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第二章 06 『街を破壊する者』

 それは、ロジェ達が会議室の壁を壊してしまう少し前まで遡る。





「これで破壊した建物は幾つになるかしら…」


 ロジェ達は現在高速で建物を破壊しながら空を移動していた。こうなった原因には先程使った『ファージスト』という魔法に原因がある。


 ファージストとは。魔法使用者がターゲットに設定した者がいる場所まで最短距離で移動する魔法である。

 デメリットは、最短距離で到着するために移動ルートに手段を選ばない事と、飛ぶ方向を変更したり出来なくなる事。そして移動速度が異常なレベルで速い事である。


「ねーねーロジェちゃん。私達入国審査通ってないからバレたらあとでめちゃくちゃ怒られる気がするんだけどこれ本当に大丈夫?」


「仮にそれで怒られなくてもあれだけ建物壊してきてくるんだからどのみち怒られるわよ!移動速度が早いお陰でまだ街の警備にバレてないけどこれも時間の問題なんだから…今はとにかくロッキーさん達を見つけて事情を説明するしかないわ!」


 今ロジェ達が飛んでいる高さはかなり高い。小さな中枢都市で高い建物を持つ人間など限られているので、建物を壊す度に部屋の全体が黄金の富豪の部屋が視界に一瞬入ってきたり、怖そうな人間の会議などを高速で横切る形で壁を破壊して突き進んでいるのだ。ある意味2人は一種のテロリストである。

 ちなみに壁を破壊した時にロジェ達が受けるダメージは、異常な速度のおかげでほぼ無視できている。


「仮に今魔法解除したら、多分そのまま落下するよね?落ちるんだったらそのまま連れてかれてもおかしくないしこのまま続けるしかないかぁ。」


「………そうね。とにかく今はロッキーさんの所へ早く行かないと――」


「ちょっと待ってロジェちゃん!前にあるアレ何!?避けて!」


 あーるんに体を揺らされて前を確認すると、2人の前には大きな銅像が姿を現していた。恐らく街のシンボル的な物だろう。銅像の麓を見れば観光客らしき人間が何人もいる。


「この魔法は移動先を私が変えることが出来ないの!今どうすらか考えるからちょっと揺らさないで!」


 今までは速度や箒の硬さで壁などはゴリ押し出来ていたか、流石に銅像に使われるような金属まではゴリ押せない。ロジェの箒は魔法を使ってすぐに壊すので他の物よりも圧倒的に硬い特殊な素材で出てきている。その為速度と合わせれば建物程度の壁は貫通出来るが、金属が相手だと粉々になってしまうだろう。


 今の私が出来るのは箒の傾きを変えることくらい……けどそれだけじゃ足らないわよね。




 ――ん?傾き……?そうだ!あれならきっと出来るわ!


「あーるん。あなたって自分で飛んで今すぐにこの箒を回転速度を上げる事って出来たりする?」


「……え?別に出来なくはないけどなんで回転?それにそんな事したら運転が危なくなるんじゃないの?」


「銅像にぶつかって粉々になるくらいならその程度の無茶するわよ!出来るなら今すぐやってちょうだい!」


「OK!何が狙いかよく分かんないけど、後でちゃんと教えてね!」


 即座にあーるんが羽を生やして箒の柄に捕まり、鉄棒の逆上がりのような感覚で回転し始めた。そのおかげで箒に回転がつく。それを確認したロジェが事前に酔いの耐性強化魔法を使ってから箒に何周でも回転出来るほどの大きな傾きをかけた。


 ロジェはあくまでも遊んでいる訳では無い。これは滅びた文明にあった『ドリル』と呼ばれるアイテムを再現しようとしているのだ。あまり詳しくは知らないが、滅びた文明で生きていた人類や生命体は、高速で回転させた刃や尖った鉄に金属を当てて、その時に発生した摩擦熱を利用して穴を開けたり加工していたらしい。


 そして高速で回転した箒と銅像の銅がぶつかり合う。すると少しずつだがゴマ粒のような穴が開き始めた。自分でも意味がわからないが、箒と銅像のぶつかり合いはとても激しく、凄い音を立てながら穴を開けている。


「よし成功ね!あとは時間さえ経てばこの穴は大きくなって通れるようになるはず!」


 ふと地面を見ると、何やらロジェ達の動きに気付いたようで叫んでくる人間もちまちま出てくる。


「おーい!どこの誰かは知らないが、銅像にイタズラするのはやめとけよー!」


「そうよ!これは偉大なる研究者のヘルトマンの銅像なんだから私達の観光名所を壊すなんて許されないわよ!」


 私だって別にイタズラしに来たわけでも壊しに来たわけでもないわよ!こんなのほぼ貰い事故なんだから!!!


 銅像の様子を見るが、何故か簡単には穴は広がらなかった。大体の金属はこの方法を使えば穴を空けれるらしいが、どうやらこの銅像は相当特殊な素材を使っているらしい。


「うーーーん…参ったわね。何か良い手は…。」


 そういいながらどうするか考えていると、ロジェはとある指輪の存在を思い出した。


「そうだわ!魔物を寄せつけちゃうけど、街中なら魔物なんて居ないからそんな心配する必要がないし、箒を実体化させて威力アップよ!」


 すぐさまロジェは魔力をチャージして黒いダイヤを右に回した。そしてすぐさま今回転している箒を想像すると、目の前に2つも回転中の箒が現れる。そしてその箒を銅像にぶつけると、みるみるうちに穴が大きくなっていく。


「よしこれなら…。あーるん!もう回らなくていいわよ!今すぐ止まって!」


「もう良いんだね!了解…ってロジェちゃんそれチャージしたの!?なんかみるみるうちに銅像の穴が広がっててすごーい!」


 すぐさまあーるんが羽をしまい再び箒の上に跨る。すると実体化した箒の力も相まって人が通れるくらいの穴が銅像に空いた。それを機にすぐさま本物の箒が穴の中へと走り出す。


 ―――銅像のモデルになった人、中身をぶち抜くなんて言うこんな酷いことしてほんっっっとうにごめんなさい。


「とりあえず第1関門突破ね。この箒が消えるまでは心配ないわ―――ってあれ?あーるんそれ何持ってるの?」


 後ろを振り向くとあーるんが奇妙な黒い箱を持っていた。


「あ、これ?これさっきこの道の中に落ちてたから一応拾っといたよ。捨てとく?」


 ――ここ一応銅像の中だよね?なんでそんなのが埋まってるの?


「いいや、その箱は持ってて。何かあるかもしれないし、手ぶらで帰ったらロッキーさんに今度こそ処刑宣告されるかもしれないから!」


 謝罪する時に手土産が無ければ確実に怒られる。そう確信していたロジェはよく分からない黒い箱を差し出すことにしたのだ。これでも許してもらえなければ諦めて処刑されるしかない。


 暫くすると銅像の中を突きぬけ、ロジェ達は空へと放り出され、ロッキーのいる建物へと向かっていくのだった。


「見て見て!あの銅像穴が空いて人間の耳っぽい穴が僕達の手によって出来上がったよ!凄くない!?」


 ―――私そういうグロい話にあまり耐性ないから怖いこと言うの辞めてくれない…?




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




 そして話は現在へと戻る。


「街の中のあれやこれやを色々と壊してしまい、ほんっっっっっっっっとうに申し訳ございませんでしたーーー!」


 ロジェは現在自分にフィールプレッションを使い、『謝罪』の感情を再現するために、気持ちの籠ったこの世で最も美しい土下座をしている。今回は心の奥底から悪いと思っているので、この土下座を見る人が見れば感動するレベルの物になっている事だろう。

 目の前で美しい土下座を見ながらロッキーは頭を抱えつつ言った。


「……ロジェ殿。私が事前に目立った動きや騒ぎを起こすなと言ったことをお忘れですか?今回の依頼は決して目立ってはいけないのです。敵は強者の動きに敏感だ。奴らは予告状を出しているので、相当な事がない限り手を引くことはないと思うが、そういった目立った動きは極力自重していただきたい。」


「別に悪気は無かったんです!2人だけだとそもそも入国審査が通るのか分からないし、先にサウジストへと向かってしまったロッキーさんに一刻も早く追いつく為に魔法を使ったらこんな騒ぎになってしまって…」


「私は建物を壊した言い訳をしろと言っている訳では無いぞロジェ殿。先日もいいましたが、そんな軽々しく頭を下げるべきではありません。人前で土下座するのはおやめ下さい。」


 別に言い訳じゃないんだけど…。てかそもそも街に着いてるって知ってたならファージストなんて使ってないわよ!私はまだみんなが外に残っている事に掛けてあの魔法使ってるんだから!


 ロジェはこれ以上フィールプレッションの効果で余計なことをしないようにするため、誰にもバレないようにこっそり魔法を解除し、虚無顔になる。


「私だってあんな目立つような事をするつもりはありませんでした!そもそも建物壊したのも事故のような物ですし、悪いのは勝手に行ったロッキーさんとかあの時襲ってきた巨大なサンドホークで…」


「貴様!先日もそうだが私の限界ギリギリを見定める為にわざとそんな言い方をして試しておるのか!突然その何も考えていないような虚無顔になってそのようなふざけた態度を取るのはやめろ!」


 虚無顔は魔法の副作用だから仕方ないし、事実を言っただけなのに返って相手を怒らせてしまった。私、もう前に出て喋るのやめようかな…。


「あぁん?僕達がやったことにまだなんか文句があるって言うの?大体、僕の石遊びに耐えられずに勝手に街へ向かったのはてめぇらの方だろ!だから文句言われる筋合いないってロジェちゃんは言ってんの!帝都の中だと偉い部類なのにそんな事もわかんねーのかよ!おっさん,」


 ―――別に私はそこまで言ってないです…。文句言われるのは覚悟してたし、勝手に私を巻き込むのはやめてください。


「―ッ…こちらが下手に出ていれば好き勝手言いやがって。」


「知るかよ。大体おっさんは全然下にすら出れてねーから!こうなりゃまた前みたいに――」


 嫌な予感がしたので、両手を叩いて注目を集め、虚無顔のロジェが一触即発の雰囲気を止める。


「そこまでよ2人とも!現在依頼の途中なんですから喧嘩はやめてください。他の人も見てるんですからそういうのは後にしましょう!」


「――ッ!全て貴様の態度が―」


「はーい!ロジェちゃんがそう言うなら僕はやめるね?別に僕はこのまま殺り合ってもいいけどぉ、今は依頼以外は暴力禁止だもんね?」


 ―――私は別に無闇矢鱈に誰かを攻撃するなって言っただけで、暴力禁止までは言ってないけど…。でもこの子いつ暴走するかわかんないし、暴力禁止の方が色々と楽なのでそういうことにしておこう。


「あのぉ…そろそろ私も喋ってもよろしいでしょうか?」


 そういえばさっきからずっと椅子に座っている優しそうな顔をした茶髪の男は何者なのだろうか?そんな疑問が脳内に過ぎる。


「………すまない。見苦しいところを見せたな。アルロ卿の貴重な時間を奪ってしまい申し訳ない。」


「では失礼しまして。大変挨拶が遅れました。今回2人に依頼をしたアルロと申します。ロジェ様とあーるん様。今回は娘の結婚式の方の警備よろしくお願いします。」


「こちらこそ依頼ありがとうございます。我々は全力で式の方は守りますので、こちらはおまかせください。」


 虚無顔のロジェがアルロと握手をし、改めて依頼受諾の流れを作る。

 ……まだ人と喋るのは怖いから正直今すぐにでも帰りたい。


「そういえば先程ロジェ様は黒い箱を拾ったと言っていましたが、一体どこで拾ったのですか?警備も強化して、街中を見回っていますが、少なくともこの地域にそのような物は無いはずなのですが。」


「この黒い箱ですか?それは先程この街にある大きな銅像の中で拾いました。あ!でも安心してください。銅像は頭部の辺りに少しだけ大きな穴が空いてしまっただけですが、銅像に存在する核の部分さえ壊れていなければ崩れたりはしないと思います。それは私が保証しましょう!」


「銅像……もしかしてヘルトマンの魔法(スペル)像のことでしょうか?」


 へーあれそんな名前してたんだ。名前的に魔法関連で活躍した人なのだろうか?そんな偉い人の脳付近に穴なんて空けちゃってごめんなさい…。


「名前は分かりませんが、多分その銅像であっていると思います。地面を見ると観光客の方が沢山居たので間違いは無いかと。」


「あの銅像は確か50年以上前に建てられた銅像で、銅像に使用した主な素材である特殊な性能を持つ『銅』は、現在この世に存在しないのです。一体誰が銅像内部にそんな物を設置したのでしょうか…?」


「誰がやったかはよくわかんないけどぉ、それって多分銅像作った人が中に設置してたんじゃないの?それに使う素材が手に入らないんじゃ、作ったやつが仕込んだとしか考えられないじゃん。」


「確かに一理あるな。(シャドウ)が仕掛けたと見るよりも何かの為に先代の人間が設置した可能性を考える方が丸いだろう。先程我々が黒い箱を確認したが、中身は黄金に輝く小さな袋の形をした魔道具であった。効果などは我々帝国側の方が詳しいはずなので依頼の間はこちらで慎重に管理する。ロジェ殿。見つけてくれて感謝する。」


「ロジェ様。わざわざ宝具を見つけて下さり感謝します。我々サウジスト側も少し銅像について調べよう。これ以上我々はロジェ様達の時間は取らない。あとは依頼の方に集中してください。」


 ―――これを見つけたのはあーるんだってちゃんと説明したはずなのに、なぜみんな私に感謝をするのだろうか?私は何もしてないので感謝するなら彼女にして上げてください…。


 そんなこんなで会議が終了しようとしたその時、1人の騎士が部屋のドアを開け、突然大声で報告し始める。焦っている所を見るとどうやら外で何か大きな出来事があったようだ。


「会議を中断してしまい申し訳ございません!アルロ様大変です!ヘルトマンの魔術(スペル)像の頭部が突如として落下し、暫くすると落下した頭部が何者かの手によって爆発。それによって跡形もなく破壊されました!現在像のあった中央通りで大騒ぎになっています!犯人は箒に乗った2人組が有力とされており、現在警備の者が全力で犯人を探しております!どうやら頭部が破壊される前に黒装飾の2組が逃げていたとの情報もありました!」


「……………ロジェ殿。これはどういう事なのか、もう少しだけ話を聞かせてもらっても構いませんかな?」



 ……………どうしてこうなるの?まだ依頼始まってないけどめちゃくちゃ現実逃避したい。

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