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第二章 05 『道中②』

 巨大サンドホークの群れは無事に鎮圧したが、あーるんが何かに気付いたらしいので首や足が離れた状態で凍っているサンドホークを慎重かつ大胆に動かしながら何かを探している。

 暫くすると、何かを見つけたのか上機嫌になったあーるんがロジェの元へと帰ってきた。


「見て見てロジェちゃん。あの群れの中で唯一生き残ってた小さなサンドホークの子供を3匹も見つけたの!しかもこの子達凄くってね!この子達私が軽く殴ってもビクともしないの!この子達育てたらきっと凄い個体になるよ!成長したら僕のサンドバッグくらいにはなるかも!」


 そう言って掌に乗せている小さなサンドホークをあーるんが見せてくる。掌には返り血を浴びて全体的に赤くなったサンドホークがガタガタと震えていた。恐らくあーるんが怖くて逃げ出す事すらも出来ないのだろう。


「う、うんうん。そうだね…」


 え?こんな小さな子供のサンドホークを攻撃したの?可哀想じゃない…?私と会わない間にもしかして倫理観捨ててきたの?何考えてるのかしらこの子は…もしかして私がズレてる?


「でしょお!僕これを見つけるの頑張ったし褒めて褒めて!」


 あーるんが褒めて欲しそうに目を輝かせながら近付けてくる。そんな可愛い顔しても褒めないし、私だって言う時は言うわよ!


「褒めるのは後で良いとして。このサンドホーク達はどうするの?……もしかしてだけど本気でサンドバッグにしたり、殺したりしないわよね?」


「うーん。僕は別にどっちでもいいけどぉ、ロジェちゃんが殺せって言うならすぐに殺すよ?てかこの子達はなんか誰かに細工されてる気がするんだよねぇ…どうする?」


 そんなの決まってるじゃない…。答えはNoよ!私は平和主義者なんだから殺せなんて言うわけないじゃん!


「そんなの許可出すわけないでしょ?大体私達はこの子達の親を凍らせたり、鎮圧するために生命力吸い取って気絶させたりするって言う酷いことしてるんだから、これ以上可哀想なことはしちゃダメよ。何事も平和が1番。」


「――でもこの子達の親はこの群れには居ないと思うよ?最初この子達も暴れてたから生命力を吸い取ったんだけど―群れの奴らと明らかに感覚が違うかったんだよねぇ。」


 ―――そんな馬鹿な事ってある?群れで行動してるんだし、親くらい混じってると思うんだけと。

 もしかして、誰かの元から逃げ出してきた個体なのだろうか?だとしたら尚更殺す訳にはいかないわ。元々私は殺す気ないけど!


「とりあえず今はその子達を逃がしてあげて?もしかしたら誰かがこの子を探しているかもしれないし、今ここで私達が直接手を下すまでもないわ。何事も平和が1番よ。」


 仮にこのサンドホークを殺したりしたら飼い主に何言われるかわかんないし、サンドホークを激愛しすぎた人が野生のサンドホークを殺した冒険者と殺人事件に発展するほどの殴り合いになった。なんて話も聞いた事があるんだから余計な問題は起こさないに越したことはないわ。何事もラブ&ピースよ!


「…………なるほど。こいつらはまだ泳がせて後で利用するんだね!りょーかいっ!」


 あれ?なんか話が絶妙に噛み合ってない気がする。

 てかサンドホークを泳がせるって何?別に私はサンドホークに興味があるわけでもないし、利用する気なんて微塵もないんだけど…私はただ可哀想だから逃がせって言ってるの!!この子にちゃんと伝わってるのかしら?


「はーい。サンドホークちゃん。自分の巣穴におかえり〜。もう勝手に外に出て街道なんかで暴れちゃダメだぞぉ〜?」


 上機嫌なあーるんが私の指示通り優しくサンドホークを逃がす。喋り方といい、口調といいさっきまでこのサンドホークを殺してもおかしくなかったようなイカれた人と同じには見えなかった。


 喋り方が変わりすぎて少し怖いです…


 ―――そして案の定サンドホークは逃げなかった。


 理由は簡単である。彼らはあーるんの手元から離れた瞬間殺されると思っているのだ。だからどれだけ逃がそうとしても、優しい声をかけても、彼らは簡単には逃げ出さない。


「あれれぇ?どうしたのサンドホークちゃん達ぃ?特別に逃がしてあげるって言ってるんだからぁ、早く逃げなさい。ほらほらぁ!」


 あーるんがすぐさまデコピンのような構えを右手で取ってサンドホークに近付けるが、彼らは絶対に掌からは離れようとしなかった。


 傍から見ても意味不明な戦いを続けること約5分、ついに痺れを切らしたあーるんが動き出す。

 左手に乗っているサンドホークを握り潰そうとする素振りをしたり、近くにあった石や枝を彼ら目掛けて投げて無理やりにでも掌から逃がそうとする。


「あー。もうクッッッソじれってぇなッ"!いい加減にしろよ!この下等生物が"!てめぇらみたいな雑魚と遊んでる時間なんてねぇんだよッ"!せっかくのロジェちゃんとのお出かけだからテンション上がってたってんのに手間かけやがってッ"!おいッ"!逃がしてやるってんだからさっさと逃げろよ!オラッ"!」


 あーあ。ついにあーるんのストレスが限界を迎えて裏の人格出てきちゃった。多分制御出来る程度の怒りだと思うけど、最近まで私が家で引き篭ってたせいで普段以上に鬱憤が溜まってるだろうし、これは簡単には止められないから逃げるしかなさそうね。このサンドホーク達…生きて帰れるといいな。


 現場を見て危険と判断したロジェは、高速で飛んでくる石や岩、枝などを慎重に避けながら、その場から1歩引いて逃げ出した。




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




 石や岩の雨は1時間ほど続いていた。ずっと岩や石を投げていたせいで元々綺麗に整えられていた道は凸凹だらけの荒れた道へと変わり、凍らせていたサンドホークも飛んでくる岩によって凍らせていたオブジェクトが破壊されたので、比較的軽傷の状態で放置されていた個体は何匹かどこかへ逃げてしまった。色々と最悪である。


「…ったく。余計な手間かけさせやがって。逃げるならさっさと逃げろっつーの。次会ったら覚えてろよあのクソネズミ共。」


 あーるんの左手を見ると、ずっと石を当て続けていたせいか出血していたり、痛々しい傷が幾つも残っていた。どうやらこの1時間の間、サンドホークと想像を絶する壮絶な戦いを繰り広げていたらしい。――――小型のサンドホークってこんな苦戦するような魔物じゃないんだけど、


「まぁまぁ落ち着いて。なんだかんだ生きて逃がしてあげたんだしあーるんはとっても良い子よ。そんな事よりも手から血が出てるんだし、そっちを心配した方がいいわ。このまま外にいたら目立って仕方ないもの。」


 そう言ってロジェがあーるんの左手を握って、そこに治癒魔法をかける。あーるんの体質はかなり変わっていて、ポーション系統が彼女には一切効かないので、受けたダメージは治癒魔法で直接治してあげるしかないのだ。

 ロジェが最低限使えるまでの治癒魔法を覚えたのも8割くらいはあーるんの為である。治療に時間はかかるが、少しずつ血が止まって怪我をした箇所が確実に治っていく。


 すると、あーるんか申し訳なさそうに言ってきた。


「あー。その事なんだけど、実は1匹だけサンドホーク殺っちゃったんだよね。石を当てるつもり無かったんだけどたまたまサンドホークに当たっちゃってそのまま死んじゃった…」


「え?殺しちゃったの?」


「いやでも大丈夫!当てた瞬間即座に首と心臓を切り裂いて体を一瞬で消滅させたから、サンドホークに細工した奴らも気付いてないし、僕らが狙われることは無いよ!魔物を構成するマナも塊になって一瞬で消えたからきっと大丈夫!」


「そ、そうなのね…へー。」


 ―――細工した奴らって一体誰の事…?サンドホークって自分の仲間になんか変なことするやばい魔物なの?

 というか仲間と一緒にあーるんの攻撃から逃げてたんだから殺された事に気付かないっておかしくない?飼ったこと無いからわかんないけど、もしかしてサンドホークってそんなポンコツな魔物なの?


「あれ?もしかしてなんか不味かった?」


「あーるん。もし仮によ。か!り!に!このサンドホークの飼い主が私達の元まで殴り込みに来たらどうする?私達は飼い主から逃げ出したかもしれないペットを勝手に殺した事になっちゃうんだけど怒られたりしないかな…?」


「きゃはははは!ロジェちゃん面白い冗談言うねー!でも大丈夫!こんな厄介な小細工してくるような連中は大したことないし、私が全部ぶっ殺してあげるから心配しなくていいよ!ちなみに念の為言っておくけど、僕がこのサンドホークの飼い主だと思ってる相手はこれだよ?これ!」


 そう言ってあーるんが治癒魔法で治療していない右手で自分の影を指してくるが何の事なのか全く分からない…。


 けどあーるんが知ってるなら何とかなるか。名前を覚えるのが苦手な私が忘れてるだけで彼女が相手の事をちゃんと覚えているなら問題ないでしょ、多分。恐らく今回のターゲットである盗賊団とは関係ないと思うしね!


「なるほどなるほど。それなら問題ないわね。私てっきり一般人のペットに手を出したのかと思ってびっくりしちゃった!」


「流石に僕もその辺は弁えてるから大丈夫だよ!それよりどうする?先にセージちゃん達をサウジストに向かわせちゃったから結構距離空いちゃったけど。」


 あーるんが石遊びしていた1時間で先に街へ向かった先行組とかなり距離が空いてしまった。

 話だと確か4時間もあれば余裕を持って到着するという話だったので、ここで遊んでいた時間が長かった事を考えると、先行組はもう街に着いているかもしれない。


「うーん。箒で全力でかっ飛ばしても追いつけ無さそうよねぇ…。かと言ってゆっくり行ったらそもそも私達だけだと入国審査を通れるかわかんないし…」


「ロジェちゃん。一つだけ間に合わせる方法があるよ?」


「え?そんなのあったかしら。」


「ふっふっふ。僕がサウジストに向かって全力で飛べば余裕で間に合うよ!ロジェちゃんは僕に掴まって着いてくれば確実だしぃ?ちょっと怖いか――」


「却下よ却下。それだけは絶対なしだから!」


 あーるんの本気の移動速度は、ロジェが箒に乗って全力で移動した時の2倍くらい速い。あれですら周りの景色が止まって見えるくらいなのだから、あーるんの全力なんかに付き合ったらどうなるかなんて考えたくない。

 1度ロジェはあーるんにその方法で運んでもらったことがあるのだが、あまりにも速すぎて完全に意識を失ってしまった経験があるのだ。ある種トラウマみたいな物になってるので、私が死ぬ直前になるまでは絶対に頼まない。


「えー!なんでぇ!最近やっとスピード調整出来るようになってきたんだよ?ねぇねぇねぇ!ロジェちゃぁん!僕をもっと頼りにしてよぉ!」


 ロジェの事を揺らしながらおねだりしてくるが、一旦スルーする。なにか早く移動できる魔法がないかを考え始めた。

 しばらくすると、良い感じに使えそうな魔法の存在を思い出した。


「そうだわ!1つだけ良い方法あったよ!これを使えば安全かつ絶対追いつけるはず!あーるん。今すぐ私の箒に跨って!」


「…え?う、うん!何するかわかんないけど、何か良い方法があるんだね!とりあえず安全運転で頼んだよ!」


「――一体どの口が言ってるのよ。」


 あーるんが箒に乗ったことを確認してロジェ達が空へと浮かび上がり、ロジェは魔法を使った。


『ファーディスト!』




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




 サウジストのとある一室。その部屋でロッキーと今回依頼を出したサウジストを管理する貴族のアルロが話をしていた。


「現在帝都イリステリアは大変だと言うのにわざわざこちらへ顔を出してもらい申し訳ありませんロッキー様。まさか我々のようなそこそこの規模しかない小さな街が奴らのターゲットになるとは思っておらず…」


 ちなみにイリステリアは言わずもがな帝国の正式な国の名前である。この場所に帝都を移した初代皇帝の名前から地名が取られている。


「いえいえ。(シャドウ)が帝都管轄の街をターゲットにしたのであれば、我々も放置する訳にはいきませんからな。ここで奴らを取り締まらねばいつか帝都も狙われてもおかしくありません。」


 影の鼓動(シャドウ・パルス)は、厄介な犯罪集団だ。時には街に向かう商人を襲い、時には大々的に街を占拠する。奴らは強者の動きに敏感で、わざと強者との戦闘を避けているのだ。戦力が向けられる前に全てを終わらせて情報を残すことなく去ってしまう。


 そして奴らがごく稀に出す『予告状』のような情報は、自ら情報を流しており、必ずその出来事を起こす。

 予告状を出した時は100を超える構成員により大胆な行動を行う事が多く、国や街がどんなに対策しようとも奴らは斜め上をいく戦術で一瞬で完全に国を乗っ取るのだ。

 予告状により完全に乗っ取られた国は(シャドウ)の組織の奴隷として生まれ変わり、更なる戦力向上に使われるらしい。仮に戦力を動員して追い払ったとしても、その場所は再生不可能なレベルで悪用されてしまうので非常に厄介である。


「現在予告状を確認してから街の警備を上げておりますが、現在特に目立った動きはありません。奴らが強者の気配にとても敏感な以上、情報が外に出ていないロジェ様に手伝ってもらえるのはとても助かりますよ。」


「返事がかなり遅くなって申し訳ありません。我々も色々とドタバタしており、卿に返事する暇がなかったのだ。何日も返事を出さない等という無礼な事をしてしまい本当にすまなかった。」


「いえいえ構いませんよ。イリステリアは今大忙しですし我々は帝都には大きな恩がある。だから構って頂いているだけで十分です。ところでロッキー様。依頼の中心人物であるロジェ様は一体今どちらにいらっしゃいますか?」


「あー。その事なんだが――」


「ふ"ん"っ"!」


 その瞬間、何者かの手によって突如会議室の壁が破壊される。中に入ってきた侵入者は腕を顔の前に交差させて壁をぶち破り、ロッキーの目の前に回転しながら着地をする。その光景を見たロッキーとアルロの虚無顔は滅びた文明にあった『モアイ』と呼ばれる物にそっくりだったらしい。


 会議室から大きな物音が聞こえてきた為、周りにいた警備の者や帝都から派遣されてきた騎士が中へと雪崩込んできて即座にロッキーとアルロを守る。虚無顔になっていたアルロもすぐさま備えていた剣を抜いて構えの姿勢を取った。


「誰だ!ここは遥かに高い建物の3階だぞ!まさか貴様、(シャドウ)か?」


「ここまで侵入してきた侵入者よ!名を名乗れ!貴様は一体何者だ!」


 侵入者の首元に剣を構える騎士達の言葉を聞いた2人の侵入者は、即座に頭を絨毯の上に付けて土下座のポーズを取ってこう叫んだ。


『この街の中のあれやこれやを色々と壊してしまい、ほんっっっっっっっっとうに申し訳ございませんでしたーーー!』


 その言葉を聞き、アルロは何の事か分からずその場で固まり、ロッキーは深く溜息をつきながら頭を抱えている。


 突然会議室の壁を壊して大胆に侵入してきた2人組は、今回の依頼で最も重要な主要人物と言っても過言では無いロジェとあーるんだった。

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