我々式場の者共、あなたを歓迎致します。」
「こちらこそよろしくお願いします。極力会場の物を壊したりしないように気をつけますし、何か演出面でお手伝い出来ることがあればしますので、気軽に言ってくださいね。」
ロジェとあーるんは、結婚式会場で式の責任者の人と話をしていた。どうやら式場の方にはアルロさんの口から事前に今回の事を伝えていたらしく、証明書代わりに使っている依頼書を見せるだけですんなりと通してくれた。
オマケに責任者の人は黒いスーツで正装に整えられており、とても優しそうな見た目をしていたのでとても話しやすい。
「お気遣いありがとうございます。それで今回の件なのですが、ロジェ様はこの式のことについて聞いておりますでしょうか?」
「はい。ある程度の事は聞いています。とは言っても日程日と開催場所くらいしか教えて貰えなかったので、もう少し教えて貰っても大丈夫でしょうか?」
色々質問したのだが、式場に行けば全て分かるという理由であまり教えて貰えなかったのだ。一応親族だしそれくらいしか知らなかったのかもしれないが、せめて新郎になる人の情報くらいは教えて欲しかった。
「分かりました。では教えましょう。」
「あ、ちょっとだけ待ってもらっても良いですか?」
「はい。別に構いませんよ?」
ロジェはこれから聞く重要な情報を忘れないようにする為にロジェは誰にも聞こえない程の小声で魔法を唱えた。
「メモメーン!」
メモメーンとは会話の内容を全て自動でメモしてくれる万能魔法である。色々な物事を覚えるのが苦手なロジェが1番愛用していると言っても過言では無い魔法である。
デメリットは、魔法を解除するまでの会話を全てメモするので、解除を忘れると見返す際にとても困ることである。
魔法を唱えた瞬間、ロジェの手元に1冊の手帳と羽ペンが出現し、羽ペンが勝手に動き始める。
「おぉ。これはまた見た事のない魔法だ…これは一体?」
「これは私のオリジナル魔法です。多分どの魔導師でも再現出来ないと思います。この羽根ペンがやる事はただ会話をひたすらメモ書きするだけなのであまり気にしないでください。」
嘘は言っていない。半分くらいはカッコいいと思われたいからこんな言い方をしたのはあるが、村でも覚える価値があるのか怪しい魔法なんて覚えようとする人は居なかったし、この魔法を使った人は今まで生きてきた中で見たことがないので、実質オリジナルと言っても過言ではないのだ。
「なるほど。ではお話しますね。それではまずは式の形式ですが…」
こうして説明が始まった。会場内のテーブル配置、式のイベント内容、演出、参加者のリストなど式に纏わる大事な情報ばかりがどんどん話されていく。手元を見るとペンが自動で会話内容を全てメモしてくれていた。
しばらく話を聞いていると、式場の近くで色々散策していたあーるんがこちらへやってきて突然口を開いた。
「言葉を遮ってしまってごめんなさい。ちょっと質問なんですけど、今貼ってる固有結界っていつ貼り直しました?なんか所々が古くなって魔封じの効果が弱くなってるんですけど。」
この世界の式場では、魔法的な攻撃から参加者を守るために、属性魔法に対する魔封じの結界が貼られている。
理由は簡単で、実力ある者が水魔法を使えば災害クラスの雨など簡単に発生させれるし、建物に火をつける事など出来るので、神聖なイベントでそう言ったテロ行為を起こさせないようにする為だ。
「えーと…結界は3日に1度貼り直しておりますので変えたのは一昨日ですかね。式場内の結界は式直前に専属の魔導師が貼り直しますので御安心を。何かありましたか?」
「なるほど…会話を遮ってしまってすみません。今の結界がかなり古くなっていたので、誰が管理しているのか気になったんです。そうであれば問題なさそうだし大丈夫です!」
魔封じの結界はそれ専門の職がある程重宝されている貴重な物だ。専属の魔導師が当日に結界を貼り直すのなら当日の方も問題ないだろう。龍の宿場みたいな適当な事をしてなければだけど...
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
「吾輩の登場に風が騒ぎ、大地が唸る。吾輩に忠誠を誓いし右腕よ。ここが我々の狙う決戦の場、サウジストで間違いないのだな。」
サウジスト近郊、木陰の近くで黒のロングコート身を包み、無駄に目立つ黒の指輪を付けた男と似たような黒のコートを羽織った仲間の女が1人立っていた。
「はい。ここが今回のターゲットとなるサウジストになります。現在下位部隊に魔道具の回収と情報収集を任せており、問題なく物事が進んでいると報告が。スペアさんが率いる専属の部隊も問題ないと言ってます。あとその痛い呼び方はやめてください。私はドロシアです。」
「ふむ。世界が吾輩考える時間を与えたのなら、その件について考えておこう。」
「それ、絶対改善する気のないいつものバターンですよね?」
「………………………そんなことは無い。それよりもこの街に帝都から実力者が派遣されたのは本当か?だとすれば吾輩の中に眠る世界を滅ぼすほどの秘められし力を解放しなくてはならないのだが。」
「はぁ…そこまでやる必要はありませんから。ですが、その情報は本当です。下位部隊から道中に仕込んだサンドホークが全滅したとの報告もありましたし、私も帝都から騎士団と実力ある冒険者が何名かサウジストへ派遣されているとの情報を掴みました。なので実力者はもう到着していると見て間違いないでしょう。今回はどうしますか?一応撤退の線も考えておいて良さそうですが。」
数秒考え、全身黒で包まれた男は言う。
「いや。ただの冒険者と騎士団という能無し集団程度なら撤退する必要はない。我が精鋭部隊と吾輩の力があればあんなもの野生のサンドホークに過ぎん。この程度であれば吾輩の出した予告状に変更はないな。それに今回、サウジストに眠る2つの魔道具はここでしか発動出来ないのだから、無理をしてでも街を乗っ取る必要がある。」
「分かりました。それでは今まで通り行動しろと下位部隊に指示しておきます。それでシャドー様はどうしますか?このままいつものように潜入を開始します?」
「そうだな。吾輩が自ら現場へ潜り込むのは世界の決めた理であるので仕方が無いが、我々の誇る優秀なマウス全てにこう伝えておけ。吾輩の生み出した漆黒の闇が空一面に広がる時、我々影の鼓動が連れ去った輝きの花嫁が闇の力に覚醒する事になるだろう。とな。」
「...なるほど。つまりこういう事ですね。今すぐ今回利用する花嫁を拉致する為に式場内に潜入させる人員を増やし、確実に作戦をこなす。だから街の襲撃を担当する者も式場の行動も覚えておけ。と言う事であってますか?」
「.............吾輩はそんなつもりで言ったわけではないが、悪くはない考えだ。だがドロシア。今はその作戦に移す必要はない。」
「ってことはまたいつもの病気から出てくるアレですか?意味不明な物ばかり出していると本当に部隊全員からそのうち愛想を尽かされますよ。その意味不明な発言のせいで勝手な解釈をしていつも大変なことになってることをお忘れですか?幸いな事に良い方向に転んでいるので特に問題ありませんけど、下位部隊の間では、その意味不明な発言や指示を深読みしすぎてそれが組織のマスターから課せられている試練だなんて噂も出ているんですから。私もシャドー様の発言を理解するまでにかなりの時間がかかったんですから病気もほどほどにしてください。」
「高級マウスは全員吾輩の思考を理解し、常に役回りをこなしているから問題ないであろう。奴らは吾輩の理想通りの動きをする完璧な集団である。吾輩の思考回路について来れない高級マウスなど不要だ。それに着いてこられない者は一般マウスとして鍛え直すがいい。我々のマウスは吾輩を輝かせる為に存在するのだからな!それと、吾輩のかっこいい言葉を勝手に解釈して混乱を招いているのはドロシアだ。いつも悪くはない考えを出すので、的外れすぎる発言でない限り吾輩は止める気はないが。」
「はぁ…こんなふざけた態度しててもかなりの実績があるので、私はシャドー様に文句は言いませんが、一刻も早くやめた方がいいと思います。」
そうして黒で包まれた謎の二人組、シャドーとドロシアは、サウジスト特有の衣装に着替えて情報収集を兼ねた潜入を開始した。




